現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版)   作:Amber bird

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第48話から第50話

第48話

 

 帰省三日目

 

 こんにちは、ツアイツです。

 

 自室のベッドでゴロゴロしながら今までの事を考える……レコンキスタ対策も方針が決まり、明日にでも学院に戻れる。

 当初は夏休みにテファの件を両親に話すつもりだったが、この機会に両親に話しました。

 

 父上は一瞬だけ顔を顰めましたが「お前が惚れた女なら守ってみせろ」だけしか言いませんでした。

 

 母上は、「だから?」だけで、何を言っているの?と全然問題にしていませんでした。

 

 逆に僕のほうが黙っていて悪かったけど本当にそれで良いのか?と心配になる位です。

 ただ、父上は防諜の強化、母上はテファの養子縁組先との立場について対応を進めるとの事です。

 実際に配下の貴族と養子縁組をしましたが、先方とは顔合わせ程度しかしていないそうなのです。

 この辺は流石は僕の両親と言うべきか……なので心配事は全て片付いたので、スッキリとして学院に戻れm

 

「ツアイツ様、ツェルプストー辺境伯がおみえです」

 

 しまった!キュルケとルイズの実家はノーフォローだった……テファの事は当然バレている筈だが、僕の帰省は知らないのにこのタイミングで来るとは。

 

「直ぐに行くと伝えておいて!」

 

 さて、どこまで掴んでいるかが、心配だね。

 

 

 応接室にて……

 

 

「お待たせしました。ツェルプストー辺境伯、今日はどの様なご用件ですか?」

 

 ツェルプストー辺境伯はソファーに座り出された紅茶にも手を付けず、目を閉じたまま黙っている。

 

「アンリエッタ姫に召喚された件では大変心配を掛けましたが、その後の交渉で問題なく処理出来そうです」

 

「……そうだね。君の素早い対応で我が娘に危害は無かった……」

 

「それともうご存知だと思いますが、故有って僕が保護した女性を父上が配下の貴族と養子縁組した件ですが……」

 

「別に本妻にしなければ問題はない、それは君の家の問題だから私はどうこう言わないよ」

 

 あーこれはどのルートか知らないけれどガリアの件がバレているな……どの情報網で引っ掛かったのかな?

 

「…………」

 

「…………」

 

 ツェルプストー辺境伯は一口、冷めた紅茶を飲むと静かに話し出した。

 

「ずばり聞こう!ジョゼフ王から挑戦されたらしいね?」

 

「ええ、これは挑戦と言うよりは彼の目的達成の為の候補に上がったと言うのでしょうか」

 

「で?対抗馬は?勝算は有るのかい?」

 

「対抗馬はアルビオン転覆を狙うクロムウェル司教率いるレコンキスタ。現在かの地の北方にて勢力を拡大中です」

 

「なっ……そんな大物相手に何故、君が指名されたのだ?」

 

「僕が指名されたのは、ジョゼフ王の悲願に一番近い位置に居たからでしょう……」

 

「大国の王でも達成出来ぬ悲願に君が一番近い……そう、言うのかい?」

 

「そうです、しかしその手段は既に確保しています。そしてレコンキスタへの対応ですが、其方も手は打ちました」

 

「正直に言おう、この件は我が娘から聞いたのだ。ガリアが君を戦乱に巻き込むつもりだ……と。半信半疑だったが本当なんだね」

 

「此方にはジョゼフ王の腹心を既に協力者として迎えています。彼女は僕を裏切らない。

僕達の目的が一緒の内は、それにトリステイン王国には魔法衛士隊隊長のワルド子爵も協力してくれます」

 

「だが、ソレだけでは反乱軍に立ち向かえる訳が無いだろう?」

 

「僕は、アルビオン王国の為にレコンキスタ……反乱軍を斃す心算は有りません。影ながら協力はしますが、実際に戦うのは王党派とレコンキスタです」

 

「レコンキスタをどうにかする様に、ジョゼフ王に求められているのではないのかい?」

 

「オリヴァークロムウェル司教は美乳派として布教を始めています。僕は巨乳派教祖として、父上の貧乳派と共闘し彼の布教を潰す事が今後の方針です」

 

「君は……アレか?私とヴァリエールを和解させた方法で、又この難局を乗り切る心算なのかい?」

 

「そうです。おっぱいです」

 

 

 ガン!

