サムライアート・オンライン   作:龍拳

10 / 12



第10話 人間知られたくない事くらい一つや二つはあるもんだ

大量の湿り気を肌で感じながら私はザアザアと降り続ける雨にうたれていた。

冷たくて寒い…… これじゃあ明日は風邪引いちゃうな。

ま、いいか…… どうせ心配するような人もいないし……

私はねだるように求めるように天を仰ぎ見る。

当然顔上には雨粒しか乗らない。

暖かい日差しなんて物は夢のまた夢。

このままあの遥か高いお天道様でも見ながら静かに眠ろうかな……

 

「おじょーさん、どうしたんだいこんな所で。こんな日に傘もささないで」

 

突然背後から男性の声がかかった。

どうせあてのない子供を狙った人身売買の違法の連中だろう。

私は恐怖することもなく何となく淡々と質問に答える。

 

「今日は…… 雨だから……」

 

「そりゃおかしい。傘とは本来雨をしのぐためにさすもんだ」

 

「これでいいんです。雨の日まで傘をさしていたらいつまでたってもこの空を眺めることができません。雨空でもいい…… 私はこの空を拝みたいんです」

 

背後から徐々に近づいてくるのがわかる。

このまま私は生きた兵器として売られるのだろう。

そう思った瞬間だった。

私の頭部の冷たさと雨粒の感覚が消えてしまった。

顔を上げるとそこには傷だらけの古そうな傘をさすハゲ頭のおじさんが。

 

「久しぶりに帰って来てみるもんだ。娘と同じ事を言う奴と出会えるとはな」

 

「え……」

 

この人の目を見てわかった。

悪い人じゃないんだ……

なんの根拠もないけど…… 今まで見てきた人とは違う。

真っ直ぐで暖かい目。

「だがなぁこのままじゃ風邪を引いちまう。俺と一緒に来い。どうせ行くあてもないんだろ?」

 

「……! はい」

 

その日からその人は私の師匠であり…… お父さんとなった。

 

 

 

「ん…… 朝?」

 

目を覚ますといつの間にか朝になっていた。

夢の中で昔の事を思いだしていた私は自然と目に少量の涙が浮かんでいた。

涙を拭き取りながら私は気づいた。

あれ? ここって……!

見るとベットの下で床に大口を開けて眠りこける銀時さんがいた。

嘘…… ! 私、銀時さんの部屋で寝ちゃたんだ! いやそれよりも銀時さんのベット取っちゃった。

申し訳なさと恥ずかしさの感情が胸の中で渦巻いていると銀時さんが目を覚ました。

 

「ファー、よく寝たぜー。お、シリカも起きたか」

 

「お、おはようございます。その…… すいません、ベット……」

 

「あー、別にいいよ。そんくらい。それよりも大丈夫か?」

 

「え? あ!」

 

しまった。私の目は恐らく赤くなっていると思う。

まだ流れていた涙が残っているからだ。

でも銀時さんはその涙がピナに関係しているのかと思ったのか、

「安心しろ、お前の友達は必ず助けてやっからよ」

 

そう宣言する銀時さんの瞳は何時もの気だるそうな目付きから変わっていた。

絶対に約束を守るという信念が込められている瞳に。

 

「……はい!」

 

そうだ。昔の事を思いだしている時でも泣いている時でもない。

今はピナの為に全力をつくさなきゃ!

私は希望を胸に新たに決心をした。

 

 

ポーション類の補充を済ませ、すっかり準備万端になった私達はゲート広場にいた。

「んじゃ行くか。転移フローレン!」

 

シーン

銀時さんは自信満々に言ったけど何故か何も起きなかった。

これって……

 

「あの、銀時さん。もしかして間違えました?」

 

「いや、おかしいな…… 転移フローダム!」

 

シーン

 

「あ、あの……」

 

「転移フロリレン!」

 

「いや、ちょっと……」

 

「転移フリーダム!」

 

「あの……」

 

「開けゴマ!」

 

「いや、もう違う合言葉じゃないですか!」

その後、結局名前を思い出せなかった銀時さんは恥ずかしそうに頭をポリポリとかきながらその辺にいたプレイヤーさんに名前を聞いていた。

この人もあの人と同じで今一決まらない人だな……

 

「あー、わりぃわりぃ。転移フローリア!」

 

