現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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第132話から第134話

第132話

 

 トリステイン王国 トリスタニア王宮

 

 その一部屋……グリフォン隊隊長室で遍在ワルドは、本体に代わり政務をこなしている。

 本体は、ジョゼット攻略の真っ最中だ!

 

「ワルド隊長、アンリエッタ姫がお呼びです」

 

 宛てがわれた部屋で、グリフォン隊の訓練メニューや備品申請書と格闘していた遍在ワルドは、呼びに来た銃士隊員を見上げた。

 確か最近……銃士隊の副隊長になったミシェルだったか?

 

「ああ、ミシェル殿か。分かった、有難う」

 

 軽くお辞儀をして退出していくミシェルを見送る。うむ、美形だが微妙な乳だな。

 それに年齢も守備範囲外だ……アニエス隊長のネコと噂も有るが、ロリじゃねーから私には関係ないな。

 しかし、ロマリアが薔薇ならトリステインは百合か?確かに国の紋章も金色の百合だけどな。

 

「くっくっく……」

 

 我ながら上手い事言った的に笑ってみる。さて、アンリエッタ姫の呼び出しか……どうせ、碌な事では有るまい。

 待たせる訳にもいかず、早足に彼女の下へ向かう。

 

「全く本体め。面倒臭い事ばかり、押し付けやがって……」

 

 愚痴の一つも零れ出た!

 

 

 

 

 アンリエッタ姫政務室前……

 

 アンリエッタ姫の部屋の前に居る銃士隊員に取次を願うが、直ぐに許可がでた。

 

「アンリエッタ姫、魔法衛士隊長ワルド。お呼びにより参上いたしました」

 

 貴族的礼節に則り挨拶をする。アンリエッタ姫は……何だ、また妄想中かよ。

 ソファーに座り、真っ赤になってクネクネしている。ハッキリ言って、我らと違うベクトルの変態だな。

 

「嗚呼、ツアイツ様……私には心に決めた御方が……

いやですわ、そんな強引に、そこは違います……ウェールズ様まで一緒になって攻められては、体が持ちませんわ……」

 

「コホン!アンリエッタ姫、お呼びでしょうか?姫、アンリエッタ姫?」

 

 ハッとなり、現実世界に戻ってきた様だ……

 

「あら?ワルド隊長……こほん。ご苦労様です。お呼び立てして申し訳ありませんわ」

 

 ワタワタと真っ赤になって取り繕うが、知らない振りをするのが大人の優しさだ。

 

「いえ、これも職務ですから」

 

 2人の間に沈黙が流れる……

 

「コホン!実は、一週間後に有力貴族を集めた会議を行います。

内容は……ワルド隊長なら教えても良いでしょう。アルビオン王党派への援軍を送る為の会議です。

しかし、レコンキスタに取り込まれた貴族も居るとの情報が有ります。ワルド隊長には、彼らを押さえて頂きたいのです」

 

 オイオイオイオイ……ちょっと待てよ。何で、そんな話になってるんだ?

 

「つまり、裏切り者をその場で捕らえよ、と?」

 

「そうです。しかも複数の有力貴族が関与しています……」

 

 真剣な顔で、トンでもない事を言い出したな。

 

「我らグリフォン隊だけでは、不足ですな。他に応援は居ないのですか?」

 

「銃士隊が居ます。しかし、彼女らは別の任務で半数が割かれてしまいますの」

 

「別の任務ですか?」

 

 アンリエッタ姫は、悪戯っ子の様な笑顔で「秘密ですわ!」と宣った。

 

 ああ……多分、ツアイツ殿の注意してくれと言っていた手紙の件か。これは、本体とツアイツ殿に報告しないと危険だな。

 

「了解しました。では、準備に取り掛かります」

 

 一礼して部屋を出る。廊下を歩きながら考える……またアンリエッタ姫は暴走を始めた。

 腐敗貴族の炙り出しは立派だが、手順も証拠も手段すら彼女は持って無い。

 騒がれて逃げられるのがオチだ。無謀過ぎる……

 

 自室に戻り、ディテクトマジック・ロック・サイレントを念入りにかけて椅子に座る。

 

