スーパーロボット大戦 code-UR   作:そよ風ミキサー

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L5戦役後編です。

本文文字数:15940文字


第9話

 其処はホワイトスター内部。

 ハガネ、ヒリュウ改、クロガネの三隻はUR-1の砲撃によって障壁と表層を破壊されたホワイトスター内部への突入に成功した。

 クロガネが艦首に搭載された回転衝角を起動させて突き進み、そこから出来上がった通路を背後のハガネとヒリュウ改が通っていく。

 その際、機動兵器部隊は各艦に搭載され、パイロット達はコックピット内でいつでも出撃できるように待機している。

 しかし、今の所はその出撃する必要もない状況が続いていた。

 

 

(凄まじいな。破壊跡が此処まで続いているのか……)

 

 

 エルザムは艦の外部カメラから映る光景を搭乗している機体に繋げてそこから見渡せる眺めに目を見開いた。

 見渡す機械で構成された外壁や資材と思しき物達が皆壊れ、残骸と化している。

 これらはクロガネの回転衝角やエルザム達機動部隊が行った訳ではない。だが、内部から破壊された訳でもない。

 

 これらは全て、クロガネ隊に所属しているアケミツの駆るUR-1によって与えられた爪痕なのだ。

 ホワイトスターは外壁の装甲を破壊された際、誘爆を避けるために結構なブロックを切り離していた筈だが、それでも尚UR-1から受けた傷跡がホワイトスター内部に深く刻み込まれていたのだ。

 

 味方ながらに恐ろしい威力だった、とエルザムはあの時の光景を思い出す。 

 5000mサイズのエアロゲイターの巨大戦艦による艦隊と機動兵器達が、まるで風に巻かれた埃か何かの様に吹き飛ばされ、跡形も無く消し飛んだのだ。

 挙句の果てには、その一撃はハガネやヒリュウ改の最終兵器の有効射程範囲外であるにもかかわらず、軽々とホワイトスターの障壁を貫きホワイトスターその物の一部を破壊してみせた。

 UR-1が突然自分達の艦隊の前まで駆けつけた時は、時間稼ぎの為に死ぬつもりかとエルザムは止めようとした。結局は、それは徒労に終わり、先の恐るべき砲撃を敵にお見舞いしたので、部隊の皆は呆然として何も言えなくなってしまった。

 

 そして今現在、こうしてホワイトスター内部へと侵入する事にしたクロガネ隊他艦隊だが、此処まで道を作ってくれたアケミツは味方艦隊を行かせるために単身で敵の増援の足止めをしている

 心配ではある。だが、あの時見せられたUR-1の圧倒的な戦闘力を信じるしかなかった。

 あそこで時間をかけていれば、それだけエアロゲイター側がこちらへ対応する隙を与える危険性があった。折角アケミツが開けてくれた障壁も、もしかしたら修復される恐れすらあったのだ。

 

 そう言って、例え強力な力を持っていたとしてもたった一人に艦隊の相手をさせた事が、果たして本当に指揮官として良かったのかと僅かに沈んだ気持ちで悩むエルザムへ通信が入った。

 その声は、エルザムにはよく聞き慣れた相手のものだった。

 

 

『エルザム、今良いだろうか?』

 

 

 通信を繋げたのは、かつてエルザムが所属していたエリートパイロット集団〝特殊戦技教導隊”の同じ隊員、現在は連邦軍情報部に籍を置いているギリアム・イェーガー少佐だった。

 現在ギリアムは、ヒリュウ改の部隊に所属している。

 まだ戦闘には余裕があるようなので、エルザムはギリアムからの通信を繋いだ。何となくだが、質問の内容が予想できた。

 

 

「どうした、ギリアム?」

 

『……あのUR-1の事なのだが、お前は知っていたのか?』

 

 

 エルザムは、やはり訊いてきたかと目を細めた。

 ギリアムは地球連邦軍の諜報機関に所属している関係上、軍事、政治の情報に長けている。特に地球連邦軍関係の事については特にだ。

 DCは地球連邦軍所属の機関だ。そこから提出されている筈の機動兵器の性能に食い違いがあるとすれば、最も敏感にならざるを得なくなるのもギリアムのいる情報部であろう。

 

 

「いや、私も正直驚いている。私には渡されたスペックデータしか知らされていない。これは私の部隊の隊員も皆同じだ」

 

『……そうか』

 

 

 短い返答の後、ギリアムから会話が途切れる。恐らく、アケミツとUR-1の存在について疑念を募らせているのだろう。

 

 無理もあるまいとエルザムは察した。

 アケミツとUR-1に関してはクロガネ隊に所属する際、色々と不自然な点が多すぎた。

 アケミツの存在には謎が多い。アケミツの操縦技術は間違いなくエルザム、そしてギリアムなどが所属していた特殊戦技教導隊に匹敵するほどの腕前だ。

 元々特殊戦技教導隊が結成された背景には、当初PTにのみ用いられる予定だったOS、TC-OSのモーションパターンを作成するために地球連邦軍から操縦技術に長けたパイロットを選りすぐって結成させたという理由がある。

 その為、機動兵器の操縦技術という点では其処に所属していたメンバーは、現在確認されている地球連邦軍組織内ではトップクラスの腕前を有しているのだ。

 

 アケミツは、そんな部隊に所属していたエルザムとほぼ互角の腕前を披露している。

 エルザムは、あれ程の腕前を持った男がここ最近まで誰にも知られていなかった事に驚愕した。年代も同じようなので、もし知られていたら、間違いなく教導隊の選抜メンバーには確実に名を連ねていた筈だ。

 それに、テスラ研所属のテストパイロットだったとはいえ、否、機動兵器開発の最前線に位置するテスラ研でテストパイロットを務めていたにも関わらず、その腕前やアケミツと言う男の存在を一度もエルザムが耳にしなかったのが、エルザムの疑念に益々拍車をかけていた。

