ボられるかボられないか。それが問題だ   作:あずき@

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第9話

その後、飛行機から会長が降ってきてメンチを復活させた。

 

メンチはエラくご立腹だったが、会長の取り成しもあってなんとか気を持ち直し、改めて課題を課すことにした。

 

それはクモワシの卵を断崖絶壁から採取しろというものだった。

 

なかなか厳しい課題ではあったが、僅か43名を残して皆、無事クリアすることができた。

 

そして現在、イブは第三試験会場に移動するために会長の乗ってきた飛行機に乗船していた。

 

(確か第三試験はトリックタワーだったっけか。

 

う〜む…こればっかりは誰かと協力体制を築かなきゃいけないからなぁ。かなり厄介だ…)

 

どうせなら移動の間の時間で原作組とコンタクトを取っておこう、と考えたイブはさっそく重い腰を上げた。

 

(クソ〜。クラピカとレオリオはもう寝てたし、残るはキルアだけか…

 

原作では、会長とボールの取り合いっこしてるんだよな。確か)

 

イブが二人のところに向かうと案の定、中では熱いバトルが繰り広げられていた。

 

「ほっほっほ。甘い甘い」

 

「はぁ…はぁ…! このクソじじいッ!」

 

「ほいっと」

 

(お〜、やってるやってる。それにしてもキルア…ワンオンワンでもチャレンジするんだな。意外と根性あるわ)

 

「ほっほっほ。このままじゃ一生かかっても奪えやせんぞ?」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…! クソ……」

 

「そこでじゃ。今度は後ろで隠れとるお嬢ちゃんと協力してチャレンジするなんてのはどうかのう?」

 

「「‼︎」」

 

「……バレてましたか。私もまだまだですね」

 

「いやいや。その若さでそのレベルの気配断ちができる者は世界広しと言えどなかなかおらんよ。

 

で、どうするんじゃ? キルア君」

 

「………俺は反対だね。元々ワンマンプレーの方が性にあってるし、それに女なんて足手まといになるだけじゃん」

 

「あ゛?」

女の子が見せちゃいけない表情でキルアに詰め寄るイブ。

 

「なに? もしかして俺と殺(ヤ)り合う気?」

 

互いが超至近距離でメンチをキリ合う一触即発の状態となった。

 

「ほっ⁉︎ これこれお主ら! 喧嘩はいかんぞ喧嘩は「「爺さんは(会長は)黙っててよ(黙って下さい)」…ふぅ、やれやれ仕方ないのぅ」

 

すると突然、イブとキルアの間目掛けてボールが投擲された。

 

二人がそれを互いの手を重ね合わせる形で同時にキャッチする。

 

ちょっと間、二人は固まって不意に触れ合った手をズボンで拭い去った。

 

「…なんのつもりだよ爺さん」

 

「いやいや、ワシはただお主らが互いに実力を認め合えるまでツーオンツー対決でもすりゃあえぇと思ったまでじゃよ」

 

「なるほど…それいいですね」

 

イブはニヤリと笑みを浮かべて言った。

 

「それなら別にいいぜ。たいして時間もかかんないだろうし」

 

「ウ゛〜〜〜ッ!」

 

「ガルルルルル!」

 

「お、お〜い。お主らワシのこと忘れてない? これでもワシ、会長なんじゃよ?」

 

こうしてネテロ監督の元、イブとキルアによるツーオンツー対決が火蓋を切った。

 

 

 

 

結果から言えばイブの圧勝だった。

 

先制のジャンプボールからボールを掴む握力。無数のフェイントを織り交ぜた動きにスピード。どれ一つ取ってもキルアはイブに遠く及ばない。

 

キルアは悔しそうにしていたが同時に実感した。

 

『この女は格上だ。自分が敵う相手じゃない』と。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「これで少しは理解した? 女も舐めれたもんじゃないってこと」

 

キルアはそのままうつ伏せに倒れて気絶した。

 

「アラララ。…もしかしてやりすぎちゃったかしら?」

 