 

「本体及び分身……本体及び分身、聞こえるか?アンリエッタ姫が、また暴走を始めたぞ。どうする?彼女は有力貴族を集めて……」

 

 ラインが繋がっている本体とダッシュに思念を飛ばす……長い間、本体達と交信した為か軽い疲労を感じた。

 ふぅ……本体と分身が、丁度ツアイツ殿に会いに向かっている途中で良かった。

 これで対策を考えてくれるだろう。さて、私に出来る事を進めるか。本棚にズラリと並ぶ男の浪漫本の背表紙を眺める。

 

 漢力を回復しないと、体の維持に支障をきたす。

 

「ふう……子供の時間でも読むか」

 

 これから遍在の至福の時間が始まる。

 

「これが有るから、働けるのだよ……」

 

 本体に判断を委ね、ゆっくりとロリっ子本をニヤニヤしながら熟読する遍在。彼の漢力は急激に回復していった。

 

「そうだ!ヴァリエール公爵とド・モンモランシ伯爵にも手紙で報告しとくか」

 

 寡黙なダッシュと違い少し口の悪い政務担当遍在だが、ちゃんと優秀だった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 グリフォンにてハーナウ領に向かう途中、トリステインに居る遍在より思念を受け取った。

 

「あの暴走姫め……下準備もせずに何を考えているのだ。これは、ツアイツ殿と相談しなければ拙いぞ」

 

 そう思い、隣を飛んでいるロングビル&ジョゼットに話し掛ける。

 

「すまない!トリステインで問題が発生したので、先にツアイツ殿の下へ向かう。後からゆっくり来てくれ!

ミス・ジョゼット。最後まで護衛出来ずにすなまい。

我が国(ツアイツ&サムエルのオッパイ帝国)の危機なのだ!また後で会おう」

 

 そう言って、己の相棒に全てを託す!ワルドの相棒グリフォンは牝だ。

 ハルケギニアでも有数の変態紳士の使い魔で有るので、性能は彼女らの乗るレンタルグリフォンの比ではない。

 一声高く嘶くと、猛烈にスピードを上げた!瞬く間に、視界から消える。

 

 それを呆然と見詰めるロングビルとジョゼット。

 

「ワルド様……飛行中なのに、何故トリステインの問題を知れたのかな?」

 

「ああ……アイツも変た……変人だからね。使い魔とでも交信したか、魔法衛士隊独自の連絡方法が有るのかも知れないね」

 

 しどろもどろなロングビル。

 

「でも、お国の為にあんなに真剣に……格好良いですよね。働く男性って!」

 

「はぁ?アレがかい?アンタ、目は平気かい?」

 

「とても凛々しいお顔でしたよ。使命に燃える男の顔でした」

 

「アイツも黙ってれば、エリート様だしモテるんだろうけど……ねぇ?」

 

「…………?」

 

 ワルド、知らない所で株を上げていた!アンリエッタ姫様々か?

 

 

 

第133話

 

 

 ド・モンモランシ伯爵家

 

 最近一人娘がラグドリアン湖の精霊との交渉役に認められ、領地が活気付いている。

 そして、知る人ぞ知る男の浪漫フィギュアの一大生産地でもある。ド・モンモランシ伯爵は、思いもよらぬ手紙と来客を迎えていた。

 

「まさか、烈風のカリンとして来られるとは!久々に驚いたよ。それで、用件はこのアンリエッタ姫からの手紙か?」

 

 応接室のソファーに向かい合って座っている、ヴァリエール公爵にアンリエッタ姫からの手紙を渡す。

 

「そうだ!アンリエッタ姫は……ただツアイツ殿の情報で腐敗貴族が居る事は知っているが。しかし、彼らを追い詰め捕縛する手段は無いだろう」

 

 ド・モンモランシ伯爵は溜め息をつきながら「そうだな……その辺が甘いのだ。そして、これが彼女の浅はかな考えの報告だ」そっと、遍在ワルド隊長からの手紙を渡す。

 

「さっき届いた。お前のウチにも行ってるだろうが、入れ違いになってるだろう。読んでみろ……」

 