 

 更に怪しいのが、アケミツの操縦するヴァルシオンのプロトタイプと称されているUR-1の存在だ。

 一見すると大分装甲にダメージが蓄積されていたと思われるにもかかわらず、エアロゲイターの艦隊をいとも容易く破壊して見せたあの戦闘能力は、異常だ。

 挙句の果てには、ホワイトスター突入前の別れ際に敵戦艦の砲撃がUR-1へ全弾直撃したのに、UR-1は平然として砲撃を返していた。

 

 まさか、あの装甲の損傷はダミーなのか? だが、整備の際に交換している装甲材は此方の資材を使っている。整備員も此方側の人員で用意しているのだ。

 我々の知らない何かが、UR-1にはあるというのか?

 

 先程までは戦闘中だったので考えないようにしていたのだが、こうしてひと心地付ける状況になった所でエルザムはアケミツらに対する疑念が噴き上がってしまった。

 だが、多くの人員の命を預かる立場にあるエルザムは、可能な限り部隊の不安材料を無くす為の義務がある。

 しかし、其れよりも今はやらなければならない事があるのだ。

 

 

「ギリアム、今はとにかくこの後に控えている戦闘に集中しよう。……恐らく、奴がいるぞ」

 

『……イングラム・プリスケンか』

 

 

 エアロゲイターの人型兵器が初めて襲撃をかけた時、地球連邦軍から離反したあの男をエルザムは思い返した。

 その実態は、エアロゲイター側のスパイだった。離反行為を働いて以降もエルザム達の前に立ちはだかり、何度か戦ったあの男は何故か此方を挑発しつつも試すような行為が多かったように思われる。

 真意はわかりかねないが、これから行うホワイトスターの中枢破壊の際に必ず妨害してくだろう。今までエアロゲイターの指揮官クラスと思しき人物は幾人か撃破してきたが、まだイングラムが姿を見せていないのだ。

 パイロットの腕も、操る機動兵器の存在も侮れない。故にエルザムは何故か沈黙を続けるギリアムへ、思考の切り替えを促す事にしたのだ。

 

 

『そうだな……その通りだエルザム。俺としたことが、どうも考えすぎてしまった様だ』

 

 

 ギリアムは、エルザムの意図を察したのだろう。苦笑しながら礼を述べた。 

 

 

「気にするな。お前に限ってあり得ないとは思うが、此処まで来て気が散って撃墜されたなどと、墓に刻まれたくはないだろう」

 

『ふふ、確かにな。それは死んでも死に切れそうにない』

 

 

 そうして笑った後、二人は意識を戦う為に切り替えた。

 伊達にトップクラスのパイロットと呼ばれているわけではない。そういった意識の持ち方も手慣れているのだ。

 

 

「……勝つぞ、ギリアム」

 

『ああ、この星の明日の為に、な』

 

 

 二人が手短に交わして少し経つと、どうやらこの侵攻に一区切りがついたらしい。

 

 機械仕掛けのブロックから所変わり、まるでコロニー内の様に人が暮らせる空間が彼らの目の前に広がった。

 エアロゲイター側の居住区かと思われたが、どうやらそうでもないらしい。

 

 エルザムはこれから来るであろうエアロゲイター側の襲撃に備えるべく、自分の部隊へ警戒を促し、自分も改めてコックピットの操縦桿を握り直した。

 

 

 

 

 

 

 宇宙空間にいくつもの閃光が迸り、消えて行く。

 〝彼”の頭部に備わったツインアイを主としたセンサー類が、暗黒の宇宙に数えきれないほどの爆裂光を映していた。

 

 爆発しているのはエアロゲイターの艦隊と人型機動兵器達だ。〝彼”の戦闘区域に存在する最後のフーレの艦隊が、今しがた〝彼”の放つクロスマッシャーの光に溶けて吹き飛んだ所である。

 

 エルザム達と別れてから〝彼”がエアロゲイターの部隊と戦闘を開始して少し経つと、既に〝彼”の戦闘宙域には敵の残骸で溢れていた。

 

 気が付けば、ホワイトスター内の戦力全てを総動員しているのではと思われるほどの物量を、ホワイトスター自身が蜂の巣から飛び出す蜂の如く吐き出し、〝彼”の周りは全て敵と言う様相になっていた。

 

 敵の攻撃パターンにも変化があった。

 無数の人型機動兵器が〝彼”の動きを封じるためにしがみ付いたかと思えば、フーレの艦隊が射線に味方機がいるにもかかわらず、〝彼”目がけて主砲を一斉掃射してきたのだ。

 挙句の果てには、5000m級のフーレが十数隻自身を質量兵器に見立てて体当たりを敢行し、直撃したと同時に自爆をしてくる始末だ。恐るべき物量戦と言うべきか、それ程までに〝彼”の存在が憎たらしいと見える。フーレが体当たりと自爆を敢行してきたときは流石に〝彼”も在りもしない肝を冷やした。

 

 だが、〝彼”はその猛攻に負けてはいない。

 ある時は射線軸に味方がいない事を気にしながら群がる敵にクロスマッシャーで宇宙空間の向こう側まで消し飛ばし、またある時は肉薄したフーレなどに直接金属細胞を流し込んで瞬く間に感染させてコントロールし、敵陣に突っ込ませて自爆させるなどの応酬を行っていた。