「そうさのう。この子はお主が来る前にも既にワシと何戦かやり合っておるからのう。こうなっても仕方ないわい」

 

「とりあえずタオルをかけて仰向けにしときましょう。風邪でもひかれたら大変です」

 

(まったく…こうして寝顔だけ見てると可愛らしいのに。どうしてこんなに捻くれてるのかしら)

 

ぶつぶつ言いながらせっせとキルアの世話をするイブはまるで彼の実姉のようだった。七歳だけど…

 

「ところでお主に一つ質問なんじゃが…」

 

「なんですか?」

 

「確かお主の名前は、イブ=フリークスじゃったよな?」

 

イブの動きがピタリと止まる。

 

「…それがどうかしましたか?」

 

「ほっ⁉︎ そんなに警戒せんでくれ。ワシはただ確認しときたいことがあるだけじゃ」

 

「確認…ですか?」

 

「うむ。フリークス一族は世界の至る所で伝記や絵本になるくらい有名じゃからのう。実際にそれらの本を専門に追い求めているプロハンターも存在するくらいじゃ」

 

「そ、そうだったんですか」

 

「お主、自分のことなのに知らんかったのか…」

 

「すいません。私はフリークスと言っても養子ですので」

 

「ほう? そうじゃったか。なるほどのう」

 

「それで? 聞きたいことはなんです?」

 

「お〜、そうじゃったそうじゃった。

 

ワシが聞きたいのは、ただ

一つ。

 

『ゴン=フリークス』についてじゃよ」

 

「‼︎ ………はぁ…誤魔化しても意味ないか……彼は私の養父ですよ」

 

「お〜! やはりそうじゃったか。どうりでよく鍛えられとるわけじゃ」

 

「父を知っているんですか?」

 

「知ってる…と言っても実際に顔を合わせたのは数回程度じゃがの?

 

それでも未だに彼と出会った時のことは忘れんよ…」

 

遠くを見つめしみじみと語るネテロ。

 

「あの、もしよかったらその時のことを聞かせてもらえませんか⁉︎ 私知りたいんです! 父が今までどのように生きてきたか! お願いします‼︎」

 

「ふむ…そうじゃのう。ワシから話せることはあまりないんじゃが…まぁ、えぇじゃろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「そう。まずワシが最初に彼と出会ったのは、ある冬のとても寒い日のことじゃった……」

 

 

 

 

 

1926年頃 冬

 

とある山頂にて

 

「はっ! はっ! はっ! はっ!」

 

一寸先の視界も霞む吹雪の中、ネテロは正拳突きを一日一万回、18時ひたすら繰り返していた。

 

初めのうちは、ノルマをやり切るのに日が暮れるまでかかっていたが、2年あまりの歳月が過ぎ、齢50を数える頃には、一時間を切るまでになっていた。このとき彼は一人の武人として完全に羽化したのである。

 

そして彼が下山する頃、その拳速は音速を超えており、ありとあらゆる道場において敵なしの状態となっていた。

 

彼が全国を一通り周り尽くし途方に暮れていたそんなある日、偶然訪れていた山奥の掘っ建て小屋にて雨風を凌ぐため避難した時のことだった。

 

「ふぅ…だいぶ降られちまったな。にしてもこんなところにいったい誰が小屋なんか……?」

 

「ほう。客とは珍しいな」

 

「‼︎ 誰だ!」

 

「あぁ、すまん。突然驚かせてしまったな。俺の名前はゴン。ゴンさんと呼んでくれ」

 

「ゴン…さんだと? 」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「い、いやなんでもない。それよりさっきは悪かったな。ここお前さんの家だろ?」

 

「構わないよ。困った時はお互い様さ」

 

「そうかい…」

 

この時、既にネテロは確信していた。

 

『あいつワシより強くねー?』と。

 

そしてこのような猛者に出会える機会などもう二度とないだろうということを。

 

(この年でチャレンジャーか。長生きはするもんじゃのう)

 

「ほう…そうかい。アンタも『そっち側』の人間だったか。アンタ名前は?」

 

