ビアン「私は宇宙からの侵略へ対抗するために、地球を強くする方法を考えているのだ」
主人公「キニイリマシタ、アナタヲテツダイマショウ」
ビアン「フフフフ、フフフハハハハハ……………ハハハ」
※元ネタはさる漫画のワンシーンです。
今回はちょっとお話を飛ばしてL5戦役へ突入です。
本文文字数:約12000文字
無事にエルザムの部隊から認められ、所属を果たしたアンドロイドのアケミツは、部隊に馴染むべく時には隊員達とシミュレーターで模擬戦闘を行い、時には実際に機体を使用しての連携訓練、そして地球へ襲撃をかけてくるエアロゲイターを相手にしての実戦を行う日々が続いていた。
最初の頃は、部隊の皆もアケミツの操縦する(ふりをしている)UR-1の存在に少々戸惑いがちであった。
何せ今まで使用していたのはAMが主で、使うとしてもPTだったのだが、そこへ今回初めて特機を本格的に運用する事になったのだ。サイズもパワーも全く別物の新戦力の存在に、流石のDC最精鋭部隊も当初は扱い方に困っていた。
ある時はサイズ差が倍以上に違うため、今までのフォーメーションでは上手く動き回れず。
またある時は、UR-1の砲撃に巻き込まれないために射線軸から緊急退避しなければならない時もあった。
とは言え、そこはDCでも最精鋭と誉れ高いエルザムの部隊。不慣れだった当初も日が経てば隊員達も順応し、特機の特性を上手く掴んで早々に部隊の戦力アップへと繋げて見せた。
戦略兵器にもなり得る程の大射程と大出力を秘めたエネルギー砲を備え、従来の特機を遥かに上回る重装甲。接近戦も出来るし、それでいて高機動戦闘も可能なその性能のおかげで、部隊の戦略の幅が大きく広がったのだ。
時には遥か後方からの大火力な支援砲撃を行い、その外見に似つかわしくない高機動力で最前線まで急行し、敵機を巨大な実体剣で叩き潰したり、危機に陥った味方機の盾にもなれるとオールラウンダーな活躍をしてくれるのだ。
流石は地球圏が誇りし科学の粋が集まるDCにおいて総帥を務める稀代の天才ビアン・ゾルダーク自ら手がけた最新鋭機の系列機。プロトタイプからしてこの性能かと隊員達は驚きを禁じ得なかった。
だが機体の性能だけではない、そのパイロットを務めるアケミツの腕前があってこそ、初めてUR-1の性能が活かせる事も皆は知っている。
アケミツのパイロットとしての腕前も、日々行われているシミュレーションと実施訓練のおかげで隊員達からの評価は軒並み高かった。初めて顔合わせをした時に行ったシミュレーターで隊員達をくだし、最後にエルザムと模擬戦を行った事が大きかったようだ。
その時、相手のエルザムもノーマルのガーリオンだったとはいえ、戦況はほぼ互角を維持し、何度もきわどい戦闘を行いその果ての僅差でエルザムに軍配が上がった。
だが負けはしたが、勝ってもおかしくないという所までエルザムを追い詰めた事で、アケミツのパイロットとしての腕前も認められた。
勤務態度も概ね良い評価を貰えていた。隊に馴染む為と言う目的があったからこそだが、自分の仕事が無ければ他の隊員達の手伝いを進んで行い、先任の隊員達の顔を立てる様に振る舞い、かつ腰が低いように見えて言うべき事は口にする所が隊員達の目には良い印象を持たれた様だ。
結果、新しく入って来たアケミツ・サダという男は、凄腕のパイロットだがそれを鼻にかけず、謙虚で仕事も丁寧にこなすという認識を持たれて隊員達ともそれなりに良好な関係を築けていくところまで漕ぎ着けたのだ。
なお、格納庫で人知れずアケミツを操作していた〝彼”はそれを基地内のコンピューター媒体をこっそりハッキングして知ると、内心で小さなガッツポーズを取っていたそうな。裏では人間間のコミュニケーションに〝彼”も四苦八苦していたりするのだ。
当初不安だったアケミツが操縦している事になっている〝彼”のメンテナンスについても今の所は問題はない。
巨大な機動兵器であるため、消耗した部品の交換等でどうしてもメンテナンスで整備員を導入して機体に触れさせなければならない。
此処で機体への接触を禁じようものなら、其処から不審がられて妙な拗れが生まれそうなので、どうしても外装面は人員の導入を避けられない。コックピット、システム面はテストパイロットの特権で、アケミツだけしか取り扱えないという事にしてはいるが。
そこで役に立つのが問題でもある〝彼”の機体を構成している金属細胞だ。メンテナンスの関係で交換の際取り外す部品等についてのみ、金属細胞の特性でありふれた材質に変質させて固定をし、只の廃材にしてしまえばいいのだ。仮に誰かが精密に検査したとしても、それはもう金属細胞ではなく、この世界に存在する金属物質に変わってしまっている為、判別はもう不可能だ。
わざわざ交換する箇所だけ変異・固定させるのは通常ならばかなりの演算能力を要するのだが、其処は膨大な演算機能を獲得した〝彼”の手に掛かれば息を吸う様に行える。
そうやって今の所は上手く擬態を続けているアケミツが所属しているエルザムの部隊へ、とうとうホワイトスター攻略作戦の準備が完了したと言う報が届いた。
(オペレーションSRW……か)
そんなぼやきをこぼすのは、基地内の格納庫に収納されている〝彼”だ。
現在システムのメンテナンスと言う名目でアケミツをコックピット内へと入れ、アケミツ自身のメンテナンスを行っていた。