 

 

 ツェルプストー辺境伯は机に突っ伏しながら唸った……

 

「君は……何時も何時も私の想像の斜め上を行くよね。その勝算を聞こうか、おっぱいの」

 

「そう、おっぱいです。クロムウェル司教はジョゼフ王より我が親子に対抗し、美乳教を広めるとの約束で多大な援助を受けています。

僕らは乳を戦乱に利用する彼を許さない、だから彼の布教を潰します」

 

「君達親子のおっぱいへの拘りは分かった。が、それが戦局を変えられるのかい?」

 

「彼らは不当なる巨乳派として王党派を斃すと大義名分を掲げています。誰よりも平等な美乳派として……

ではその大儀に賛同する貴族が取り込めないとすれば?」

 

「反乱貴族の取り込みは難しいだろうね」

 

「そうです。思想で駄目なら金と利権で勧誘するしかないでしょう?

ならば唯の大儀なき反乱です。民衆も付いてこない、王党派でも鎮圧可能でしょう」

 

「だが油断は出来ないのではないか?資金が潤沢なら傭兵とか金に飽かせた戦力増強は可能だよ」

 

「それには増援としてアンリエッタ姫とウェールズ皇太子の婚姻を進め、トリステイン王国も巻き込みます」

 

「うまくトリステイン王国が動くかい?あの国は末期だから余程の事が無いと動かないぞ」

 

「個人的にアンリエッタ姫と伝が出来まして……彼女はウェールズ皇太子に並々ならぬ執着をお持ちです。

そして今までの甘ったれな箱入り姫でなく、積極的に動こうと努力を始めました……近くにはワルド殿とミス・ルイズが居ますから」

 

「廻りの王宮貴族が抑えているアルビオン王国の危機がリアルタイムで耳に入る訳か……」

 

「色に狂った女性は怖い……

そして国民に人気のあるアンリエッタ姫が、聖なるブリミルの血を受け継ぐアルビオンの危機を訴えて、自ら立ち上がり増援を送ろうとしたら……

止められますか?」

 

「君は……一連の話を聞くとジョゼフ王が接触する前から、レコンキスタは詰みの状態に聞こえるね」

 

「トリステイン王国にも利益は有りますよ。アルビオン王家との婚姻が纏れば2国間の絆は強固になります。

マリアンヌ様が女王となり、アンリエッタ姫に子供が生まれる迄はしっかりとトリステイン王国を治めてくれれば……なお良し」

 

「駄目ならヴァリエール公爵家でも立てるかい?」

 

「まさか、そんな面倒は御免ですよ」

 

「しかしトリステイン王国参戦に、アンリエッタ姫と魔法衛士隊隊長だけでは……他の貴族を動かすのには弱くないか?」

 

「ヴァリエール公爵家及びド・モンモランシ伯爵家も後押しをしてくれる予定です。あとは上手くすればグラモン元帥かな」

 

「魔法学院繋がりか……しかしド・モンモランシ家は近年の事業失敗とラグドリアン湖の精霊との仲違いの件が有り、力が弱いのではないのかい?」

 

「ラグドリアン湖の精霊については、交渉材料を確保したので問題ないです。これからド・モンモランシ家には、ウチがテコ入れしますから力を取り戻すのも早いですよ」

 

「ミス・モンモランシを落としたのも計画の内かい?」

 

「いえ、彼女は……口説き落とされたのは僕の方だと思います。ただ、惚れた女の実家の危機位は何とかするのが男ですよね」

 

「で?私とキュルケが協力出来る事は?まさか蚊帳の外って訳はないよね?」

 

「出来ればアルビオンに、ある物を流通させる手伝い、それとド・モンモランシ家との貿易をお願いします。キュルケには僕から説明します」

 

「娘は君に内緒にされる事を酷く悲しんでいる。宜しく頼むよ。それと、この件が解決したら学生でも直ぐに娘と結婚して貰う。コレは決定事項だ!」

 

「……はい」

 

「それで、ジョゼフ王は君に何を求めたんだい?」

 

「トラウマを排除し男の機能を回復する事です」

 

 

 ガン!