「ワシに勝てたら教えてやるよ」

 

「ははは。面白い。いいぜ? やろう。

 

こっちだ。建物は壊したくない。ついてこい」

 

両者が外に出た頃には雨は既に止んでいた。

 

互いにある程度の距離で向かい合い、各々構えを取る。

 

雨粒が一滴、葉から落ちると同時に二人の姿が消えた。

 

「はっ!」

 

ネテロの正拳突きがゴンさんの背後から放たれる。

 

ゴンさんはそれをジャンプすることで躱し、そのまま

ネテロの頭上目掛けて直滑降した。

 

「せいや!」

 

それを狙い撃つようにネテロは前蹴りを放つ。

 

見事ヒットしたかに思えたが、それはゴンさんの残像でネテロが慌てて体勢を整えるが、どこにも気配を感じなかった。

 

と、その時、ネテロの左方向にある茂みからガサリという音が響いた。

 

ネテロは戸惑うことなくその茂みに『百式観音壱乃掌』を放った。

 

「どうよ⁉︎」

 

「なかなかいい一撃だ」

 

「ッ! ぐはっ‼︎」

 

一張羅をボロボロにしたゴンさんが、ネテロの足元の地面から飛び出し、そのままアッパー気味の掌底を鳩尾にかました。

 

後方斜め上方向へと勢いよく吹き飛ばされたネテロは、立ち並ぶ木々を10本近く薙ぎ倒しようやく体を止めた。

 

「ぐっ…痛痛痛ぅ……なんつー馬鹿力だ……はっ⁉︎」

 

そこへ追い打ちをかけるようにゴンさんの飛び蹴りが降ってくる。慌てて左側に飛び退くネテロ。

 

だがその動きは既に読まれていたらしく、右のハイキックをカウンターで脇腹にもらってしまった。

 

「がぁぁぁぁあ‼︎」

 

「人間てのは、咄嗟の際に左側を選ぶもんなのさ」

 

ネテロは、蹴られた勢いを利用して左足を軸に素早く回転し裏拳を放つ。だがこれも虚しく空を切ってしまった。

 

「! そこだ‼︎ 『百式観音九十九の掌』」

 

「なに⁉︎」

 

いつの間にかネテロの背後に立っていたゴンさんが地面へと一気に押し潰される。

 

ズズーンという凄まじい地鳴りがそこら一帯を覆う。

 

ネテロは再び距離を取り前傾姿勢に構えた。

 

「はぁ…はぁ…どうよ? さっきよりは効いたろ?」

 

「まさか俺の攻撃も含めてフェイントに使うとは……おかげで目が覚めたぜ」

 

(たいしたダメージはない、か……)

 

「素晴らしいものを見せていただいたお礼に今度は俺のとっておきを見せてやるよ」

 

「ほ〜う。そいつは楽しみだ」

 

と、その時、周囲の空気が急速に静まり返り、同時にピンッと張り詰めた。

 

大地は段々と熱くなり大気は逆に冷やされていく。

 

よく見るとゴンさんの全身から薄っすらと靄の様なものが立ち昇っていた。

 

「コォォォォォォオ………」

 

(こいつはマズイな……)

 

すると突然、靄がとぐろを巻いてゴンさんに絡みつき、更にその上を大地から上昇した気流と周囲の大気が同じくとぐろを巻いてコーティングしていった。

 

「オォォォォォォォオ………ハッ‼︎」

 

ゴンさんの掛け声と共にすべての気流が雲消雨散した。

 

「待たせたな……」

 

「こいつは……!」

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……

 

見るとゴンさんの右の拳に小さな竜巻が出来ていた。

 

「行くぞッ!」

 

(ッ! 消えた!)

