ボられるかボられないか。それが問題だ   作:あずき@

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今や都市伝説と化してしまったゴンさんに関する貴重な情報を当時の関係者が振り返りながら語るインタビュー形式の話となっています。

撮影や記録の類は一切不可能です。

例えテープをこっそり回したとしても自動で巻き戻されデータを上書きされることでしょう。

以上のことを十分にご理解頂いた上でどうぞご観覧下さい。


【外伝No.1】ゴンさんレポート

ビスケット=クルーガー。通称『ミス•アンチェイン』嘗てハンター協会を震撼させた女漢の名前である。

 

現在どういうわけか彼女は、いち犯罪者としてここ世界最大と叫ばれ、脱獄絶対不可能とされるハンター専門の収監場、ミテネ連邦国立刑務所(通称ブラックペンタゴン)に収監されている。

 

…いや、収監というにはあまりにも不適切だろう。

 

なぜならその内部で彼女は、何不自由することない生活をしているからだ。

 

例えばこのどこぞの画廊を彷彿とさせる通路がそうだ。

 

他にも床にはレッドカーペットが敷き詰められ、左右の壁の所々に何か名のあるらしき絵画が無数に飾られている。

 

そんな矢鱈長い通路を抜けた先にあるのがミス•アンチェインの部屋ーーーもとい独房である。

 

樫木造りの巨大な扉を開けた先に広がる豪奢な一室。まるで高級ホテルのラウンジを彷彿とさせる。

 

ただ立っているだけでくるぶしまで沈んでしまう柔らかな羽毛の絨毯に、クロコダイルの革をふんだんにあしらった大型ソファーが二つ。中央には、大理石製の巨大なテーブルがドンと構えている。

 

テーブルの上にこれまた大理石で出来た灰皿と未開封のシールが貼られたマッチが置かれているが、果たして普段からそうなのか、それとも今回のためにわざわざそう誂えたのか…とりあえず一つだけ言えるのは、こんなこと普通は出来ないしあり得ない、ということだった。

 

私がひたすら呆気に取られていると突然、背後から巨大な影が覆いかぶさってきた。

 

慌てて振り返った私の目に飛び込んできたのは、恐ろしく巨大な岩肌であった。

 

否ッ! 否ッッ‼︎ 否ッッッ‼︎! 正確にはそれと異なる。それは岩にしてはあまりにも曲線的で、そして何よりもそれはあまりにも『美し過ぎた』

 

「やぁ。よく来たわねミスター。歓迎するわ」

 

彼は絶句した。

 

(なんという…! なんという存在感ッ‼︎ なんという圧倒的スケールッ‼︎ )

 

2mは悠に超すであろう長身に所狭しと付けられた肉肉肉の数々…! 恐らく重量は、軽く見積もっても130は下らないだろう。だがだからと言って肥満体と言うわけでは決してない。それは一切の無駄を排除した巨大な筋肉の塊であった。

 

「改めて自己紹介させてもらうわ。私の名前は、ビスケット=クルーガー。ビスケと呼んでちょうだい」

 

「あ、あぁ。私は園田。ジャポンでブラックリストハンターをしている。今日は少し尋ねたいことがあって来た」

 

「ほぅ? 尋ねたいこと? わざわざジャポンから? 私に答えられることなら何でも答えるよ。っとその前に」

 

すると突然、ビスケが指をスナップさせた。するとその刹那、まるで大型鉄柵機で鉄の塊を削り取ったような音が鳴り響く。

 

しばらくしないうちに扉が開き、看守の一人がワインを載せた手押し車と共に恭しく中へと入ってきた。

 

「なっ⁉︎」

 

「まぁ、リラックスするといい。このワインは客人用でね。滅多に出さない私のコレクションの一つだ。存分に楽しんでくれ」

 

「い、いやミスビスケ。お言葉は嬉しいが、まだ仕事中なもんでね。飲酒はご法度なんだ」

 

「ジャポンは堅苦しいお国柄と聞いたことがあるが、本当なんだね。まぁ私は、例えジャポンにいても縛られやしないがね」

 

そう言ってビスケはワインを二つのグラスに注いでいく。

 

「それでは、乾杯だけでもしよう。いいかねミスター園田?」

 

「あ、あぁ…」

 

「では、本日の素晴らしき出会いに。乾杯」

 

「…乾杯」

 

ワインを一頻り楽しんだビスケが次に取り出したのは、一本の葉巻だった。

 

ここまでくるともはや慣れたもので、園田も膝の上で手を組んでことの成り行きを見守ることにした。

 

「ふぅ〜…それで? 私に聞きたいこととは何かな?」

 

「あぁ…それは、ある一人の男に関する情報だ」

 

「ふむ。続けて」

 