 ヴァリエール公爵は手紙を読み終わると、妻に渡し彼女が読み終わるのを待つ。

 

「どうする?」

 

「どうにもこうにも、アンリエッタ姫が腐敗貴族を弾劾した時点で、我らがこの証拠を突き付け……」

 

「ワルド殿のグリフォン隊と連携して、奴らを捕らえるしかない、か」

 

 仕える国の姫をフォローするのだから、仕方ないのだが何故か釈然としない……

 

「全く、ツアイツ殿がべた褒めのイザベラ姫の半分位の能力が有れば苦労はしないのだが……」

 

「アレは父親がアレだから、娘がしっかり者なのだが。ウチは母親がアレだが、娘もアレだからな……」

 

 2人して溜め息をつく。

 

「しかし、ツアイツ殿はイザベラ姫に入れ込んでいるが大丈夫か?アイドルプロデュースに毎週の贈り物。

園遊会の時には、彼女のテーブルに呼ばれていたぞ。遠目だが、抱きつかれていた様な……」

 

「幾らツアイツ殿でも、大国ガリアの姫をどうこうしないだろう?」

 

「ははははは……」

 

 渇いた笑いをする。

 

 

「アナタ……私がマンティコア隊のド・ゼッサール隊長に話を通します。グリフォン隊だけでは、数が足りませんから」

 

「ああ、ド・ゼッサール隊長とは面識が有ったのだな。元隊長の言う事なら聞いてくれるか……何せ鋼鉄の規律を考えたのはお前だからな」

 

 哀れド・ゼッサール隊長……男2人は、心の中で黙祷した。

 

「しかし魔法衛士隊を2つ動かしても、このリストの人数を押さえるのは厳しいな。我らの家臣団も連れて行くか?」

 

 ド・モンモランシ伯爵が自慢の家臣団を動かすか聞いてくる。

 

「いや、私兵を動かすのは問題有りだ。要はこの大物2人を押さえれば、後はどうにでもなる雑魚だな」

 

 ヴァリエール公爵の指すリストには……リッシュモン高等法院長とゴンドラン評議会議長の名前が連なっていた。

 

「国の要職の2人が、国を売るか……奴らの取り巻きも、軒並み続いてるな」

 

「全員押さえるさ。これでこの国も風通しが良くなるな」

 

 男2人が頷き合っている所で、カリーヌが一言釘を刺す。

 

「トップの2人も何とかしなければ同じ事を繰り返すわ。マリアンヌ様には、久し振りにお話しなければならないかしら……じっくりと、ね」

 

 こうして、アンリエッタ姫の知らない所で強力な援護射撃が決まった。

 結果を端から見れば、アンリエッタ姫が売国奴を一掃し、アルビオンに善意の増援を送る事となる。

 

 事実を知らないトリステインの連中からは、稀代の謀略女王!

 

 アルビオン側からは、防国の聖女!と呼ばれる下地が出来た瞬間であった。

 

 

 

 その頃のツアイツ。

 

 仮病の振りも大分慣れてきた。相変わらず、見舞いの品や見舞い客は多いがエーファ達が効率良く捌いていく。

 彼が何をしているか?それは、新作の執筆である。

 

 男の浪漫本ファンクラブ会報の復帰第一段には、新作小冊子を無料配布するつもりだ。せめてものお詫びと、次への伏線だが……

 

「旦那様、お茶を煎れましたから休んで下さい」

 

 テファが、紅茶セットと手作りのお菓子を差し入れてくれる。今日はフルーツタルトだ。

 

「有難う。頂くよ!」

 

 応接セットに移動し、向かい合ってお茶にする。

 カップを差し出しながら「ワルド様と姉さん、上手くいってるのかしら?」テファが、幸せワルド計画を心配して聞いてくる。

 

「どうかな?遍在さんとロングビルさんが付いてるからね。余程の事が無い限りは、普通に知り合える迄は……」

 

 心に何かが引っ掛かるが、取り敢えず成功を祈る。

 

「でもジョゼットさんも可哀想です。ずっと篭の鳥なんて……」

 