 幸いなことに、地球側の戦力は〝彼”とエアロゲイターの戦闘を見てか、巻き込まれないように戦域を離してくれているので〝彼”としても割と心置きなく暴れる事が出来た。

 おかげでホワイトスターからの増援は少しずつ減り始め、とうとう人型機動兵器や偵察機などが疎(まば)らに出て来る程度にまで収まった。とは言え、そこに至るまでに何百隻の戦闘母艦や千を超える機動兵器群を叩き潰したというのにまだ出てくるのだから、ホワイトスターの戦力の搭載能力ないしは生産能力には恐るべきものがある。

 

 

 残骸をかき分けながらやって来るエアロゲイターの人型機動兵器達を適当にあしらいながら、〝彼”は先ほどの戦闘で消耗した自身のチェックを行う。

 損傷は軽微。擬態していた装甲は既にパージして元の装甲を形成し、頑強さが幸いして損害があっても僅かなものなので金属細胞によって修復が既に完了し、砲撃によって消費したエネルギーも充填を終えている。〝彼”のボディはまだまだ戦闘続行が可能な状態だ。

  

 

(この機体に助けられたな。並の機体に乗り移っていたら生きてはいられなかっただろう)

 

 

 数体のエゼキエルが砲撃を仕掛けながら突撃してくるのを、〝彼”は避けもせずに全弾受け止め、傷一つ無いまま手に持ったディバインアームで纏めて串刺しにしてはそれを足で蹴り飛ばして放り棄てる。

 蹴り飛ばされたエゼキエル達はそのまま爆散、続いて爆炎の中から飛び出してきたメギロートを左腕に装備している盾を振り下ろして叩き壊した。

 

 数分前からこんな状況だ。

 ホワイトスターもとうとう息切れを起こしたらしく、戦闘母艦の増援が出る様子は今の所なく、〝彼”はこうして機動兵器達を流れ作業の様に撃破していた。

 

 しかし、それもいい加減切り上げ時だ。

 敵の数は当初の勢いと比べれば雲泥の差と言うほどに少なく、地球側の戦力も絶望的と言うほどの状況ではないので、余裕のある部隊に任せれば十分対処が出来る程度だ。

 これなら自分が此処に留まり続ける必要はない。

 ならば、次に行くべき場所はホワイトスターだ。

 現在エルザム達が中枢を破壊するために突入しているが、念を押して突入するべきだろうと〝彼”はホワイトスターへ機体の双眼を向けた。

 

 

(それに、ホワイトスターを地球に落とす、何て事も考えられなくはないからな)

 

 

 〝彼”の思考を過るのは、このヴァルシオンの機体が元いた場所と思われるF完結編の世界。

 そこで行われた小惑星基地を地球へ落下させる通称〝アクシズ落とし”。

 

 まさかとは思うが、このホワイトスターがそんな暴挙に使われるとも限らない。

 そんな可能性が思いついたからこそ、〝彼”は周囲の状況を確認した後、背中のスラスターから青い炎を噴かせてホワイトスターへと向かった。

 

 

 

 

 

(どうやら、突入部隊は大分奥まで進んでいるようだな)

 

 

 恙(つつが)なくホワイトスター内部へ侵入に成功した〝彼”は、突入したホワイトスター内部の周囲を見回しながら中枢を目指して進んでいた。

 道については、幸い先行組がいるので彼らが空けた道を辿っていけば良いので特に苦労は無い。

 

 道中所々に〝細工”を施しながら進んで行く最中に、〝彼”のセンサーが遠く離れた場所で何らかの振動を感知した。

 震動を察知した場所は〝彼”の現在地から離れているにもかかわらず、かなりの震動だ。

 戦闘による爆発音か、それともクロガネあたりが障壁を破壊する際の音か。

 何故か先行組と通信が出来ない事が不安になるが、センサーが感知した場所はホワイトスターの中心地点だ。中枢部があるのは確かな筈だろう。

 

 〝彼”が先行組に合流するべく加速しようとしたその時だった。

 突然〝彼”のいる区画の各所が爆発をおこし、崩壊し始めたのだ。

 〝彼”の居る場所だけではない、センサーで周囲の状況を確認してみると、感知できる範囲の彼方此方で崩壊によると思われる震動が発生していたのだ。

 

 

(中枢部を破壊した震動だったのか?)

 

 

 それはつまり、エルザム達がやってくれたという事なのだろう。

 外へ向かってより強い振動を起こしている箇所があるので、それがクロガネだろうか。

 此処も長居は無用だ。

 〝何故か崩壊が止まっている”周囲を気にせず、〝彼”もホワイトスターから脱出する事にした。

 

 

 

 

 ホワイトスターを抜け、宇宙空間へ飛び出した〝彼”は周囲の戦況を確認する。

 

 戦闘を行っていた各宙域は、エアロゲイターの機動部隊の増援が完全にストップしたらしく、現在は残存戦力の討滅に乗り出している状況の様だ。

 

 徐々に他の部隊も戦闘が終わりを見せ、エアロゲイター達との戦闘に勝利したのかと〝彼”は思っていたが……まだだった。

 

 

 場所はホワイトスターの外壁近辺の宙域、そこで高エネルギー反応が検出されたのだ。

 更には爆発まで発生しているが、ホワイトスターの爆発では無い様子。

 此処からでもアイカメラで補足できるため、映像をズームに拡大して詳細を探る。

 

 

 ハガネ、ヒリュウ改、クロガネの各部隊が其処にいる。

 それは良い、だが戦闘が発生しているのだ。

 

 敵対相手は間違いなくエアロゲイター、しかしその相手に問題があった。 

 

 それは全長70mの特機サイズの白い機動兵器。

 蛇の下半身に四つの腕を持ち、人の様な顔を持った異形の機体。

 バルマー帝国に所属している仮面の男、ユーゼス・ゴッツォが開発し、念動力を増幅させる装置によって念による攻撃を前提とした存在、その名も――。

 

 

(ジュデッカ! あれがまだいるのか!?)