今度こそ名前を言えた事によって私達二人を眩い光が覆い込み、エフェクト光が薄れた途端に、視界に様々な色彩の乱舞が飛び込んできた。

 

「うわあ……!」

 

無数の花々で溢れかえった四十七層を視て私は新鮮味と驚きの声を上げた。

円形の広場を細い通路が十字に貫いて、それ以外の場所には煉瓦で囲まれた花壇となっていた。

仮装世界なんだから当たり前だろうけど見たこともない草花が咲き誇っている。

「凄いですね!」

 

「まあ、確かにとても作り物とは思えねーよな」

 

ここはフラワーガーデンと言うらしい。

街だけじゃなくフロア全体が花が咲き誇っているだなんて少し素敵かもしれない。

それに……

 

「お天道様がよく見えます……」

 

「お天道様?」

 

「あ! な、なんでもありません!」

 

銀時さんは不思議そうに目をぱちくりとさせたけど直ぐに興味をなくしたのか鼻をほじくり、

 

「まあーいいか。さっさと行こうぜ」

 

「は、はい」

 

銀時さんと一緒に思い出の丘に向かう間に気づいた事があった。

周囲を見回す限り歩いているのはほとんどが男女の二人連れだった。

手を繋いだり…… う、腕を組んだり…… もしかしてここって……!

そ、そういう場所なんですか? と銀時さんに聞く勇気なんて出るはずもなく、ただ顔が赤くなっちゃう……

火照った顔を誤魔化すように私は慌てて銀時さんにふと思った事を聞いた。

「そ、そういえば銀時さん、前に私に似てる人がいるって言ってましたけど、どんな人なんですか?」

本当はこのアインクラッドで現実世界の話を持ち出すのはタブーなのだけれど、私の似てるいるという人がとても気になった。

前にも娘に似てるって言われたし。

 

「ん? あーその話か。なんつーか実際は……」

 

銀時さんは困ったような顔になり一度私を見つめ、

 

「そんな似てない…… かもな……」

 

「え? そうなんですか?」

 

「ああ。最初お前を見たときは何故だがアイツと似てる気がしてよー。あ、アイツってのはちょっとした理由で預かってる娘がいてな。これがかなりの大飯食らいでしかもゲロは吐くし毎日アルアルうるせーし……」

 

聞く限り確かに私とは似てないかもしれない。

銀時さんの口から出るのは声優さんの無駄使いゲロインだとか、かなり酷いな……

でも銀時さんは何処か楽しそうに話していた。

こんな事言ってるけど本当はその人の事を大事に思っているんだ。まあ、多分だけど。

 

「とにかくはっきり言ってシリカ、お前の方が女らしくてキレーだし声優さん使いこなしてる感バリバリだ。だからあんま似てねー」

 

「き、綺麗って……」

 

今さらりととんでもない事言われた……

なのに銀時さんは構わず鼻をほじくりながら話を続ける。

 

「だけど、本当なんでだろうな…… お前の目を見た時にそう思っちまったんだ」

 

「目を……」

 

人の目は正直だ。

師匠に出会うまで一人で生きてきた私はいろんな人達の目を見てきたからわかる。

その人がどんな人なのか。

だから銀時さんも同じなんだ。

私が師匠と似てると思ったように銀時さんも私の目を見てその人の面影を感じたのだろう。

「……!」

 

突然銀時さんが足を止めた。

どうしたのだろうと前を見るとそこには巨大な歩く花のモンスターがエンカウントしていた。

 

「うわ……!」

 

歩く花はなんと言うか気持ち悪かった……

ヒマワリに似た黄色い巨大花が牙を生やした口をぱっくりの開いて毒々しい赤をさらけ出してくる。

あまりの気持ち悪さに私は嫌悪感を覚え体が強張ってしまう。

 

「いやぁぁぁ!!!」

 

歩く花は突然私に飛びかかってきた。

思わず叫び声を上げ意味もなく短剣を振り回しながら逃げているとニュルニュルと動く触手に足を絡められてしまった。

うぐ、気持ち悪い! いや、そんなことよりも!

 

「す、スカートが!」

 

私の体をモンスターは軽く持ち上げ頭を下にされ完全に宙吊り状態にされてしまった。

現実世界だったらこの位は対処できるのに……

「銀時さん! パンツ見ないで助けてください!」

 

「無茶言うな! 高倉健並みに器用じゃねーんだよ!」

 

こんな事ならならゴツい装備にでもしておくべきだった!