 テファは、少し前の自分とジョゼットを重ねているのかも知れない。共に世間から隔絶されて生きる事を強要された2人の美少女……ボインとナインだが。

 

「どちらにしても、ミス・ジョゼットはウチに来て貰うから……テファには、彼女と友達になって欲しいんだ。お願い」

 

 この悪意0の天然娘を嫌う子は少ないだろう。ワルド殿が失敗しても、ジョゼットの心を開くのは彼女なら安心だ。

 

「勿論です!新しいお友達、楽しみです。それと……やはり旦那様はお優しいですね。身寄りの無いジョゼットさんにも気を使ってくれるんですから」

 

 嗚呼……眩しい笑顔に、腹黒い事ばかり考えている僕のハートが耐えられない。

 

「ははは……兎に角、お願いね」

 

「はい!喜んで」

 

 更に笑顔で返されてしまった……僕の偽善ライフは既に0です。

 

「さて、もう少し執筆を頑張るよ。テファ、御馳走様」

 

「お粗末様でした。では旦那様、無理はしないで下さいね」

 

 この軟禁生活中に、出来るだけ執筆を進めておこう。回復して、会報を出したら怒涛の展開になるからな。

 そんな事をノンビリ考えていた僕の所に遍在殿が来たのは、その晩の事だった……

 夕食を終えて、そろそろ寝ようか?と、思っていた所に音もなく入り込む遍在殿……

 

「ツアイツ殿、問題が発生しました」

 

 アルビオンで散々貴族の屋敷に侵入し馴れた彼は、一流の怪盗にもなれるだろう。

 

「脅かさないでよ。遍在殿だよね?それで、どうしたのかな」

 

「私の事はダッシュとお呼び下さい。実は……」

 

 彼のもたらした情報は、僕の予想を超えて……

 

 いや、あの姫様を甘く見ていた訳ではないが、やはりと言う思いだった。僕程度では、アンリエッタ姫を御せないと痛感したのだが。

 

 

 

第134話

 

 

 深夜の私室で、ダッシュと向き合う。驚くべき事だが、ワルド謹製の遍在達は本体と思念を交信出来るらしい。

 何て規格外にも程が有るぞ!彼にソファーを薦め、自分も向かい側に座る。

 

「では、問題を聞きましょうか。ミス・ジョゼットの件ですか?」

 

 ダッシュは言い辛そうに話し出した。

 

「ミス・ジョゼットについては、本体とラブラブにはならなかったが、セント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功した。既に此方に向かっている」

 

 問題って、それは取り敢えず成功だよね?

 

「それなら問題では無いのでは?」

 

 それとも、連れ出すのがバレてしまったか?それなら厄介だが……

 

「違う。トリステインに居る遍在から連絡が有った。アンリエッタ姫が、ツアイツ殿の襲撃事件を聞きつけ……キレて暴走した!」

 

 あっあの問題児め!気持ちは嬉しいのだが、たった半月程度も大人しく出来ないのかよ。

 

「それで詳細は?」

 

「先ず、例の捏造手紙だが……既に銃士隊の手により、アルビオン王党派へ向かった。

彼女らの人数が極端に減っている事を考えて複数班で行動してると考えられる。今から回収は不可能だな」

 

 よりにもよって、今の覚醒ウェールズに相談無しで向かっても難しいぞ。

 

「それは……以前よりもアルビオン側の状況が変わってますし、僕もウェールズ皇太子と面識が出来た。

今の彼なら、手紙一つではアンリエッタ姫の思惑に乗らない可能性が高い。でも先ずはって?他にも有るの?」

 

 ダッシュは、言い辛そうに次の問題を教えてくれた。

 

「アンリエッタ姫は、王宮に主要な有力貴族の召集をかけた……つまり腐敗貴族の炙り出しと、アルビオンへの増援の派兵案を一気に決めるつもりだ」

 

「ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵と連携して?」

 

「いや、単独だ。ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵には、政務担当の遍在から手紙を送ったが……

召集には大体一週間は掛かると思う。しかし、対応の時間が足りるか疑問だな」

 

 仕掛ける側の謀略とは、段取りが八割以上重要なんだよ!