 

 

 中枢で待ち構えて倒されたのかと思っていたのだが、それはイングラムだったのだろうか。ホワイトスター内部へ突入した際も結局は突入部隊の後なので、すれ違いになってしまったのかもしれない。

 ジュデッカは護衛の機体として鳥を彷彿とさせる70mクラスの大型機動兵器を十数体取り巻きにして、ホワイトスターから脱出してきた突入部隊へ襲い掛かっている。

 

 対するハガネ、ヒリュウ改、クロガネの3部隊は、ホワイトスター内部での戦闘で消耗しつつも、ジュデッカ達へと戦いを挑んでいた。

 殆ど連戦だったにもかかわらず、3部隊の気力と集中力は極限まで充実している様で、凄まじい勢いでジュデッカの取り巻きを叩き潰しながらジュデッカへ猛撃している。

 

 だが、ジュデッカの攻撃が凄まじい。

 機体の何処から出てきたのか分からないが、大量のメギロートを射出してさながら遠隔武器の様に3部隊へ攻撃し、更なるダメ出しにと4本腕で青い力場を形成し、そこから巨大な氷の礫を大量に射ち放っていた。

 多対一と言う本来ならば不利な状況にもかかわらず、3部隊に対して有利に戦況を作り上げているのは、やはりジュデッカのスペックの高さが如実に表れているという事か。

 あまりこういう表現は使いたくないが、ボスユニットと言うのは本当に存在するらしい。かくいう〝彼”も先程までエアロゲイターの大戦力相手にやった事を考えると、他人事ではないのが。

 

 加勢するべきだろうと判断した〝彼”は、3部隊とジュデッカが戦う戦場へと急行した。

 

 

 〝彼”の接近に気が付いた味方の内、戦域から離れて避難しているパイロットから連絡が入った。

 

 

「アケミツさん、無事だったんですか!?」

 

 

 リョウトだ。操縦している量産型ヴァルシオンは全体的に損傷著しく四肢が欠損しており、戦闘不能に陥った機体の回収に専念しているヒリュウ改の近くにいた。

 彼はリョウトの機体へと向かい、傍まで近づくと通信を繋いだ。

 

 

「私の方は大丈夫ですリョウト少尉、他の皆さんは無事ですか?」

 

 

 コックピットにいるアンドロイドのアケミツを操作してリョウトに返事を返すと、ほっとした様子だったが、アケミツの問いに対して焦りが感じられる声色が返って来た。

 

 

「何名か機体が大破しましたが、幸い死者は出ていません」

 

「そうですか」

 

 

 〝彼”は頭部のツインアイを今も戦闘の只中にいる渦中の敵、ジュデッカへと向けた。

 

 

「あれがエアロゲイターの首魁(しゅかい)ですか?」

 

「……はい、あれを止めればエアロゲイターの侵攻が完全に止まるようです。ですが……」

 

 

 どうも様子が芳(かんば)しくないらしい。リョウトの声色が苦み走っており、此処から見える状況からしてもそうならざるを得なかった。

 

 多数でジュデッカに対応しているのだが、連戦と消耗の所為で此方側の機動兵器部隊が息切れをし始めていたのだ。

 そこへまだまだ余裕のあるジュデッカが畳みかけると言わんばかりに猛攻を仕掛け、耐え切れなくなった者から戦線離脱を強いられていた。

 

 

「リョウト少尉、これから私も加勢に向かいます」

 

「あ、アケミツさん!? ちょっと――」

 

 

 〝彼”はリョウトとの会話を打ち切り、ジュデッカのいるホワイトスター壁面近くへと向かった。

 

 加速する最中、〝彼”はクロスマッシャーの発射準備を行う。

 ジュデッカの周りを味方機が肉薄して攻撃を仕掛けていた。

 

 自機と同じ位の巨大な実体剣を振るうグルンガスト零式、柄から伸びるエネルギー状の大剣を構えて突撃を敢行する3つのPTが合体した特機SRX。そして、ジュデッカの攻撃を紙一重で避けながら砲撃を行っているエルザムの量産型ヴァルシオンだ。

 

 特機3体がかりによる攻撃だ。

 しかも〝彼”が知る限りでは、特にSRXの兵器は恐るべき破壊力を誇る。

 並の機動兵器がそれらを受ければひとたまりもないだろう。

 

 だが、相手はそうではない。

 敵はエアロゲイターのリーダー機であり、〝彼”の知る機体の中でも侮る事の出来ない部類だ。

 

 ジュデッカは全身から怪しげな光を迸らせながら、最初に飛びかかって来た零式の巨剣をハサミ状のアームでつかみ取り、残った腕による殴打で零式の胸部装甲板を叩き砕いて吹き飛ばした。

 すかさず割って入ったSRXがエネルギーの大剣を突き刺しに来るが、其れよりも先に蛇状の下半身を使ってSRXの腕部に巻き付かせて止める。

 そしてそのまま掴み上げたSRXを振り回し、エルザムの量産型ヴァルシオンが放った砲撃を防ぐための盾に仕立て上げた。エルザムがとっさの判断で砲口をずらした為軌道をずれ、砲撃はSRXの頭部を霞めただけで終わったが、その所為でSRXのゴーグル状の頭部は片側がごっそり吹き飛んでしまった。

 

 成程、あのロボット達が上手くあしらわれている。それだけでジュデッカの性能と、その搭乗者であるレビ・トーラーの能力の高さが窺えた。

 

 だが、好機である。

 〝彼”は狙いを定めてクロスマッシャーを50パーセントのまま、範囲を引き絞って射ち放った。狙いはジュデッカの蛇状の下半身だ。

 

 〝彼”の腕部から鋭い光が、槍の様に伸びる。

 他の機体に気を逸らされていたためか、ジュデッカは〝彼”の砲撃に気付かずそれをまともに受けた。

 