私に無茶を言われ戸惑いながらも銀時さんが銀色に光る剣で歩く花を斬り裂いた。

歩く花は一瞬でポリゴン状態になり、その欠片を浴びながら私は着地した。

「あの…… 銀時さん……」

 

「なんだ……」

 

「見ました……」

 

実を言うと着地しするとき私はスカートを押さえる暇などなく全開状態でパンツを披露してしまった。

顔を赤らめながら見ると銀時さんは口笛を吹きながら、

 

「いや~、み、見てないなー、俺は。うん。」

完全に上擦った声で言った。

「絶対嘘ですね!」

 

 

少々気まずい感じはあったが二人はエンカウントするモンスターを順調に倒し順調に進んでいた。

最初は現れるモンスター、それも触手を操るという生理的に受け付けない女の子の嫌いなモンスターナンバーワンモンスターにシリカは手こずったが銀時のサポートにより戦闘にも慣れていった。

おかげで思ったよりも早く二人は思い出の丘へと辿り着いた。

「うわあ……」

 

思わず今日二回目の歓声を上げシリカは数歩駆け寄った。

丘の頂上には周囲を木立に取り囲まれ、ぽっかりと開けた空間一面に美しい花々が咲き誇っている。

 

「やっと着いたか。たく、無駄に長かったな」

 

銀時が剣をが腰の鞘に納めながら言った。

 

「銀時さん、ここに花が?」

「ああ。真ん中あたりに岩があんだろ。そのてっぺんに……」

 

銀時の言葉が終わらない内にシリカは走り出していた。

当然と言えば当然だろう。

大切な友達であるピナを一刻も早く生き返らせたいのだ。

シリカは息を切らせながらも胸ほどまでもある岩に駆け寄りおそるおそるその上を除き込む。

 

「え…… ない……!」

 

しかし、そこには何もなかった。

雑草が生え揃っているだけで花らしきものは一切なかった。

 

「そんなはずはねぇ…… よく見てみろ」

 

「あ……」

 

銀時に視線を促され見てみると草の間に、一本の芽が伸びようとしていた。

芽はたちまち高く成長し先端に大きなつぼみを結んだ。

そのつぼみは鈴の音を鳴らし開いた。光の粒が宙を舞っていく。

神秘的な光景にシリカは少しうっとりとするがピナの事を思いだし少々焦りぎみになりながらも花に手を触れる。

するとネームウインドウが開き、《プネウマの花》と表記された。

「これでピナは生き返るんですね……」

 

「ああ、だがここじゃ危ねーし、取りあえず帰るか」

 

「はい!」

 

少しでも早くと駆け降りるように進み麓に到達した。

そして歩いていき小川にかかる橋を渡ろうとしたときだった。

銀時は突然真剣な顔にかわり一際低く張った声が発せられた。

「おい、何時まで下手な尾行してるつもりだ。こら」

 

シリカが、なんだと思い銀時の視線の方を見ると橋の向こうに人が現れた。

その人物は驚いたことにシリカの知っている女。

真っ赤な髪と唇をし、エナメル状に輝くレーザーアーマーを装備したロザリアだった。

「ロザリアさん……!? なんでこんなところに!」

 

シリカが驚いていると銀時が前に出、ロザリオを睨み付ける。

 

「ようやく尻尾つかんだぞ、コノヤロー。お前のせいで俺のパフェ台無しになったんだならな」

 

何を言っているのかシリカにもロザリオにもわからないがロザリアはフンと鼻で笑い、

 

「もしかしてあんたが最近うちの周りをこそこそと動きまわってるプレイヤー?」

 

「ああ。お前、つーかお前らに用があってな。この殺人集団がよぉ」

 

殺人集団。

その言葉にシリカは驚愕する。

しかしシリカの眼前に浮かぶロザアあの頭上に浮かぶカーソルは緑色だ。

本来人を殺すとなれば、このアインクラッドの世界ではそれを晒すためオレンジに変換させられるばすだ。

シリカが呆然となりながら銀時に問い質した。

 

「あの…… 銀時さん。ロザリアさんは、グリーンじゃ……」

 

「別に殺人集団だからって全員が全員、人を殺してるわけじゃねーよ。グリーンの奴がこそこそ獲物を見繕ってオレンジの奴に殺させんだよ。ま、つまりは臆病者だな」

 

