その鴉天狗は白かった   作:ドスみかん

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幕間:その祈りは来訪の風に誘われて

 

 

 幻想郷から遠く離れた『外』の世界。

 そこは妖怪が忘れられ、神々の廃れた場所であった。人間たちは自らが持つ科学の力を使い、今日も今日とて天狗なき山を削り、河童のいない河を汚していくだろう。誰にも咎められることなく、何者をも畏れずに彼らは世界を蝕み続けている。

 

 かつてレミリアに幻想郷への移住を決意させたのは、そんな人間の世界への失望だった。幻想の絶えた現代、もう彼女たちの生きる場所はそこにない。悪魔は物語の中に、妖怪は伝記の中に追いやられ、姿形を保つことはできない。これは『神々』でさえ逃れられない運命だった。

 

 

 

 

「すーわこさま、かーなこさまー。早苗は、今日も無事に学校から帰りましたよーー!」

 

 

 夕暮れの光が満ちる林の中を、五、六才ほどの女の子が走っている。カンカンと石畳をシューズで蹴りながら、少女は元気いっぱいに白い息を吐き出した。みずみずしい若草色の髪と、光の加減によっては青にも緑にも見える不思議な瞳の輝きを持つ女の子。彼女の名前は、東風谷早苗といった。

 

 

「あっ、さーなーえー。おっかえり~!」

「ただいまです、諏訪子さまっ!」

 

 

 灰色の鳥居をくぐり神社に帰ってきた早苗を、何とも間延びした声が呼び止める。

 境内にある小さな池の側に座っていた少女が、ぴょんぴょんと軽いステップで跳んでくる。そして嬉しそうに早苗へ抱きついた。木漏れ日を集めたように淡い光を放つ金色の髪、そして中央の尖った奇妙な帽子をかぶった幼い姿の『神様』。

 

 

「ただいまです、諏訪子さま。今日もご機嫌麗しゅうございます!」

「おお~、そんな言葉も知ってるなんて早苗は賢いなぁ。さすがは私たち自慢の風祝だよ、よしよーし」

 

 

 大して背丈も変わらないというのに、幼い姿の神様は爪先立ちをしてまで早苗の頭を撫でてくれた。この少女こそが洩屋諏訪子、この神社に祀られている土着神であり、早苗の遠い先祖に当たる存在である。もう一方の神様と共に、生まれてから両親よりも長く早苗の側にいてくれる大切な家族だ。

 ちなみに諏訪子は子供である早苗に合わせて、わざと幼い子供の姿をしているらしい。八百万の神である彼女にとって、姿形は重要なものではない。

 

 

「あれ、諏訪子さま。今日はみんな一緒にお外で遊んでくれる約束でしたよね。神奈子さまはどちらですか?」

「うーん、神奈子はちょっと急な訪問者の相手で忙しいんだよねぇ。先約も無しで来やがって迷惑な奴らだよ。早苗には悪いけど、遊ぶのはソイツらが帰った後にしてくれない?」

「お、お客様ですか!?」

「あー、うー、…………アレらも一応はお客様かねぇ。さい銭も信仰も、まるで期待できやしないけど」

 

 

 諏訪子は困ったように視線を反らしたが、早苗にはそんなことは気にならなかった。それもそのはずで、この神社に『神の姿が見える』者が訪れたのは初めてのことなのだ。興奮しているのだろう、紅潮した顔で諏訪子へと詰め寄る。一方の諏訪子はしまったな、といった様子でたじろいだ。

 

 

「も、もしかして他所の神様がお越しになったとか。だとしたら、わざわざお二人に会いに来たんですよね!?」

「まあ、アレらも一応神格は持ってるね。それに私たちに会いに来たってのも当たってるよ。そうでなけりゃ、こんな廃れた所に『私たちが見える存在』が来るなんてあり得ない」

 

 

 かつて祟り神であるミシャグジ達を束ね、この地を治めた洩矢諏訪子は衰えた。もはや彼女へと信仰を捧げる者はおらず、人間によって支えられ人間を治めるはずの神はその存在を揺るがされている。