 

 

 ツェルプストー辺境伯は再度、机に突っ伏しながら唸った……

 

「大国の王がそんな己の粗チン「ストーップ駄目ですそれ以上言っては駄目ー」……何故だい?」

 

「ジョゼフ王の腹心とは彼の寵妃なのです。だからその手の言葉を言うと僕でも止められない女傑になります。

多分、烈風のカリンと正面切って戦っても勝てるかも知れないレベルです」

 

「そっそんな危険人物を君は御しているのかい?」

 

「彼女は一途で可愛い女性なのです。僕は彼女の悲願達成の為に全力を尽くすのです。だから……だから……」

 

 ツェルプストー辺境伯の背後からユラリと、禍々しいナイフを彼の首に当てたシェフィールドさんが現れた。

 

「……命拾いしましたわね、ツェルプストー辺境伯。ツアイツ様が居なければ殺す所ですよ。次は命が無いと思いなさい」

 

 そして僕にニッコリと微笑んでからユラリと闇に同化して消えていった、ヘナヘナと2人ともソファーに座り込んだ。

 

「すまない。命拾いしたよ……あれがジョゼフ王の腹心か。確かに凄い女性だね。私が全く反応出来ないなんて……自信を無くすよ」

 

 ヤンデレ……胃がキリキリと痛い。

 

 何時か僕の胃は味方に壊されるかも知れない、今はまだ良い。恋愛要素を抜いて僕に対してこの威力だ。

 ジョゼフ王は愛を上乗せした状態でシェフィールドさんに尽くされるんだぞ。退屈なんて言っていられない筈だ!

 

 しかも僕らの計画では彼女を王妃にする……良かったですね、ジョゼフ王!

 貴方の望み通り、退屈が懐かしく思う程のバラ色の世界が待ってますよ。

 

 

第49話

 

 帰省三日目

 

 こんにちは、ツアイツです、僕は今、ツェルプストー辺境伯所属の竜騎士の操る風竜に乗り、首府ヴィンドボナに向かっています。

 アルブレヒト3世に謁見する為です。

 これからの僕の行動は、ゲルマニア一貴族の範疇では済まなくなる場合を考えて、詳細は伏せて取り敢えずこの国に有用な貴族で有る事を皇帝に思わせる為だそうです。

 いくらゲルマニアの皇帝とは言え、一面識も無い貴族が他国で問題を起したら…… 切り捨てますよね?

 だが、人となりを知っていれば、皇帝に必要と思われる売込みに成功すれば、保険としては最良だとツェルプストー辺境伯に説かれて、現在移動中です。

 彼の配慮なのか、この竜騎士さんは女性でキリリとした美人さんです。

 しかし髪の毛が燃える様な赤で有り、目元がどうにもキュルケ似な感じがするのが何とも……

 

「ツアイツ様、まだ到着まで時間が掛かりますが平気ですか?」

 

「はい。大丈夫です……貴女は、一族の方ですか?」

 

 彼女はクスクスと笑いながら「特徴有る一族ですから分かり易いでしょ?」と肯定してくれた。

 

 彼女は側室の娘さんだが、ツェルプストー辺境伯が一族で有能な者を集めて諸侯軍を再編成してる最中に、自らを売り込んだそうです。

 このまま政略結婚を待つばかりなんてお断り、らしい……

 この再編成は跡継ぎのキュルケがウチに嫁ぐ事が決まってからなされた事で、その辺については感謝された。

 他にも自由を求めた一族の若き女性達が居るそうです。

 

 今度紹介しましょうか?と言われたが、これ以上問題を増やしたくないので丁重にお断りしました。

 