 直撃する瞬間、何かエネルギーフィールドの様な物を破壊しつつクロスマッシャーのエネルギーはジュデッカの下半身に直撃。光に飲み込まれ、止んだ頃にはジュデッカの下半身がものの見事に消し飛んでいた。

 その為、尻尾で拘束されていたSRXが自由を取り戻し、距離を取るついでにまだ展開し続けていたエネルギーの大剣で一撃お見舞いした。

 SRXが行きがけの駄賃に見舞った斬撃が偶然ジュデッカの頭部に直撃する。すると、奇しくもSRXがそうであったように、ジュデッカの頭部が半分斬り落とされた。それによってか、ジュデッカの残った頭部の人の顔を模した部分が苦悶の表情を浮かべながら頭を抱えて悶えた。

 

 

 自由になったSRXが先程の大剣を開いた胸部装甲内に収め、ジュデッカから距離を取りながら〝彼”へと通信を入れてきた。

 

 

『……すまねえ、助かったぜ』

 

「無事なようで何よりですリュウセイ少尉。SRXはまだ戦えますか?」

 

 

 通信相手はリョウト達と同年齢の少年で、SRXのパイロットを務めているリュウセイ・ダテだ。先日の部隊同士での顔合わせの際に知り合った仲である。〝彼”自身に興味津々だった事と、〝彼”が知る知識によって良く覚えていた。

 〝彼”が礼に対して問いを返すと、通信モニターの向こう側で、リュウセイが誰か達と会話をしだした。他のサブパイロット達と確認を取っているのだろう。

 SRXとは、PTサイズの機動兵器Rシリーズが3機合体して完成する特機だ。そのメインパイロットがリュウセイであり、他の二人が各機能の調整などを行っているのだ。

 

 

『――――駄目だ、SRXのエネルギー残量が残ってない。さっきのが最後の一撃だったんだ……それに、もうSRX自体も機体を維持するのが限界だ』

 

 

 リュウセイが口惜しがりながら、SRXの継続戦闘が不可だと返答を返してきた。

 SRXは部隊内でも破格の破壊力を誇るが、エネルギーやボディそのものの消耗が途轍もなく激しい。元々構造的な問題で、合体する事すら回数制限付きだった所を、ビアン・ゾルダークらDCの協力を得て何とか克服出来た様な状態だ。今回の連戦続きの戦闘で、遂にそれも限界に達してしまった。

 

 

「分かりました。では、リュウセイ少尉達はこのまま退避してください。後は私が代わりましょう」

 

『お、おいあんたまさか、一人でやるつもりか!?』

 

「はい」

 

『正気かよ! あんただって見ただろ? あいつは一人で勝てる相手じゃねえぞ!?』

 

 

 リュウセイは慌ててアケミツに踏み止まる様に呼びかけるが、アケミツは動じない。

 

 

「皆さんの消耗が激しすぎます。それに、私の攻撃はアレに対して有効なようです」

 

『だ、だからってよ……ッ!』

 

 

 リュウセイはアケミツの――〝彼”のパワーをこの戦いで垣間見はしたが、リュウセイ自身の性格がアケミツの提案を受け入れる事が出来なかった。

 

 だが、そこで二人の間を割って入る通信があった。

 アケミツが所属しているクロガネ隊隊長のエルザムだ。

 

 

『アケミツ、君ならやれるのか?』

 

「はい、戦えます。――――私はその為に此処へ来たのですから」

 

『……ならば頼む。私達はこれから一旦態勢を整える。ゼンガー、お前もそれで良いか?』

 

『……お前がそう言うのならば、承知しよう』

 

『ちょ、ちょっと待ってくれエルザム少佐! ゼンガー少佐も! あんた達本気で言ってるのか!?』

 

 

 ヒリュウ改の部隊の隊長を務めるグルンガスト零式のパイロット、ゼンガー・ゾンボルトも渋々了解するが、途中から更に割り込んで来たリュウセイは未だに納得しきれていない。

 いくら何でも、たった一人で戦わせるのか。それはあんまりじゃないのか。リュウセイの良心がその判断を受け入れられなかったが、同じSRXのパイロットのライディースがリュウセイに言い聞かせた。 

 

 

『リュウセイ、此処はエルザム少佐の指示に従え』

 

『ライ! お前までそんな事言うのかよ!?』

 

『冷静に考えろ! 俺達がどんな状態か分かっているのか!?』

 

 

 ライディースから言い放たれた言葉に、リュウセイは苦悶の声を漏らした。

 

 

『……分かってるさ、分かってるけどよ……』

 

『……お前の気持ちも分かるが、状況が一番見えているのはおそらくエルザム少佐だ。納得しろとは言わん、だが、理解はしろ』

 

 

 ライディースも根本的な所は、ある意味リュウセイと同じタイプの男だ。それでもリュウセイより理性が働き、状況を俯瞰できるからこそこうしてエルザムの言葉に一定の理解を持っているのだ。

 ライディースの言葉が通じたのか、リュウセイは何も言い返しては来なかった。

 すると、エルザムがライディースへと通信を繋げた。

 

 

『すまんなライディース、お前に嫌な役をさせてしまった様だ』

 

『……兄さん、正直に言えば、俺もこの指示には思う所がある』

 

『そうだろうな。……私もだ』

 

 

 兄の言葉に何かを言おうとするライディースだが、それを無視してエルザムがハガネとヒリュウ改の艦長たちへと承認の是非を問うた。

 

 

『ダイテツ艦長、レフィーナ艦長、お二人ともそれで宜しいでしょうか?』

 

『……気に入らんが、それが最善だとエルザム少佐は言うのだな?』

 