 ここも諏訪子の伝説を思うなら、あまりにも寂れた(やしろ)があるだけだ。本当に何もない場所である、その現状を何とかしたいと早苗は思い続けていた。だからこそ今回の出来事は、その第一歩になるかもしれないのだ。

 

 

「わ、私もお会いしたいですっ。お二人の風祝としてご挨拶をして、守屋神社の信仰を少しでも獲得しないとっ。何なら奪い取ります!」

「いやいや、アイツらはむしろ私たちにとっては敵…………あー、行っちゃったか。あの猪突猛進ぶりは私より神奈子のヤツに似てるなぁ、血は繋がってないはずなのに不思議だねぇ」

 

「待っててくださいよ、お客様っ。そして必ずや貴女たちからの信仰ゲットです!」

 

 

 遠回しで「やめておきなさい」と伝えようとしたが、そんな思いは早苗には届かなかったらしい。小さな巫女は白い装束をひらひらと靡かせて、社の方へと走り込んでいった。常識的に考えれば、神が神を信仰するなど意味が通らないのだが、あの子には関係ないらしい。果たして幼いからなのか、それが早苗の性格なのかは諏訪子にもわからない。

 

 やれやれと首を振った諏訪子は歩き出した。神奈子がいるので万が一にも早苗に危険はないと思うが、相手が相手だ。自分ものんびり合流してやるとしよう。

 

 ふと見上げた先では咲きかけた梅の花が、そんな自分へと笑いかけていた。今日もいい天気だ、襲いかかる強烈な眠気を頭の隅へと追いやって諏訪子は微笑んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 この守矢神社には二柱の神がいる。

 まずは『(こん)』を司る力を持った洩矢諏訪子。本来のここの持ち主にして祟り神を統括する旧き神、遥かな古代に起こった大戦に破れて国を奪われた逸話を持つ存在。

 そしてもう一柱は『(けん)』を創造する力を持ち、かつてはこの広い大和でも屈指の霊格を誇っていた武勇の神。遥かな古代に起こった大戦に勝利し国を奪い取った逸話を持つ存在。

 

 

「…………つまり、その幻想郷とやらに行けば、私たちの現状を変えられるというのか?」

 

 

 古びた部屋で、八坂神奈子は来客たちをもてなしていた。蛇が絡まったような形をした、巨大なしめ縄を背負う姿はまるで日輪のごとく、来訪者二人の前にある。古来より神は天上から他の者たちを見渡すという、ゆえに神奈子はその基本に乗っ取って『彼女たち』を上座から見下ろしていた。

 

 むせ返るような酒の匂いが部屋に充満している。

 空気を吸い込んだだけで酔い潰れてしまう程に、強く濃い霧のような酒気。例え天狗であっても、ここにいれば雰囲気だけで酔いが回るかもしれない。だがその中心で大きな瓢箪を傾けるのは、意外なことに可愛らしい女の子であった。

 

 

「まあ、そのあたりの詳細は紫とかに聞いてみないとわかんないさ。私はあくまでアンタらに話をしてきて欲しいと頼まれただけだからねぇ」

 

 

 にんまりと牙を見せつけて、神奈子へと対峙する少女。頭にはその小柄な体格とは不釣り合いなまでに、巨大な二本角が生えていた。あまりにも見事なその角は、それだけで彼女が高名な『鬼』の一人であることを示している。ここは幻想郷から離れた外の世界である、例え鬼であってもそう易々と実体を保つことのできない場所のはずだ。

 それにも関わらずこの鬼は、自らの『能力』によって幻想郷にいる時と変わらぬ大妖怪としての格を維持している。それもそのはずで彼女こそが千年前、大江の山を拠点にして暴れまわった『伊吹の百鬼夜行』が総大将なのだから当然であった。

 

 いまや幻想郷中を探しても姿はなく、どこかしらで暴れた痕跡もなし。まるで霞のように消えてしまったと、もっぱらの噂であった四天王の一人。伊吹萃香は『外』の世界にいた。