 

 アンリエッタ姫には、腐敗貴族の話はした。しかし、証拠はヴァリエール公爵の手の内だ。

 会議でいきなりアンリエッタ姫が、腐敗貴族に詰め寄っても証拠が無ければリッシュモン等は言い逃れるだろう……

 証拠をその場で突きつけても、屋敷や関連施設を同時に抑えなければ。

 時間を置いては、老練な彼らなら巻き返しは可能かもしれないし、下手に暴走する可能性が有る。

 どうせ捕まるならと、レコンキスタと合流されても厄介だ……

 

「何てパッピーな思考してるんだよ姫様は……不味いですね。詰めが甘すぎて取り逃がす可能性が高い」

 

「此方の手勢はグリフォン隊と銃士隊の半数……ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵の手勢を今の段階で動かす事は不味い。

王都に兵を向けるなど、何を言われるか分からない」

 

「全く正論だね……そして完全に人手が足りない。時間も無いし、僕が行っても打てる手が無い」

 

 2人共黙り込んでしまう。

 

「ここは、義父上を信じましょう。幸いにして証拠は有るし、召集前に情報も渡せた。大丈夫だと思う、思いたい」

 

「全く問題ばかり起こしますね」

 

 深夜に男2人が向かって溜め息をつく。

 

 アンリエッタ姫……行動は立派なんだが、準備がまるで無いって、どんな教育をされてきたの?

 マザリーニ枢機卿の苦労が身にしみて分かった。悪意が無いだけ手に負えない。いや邪なエロ思考故の暴走かな?

 

 ※彼女の脳内では、既に三角関係にまで発展しています、いや3Pか……

 

「ダッシュ殿、会議は義父上達に任せるとして、我々も最悪の事態を考えて行動しましょう」

 

「なる程、流石はツアイツ殿ですね。して、打つ手とは?」

 

 まだまだ手は有る。アンリエッタ姫とウェールズ皇太子が結ばれなくても構わないならね。

 

「我が閣下に謁見します。アルビオンと軍事同盟を結ぶらしいですから。

ゲルマニアからの増援も視野に入れましょう。そして王党派にテコ入れましょう。僕は謁見後にアルビオンに向かいます」

 

 トリステインの増援が見込めず、レコンキスタに腐敗貴族が合流するのが、最悪のパターンだ。

 ならば、王党派の強化か別からの増援を考えれば良いだけの事。

 しかし、未だ治療中の僕が屋敷から出ると言う事は……無傷で彷徨く訳にはいかないだろう。

 

 嘘をつき通す為には、真実を織り交ぜなければダメだ。

 

「重傷の僕が動かざるを得ない。その為には無傷じゃ何かの拍子にバレるかもしれない……ダッシュ殿、僕に魔法で怪我を負わせて下さい」

 

「嫌です!」

 

 即答されたー!

 

「お願いします。今、こんな事を頼めるのはダッシュ殿しかいないのです。貴方が、ダッシュと言う名前を貰ったのを聞いた時は嬉しかった。

僕は貴方をワルド殿の遍在としてでは無く、一個人として見ています。重ねてお願いします」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「ツアイツ殿……私を1人の男として見てくれているのですね。有難う御座います。分かりました。では、覚悟は宜しいか?」

 

 ニコリとして承諾してくれた。

 

「勿論です。しかし、仮にもメンヌヴィルさんを倒した事にしていますから……正面側でお願いします。

出来れば左半身から左腕までで。移動や書き物に不便は困りますから」

 

「メンヌヴィルは白炎、つまりは火のメイジ。傷は火傷ですね。では……紫電纏いし我が一撃を受けて下さい。それと治療の準備は平気ですか?」

 

 ライトニングクラウドか?ちょうどサイトが受けた傷と同じか……

 

「僕も水のトライアングルですから大丈夫。水の秘薬も、見舞いの品で山積みですから」

 

 チラリと部屋の隅に積んである見舞い品を見る。

 

「分かりました!では行きますよ。手加減はしますが、覚悟して下さい。紫電纏いし我が一撃を……ライトニングクラウド!」

 

 ダッシュ殿の杖剣から紫色の稲妻が僕に伸びてくる……衝撃に耐える様に目を瞑り身構え……るが、一向に衝撃が来ないのだが?