 前にキュルケから部下とのコミュニケーションも良好だと聞いた事が有ったが、確実に僕からのアイデアを形として取り込んで成果を出している彼は、傑物なんだろう。

 僕の周辺の大人の中で、一番まともなんだよなぁ……彼女とそんな世間話をしながら目的地に向かっています。

 

 そうそう。今回の謁見には、ワルド殿もシェフィールドさんも我が家でお留守番です。

 

 名の知れた二人が同行するのは、色々と各所に刺激を与え過ぎるので自粛して貰いました。

 シェフィールドさんは僕に対し過保護になって来ているのか、3つのマジックアイテムを渡してくれました。

 

 一つ目は、前回のテファとのデートの時に貸してくれたゴーレムを生み出す牙の腕輪。

 

 二つ目は、自らの魔力を少し高めてくれる魔石の指輪。

 

 三つ目は、本当に困った時にコレに向かって助けて!と、念じろと木の札の様な物をくれました。

 

 最後の札が気になるのですが、聞いても笑って答えてくれません。しかし絶対に肌身離さず持っている様に念を押されました。

 多分凄い威力の有るマジックアイテムなんでしょう……そう信じて持っています。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 前回同様、ワルドとシェフィールドはソファーに並んで座りながら水晶球で、ツアイツの監視をしている。

 

「流石に今回は距離が有り過ぎるのではないか?」

 

「平気よ、あの渡した指輪は、こちらに映像を送る増幅装置の役割も有るの。それに中継用の鳥型ゴーレムも出しているから」

 

「彼を騙したのかい?」

 

「くすくす。まさか、装備者の魔力もちゃんと増幅するわよ。だから騙してはないわ」

 

「君は……ツアイツ殿には過剰なまでにテコ入れするね。確かに有り難いのだが……」

 

「そうよ!ツアイツ様だけが私と主の幸せの協力者なの。大切な私の協力者……なにかしたら皇帝でも殺すわ」

 

 嗚呼……彼女の目が危険域に入りそうだ……

 

「きっ君が居れば問題なんて無いだろう……彼の胃以外は……」

 

「嗚呼……ツアイツ様が止めなければ、クロムウェルなど今すぐ殺して我が主の記憶を正しますのに……」

 

 クネクネと身悶えだした妙齢の美女を見詰めてワルドは空恐ろしい思いに駆られた……今すぐ離れたい、と。

 

「ツアイツ殿……貴方の偉大さがこんな事でも理解できます。僕にはこんな女性を御せる自身が有りません……」

 

「それで、最後の札は何なんだい?ツアイツ殿には内緒にしていたが?」

 

「アレはね、簡易転移札よ。勿論、ツアイツ様に危害を加える輩を殺す為に私が転移するの」

 

 まっ魔神召喚……

 

 ツアイツ殿、貴方には魔神が魅入られてしまいました。僕にはどうにも出来ない……

 しっしかし安全は確実に保障されますので許して下さい。ワルドは胃を抑えて応接室から音も無く立ち去った。

 

 シェフィールドの隣に嫌がる遍在を座らせて……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハーナウ領から丸一日余りで首府、ヴィンドボナに到着した。

 伝令は先に飛ばしているが即、謁見が適う訳もなく今夜はツェルプストー辺境伯の所有する屋敷に滞在する。

 明日以降で許可が取れたら連絡が入る筈だ。

 

 ツェルプストー辺境伯のヴィンドボナ屋敷に到着した。流石は辺境伯と言う所か……豪奢な屋敷だ。

 そして連絡は行き届いていたのだろう、持て成しの夕食は素晴らしい物だった。

 食後の紅茶を楽しみながら暫し雑談をする……

 

「疲れたかな?ツアイツ殿、明日には謁見は叶う筈だ」

 

「流石はツェルプストー辺境伯と言う事ですね。しかし強行軍でしたね。体が痛いです」

 

「ふむ。君には風竜の扱いの上手い綺麗どころを宛がった心算だが?」

 