 

 

「さて、私たちはもう行くよ。要件は伝えたし、あとはアンタらの決意次第だ。これ以上、私があれこれ言うのは野暮ってもんだろうさ。実は佐渡の方にも用があるんでね、さっさと済ませたいんだ」

 

 

 かれこれ幻想郷を離れて数十年になるだろうか。星熊勇儀でさえも「懐かしい」と感じるようになる時が過ぎていた。そろそろ帰ろうかと萃香は思い始めている。頼まれた役目はあとひとつ、ここでの話は終わりだとばかりに膝を叩いて立ち上がった。一方で佐渡という単語について、神奈子は興味深そうに口を開く。

 

 

「佐渡ということは、ムジナの総元締めのところだね。それはまた、えらく遠いじゃないか。もう出発してから随分と経つのだろう、そろそろ幻想郷とやらが恋しくないのかい。なあ、伊吹の」

「地底暮らしに戻ったとしても、やるのは喧嘩と酒だけさ。今頃はどうせ勇儀のヤツも暇してるだろうし、急いで帰ることはない。そんな生活より、外の世界はなかなかどうしてマシなもんだよ。銘酒巡りと観光ついでに、ふらっと友人の頼みを聞いてやればいいんだからね」

「そいつは何とも気楽な旅だ。ここから動けない私にとっては羨ましい限りだよ。信仰の衰えた神ってのは、境内から外に出るのがやっとだってのにね」

「あははっ、そいつは嫉妬させちまったかな?」

 

 

 萃香は笑いながら、フラフラと床を踏みしめる。腕にぶら下げられた三角の飾りが、振り子のように揺れている。また深酒を煽ったのだろう、足取りが危なっかしくて堪らない。そんな萃香へと肩を貸したのは、傍に控えていたもう一人の鬼だった。

 

 

「大丈夫っすか、伊吹の大将。よければアタシに掴まってくださいなっと」

 

 

 萃香より背の高い赤鬼は、屈むようにして己の大将を支える。健康そうな小麦色の肌、そして現代風のショートデニムとニットの上着が、どこかボーイッシュな印象を与える鬼の少女。その赤髪から突き出しているのは実に鬼らしく、萃香ほどではないにしろ立派な二本角だった。呆れた様子で、赤鬼の少女は萃香へと口を尖らせる。

 

 

「いくらなんでも飲み過ぎですよ。信仰無くして落ちぶれているとはいえ、軍神の前で酔っぱらうなんて命知らずにも程がありますって」

「だーいじょうぶ。この程度で私は倒れやしないし、負けもしない。わかってるだろう、赤瑛(せきえい)

「へいへーい、伊吹の大将が素面でいるなんて想像もできませんからね。その規格外の実力も含めて、この数年でもう慣れました」

 

 

 いくら鬼とはいえ、昼間っから泥酔している親分に思うところがないわけではない。しかし萃香は遥かな昔からこうだというので、付き合いの短い自分が説得しても無駄だろうと諦めている。だが、この匂いは強烈だ。萃香の吐いた息に思わず少女は端正な顔をしかめる。

 

 

「うわっ、メチャクチャお酒くさっ!? 昼間っから酒気を漂わせるとか、色々とぶっちぎり過ぎる幼女ですね。って、しまった」

「ふ、ふふ、誰が幼女だって。せっかく拾ってやったのに、やっぱりここに捨てちまおうかなぁ?」

「やだなぁ、鬼の格に身体の大きさなんて些細な問題じゃないですか。消えかけていたアタシを、萃香さまは大きな器で助けてくれましたもんね。いよっ、四天王の筆頭っ! …………ちらっ」

「ちらっ、じゃないだろ。まったくお前は相方とは真逆の性格だねぇ。敬意とか畏怖とかがまるで分かってない。まあ、だからこそ妖怪の掟を破ってまで、人間に近づくことを望んだんだろうけどさ」

 

 

