指輪の魔法使いin麻帆良   作:アルペリア

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七話

 

 

・夜十一時、世界樹広場

 

 

「というわけで、これから君たちと共に仕事をしてもらう辰連拓人くんじゃ。皆、よろしく頼むぞ」

 

 

 斜め前にいる学園長に紹介された俺は、学園長の前を囲むように立っている魔法先生や、魔法生徒に頭を下げる。

 皆さんからの反応は訝しげな眼で見てくる人もいるが、学園長が個人的に雇ったという点で、ある程度の信用を得ているようだ。俺を見ている人たちの中にはガンドルフィーニ先生や、桜咲さんたちがいる。先生は目が合うと、笑みを返してくれ、桜咲さんはペコリと頭を下げてきた。桜咲さんの隣にはついさっき知り合った龍宮さんの姿もあった。

 彼女と知り合ったのはほんの少し前、桜咲さんと龍宮さんの二人が俺を迎えに来てくれた時の事だ。

 

 

 

 

………。

 

 

 

……………。

 

 

 

 

「………ん、もうこんな時間か」

 

 

 ドアをノックされる音で読んでいた本から顔を上げて、壁の時計を確認する。時間は十一時十分前。

 これから移動するにはちょうどいい時間なのだろう。と言っても、これからどこに行くかを聞かされていないので、何ともいえないのだが。なんて思いつつドアを開ける。

 

 

「こんばんは。辰連さん」

「こんばんは桜咲さん。君が迎えの人なのかな?」

 

 

 ドアの前にいたのは昼間にもあった桜咲さんともう一人の女子学生。俺の質問に桜咲さんは頷いて肯定した。まず最初に桜咲さんに挨拶をした後、女子学生に顔を向ける。彼女は褐色で長身の女性だった。

 

 

「初めまして。辰連拓人です」

「こちらこそ、私は龍宮真名。よろしく」

 

 

 彼女の名前は龍宮さんと言うのか。

…………彼女も確かよく見る女性だったな。それにしても彼女、俺より身長高いんじゃないかな?なんて考えていたら桜咲さんから「それでは行きましょう、辰連さん。」と言われ、移動を開始した。移動中は特に話すこともなく、前を桜咲さん、後ろを龍宮さんに挟まれながら移動した。なんか護送されている気がした。

 そうして、世界樹広場についたが、着いたときには人の姿はなく、しばらくしてから人が集まりはじめ、学園長が来た時に俺は学園長に呼ばれ、彼の斜め後ろに立ち、紹介を受けていた。

 

 

「さて、これから各自見廻りりに行ってもらうことになるが、昨日襲撃があったからの、十分に警戒しつつ行ってくれ」

 

 

 学園長の指示でそれぞれ複数名で班を作って、移動を開始する。その中で学園長に声を掛ける。

 

 

「あの、学園長。俺はこの後どうすればいいですか?」

「ん?おお、そうじゃの。どこかの班に入って見廻りをしてくれんか?」

「分かりました」

「では、どこの班に入ってもらうかのぉ…………おーい刹那君、ちょっと来てくれんか?」

 

 

 学園長に呼ばれた桜咲さんがこちらにやってくる。彼女の後ろには龍宮さんが付いてきていた。

 

 

「何でしょうか、学園長」

「君たちは二人組じゃったな。今日は辰連君を一緒に行かせてやってくれんかの?」

 

 

 学園長の頼みに二人は顔を見合わせた後に頷く。

 

 

「そう言うわけじゃ。辰連君今日はこの子たちと行動してくれ。見廻りで聞きたいことがあれば、道中でこの子たちに聞いてくれんか?」

「分かりました」

「それでは辰連さん、行きましょう」

「了解」

 

 

 桜咲さんに言われて、広場から移動を開始する。

 

 

 

 

………。

 

 

 

…………。

 

 

 

 

「そう言えば、さっきの広場で佐倉ちゃんの姿を見なかったけど、なんでだろう?」

「佐倉さんは今日は見廻りが無いんです。お休みです」

「そうなんだ」

「ええ、私たちも毎日やっているわけではないです。当番制ですから」

「へぇ、そうだったんだ」

 

 

 広場を出て二十分程、俺たち三人は広場から少し距離のある商店街に来ていた。この商店街は外国の風情にあふれた外見で、昼間ならこの学園の生徒を含めて多くの人がいると思われる規模の商店街だ。

 でも、こんな所を見廻る必要があるのだろうか。敵が現れそうな感じが全くしないのだが。そのことを桜咲さんに聞くと

 

 

「商店街の大通りではそういう事は無いですが、過去に路地裏から敵を召喚された事があるそうで、それから見廻る対象になったそうです」

 

 

 と答えてくれた。なるほど。そう言われると、路地裏がなんかそういう感じみ見えてきてしまう。桜咲さんと龍宮さんと三人で商店街を見て回る。基本的には大通りを歩くが、以前召喚があった所は実際にその場所まで路地を入って確認する。

 このルートでのチェックポイントは決まっているらしいが、敵がそう何度も同じ場所を使うのだろうか。この大通りにはほかにも路地裏はいくつも存在するし、見てきたポイントよりも見つかりにくい場所もあった。それなのに何故そっちは見に行かないのだろうか?