「臆病者とは言ってくれるはね。私達はただ制裁を加えてるだけよ」

 

「制裁……? 制裁ってどういうことですか!」

 

理由はわからないがロザリアが殺人者の仲間であることが発覚したシリカは声を興奮気味に叫ぶ。

するとロザリアの代わりに銀時が口を開いた。

 

「天人狩り…… 知ってるか?」

 

「え……!」

 

天人。その言葉に個人的な理由からも胸をドキッとさせたシリカは天人狩りについて思い出す。

ここ最近天人ばかりを狙ったプレイヤーキルが問題となっていたのだ。

「天人ばかりを狙った攘夷的な行動。これはコイツの仕業だ」

 

「人間をこけにしか思ってない天人どもを殺して何が悪いわけ? 私は間違ったことなんてしてないわよ」

 

ロザリアの開き直った台詞に眼帯の男、高杉を思いだした。

純粋に天人を憎み、殺意へと破壊へと代わる。ロザリアはかつての仲間と同じなのだ。

 

「けっ、お前みたいなのが何でこのSAOにいんのかわかんねーぜ。いや、それともこの世界に来て今までの不満が爆発したか?」

 

「…… ええ。あんたの言う通りね。このアインクラッドでデスゲームが開始された直後、他のプレイヤーが泣いているなかで私はチャンスを掴んだと思ったわよ。制裁のね」

 

シリカは足を震わせていた。

ロザリアの冷徹な声、そして自身の正体( ・ ・ )がばれているかもしれないという恐怖に。

 

「それであのギルドも襲ったのか。珍しく天人と地球人が仲良くしてた四、五人のギルドから天人だけを殺したのか」

 

「ああ、あの天人なんかと仲良くする胸糞の悪いギルドの事ね」

 

眉一筋も動かすこともなくロザリアが頷いた。

 

「リーダーの男は泣きながら仇討ちしてくれる奴を探してたんだよ。おかげで現実世界で万事屋やってた俺に依頼がきてな。お前を取っ捕まえて牢獄にぶちこんでほしいんだとよ」

 

銀時は冷静ながらも冷たく鋭い声で言った。

だがロザリアはそれがどうしたと答える。

 

「ふん、天人なんかと仲良くするあいつらがバカなのよ。同じ地球人だけ殺さなかっただけでもありがたいと思ってほしいわ」

 

ロザリアの目に凶暴そうな光が帯びた。

その事にシリカは気づき短剣に手を伸ばす。

銀時は相変わらず剣を鞘に納めたままだ。

 

「いっとくけど私は一人じゃないわよ。他にも仲間はいるんだから」

 

ロザリアが合図をだすと次々と隠れていたプレイヤー達が現れる。

十人ほどの数にシリカは思わず圧倒されているとロザリ

アは余裕綽々に言った。

 

「でも、あんたさぁ、どうしてあたしがその天人狩りの仲間だと思ったわけ?」

 

「こっちには悪趣味な情報屋が知り合いにいるんでね。アインクラッド内の事ならなんでも知ってるネズミがな」

 

ネズミとはアルゴのことだろう。

しかしロザリアはそんな事わからず眉を寄せ、苛立のちの様子を見せる。

 

「ふん、まあ別にいいわよ。でもあんたさぁどうして私がその子狙ったのか……理由はわかる?」

 

「……!」

 

シリカは思わず肩をビクッと震わせた。

おそらくいや、確実に知られたくい真実をよりにもよって少なからず好意を抱き始めた銀時に告発されることにシリカは絶望を覚えた。

だがこの手勢にどうすろことできずただ呆然と事の成り行きを見つめるしかない。

 

「知らねーな。殺人野郎の気持ちなんてわかるわけねーだろ」

 

「じゃあ教えてあげる。そいつは天人…… それも宇宙最強の戦闘民族、夜兎よ!」

 

ロザリアによって語られた真実にシリカは絶望し、そして銀時はーー




今回でシリカの話を終わらせようと思っていたのですが、結局次話に続いてしまいした。申し訳ありません!
でも次で本当に終わらせるので!
それとアンケートというか聞きたいのですが、アルゴと銀時との出会いやプログレッシブの内容なども読みたい方はいるのでしょうか?
作者は現在お悩み中です。
皆様の反応により決めさせてもらいます。
では次回今度こそシリカ編を終らせるのでどうかよろしくお願いいたします。
感想待っています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。