 まさに慇懃無礼。赤瑛はどこぞの青鬼の青年とは、正反対にいそうな雰囲気を持った快活な少女だった。この世界に出てきて偶然拾ってやった同族に、萃香はやれやれと苦笑する。地底で待っている連中への、いい土産ができたものだと思う。ちろりと舌を出して謝る赤瑛の姿を横目にしていると、あの青鬼が泣いて喜ぶ顔が萃香の頭に浮かんだ。こういう出会いがあるから、旅は止められない。

 

 

「いっとくが幻想郷に帰るのはあと十年後くらいだ。それまでは荷物持ちとしても、話し相手としても頑張ってもらうからね?」

「楽しみは後に取っておく派なので、アタシは大丈夫ですよ。黙って居なくなった相方への愚痴を考えながらお供させていただきます、たっぷりネッチョリと」

「あー、そういう痴話喧嘩は私のいないところで頼むよ。さて、今度こそ私たちはこれで失礼するよ。また会おう、八坂の軍神」

 

 

 萃香が妖気を発すると、たちまち二人の鬼が霧になって消えていく。

 小さな鬼の『能力』は現代においてさえ、圧倒的な力を有しているようだ。幻想の枯渇しかけた世界においても、密度を上げることで自分たちの実体を思うがままに保っている。世界の法則にも干渉し得るチカラ、これが鬼の頂点にいる妖怪かと神奈子は驚いた。

 

 

「ああ、ところで伊吹の」

「なんだい?」

 

 

 すっかり彼女らの姿が白くなって、向こう側が透けて見える程になった頃、神奈子は唐突に口を開いた。小さな鬼を一目見た瞬間から、疑問に思っていたことがある。万が一にも、その『話題』に触れたことで機嫌を損ねてしまおうと、このタイミングならば大丈夫だろう。

 

 

「その目はどうしたんだい。見たところ呪詛を受けたわけでもなく、真新しい傷ってわけでもない。治そうと思えば治せるだろう?」

 

 

 しなやかな指が、小さな鬼の顔面へと向けられる。一度も開かれなかった左目、神奈子はそれが光を失っていることを見抜いていた。何故そうなったかの原因に興味はないし、妖怪同士の争いであろうことは理解できる。わからないのはただ一つ、いつでも癒やすことのできるだろうその傷を、どうして治さないのかだ。

 

 

「昔、若い天狗にやられてね。この片目はソイツに預けてるんだ。また必ずこの世で落ち合おうって誓いの証さ。私とそいつだけの約束が込められてる。どうだい、羨ましいだろう?」

「はっ、そいつは酔狂なことだ」

 

 

 楽しそうに隻眼の小鬼は言った。

 そのまま風に散らさせて、鬼たちの形が虚空に溶けていくのを神奈子は静かに見送る。やがて立ち込めていた酒の匂いまで綺麗さっぱりと、今までの出来事が夢であったように二人の化生は消え去っていた。賑やかな来客の去った後に残されたのは、鬱々とした静寂だけ。

 

 

「………………幻想郷、いいなぁ」

 

 

 そこにポツリと漏らされた神奈子の声の響きは、まるで恋をしたように熱を帯びていた。萃香たちと言葉を交わしていた時の『神』としての話し方は既に手放している。

 

 どうやら不覚にも、先ほどの鬼の言葉を羨ましく思ってしまったようだ。少しだけ顔を赤くした神奈子は、正直な自分の心へと苦笑せざるを得なかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「何だか怖いお客様でしたね、諏訪子さま。鬼が本当にいるなんてミラクルです、こうなると天狗や河童もいるのでしょうか。それらを成敗すれば信仰も…………」

 

 

 神奈子と鬼の会話、その一部始終を早苗はこっそりと障子の向こうから聴いていた。まさか神社を訪れた来客が妖怪だとは思わなかった、それも鬼神である『伊吹童子』である。それを諏訪子から諭されて、怖くなったので幼い風祝は部屋の外から中を伺っていた。

 

 