「ええ、彼女の風竜の扱いは素晴らしかったです。それに興味深い話も聞けましたし……」

 

 ツェルプストー辺境伯は目を細めながら紅茶を飲んでいる……機嫌は良さそうだ。

 

「ついに君もアルブレヒト閣下と謁見だ。これまでの成果だけでも十分だし、例の超々ジェラルミンの装甲馬車も好評で良く利用しているとの事だ」

 

「そうですか……でも今回の謁見では表の顔、真面目な部分だけでいきましょう」

 

「そうだな……閣下も英雄色を好むで、数多の女性を囲っている。が、いきなりおっぱいは無理だろう」

 

「そうですよね……搦め手は色々有りますが、先ずは信を得る事ですね」

 

「搦め手?気になるけど今は聞くのはよそう……」

 

「それと側室に生ませた我が娘達はどうだ?流石にキュルケの手前、側室にはやれんが輿入れの際には同行させるからな」

 

「随分と強力な家臣団ですが……宜しいので?」

 

「君のお陰で待望の男子にも恵まれた。キュルケには領地も爵位もやれん。ならば家臣団位は付けてやるのは親心だよ」

 

「僕の監視ではないですよね?」

 

「くっくっく……どうかな?ヴァリエールの小娘には負けないつもりなのでね」

 

「しかし本当に宜しいのですか?貴方の血を受け継ぐ者達が僕の手の内に来るんですよ?」

 

「君は基本的に有能だが貴族としての欲が薄い、そして身内には甘過ぎる。それに私にも敵は多いので安心出来る所に集めておきたいのだよ」

 

「僕が彼女らに手を出したら?」

 

「別に我が家とハーナウ家の結束が高まるだけで問題あるまい?君が苦労するだけだし」

 

「苦労ですか?」

 

「そうだ!身内に甘い君だ。身内が増えれば増える程、君は努力する。それに私も君の言う身内なのだろ?」

 

 負けた……そこまで信頼され身内とまで言われれば、何としてもキュルケと彼女達を守るしかない。

 

「所詮は僕もまだまだ若造なのですね……参りました」

 

「ふふふ……幼い頃から君らは婚約者なのだ。最早、身内と言うか家族も同然!

ヴァリエールの小娘も加えてやるが、三家が集えば……ああ、ド・モンモランシ家もか。

四家が集えば大抵の事は可能だろう。今はまだ其々の当主が居るが何れは君がその中心となるのだよ。

宮廷には海千山千の魑魅魍魎の如き貴族連中が沢山居る……まだまだ学ぶ事は多いよ」

 

「はぁ……本当にまだまだですね。僕は」

 

「15歳やそこらで一人前になられては僕ら父親の立つ瀬が無いだろう。まぁ頑張れ。応援はしてやるよ」

 

 謁見の前にこの人と話が出来て本当に良かった。これなら落ち着いてアルブレヒト閣下と謁見出来るだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふん。殺し損ねた相手だけど、ツアイツ様には必要な相手なのね……

 まぁ謁見が失敗しても、最悪ツアイツ様がゲルマニアを追われても、ガリアで引き取るから問題は無いわね。

 

 うん。彼に危害を加えるようなら殺しても問題は無いわ。

 

 寧ろその場合は、殺して彼をガリアに連れ込みましょう。

 あと少しです我が主……あと少しで我が悲願は達成され、私達の薔薇色の生活が始まるのです。

 シェフィールドのヤンデレ節は最高潮に達していた、そしてワルドの遍在は任務を放棄し、逃走した。

 

 遍在なのに胃を抑えながら……

 

 

 

第50話

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 流石はゲルマニア有力貴族、ツェルプストー辺境伯と言う事でしょうか?

 早朝から勅使が屋敷まで来て、謁見の準備は午後一番に整うとの報告が有った。

 アルブレヒト3世と言う人は、己の政敵を全て幽閉する程の激しい面を持つ人物なので楽観は出来ない。

 そう言えば、僕は前世では天皇陛下や皇族の方々にも、会った事が無いので緊張してます。

 

 アンリエッタ姫?んー微妙?