 

 

「確かにそういったポイントはありますが、召喚には適する場所とそうでない場所があります。見廻りで除いている場所は基本的にそういった召喚に適さない場所です」

「基本的にはって事はそうでないこともあるって事?」

「ええ、それは巡回ルートが違う場合ですね。見て分かる通りこの大通りはかなりの規模です。これだけの規模を毎回すべて確認するのには時間が足りません。そこでいくつか巡回ルートが決まっているんです。それをローテーションで回っています」

「見廻らないルートについてはどうしているの?」

「次にそのルートを見廻るまでは、前回回った時に妨害用の魔法を掛けておきます。それが完璧という訳ではありませんが。一定の効果が数日間は続くので、魔法を行使しようとしている相手には有効です」

 

 

 隣を歩く桜咲さんが教えてくれる。それを聞きながら大通りの見回りを続ける。俺たちの後ろを龍宮さんが辺りを注意しながら歩く。特に何か起きることもなく、大通りの端に着いた。

 着いたらいまきた道を戻ってもう一度ルート通りに確認したら今日の見廻りは終了だという。

 

 

「一応ここまでは問題ないようですね。さて、戻りましょうか」

 

 

 桜咲さんの声に頷いて今来た道を戻っていく。

 

 

 

 

………。

 

 

 

…………。

 

 

 

 

「あぁ、来ましたね。待ちくたびれましたよ」

 

 

 来た道を戻っていた俺たちの前に見知らぬ白スーツの男が立っていた。さっきまで通っていた場所にいきなり見知らぬ人がいる。怪しさは満点だ。それに身に纏う雰囲気がなんとなく、昼間に会う人とは違う気がする。

 近くで物音がしたと思ったら、桜咲さんと、龍宮さんがそれぞれ武器を構えていた。二人にならって、俺もドライバーを出そうと思ったら、耳に付けていたインカムから知っている声が聞こえてきた。

 

 

「辰連君!君たちの方に何か異常はあったかい!?」

 

 

 このインカムは見廻りに出る前に学園長からもらった物だ。これがほかの魔法使いの人たちが使っている通信魔法の役割をしてくれるらしい。

 このインカム自体が通信魔法を使用しているので、魔力のない俺でも使用できるというのだ。

 先生からの質問にドライバーの準備をしながら答える。

 

 

「目の前になんか人間とは思えない空気を持った白いスーツの男がいます」

 

 

〔ドライバーオン・プリーズ!〕

 

 

「別の見廻りのチームから、悪魔が召喚されたという知らせが入ったんだ。その悪魔、今君たちの前にいるという男と特徴が一致している。我々も現場に急ぐから、それまで生徒を頼んでもいいかな?」

「了解です。なんとかしてみます」

 

 

 通信を切って男の方を見る。相変わらずただ立っているだけだが、どこか余裕の様なものを感じさせる。隣の二人はそれぞれの得物を構えながら様子をうかがっている。

 

 

「久しぶりに呼び出しを受けたら、こんな極東だったとは。御嬢さんエスコートをお願いできるかな?」

「ふざけるな!貴様何者だ!!」

 

 

 話しかけられた桜咲さんが言い返す。男は「連れないなぁ」とばかりに肩をすくめる。

 

 

「やれやれ、お誘いはダメか。何やらご立腹のようだしね」

「貴方の事情は関係ない。早く正体を教えてくれるかな?」

 

 

 今度は龍宮さんが質問をする。桜咲さんと違って口調は穏やかだが、銃を突きつけながら言っているのでこっちの方が穏やかじゃない。

 

 

「こちらのレディもせっかちの様だ。だが、そこまで女性に言われたら話さなくてはいけないね」

 

 

 男は優雅に一礼をする。

 

 

「初めまして、私は悪魔だよ。本名については君たちに理解できる名前ではないので省略させていただく。まぁ悪魔と言うだけで十分かな?」

 

 

 男が悪魔と言った瞬間、龍宮さんの銃が火を噴くが、それが男・悪魔に当たることはなかった。悪魔の目の前の地面から突然飛び出してきた物にぶつかって、遮られたのだ。

 遮る物の後ろから声が聞こえる。

 

 

「いきなり、撃ってくるとは物騒だ。それならこちらからも行かせてもらおう」

 

 

 指を弾く音が聞こえると、地面からさらに複数の物体が出てきた。

 

 

「マジかよ」

 

 

 現れたのはウィザードに出てくる使い魔(グール)にそっくりだった。驚く俺を見て隣の龍宮さんが素早く教えてくれる。

 

 

「アレは低級の悪魔で、上級の悪魔の使い魔みたいなものだ。姿は使役する悪魔によって変わるみたいなんだ」

 

 

 龍宮さんの説明を受けて理解する。アレはたまたまあの形をしているだけで、ウィザードとは関係があるわけではないのか。

 俺が納得している間に、向かってくる使い魔に桜咲さんが切り込んで行ってしまった。離れ離れになると危険だと思った俺は龍宮さんと頷くと、桜咲さんを追う。

 

 

〔シャバドゥビタッチヘンシーン!フレイム・プリーズ!…ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!!〕

 

 

「変身!」

 

 

 目の前に出した魔法陣を通り抜けて変身する。隣で龍宮さんが驚いた顔をしているが、話は後だ。今は桜咲さんを追い懸けないと。

 

 

 





 読んで頂きありがとうございました。

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