「………………諏訪子さ、ま?」

「う、ぅぅん?」

「もー、起きてください!」

「あうっ、うるさいよぅ。わかったから耳元で怒鳴るのはやめてよね」

 

 

 諏訪子はうたた寝をしていた。

 ふと目を離すと彼女は眠りに落ちていることがよくある。神奈子曰く、最近はこんなことが増えているそうだ。もともと純粋な信仰から自我を得て生まれた諏訪子は、信仰を失ってしまえば神奈子よりも神格を保つことが難しい。近い将来に自然そのものへと帰っていくと、本人がそう言っていた。

 

 

「ふみゅ、ごめんなさい…………早苗のこと、キライになりました?」

「えへへ~、私の子孫はかわいいなぁ。大丈夫だよ。どんなことがあっても、私はいつまでもお前たちのことを愛しているからね。大好きだよ、早苗」

 

 

 まだ早苗にはわからない。『自然に帰ること』が神にとっての『死』であることが、そしてそれを受け入れて良しとする諏訪子の持つ心の強さがわからない。祟り神として畏れられた威光のすべてを能力の大半とともに失って、情けなく生き永らえた。それでも自分は子孫たちを見守り続けたと、諏訪子は胸を張って最期を迎えるだろう。

 

 その覚悟は、やはり幼い早苗にはわからなかった。だが頭で理解できずとも早苗の心は決まっている。

 

 

「私も大好きですよ、諏訪子さま」

 

 

 この家族を心から愛していると、それだけは自分で理解できている。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんな早苗と諏訪子のやり取りを、神奈子は黙って聞いていた。先程の位置から一歩も動かずに、人を遥かに越えた聴力のみで音を感じとる。その表情は微笑んでいるようで、とても固いものだった。再び『神』としての顔をした神奈子は、眼差しを鋭利に細めていく。

 

 

「幻想郷に行けば、私の神格は戻るだろう。ついでに諏訪子のヤツも助かるかもしれないな。その代償として、こちらの世界を捨てなければならないが」

 

 

 神奈子は諦めていない。

 必ずや失った力は取り戻す、このまま現世で干からびて消えていくなんて真っ平御免だ。そして幾千年の時を共に過ごした相方を、諏訪子を諦めることも出来はしない。伴侶のように付き添って来た友を、例え本人が納得しているからといって手放してやるものか。

 

 幻想郷への移住、スキマ妖怪とやらの策略に乗るのはシャクだが今は仕方ない。妖怪の山というところに降り立つことを許可するという話を聞かされた。ならば十中八九、コイツにとって都合の悪い連中がそこにいるのだろう。ならば自分たちと潰し合わせるのが魂胆であろうか。危険な橋渡りであることは間違いない、総じて妖怪とはそういう企みをするものである。

 

 

「だが、他に妙案があるわけでもない。そして何よりもスキマ妖怪とやらが、この八坂神奈子を利用しようというのなら不届き千万。その企みを正面から打ち砕いてやらねばなるまい」

 

 

 それに早苗はこのまま現世で暮らしていても、やがて大きな壁にぶつかるだろう。他人には見えないものが見えて、自分にだけは特別な能力が宿っている。それは優越感とも劣等感とも違う、ただ人の輪に入れなくなる孤独につながるだけだ。ならば、彼女もまた神奈子が救わなければならない存在に他ならない。それは神奈子が神であるが故に。

 

 

「待っていろ、幻想の生きる楽園よ。いずれの日にか、この八坂神奈子が御自ら渡って行ってやろうぞ。それまで首を洗って待っているがいい。私たちの居場所を必ずや、そこに創ってみせよう」

 

 

 この世界を捨てる覚悟を、早苗が出せるようになるまで待とう。諏訪子が消えていなくなるまでなら待ってやろう。そうして最高の時が満ちるのを見極めてから動くのだ。八坂神奈子はそう決めて、不敵に笑う。

 

 それは守矢神社が、幻想郷の結界を飛び越えてくる『風神録』より十年も前のこと。

 

 

 


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