Angel Beats! 星屑の記憶   作:刻焔

39 / 45
第37話 帰還

黒い塊を中庭に誘導し、地の利を得た俺は椎名に鍛えられた俊敏性を生かし

四方八方から黒い塊に攻撃しているが、まるで手ごたえがない

 

当たるというよりすり抜けている

 

「――くっ!」

 

こちらからの攻撃は一切通らないが、黒い塊の攻撃だけはしっかりと俺にヒットする

 

―――ここは一度距離を置いて体制を立て直すか

 

俺は大きく後ろへジャンプするが、黒い塊がその距離を一瞬で詰めてきた

 

「――っ!?」

 

黒い塊の拳?が俺の腹にめり込み、そのまま校舎へ殴り飛ばされた

 

「痛ってぇな、……こりゃキツイな」

 

逃げるのもままならない状況では入江を探すこともできない

何度も隙を見つけて入江を探しに行こうとはしているが、コイツに邪魔され失敗している

 

まるで入江を探させないために足止めしているかのように黒い塊が立ちはだかる

 

―――なにか打開策はないか?この地形で使える戦術は、もしくはアイツの気を引けるものでもいい

なにか、何かないか!?

 

俺は辺りを見渡し打開策を考える

その中で一つ、不思議な光景を見た

 

空中に漫画やアニメでよく見るであろう、光っている亀裂を見つけた

 

さっきまで何もなかったところにいきなり現れたということは、ゆり達が元の世界の方でなにかしたのだろうか

 

だとしたらあの亀裂の先は元の世界とつながっているはずだ

 

―――あの亀裂がゆり達の仕業なら!

 

俺はナイフを数本取り出し、黒い塊へと投げつける

 

それと同時に俺は亀裂へと走り始め

黒い塊はナイフを弾き俺の方へと距離を詰め拳を振り下ろした

 

が、その拳は俺に届くことはなく

亀裂から放たれた弾幕により、黒い塊はその体に無数の風穴を作り

霧のように拡散して消えていった

 

「―――月斑君、無事!?」

 

亀裂から放たれた弾幕が終わった直後、亀裂が広がり

その中からゆりを先頭に、戦線メンバーが現れた

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「つまり入江が行方不明ってわけね」

 

ゆり達と合流出来た俺は、これまでの経緯を簡単に説明した

 

「ああ、できれば広範囲で探したいがこの空間で迷うとどうなるか分からない

 なるべく固まって行動した方がいいと思う」

 

「そうね、でもこのゲートもいつまでもつか分からないわ

 数人見張りを残して、残りのメンバーは入江の捜索に回すわ」

 

ゆりが言ったゲートとは広がった亀裂の事だ

元の世界とこちらを自由に行き来できることから呼び方が変わった

 

ついでに話すと、さっきまで俺が戦っていた黒い塊も『影』へと呼び方が変わった

 

「ゲートの見張りは松下五段とTKに任せるわ」

 

「心得た」

「All Right」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「なぁ月斑、お前はなんでここが別世界だと思ったんだ?」

 

「ガラスと生徒だよ」

 

俺は音無の質問に簡単に答えた

 

「ただの肝試しなのにわざわざガラスを交換したりしないだろ?交換したとしてもすべてのガラスの交換なんて半日で終わらない

 まぁ仮に終わっていたとして、肝試しになにかメリットはあるか?ないだろ

 だからおかしいと思ったんだよ」

 

「普通それだけじゃここが異世界なんて分からねぇだろ」

 

音無への回答に藤巻が疑問をぶつけてくる

 

「そ、それだけじゃ断定はできない

 だからこそのNPC生徒の消失が決め手になった

 あれだけ校内に悲鳴や話し声が聞こえていたのに、それが突然聞こえなくなったんだ

 疑問に思わない方がおかしい」

 

「NPCの消失と無意味なガラスの強化というヒントだけで異世界と決めつけるってのは大げさな気がするけどな」

 

「戦線メンバーまで消えたんだ、むしろ俺と入江だけ消えないのは不自然だろ?」

 

日向のつぶやきに対してもちゃんと答える

答えることができたのは、教室を出た瞬間の強烈な違和感と居心地の悪さのせいだろう

 

あの瞬間の気味悪さは今でも忘れられない

 

―――正直今でも胸のざわつきが止まらないんだけどな

 

むしろ入江の姿が見えなくなった辺りから胸のざわつきがひどくなっている

何も起こらなければいいがと、俺は強く願った

 

が、しかし

俺の気持ちを裏切るかの如く、入江を担いだ影が俺たちの目の前を横切って行った

 