 

「アレ?ってアレー?しっシェフィールドさん!」

 

 目の前には、デルフを避雷針の様に構えて仁王立ちのシェフィールドさんの後ろ姿が……ヤバい、ダッシュが殺される!

 

「ちょシェフィールドさん違いますからね!ダッシュ殿には僕が頼んだ事ですから!」

 

ダッシュ、逃げろ!

 

 

 

第134話分岐ルート(ヤンデレなBAD END編)

 

 

 完全なお遊び要素満載のネタ話です。この話は本編に何ら関係が無いので読まなくても平気です。

 エロゲ的なヤンデレエンドだとこうなるの?と、脳内に閃いた物を書いただけのお話です。

 

 

 

 大きな嘘を吐く為に、小さな真実を混ぜる必要が有った……だから僕は、本当に怪我を負うつもりだった。

 しかし、目の前には……デルフを避雷針の様に構えて仁王立ちのシェフィールドさんの後ろ姿が有った。

 

「ツアイツ様に怪我を負わせようとしたわね?」

 

「ちっちが、違うぞ……グハッ」

 

 バチバチと紫電を纏わり付かせているデルフで、袈裟懸けにダッシュ殿を切ってしまった……ボンっと音を立てて消滅するダッシュ殿。

 

「何をやってるんだよ!ダッシュ殿は、僕が頼んだのに。シェフィールドさんは!」

 

 彼女は震えているが、此方を向いてくれない。デルフを一振りすると、無造作に放り投げる。

 

「ねっ姉さん、ヒデェよ!何するんでぃ?」

 

 地面に落ちたデルフが文句を言うが……「お黙り、駄剣」感情の籠もらない一声で黙殺された。

 

「ツアイツ様……」

 

「なっ何だよ?どうしちゃったんだよ?」

 

 危険だ……今の彼女から立ち上るオーラは、禍々しい。

 

「お姉ちゃんでしょ?そんな呼び方は駄目よ……ねぇツアイツ」

 

 振り返った彼女の表情は、恍惚としていた。まるで、心の底から喜びが湧き上がってくる様な……こんな状況でなければ、美しいと見惚れてしまう様な。

 

「くすくすくす……何で、自ら傷を負う様な事をしたのかしら?お姉ちゃん、心配で遍在を殺しちゃった。だってツアイツに魔法を放とうとしたの……」

 

 一歩一歩近付いてくる。顔には笑みが張り付いているけど……目が、目がグルグルで黒目になっている。

 

「ちょちょっと落ち着いて……少し説明させてね?」

 

 両手でしっかり抱き付かれ、唇を奪われる。

 

「んっんーん、っはぁ!何をするの?」

 

 今すぐ彼女を突き飛ばし、逃げなければならない。本能が警鐘を鳴らすが、体が動かない。

 まるで、パラライズの魔法にかかった様に、首から上しか動かない。シェフィールドさんは、僕を抱き締めたままだ……

 

「ツアイツ……お姉ちゃんね、嬉しいの。ツアイツも我が主や私と同じ様に何処か狂ってるのね……

ジョゼフ様も、自分の体を顧みない。傷付くのが当たり前と思っているの!

知っていた?ジョゼフ様はね……私に鞭で叩いてくれ!って命令するのよ。

主の使い魔の私には、彼を傷付ける事は拷問なのに……彼は、何時もそれを望むの……

あの守らなければならない物を自ら傷付ける快感……ツアイツには、まだ早いと思ったの!でも平気なのね?」

 

 ジョゼフ王が、M男だと?そして、シェフィールドさんに女王様プレイを強要だって!

 ルーンの影響を受けている彼女に鞭を振るわせるなんて……それを主の喜びと認めたって事だ!

 

 畜生、ジョゼフめ!M男だとは聞いてないぞ!只のEDじゃなかったのかよ?