「その男の名は、ゴン=フリークス。ハンター協会史上、最も恐れられた男だ。通称『もうキメラアントとかゴンさん一人でよくね?』」

 

「…いや驚いたよ。まさかここ(ブラックペンタゴン)で彼の名を聞くことになるとはね。いやぁそれにしても懐かしい」

 

「知り合いなのか⁉︎」

 

「はは。知り合いもなにも彼は、私の命の恩人だよ」

 

「なっ…⁉︎」

 

「少し昔話をしよう。あれは私がまだハンターのなんたるかを知らぬ十代の頃だった。当時の私は、念の修得をしたばかりということもあって、かなり調子に乗っていた。

 

当時の私の主な活動はマフィアの根城に忍び込み金庫を漁ることだった。我ながら恥ずべき過去だよ。

 

そんなある日、私がいつものように金庫を漁っていると突然、辺りを取り囲まれてしまった。

 

流石の私も冷や汗タラタラだったよ。死を覚悟したね。

 

と、その時だった。マフィア達の背後から黒く聳える鉄塔らしき物体が人混みを掻き分けてこちらに向かってやってきた。

 

彼こそが、ゴン=フリークスその人だった。

 

彼はおもむろに私の前に出て膝を着くとこう言った。

 

『お前に一つチャンスをやろう。俺と一対一で闘い、一発でも攻撃をくわえることが出来れば見逃してやる。ただしもし出来なければ…わかるな?』

 

思わず息を飲んだね。

 

未熟ながらにこの目の前の化け物は、普通じゃないと感じていたんだ。勝てる勝てないとか、勝利条件が云々じゃない。ただひたすら勝てっこない、ってね。

 

当然、周りで見ていたマフィア共は口々に騒いだよ。

 

だが彼が一睨み効かすと途端に大人しくなっちまった。笑っちまうだろ? かの悪名高いノストラードファミリーのエリートマフィア達が、いち用心棒の担にブルッちまってんだから。

 

こうして私は、へっぴり腰になりながらも彼と部屋の中央で対峙した。

 

一切騒がないギャラリーに取り囲まれて逃げ道も当然ない。全く生きた心地がしなかったよ。

 

死合開始の合図は唐突だった。

 

気圧された私の身体が勝手に動いていたんだ。

 

私は無謀にも愚直に真っ直ぐ最短距離で彼に向かって飛びかかっていた。

 

すると彼は、いつの間にか小さく前屈みになっていて、腰の横の所で右の拳を左手で覆うようにして構えていた。

 

全身に嫌と言う程に伝わる死の気配が、私の脳をバグらせて全てがスローモーションのように流れた。

 

静寂な時の中、微かに響く声。『FIRST… COMES… ROCK…』

 

私は地獄の釜を開けちまったのさ。

 

後は酷いもんさ。私は飛びかかりながら小便をチビリ、目を開けたまま気絶した。

 

次に気がついたら見知らぬ部屋に寝かされていてね。隣でこれまた見知らぬメイドらしき女が濡れたタオル片手に私の世話を恭しくしてくれていた。

 

私がここはどこかと場所を尋ねると彼女は喜び勇んで涙ながらに『ここはノストラードファミリー本邸にある、お嬢様専属メイドの部屋です』と答えた。

 

何故泣いているのか、と尋ねると、どうやら私はあれから丸三週間も寝ていたらしいことが分かり心配だったからだと答えた。

 

後で知ったことだが、勢いよく飛びかかったまではよかったが肉体のコントロールを完全に失った私は彼の髪の毛の中に飛び込んでしまったらしい。

 

そしてそのまま決闘は無効となり、代わりに上の判断で盗みに入ったならその分、体で払って貰おうと、私を当館のメイド兼用心棒として雇うことにしたのだ。

 

全く渡りに船とはこの事さね。

 

以来、私は必死に働いた。汚い仕事からこれまでのみみっちいコソ泥生活からは考えられないくらいに華やかな世界も垣間見ることが出来た。

 

私は幸せだった。

 

こうして今も私がゴシックドレスに身を包んでいられるのは、その御蔭というわけさ……」

 

静かにワインを煽る着飾った岸壁魔人…もといビスケット=クルーガーだった。

 

 

 

 

 

 

「そ……そすか」

 

刑務所の夜は長い……




どうもお久しぶりです。

今回は外伝です。こうでもしないとなかなかゴンさんが登場させられなくて書いてしまいました(汗

ゴンさんに関する過去話や都市伝説は外伝としてこれからもちょくちょく投稿していくつもりです。

ちなみにまだ予定ですが次あたりは、あのえげつねぇことに定評のある男が如何にしてゴリラと親睦を深めるに至ったか、果たしてゴンさんはそこにどう関係しているのか⁉︎ なんてのを考えていたりします(笑)

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