『ええ、……もしかしたら、ビアン総帥はこの様な事態が起きた時の為にアケミツとあの機体を私達に預けたのかもしれません』

 

『相も変わらず読めん男だな、貴官達のトップは。……レフィーナ中佐、ワシはこれを受けるつもりだが、どうだろうか?』

 

『こちらも了解しました。……あまり、誉められた事ではないのでしょうけれど』

 

 

 二人の艦長はエルザムの提案に対して、通常ならば許可する事など出来なかったが、現状の部隊の状況とアケミツの駆る機体の戦闘力について思う所があった為、不承不承と言った感じではあるが、その内容を受け入れたのだ。

 二人の了解を得たエルザムが、アケミツへその旨を告げた。

 

 

『聞いたなアケミツ』

 

「我儘を聞いていただきありがとうございます。承認の件、了解しました。これよりエアロゲイターのリーダー機撃破に向かいます」

 

 

 アケミツ――〝彼”がジュデッカの所へ向かおうとした時、エルザムから短い通信があった。

 

 

 

『ビアン総帥は、その機体の事を知っているのか?』

 

「……」

 

 

 その問いに無言で返した〝彼”は、スラスターの加速でその場から離れて行った。

 

 

 

 

 

 〝彼”がジュデッカの近くまで来ると、もだえ苦しんでいたジュデッカが振り向いた。

 機体を構成しているズフィルードクリスタルの効果で、少しずつ修復を行っているようだが、それでもまだ腰下の蛇の胴体は治りきっておらず、特に顔面左半分は未だに失われたままだ。

 左腕で顔を抑えながらも覗くジュデッカの表情は、機械とは思えないような憤怒の表情を携えて〝彼”を睨みつけていた。

 

 

『……お前、憶えているぞ……。あの時ネビーイームに穴をあけた奴か!』

 

 

 ジュデッカから通信が来た。

 相手はパイロットであり、エアロゲイターのリーダー格である少女、レビ・トーラーだ。

 その声色は怒りに燃えている。機体同様、その顔がどのような表情を浮かべているのか予想するのも容易いくらいに。

 

 

『許さんぞ地球人、ネビーイームだけに飽き足らず、このジュデッカにも手傷を負わせるなど……』

 

 

 言葉が切れた瞬間、ジュデッカの機体からおどろおどろしい暗緑色のエネルギー光を立ち昇らせ、吼えた。

 

 

『お前の逝く先……只の地獄では生ぬるいと知れえぇぇぇーっ!!』

 

 

 ジュデッカが咆哮を上げながら〝彼”へ飛びかかって来た。

 右腕に装備したハサミ状の腕部から強い光を放ちながらジュデッカがそれを構えだす。

 

 〝彼”はその動きに覚えがあった。

 ブースターを噴かせ、ジュデッカの突撃してくる速度に合わせて距離を保ちながらクロスマッシャーの砲口を展開する。

 

 その状態を維持していると、ジュデッカの方が痺れを切らしたのか、突然その場から光と共に姿を消した。

 〝彼”はその場で静止せず、ホワイトスターの壁面まで向かうと壁面に脚を付けて右腕の砲口を構え、その場から動かなくなった。

 

 スラスターの火は、いつでも反応できるように消していない。

 

 離れた場所で行われている戦闘の光がちかちかとツインアイに映り込んでくる。ジュデッカの気配は未だにセンサーからは確認されていない。

 

 だが、そろそろ仕掛けて来る筈だ。〝彼”がそう思っていた矢先に、それは来る。

 

 

『第一地獄ぅぅっ!』

 

 

 其処は〝彼”の背面、そしてホワイトスター壁面。〝彼”から見れば足元を突き破ってジュデッカが飛び出してきた。

 〝彼”がスラスターで離れつつ旋回して振り向くと、ツインアイはジュデッカが半壊した顔で名状しがたい表情を伴いながら、光が収束されたハサミ状の腕部を振り下ろし始めている姿を捉えた。

 

 ジュデッカの動きが思ったよりも早い。

 回避を選択しようとしたが、〝彼”は己の装甲強度を信じ、敢えてそれを受け止める体勢に入った。

 

 ジュデッカのハサミが〝彼”の頭部を捉え、掴み上げると、ホワイトスターの壁面を砕きながら叩きつけた。

 

 

『カイイィナァァァーーーーッ!!』

 

 

 ジュデッカは、其処から更に〝彼”を掴んだままホワイトスターの外周を添う様に加速する。

 〝彼”は壁面にめり込んだ状態からそのまま、壁面を砕きながらホワイトスター外周を加速するジュデッカによって擦りおろしの様にそのボディを引きずり回された。

 

 直線、蛇行、急カーブ。

 マッハを超えた速度でジュデッカは〝彼”をホワイトスターの壁面に圧しつけ、まるで弄ぶかのように引きずり回す。

 

 

『アハハハハ! ジュデッカの恐ろしさ、その身に刻み付けるがいい――――む!?』

 

 

 だが、突然その攻撃が止められる。成す術も無く攻撃を受けていた〝彼”を嘲笑っていたレビがそれを怪しんだ。

 加速していたジュデッカはガクンと動きを止める。

 否、止めたのではない、止められたのだ。

 そして削れ飛ぶホワイトスター壁面の材質と煙に紛れ、〝彼”の左腕が伸びてジュデッカのハサミ状の腕部を掴んだのだ。

 

 静止したその場で、徐々にジュデッカの体勢が仰け反り始めた。

 同時に、煙の中から〝彼”がツインカメラに光を灯しながら起き上ってくる。

 〝彼”につかみ取られたジュデッカの腕部が、悲鳴を上げながら徐々に装甲が歪み始めた。

 

 

『こいつ、まだこんなパワーが残っているのか!? ジュデッカ、そいつから離れろ!』

 