 

 彼女は確かに王族としての気品や美貌は有ったのだが……威厳とかが……その、無かった様な?

 まぁ、深夜に僕の部屋でキャットファイトする様な人物を敬えと言われても難しいよね。

 しかし僕の為にも、彼女はウェールズ皇太子と結ばれてもらう。それは僕にも彼女にも益が有る話だ。

 などと、つらつら考えながら僕は馬車に揺られています。

 

 この超々ジェラルミン装甲馬車は、意匠こそアルブレヒト3世に献上した物には劣るが、性能は同等以上の逸品!寧ろ防御力的には此方が上だ。

 

 献上品は内外共に装飾が華美な為、重量的な問題で一部、装甲を削っている。

 それでも従来の馬車よりは耐久性は高いし、高性能サスペンションを装備しているので乗り心地は比べるまでもない。

 

「ツアイツ、そろそろ着くぞ。緊張するなよ」

 

 随分長い間、考え事に没頭してしまったようだ……ツェルプストー辺境伯の声で現実に引き戻される。

 

「はい。有難う御座います。大丈夫です」

 

 いよいよアルブレヒト3世とご対面だ。

 

 

 

 謁見の間にて……

 

 

 

 僕らは既に謁見の間に入り、閣下が来るのを跪いて待っている。

 

「アルブレヒト3世閣下の御成りです……」

 

 衛士の声が響き、カツカツカツと玉座に進む足音が聞こえる。座る気配と共に声が掛かる。

 

「久しいな、ツェルプストー辺境伯よ。そして彼が、君の話に良く出てくるツアイツか?」

 

「はっ!アルブレヒト閣下に、名前を覚えれているとは感激の極みで有ります」

 

 より、頭を下げて答える。

 

「堅苦しい物言いは止めよ。調べでは数々の革新的な事業を行っているな。我がゲルマニアの益になるなら喜ばしい事だ」

 

 調べただと?何処まで調べられたかな?

 

「はっ!勿論、我が閣下の為に誠心誠意、尽力するつもりで有ります」

 

「ふっ……国でなく俺にときたか。成る程、有能だな。俺には敵が多い……ソレも見込んでの発言か?」

 

「国に仕えるのは、貴族として最低限の事。僕は微力ですが、閣下御自身に仕える所存です」

 

「ふん。ツェルプストーとの婚姻も認めてやる。普通なら大貴族同士の結び付きは喜ばしくはないがな」

 

「はっ!有り難き幸せ」

 

「よい。貴様の提案し献上した、超々ジェラルミンや戦闘レーション・携帯医療キット等も有効なのは理解した。これらはツェルプストーとハーナウ両家に独占発注しよう」

 

「それは……色々と問題が有ると考え、閣下自らの管理に置かれる事を具申致します」

 

「その程度の利益など手放してでも、他貴族との軋轢を避けるか。欲が無いのか、他に思惑が有るか……」

 

「近衛や常備軍は閣下の直轄部隊です。我らが絡む事は、害にしかなりませんので」

 

「くっくっく……普通は是が非でもと言う所だがな」

 

「我がハーナウ家にも閣下の危機には、駈け付けられる準備が有ります」

 

「貰える物は貰っておけ。俺に必要な家臣には其れなりの待遇をする必要が有るのだ。遠慮も度が過ぎれば不敬よ」

 

「はっ。有り難きお言葉、痛み入ります」

 

「よい。俺はツェルプストー辺境伯と話が有る。先に退出しろ」

 

「はっ。では失礼致します」

 

 一礼して謁見の間を退出する……扉の外には侍従が控えており、次の間というか待機の部屋に通された。

 今の会話を振り返る……問題は無かった筈だ。

 閣下も僕を少しは必要と思ってくれたみたいだし、利権もくれた。

 あとで、ツェルプストー辺境伯にも相談して今後の対応を考えよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 謁見の間

 

 閣下の機嫌は良さそうだが……

 