 

「くらえ! 螺旋旋風掌‼︎‼︎‼︎」

 

ボッ

 

「ぐぉぉぉお!」

 

ネテロの足元に突き刺さった拳が大地を凄まじい勢いで抉り取っていく。

 

しばらくして土煙りが晴れると螺旋状に空いた穴の中心にゴンさんが立っていた。

 

「ふむ。避けたか…流石だな」

 

その威力を直に目の当たりにしたネテロは大いに肝を冷やした。

 

「次は当てる」

 

「くっ!」

 

そこからの展開は一方的だった。

 

片や攻めの一辺倒に対し片や逃げの一辺倒。

 

どちらが有利かなど分かり切ったことだった。

 

「グー! グー! グー! グー!」

 

ボッ

 

ボッ

 

ボッ

 

ボッ

 

「くっ!」

 

避けきっているように見えて実は、少しづつダメージを負っているネテロ。その証拠に全身の至る所から血が滲み出ていた。

 

(拳に纏った強烈な風のせいで動き難いったらありゃしねぇ…! その癖、少しでもカスろうもんなら凍傷で凍り付いていく。加えて皮膚が一瞬で溶けるほどの大火傷のオマケ付きときたもんだ。

 

ハッキリ言わしてもらうぜ。こんなもんーーー)

 

「やってられっかぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎」

 

「ぬぅ…!」

 

ネテロの膨大なオーラが一気に解放され光のタワーとなり天空目掛けて立ち昇る。

 

「気流が……散った」

 

「ふぅ…これでもうさっきみたいには、いかなくなったぜ!」

 

「くっくっく。アンタ、かなり無茶するんだな」

 

「テメェにだけは言われたかねぇなぁ。そんなことより今度はこっちの番だ。覚悟しろ!」

 

「その言葉、宣戦布告と判断する! 当方に抑撃の用意あり!」

 

そこからの攻防は時間にして一分に満たなかったが

 

『生涯最後』

 

その覚悟で放ったネテロの百式は互いの力量、精神の高揚と相まって

 

千を超える拳の遣り取りとなって両者の間に無数の火花を生んだ。

 

そしてその瞬間は訪れた……

 

 

 

 

 

僅かに顕れる技の偏り

 

癖や傾向•型と呼ぶにはまりに乏しい〝ゆらぎ″

 

身を盾にネテロの拳を受け続ける事でゴンさんは、その先に見える幽かな光を探し出し、そしてーーー

 

たどり着いた。

 

 

 

 

 

ネテロの顎から下が千切れ飛ぶ。

 

それは誰がどう見ても致命傷だった………

 

「がぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

顎を抑えて蹲るネテロだったが、その瞳(め)は常に敵へと標準を定めたまま微動だにせず、決して死ぬことはないように思えた。

 

「………もう勝負は付いた。これ以上は無意味だ。止めておけ」

 

ネテロの表情が憎々しげに歪む。

 

「もしも続けると言うならその代わり俺はアンタの攻撃を決して避けないし反撃もしない。

 

アンタがこれ以上無茶をしたら負けてやる。

 

…それが気に食わないなら今は休め。いいな?」

 

その言葉を受けてネテロは静かに目を閉じた。

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

「と、まぁこんなことがあったわけじゃ」

 

過去を懐かしむようなしみじみとした表情を浮かべるネテロ。

 

それに対してイブは、そのあまりに壮絶にして凄惨な思い出に唖然とするばかりであった。

 

しばらくしてイブは、ふとあることが気になって尋ねた。

 

「あの……父が会長の顎を千切ったって言うのは………」

 

「あぁホントじゃよ」

 

「ッ! す…すいませんでした‼︎ 」

 

「ほ⁉︎」

 

「あの…私が幾ら謝っても無意味だってわかってるんですが……私は「何を勘違いしとるんじゃ?」………へ?」

 

「ワシが千切られたのは顎じゃなくて顎『から下』つまりーーー」

 

 

 

 

 

 

 

髭じゃよ

 

 

 

 

 

 

 

父のことが益々わからなくなったイブであった。




今回、ゴンさんが使用した技は、名前自体は、ねじまきカギューに出てくる鉤生 十兵衛の技と一緒ですが、中身は幽白に出てくる陣の修羅旋風拳とらんまの飛竜昇天波に大きく影響されています。

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