 

 ジュデッカが〝彼”から離れようとした瞬間、〝彼”の右腕からクロスマッシャーが放たれ、ジュデッカの左腕を肩と一部の胴体ごと吹き飛ばした。

 

 

『ジュ、ジュデッカが! また念動障壁が破られ――うわ!?』

 

 

 レビの驚愕する時間すら与えず、〝彼”は右腕を伸ばしてジュデッカの首をつかみ取った。

 

 煙が晴れ、〝彼”の全身があらわになる。

 そこには、先ほどホワイトスターの壁面を引きずり回していた事が無かったかのように装甲は一切傷を負っていなかった。

 正確には、僅かな損傷こそあったのかもしれないが、それらは既に修復を完了していた。

 修復されているという事に気付いていないレビは、攻撃が一切効いていないと認識して狼狽しだした。

 

 

『ば、馬鹿な、無傷だというのか……? ジュデッカの攻撃を受けたのだぞ! 何故だッ!?』

 

 

 〝彼”は答えない。その代わりに、ジュデッカの首を掴み上げていた手のマニュピレーターのパワーを上げた。

 ジュデッカの首がミシミシと軋み上がり、ジュデッカの顔が苦悶の表情を上げて唸りだした。

 

 

『させるか! 第三地獄、トロメア!!』

 

 

 ジュデッカの機体から暗緑色の光が灯り、この宙域にいるメギロート達が集結して〝彼”目がけて突撃を開始した。

 

 

『私の念で強化されたメギロートの嵐、止められるものな――――うおあああ!?』

 

 

 しかし、〝彼”は掴み上げていたジュデッカを〝彼”のパワーを全力にしてハサミ状の腕部を握り潰すと、ジュデッカを鈍器に見立てて掴んだままの右腕を振り回す事し、メギロートを叩き落とした。

 そして先のお返しと言わんばかりにホワイトスターの壁面へ投げて叩き付けると、バウンドして浮かんだ所へ追い打ちで胸部目がけて蹴りを叩き込んだ。

 

 胸部の装甲が陥没し、ジュデッカが宇宙空間へ投げ出される。

 宇宙空間に放り出されたジュデッカは、魚の死体の様に動く気配は無く、ボディは至る所が傷つき、欠損した部分がスパークしていた。

 

 

 〝彼”はここで、右腕を掲げて砲身を展開すると、それをジュデッカ目がけて構えた。止めを刺すつもりだ。

 

 

『お前は……一体何、なのだ?』

 

 

 マシンの不調が念動力者のレビに負担を与えているのか、レビが苦しげな声色で〝彼”へ通信を送って来た。

 修復するための時間稼ぎのつもりか? と思って無視しようとしたが、どうも芝居ではなく本当に困惑した声だったので、〝彼”はレビの話を聞く事にした。

 どちらにせよ、もうジュデッカは修復する事が出来なくなっているのだから。

 

 

『お前……の気配と、念……中にいる〝モノ”からは感じられないのに……感じる』

 

 

 〝彼”は僅かに驚愕した。

 念動力者だからか、それともジュデッカを介しているからかは分からないが、レビはコックピット内のアケミツの正体を見破っていた。 

 

 

『脳髄をマシンに移植させて、動かしているのなら話は分かるが……お前からは命の気配が感じられない……――――』

 

 

 一時の沈黙を生み出した後、ジュデッカが痙攣するように機体を震わせながら動き出す。

 動き出すたびに、ボディから小規模の爆発が発生しだした。

 それは、ジュデッカの戦闘不能を意味していた。

 

 

『それに信じられん事だが、お前、このジュデッカに〝何か”仕組んだな? 修復が一向に始まらん』

 

 

 レビの言う通り、〝彼”はジュデッカに肉弾戦を仕掛けた際に金属細胞――DG細胞を流し込んでいた。

 その効果もあってか、ジュデッカは機体内に組み込まれたズフィルードクリスタルの修復機能が作動しなくなり、逆に不調をきたし始めたのだ。

 まさにウィルス等の不純物が入って、拒絶反応を起こしている様な状態だ。そして、先ほどジュデッカのボディから発生した爆発も、先の拒絶反応が引き起こした現象なのだろう。

 

 

『ネビーイームも私の呼びかけに答えなくなっている。……つくづく忌々しい奴だよ、お前は』

 

「……地球へ侵略しに来たお前達の自業自得だ」

 

『フン、まさか地球人共に此処までやられるとは、な……だが、これでお前達の最期は決まったよ……フフフフ』

 

 

 突然レビが何を思ったのか、笑い声をこぼして地球人類の敗北を示した。

 妙な話である。彼らの拠点は事実上停止し、切り札であるジュデッカもこうして機能停止寸前まで追い込んだというのに。

 

 レビが可笑しそうに、そして憐れむように〝彼”へと告げた。

 

 

『腹立たしいが、このジュデッカはもうじき機能を停止するだろう。そして、ジュデッカとネビーイームの機能が停止すれば、我らバルマーの最終安全装置が作動する』

 

「最終安全、装置だって?」

 

 

 聞き慣れない言葉に〝彼”は嫌な予感を覚えた。

 ジュデッカにその様な機能が存在していた事など、〝彼”は全くの初耳だった。

 

 

『対象の文明が一定値以上の戦力を発揮した場合……このジュデッカを破壊した時、その文明はバルマーにとって危険因子と見做され、消去されるのだ』

 

「消去……まさか!」

 

 

 〝彼”は気づいたのだ。レビが言っている安全装置が何なのかを。

 レビは、〝彼”が声を上げた事が余程嬉しいのか、可笑しそうに笑った。

 

 

『ハハハ、気付いたな? だがもう手遅れだ、あとはこのジュデッカが機能を停止すれば貴様達は〝最後の審判者”の餌食になるのさ!』

 