「入江!?」

 

「今の影を追いかけるわよ!」

 

俺たちは影を追いかけ始めた

 

―――確かこの先って

 

影を追いかけるほど、胸のざわつきは強くなっていった

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「いたぞ!」

 

椎名が影を見つけ、後方の俺たちに教えてくれる

 

「――っ!?」

 

影を見た瞬間、蛇に睨まれた蛙のように俺の体は硬直してしまった

 

「どうした月斑」

 

俺の様子にいち早く気付いた日向が声をかけているが、その声は俺には届いていなかった

 

次第に呼吸が荒くなり頭痛や吐き気も襲ってきた

 

 

 

影がいた場所、それは焼却炉だった

 

 

 

場所だけではこうはならなかっただろう

 

今まさに影がしようとしている事、

影は焼却炉の扉を開け、火を灯していた

 

それが俺をこんな状態にしているのだろう

 

無くした記憶がよみがえろうとしているのか、耐えられないほどに頭が痛い

嫌な汗をかいているのもわかる

体も震えて脚が動いてくれない

 

はやく動いて入江を助けないといけないのに身体がいうことを聞かない

 

戦線メンバーは影に向かって発砲しているが、影にそれらしいダメージは見られない

それどころか攻撃されていないかのような感じでいる

 

影は入江を腰に抱え、焼却炉に投げ込むような仕草を見せた

 

―――動け、動いてくれ!あの中に入江が投げ込まれる前に!

もしそんな光景を見てしまったら俺はっ!

 

記憶がなくとも精神が崩壊してしまうだろう

 

こんな状況だからか、なんとなく分かる

俺の未練は火が関係している、そして俺はその事がトラウマになっている

 

―――動け、動け動け動け!!

 

俺は強引に脚を動かし、その勢いのまま駆け出した

 

その瞬間、一瞬だけ現世の光景を見た気がするが、よくは覚えていない

 

俺は腰の刀に手をかけ、入江を担いでいた影の両腕を切り裂いた

空中に投げ出された入江を見た直後、俺は気を失ってしまった

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

目を覚ますと、医療棟の保健室だった

 

「ここは」

 

「目が覚めたのね」

 

声の方を向くと、ゆりがベットの横にある椅子に座っていた

 

「どのくらい気を失ってた?」

 

「二日ね

 あなたは影の腕を切り裂いた直後に倒れて、そのまま気を失ったわ」

 

「そうか、そのあとどうなったんだ?」

 

俺はゆりから気を失った後の事を聞いた

 

俺が気を失った直後、ガラスが割れるかのように空が割れたらしい

そして影は消え、いつの間にか元の世界に戻っていたと

 

どうにも信じがたい話だが、実際起こったことを考えると信じるしかなさそうだ

 

「あなたはまだしばらく休んでなさい

 今回の騒動で調査したいこともあるから、しばらくオペレーションはないわ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

俺はふと、窓の方に目をやる

窓から見えた空には、いくつもの星が散りばめられていた

 

―――俺のトラウマ、無くしてしまった記憶

そろそろ向き合わないといけないな

 

ゆりが帰った後そんなことをぼんやりと考えていた




ギリギリ書き終わったー!!

燕「いや、むしろアウトだろ今月分」

入「日付変更5分前の投稿を、どれだけの読者が許してくれますかね」

まだ6月だ!6月分の投稿は時間上では守れているぞ!

燕「無茶苦茶な意見だな」

その話はもういいじゃないですか
それよりもオリジナル終了です

入「肝試し怖かったです」

燕「いや、後半殆ど出番なかっただろ」

入「序盤だけで十分怖かったです!」

お化けが苦手じゃそうだろうね
さて、予想外に肝試し編が伸びてしまったおかげで書きたかった話がいくつか保留になってしまいました

燕「予想外に伸びてしまったのは自業自得だろ
肝試しの他にはプールやキャンプの話を書く予定だったんだよな」

その予定だったんですけどね
ちょっと見送りにします、そのあたりの話が見たいって方がいれば
番外編扱いで完結後に書きます

燕「…まず完結はいつになるんだよ」

どうにか今年中にはと考えてます
今の仕事、身の安全を考えてやめることになりましたし
あ、詳しくは載せませんよ

入「いえ、別にその辺の事情はどうでもいいですけど
むしろ月斑先輩が怯んでしまった事の方が気になるのですが」

燕「その話もしたいがちょっと長くなってきたから、その辺の話も含めて次回だな」

そうですね、そろそろ締めますか
それでは皆様!

『また次回もお楽しみに~』


*次回はテスト回の予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。