 

 再び唇を奪われる。

 

「んーんんんー、はぁ!お姉ちゃん、落ち着いて。僕は違うから」

 

 何だ?眠い……駄目だ……此処で寝たら、二度と目を覚まさない気が……

 

「で、デルフ……助けを……呼んで……」

 

 僕は意識を手放した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 意識を失ったツアイツを見下ろす。

 

「嗚呼……ついにツアイツを手にいれたわ。もう誰にも渡さない。私だけの可愛い弟……」

 

「姉さん、駄目だって!正気になれって」

 

 五月蝿い駄剣ね……

 

「お前、私からツアイツを奪うの?」

 

「ちっチゲーすよ。しかし、それはやっちゃ駄目っすよ!」

 

 そうね。お前は要らないわ。でも残しておくと五月蝿いから、火竜山脈にでも捨てておこうかしら……

 

「さぁツアイツ。お姉ちゃんとお家にかえりましょうね」

 

 彼を抱き上げ、駄剣も掴んで転移する。ガリアへ、主の下へ帰りましょう。

 その前に、レコンキスタ……ツアイツに刺客を差し向けた、許せない組織。みんな火石で吹き飛ばしてあげるわ。

 

「くすくすくす。やっと殺せるわ……オリヴァー・クロムウェル。

邪魔だから、他の連中共々燃やしてあげるわ!新しい私達の門出に相応しい花火にしてあげる。有り難く思いなさい」

 

 

 その晩、ダータルネスと言う港町が物理的に地図から消えた……幾つものクレーターを穿ち数万とも言われた傭兵達と共に。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ツアイツ。ツアイツ、起きなさい。朝ですよ」

 

 優しい声と共に、サワサワと髪を梳いてくれる感触がする。目を開けると、見覚えのない部屋だ。

 しかし明るく清潔な感じだし、寝ていたベッドはフカフカだ……夢だったのかな?

 

「お姉ちゃん、変な夢をみたんだ。ジョゼフ王ってM男じゃないよね?はははっ、働き過ぎたのかな?」

 

「早くこっちに来なさーい。朝食が冷めるわよ?」

 

 ベッドから起き上がり、声のする方へ歩いて……?此処は何処なのかな?僕は、自分の部屋でダッシュ殿と話を……ダッシュ殿?

 

 誰だっけ?

 

「ツアイツ、遅いわよ。早くいらっしゃい。お兄様もお待ちよ」

 

 お兄様?僕に兄弟が居たっけ……ソウルブラザー?駄目だ、頭がボーっとして思考が纏まらない。

 

「ほらほら、早くなさい。全く兄弟で朝が弱いなんて、どうしましょう。朝は何かと忙しいのに……」

 

 お姉ちゃんに手を引かれ、食堂に行く。食堂には、蒼い髭の中年が座ってるが?誰だっけ……

 

「ツアイツ、おはよう。我がミューズの手を煩わせるなよ。早く座れ!」

 

「兄さん……兄さん?そうだ!僕は、ガリアのジョゼフ王の弟。お姉ちゃんは、僕と兄さんのお嫁さんだ……何だろう、忘れていたのかな?」

 

 手前の椅子に座る。良い匂いがする温かい料理が列んでいる。早く食べなくちゃ……

 

「ほらほら、旦那様方。食後に三人で張り切る為に、朝から精力の付く物ばかり用意したわ。これを食べて、頑張りましょう!」

 

「いただきます!あれ?何で僕達、裸で首輪だけしてるのかな?」

 

「ツアイツ……難しい事を考えちゃ駄目でしょう?私達、ずっと一緒なんだから」

 

 そう魅力的に微笑む彼女は、過激なボンデージにエプロンをしていた。食後は、三人で地下のプレイルームに行く予定だ……

 

 

 

 

 ヤンデレなシェフィールドさんに洗脳されて、ジョゼフ王と3Pハーレム?

 2人を自分の旦那様として、三人でグラントロワに籠もり末永く幸せに暮らしました。

 

 

 

 

 ヤンデレさんルートBAD END

 

 

 実際に洗脳出来る手立てを持ったら、ヤンデレさんならやりそうだと思いまして。

 次話からは第135話として本編に戻ります。

 

 シェフィールドさんには別にハッピーエンドも用意しております。

 

 

 


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