「させるか!」

 

『ハハハハハ! その慌てる声が実に心地よいが、お前に応じる義理など無い!』

 

 

 〝彼”はジュデッカを捕まえようとしたが、レビが高らかに笑いだし、ジュデッカが禍々しい暗緑色を迸らせながら突然動き出したのだ。

 ジュデッカの体が変化を始める。胴体を回し、腕と頭部を収納し、壊れたはさみ状の腕部を頭部に据えてジュデッカの形が変わり出した。

 それは本来、魚類の様な形状をしていたのだろう。しかし、〝彼”との戦闘で尻尾は根こそぎ吹き飛び、頭部になる筈のハサミ状の腕部は崩れて歪な形となっていた。

 

 しかし、それでもジュデッカは今までの動きからは想像もつかない速度で加速し、ホワイトスターから離れて行く。行先は、地球だ。

 

 〝彼”も可能な限りのパワーでジュデッカを追いかける。

 しかし、火事場の馬鹿力でも起きているのか、ジュデッカの加速が止まらない。そのボディを所々爆発させて、機体の破片をまき散らしながら。

 

 

 ジュデッカは圧倒的な加速力で、まさに光となって地球目がけて突っ込んでいく。そして〝彼”もそれに追い縋ろうと加速を続けて行く。

 その最中、進行方向に存在する戦闘宙域を突き抜けながら、〝彼”はレビへ通信を送った。

 

 

「レビ・トーラー、何をするつもりだ!?」

 

『フフ、知れた事。お前達の最期を早めてやろうと言うだけの事さ!』

 

 

 加速していく二人の前に地球がもう目と鼻の先まで近づいてきた。

 そして、レビが何をしようとしているのか気付いた。

 

 

「まさか、大気圏に突っ込んで燃え尽きるつもりか!?」

 

『理解が早いじゃないか! 今のジュデッカなら、この星の大気圏に突入すればよく燃えるだろうよ!』

 

「お前も死ぬんだぞ!?」

 

『何をいまさら! お前達地球人類が絶望するのなら、この命、喜んでくべてやるよ……だが』

 

 

 そうしている内に、二機は地球の重力圏すれすれまで近づいた。

 そこで突然、ジュデッカが機動を変え、〝彼”に飛びかかって来た。

 さしもの〝彼”も、超スピードで移動する今のジュデッカの速度に対応できなかった。

 

 ジュデッカは〝彼”に飛びかかると、そのまま巻き込むようにして地球へと再び突っ込みだした。

 

 

『一人で果てるのもつまらない、お前にも付き合ってもらうぞ? ハハハハハ!』

 

 

 〝彼”は、レビの狂気を宿したその笑いに圧倒された。

 人とは、こうまで狂えるのか。己の命を自らの手で消そうとしているのに、笑えるのか……。

 

 

 二機が地球の重力圏に入るのはそう時間はかからなかった。

 突然ガクンと揺れたかと思うと、急に何かに引っ張られるような感覚がしたのだ。

 

 徐々に熱の壁が二機の周りに発生し、機体の熱が上昇しだす。機体が凄まじい揺れにみまわれる。

 宇宙船の再突入の様な計算が行われないので角度は滅茶苦茶、間違いなく並の機動兵器なら燃え尽きる勢いだった。

 今まで体験した事のない温度を超え、なおも上がりつづけて行く二機の内、ジュデッカのボディがとうとう限界を迎えた。

 機体が内部から爆発をおこし、もはや原形が失われつつあるほどにジュデッカが大気の熱で燃え尽き始めている。

 

 

 

 

 

『精……々絶望……しろ…………地球、人! ハ……ハハハハハ……ハハハ……ッ!!』

 

 

 レビの狂笑が、通信から聞こえ続ける。その命が燃え尽きる、その時まで。

 

 〝彼”はジュデッカの残骸と共に、大気の熱を纏いながら地球へ堕ちて行った。




主人公「押すなよ! 絶対に押すなよ!」

ジュデッカ「一緒にドーン!」(大気圏突入

主人公「ぬわーー!?」


スパロボ式熱湯風呂でした(?



L5戦役はこれで終了です。
あとは空飛ぶ漬物石(!?)を破壊するだけですが、もしかしたら何かが起こるかも?


書いてて気が付きましたが、此処のジュデッカさん片手(ハサミ)で零式斬艦刀を白羽取りしてます。
連戦による消耗で親分の動きが鈍ってたとか、ジュデッカのボス補正とかでご勘弁ください。


レビ「超念動・白羽取り! イヤァーッ!」

ゼンガー親分「!?」

四ツ目仮面のおじさん「レビの念動力と私の開発したジュデッカのカルケリア・パルス・ティルゲムを駆使すれば、原始的な攻撃などベイビー・サブミッションよ(そんな事よりウルト○マン来ないかな)」


まぁ、ウィンキーソフト時代はガンバスターのスーパーイナズマキックを切り払いするMSパイロットもいたから余裕余裕!
……何なのあいつら。



最終決戦(仮)の最中に味方ユニットにべらぼうな性能の増援が来るのって、何だかMXを思い出します。

イングラム少佐、主人公に会う事無くデッドエンド。
こういう時もありますよね。戦争だもの。

ジュデッカの戦闘が難儀しました。おかげで一部攻撃のモーションがα仕様になってます。
最終地獄につきましては、戦闘で使うどころか自滅させるために使わせてしまう事に。


余談ですが、主人公のカメラアイはOGシリーズの四ツ目仕様ではなく、ツインアイタイプです。
ちょっと思う所があったという理由もありますが、ネットなどでウィンキーシリーズのヴァルシオンを見るとツインアイらしいので採用しました。

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