「どうですか?彼は、見込みが有りそうですか?」

 

「そうだな……目先の利権をスッパリ切って、己が立場を保てる程は周りが見えているな」

 

「もともと自身の欲は少ないタイプですね。争い事も避けるタイプですが……身内の危機には容赦ないですよ」

 

「確かに功績の割には、自分の利益欲が少ないな」

 

「しかし、あの年でこの功績は少々異常です。閣下に謁見し中央デビューもしたからには、廻りの連中からも……」

 

「言うな。有能とは言え、まだまだ子供だ。しかし俺には必要かもしれん。役に立つ様に成る迄は、周りにどうこうはさせんよ」

 

 良し。第一印象は悪く無かった……これならガリアと揉めても、いきなり切り捨てられる可能性は少なくなった。

 

 謁見は成功だ。あとは……

 

「それと、アレだ……数々の著書が有るみたいだが、何故それらは寄越さんのだ?」

 

 ツェルプストー辺境伯は固まった……このタイミングでこの質問とは?

 

「そうですな。しかし脚本なれば、演劇の方を観られた方が宜しいかと……」

 

「ふん。色を語るには、まだまだ子供と思いきや、あ奴の作品は奥も幅も広いぞ……」

 

「閣下……お読みになられているので?」

 

「当然だろう。流通している本は全て押さえているのだが……」

 

「わかりました。市販されてない物も数多く有りますので、献上させる様にします」

 

「そうか!よろしく頼むぞ。2部ずつだぞ」

 

 ここにも色に狂った男が居たか……

 

 彼の著書は……彼以外では紡ぎ切れないオンリーワン的な魅力と、麻薬のような常用性が有る。

 彼の言う、おっぱいだけでも世界は動かせるのかも知れん。

 続きの気になるファン心理、そして顧客は世界を動かせる人物達……彼しか書けない、金では買えない希少本。

 模倣品の追従を許さないジャンルの広さ。

 従来のハルケギニアでは有り得ない革新的な手法・表現方法・独創的なストーリー……

 彼の頭の中には、どんな世界が有るのだろう?それと、私の知らぬ作品が有るのが気に入らん。

 

 献上品は2部ずつ……当然、私も1部貰うから3部だな。

 

 

 

タバサ&ジャネットの旅……

 

 

 

「ふーん。アンタ、急いでるのはツアイツ殿の情婦に襲われたんで逃げるんだ……」

 

「……違う、友達。でも少し怖い」

 

「しかし、3人とも大貴族の令嬢じゃないか?どうやって3股を認めさせたんだろうね?普通は刺されるよ、ソレ」

 

「……好きな男の為なら夜叉になる。本当に容赦がなかった。クスグリは拷問」

 

「ふーん。惚れさせて認めさせたか。これはカフェでお茶は無理かね?バレたら粛清されそうな気がする」

 

「……同意、あれは、アイツ等は危険」

 

「残念だけど諦めるわ。それで何処までこの本を持って行くの?結構走ったわよ?」

 

「……もう直ぐ。あの先の森で、迎えの竜騎士と合流する」

 

 流石は北花壇騎士団!彼女らのスピードは衰える事も無く、目的の場所に着いた。

 

「……着いた。ここで迎えを待つ」

 

 森の中心辺りの開けた空間で、迎えを待つ……夜風がまだ冷たいが、走った体には丁度良い。

 

「ねえ……アンタはツアイツ殿を狙ってるの?」

 

「……狙う?もう任務の標的では無い。……彼は仲間」

 

「ふーん。やっぱりイザベラ様の言う通りにワルド子爵狙いなの?」

 

 何だろう?少し怯えた表情だけど……何か有ったのかな?

 

「ねえ?もしかして、子爵と何か有ったの?」

 

「ヒャッハー!お待たせしたぜ、7号殿……アレ?美少女が増えた?」

 

 タバサの迎え……竜騎士内での激しい競争を勝ち抜いたのは、奇しくも前回迎えに来てくれた彼だった!

 


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