DG細胞で構築しているので、仮に怪我をしたとしてもすぐに元通りに出来るのだが、現在行っているのは〝彼”との遠隔操作による交信機能の検査や情報処理機能と言ったシステム面でのチェックだ。流石にこればかりはアンドロイドが単独で金属細胞を用いて修復を行うのには限界がある。
特に問題はないと思うが、こまめな手入れの一環という奴だ。時間もそうかからないので、他の人達には怪しまれる事もない。
コックピットのシートに座らせ、後頭部近辺の機材からコード状の触手を伸ばし、アケミツの後頭部からうなじにそれを融合させながら差し込んで本体の〝彼”と接続する。
そうしてアンドロイドのメンテナンスを片手間に、〝彼”はこれから行われるホワイトスター攻略作戦の事を思い返した。
作戦名、オペレーションSRW。アルファベットの構成に何か思う事が無いわけではないが、それは置いておく。
この作戦は大きく分けて四つの段階に構成されている。
まず最初のフェイズ1で、この30日間の内に用意したPT・AM部隊と宇宙機動部隊で敵機の陽動を行い、ジャミングをかけて相手側のかく乱を試みる。
そこからフェイズ2へと続き、軌道修正を行いながら敵へと突き進む弾道ミサイル――通称MARVを搭載した核弾頭を打ち込み、ホワイトスターの破壊を行うというものだ。
以上のフェイズで特に問題が無ければそこで作戦は成功という事になるのだが、相手は未知の科学力を持つ異星人、それだけでは終わらないだろうという懸念の為の次善の策として、残りのフェイズが存在している。
フェイズ3へと移行すると、地球圏きっての破壊力を誇る2隻の戦艦、地球連邦軍所属のスペースノア級弐番艦ハガネとヒリュウ級汎用戦闘母艦ヒリュウ改による最大兵器を使用し、ホワイトスターの破壊を試みるというものだ。
そして、それも失敗となった場合、作戦は最終段階のフェイズ4へシフトする。移動要塞の内部へ機動兵器部隊を突入させ、その中枢を破壊するのだ。
……その最終フェイズで急先鋒を務めるのは、他ならぬエルザムが指揮する〝クロガネ”隊だった。
何故かと問われれば単純明快、クロガネ隊の旗艦が最もそう言った役目が適しているのである。
スペースノア級参番艦クロガネ。
現在世界に3隻のみしか運用が確認されていないスペースノア級の内の1隻である。
スペースノア級万能戦闘母艦。それはEOTを駆使して建造されており、テスラ・ドライブによって宙に浮き、16基のロケットエンジンを推進力として大気圏内の飛行、水中潜航、外宇宙航行すら可能とする戦艦だ。
当初は地球脱出用と地球防衛用と言う相反する目的のもとに生まれたこのシリーズは、艦首部分に様々なオプション・モジュールと交換が出来るという、過去に類を見ないタイプの柔軟性に富んだ艦なのだ。
壱番艦は格納庫とカタパルトデッキの機能を併せ持ち、弐番艦は超希少金属トロニウムを用いた重金属粒子砲を搭載している。
そして、その中でも異彩を放つのがこの参番艦クロガネの艦首モジュールだ。
超大型回転衝角……またの名を対艦対岩盤エクスカリバードリル衝角。
既に名前でお気づきの事かと思われるが、クロガネの艦首には超大型ドリルが搭載されているのだ。
艦に備わっているEフィールドと併用してこれを起動させて突撃すれば、恐るべき大質量兵器として眼前の存在を全て粉砕し、更には地中の移動すら出来てしまうのだ。
なお、〝彼”はその戦艦の姿と岩盤を破壊しながら地中を突き進む様を見て、さる特撮映画を幻視したとか。
そんな、接近戦に持ち込めば勝てる戦艦は地球圏にいないと言えるほどの破壊力を誇るそのドリル戦艦が、フェイズ4の要としてホワイトスターの外壁を突き破るための切り札に選ばれたのだ。
奇しくもこのクロガネがまさに〝人類最後の希望”になり得ると言う訳だ。
指令を受けたエルザムは、地球圏を救う一助となるのならば是非も無しとこの指令を受諾。隊員達もやる気の様だ。
しかし、皆は自分達を捨て石にする気はなかった。生きて帰還し、勝利するつもりでいるのだ。
そんな彼らに対し、突入部隊として戦力に些か不足が見えるとして、DCから最近完成した機体が配備された。
機体の名は、〝量産型ヴァルシオン”
全長はオリジナルのヴァルシオンからややダウンサイジングが試みられて40m程の青と白のツートンカラーが眩しいロボットだ。
量産を視野に入れている為か、コストの問題上オリジナル程の大火力は無いが、それでも特機並のパワーと火力を持たせる事を可能にした量産型と言うカテゴライズでは破格の機体にして、DC渾身の力作だ。
オリジナル程の重装甲ではなく、その代りオリジナルの頃から課題となっていた機動力や可動範囲の改善の為に全体的にややスマートな外観となった。
そんな性能であれば、量産コストも従来の量産機からは比べるべくもない程に高価な物になっている為、物量的にはクロガネ隊の隊員達に配備するので現状は限界であった。
オリジナルと並ばせれば、さながら王(ヴァルシオン)を守る騎兵隊(量産型ヴァルシオン)の様な様相になるだろう。
もっとも、彼らを指揮するのは別の機体である。今回そのヴァルシオンはワケあってDCの本部へ残される事になっている。その代りとして、今回の量産型ヴァルシオンの配備が作られたという意味もあるらしい。
部隊を指揮するのは当然エルザムであり、彼の機体も量産型ヴァルシオンであるが、エルザム用にチューンナップが施された結果、一線を画したカスタム機と化していた。
色はパーソナルカラーの黒を基調に赤や金の意匠が施され、機体にはエルザムの家の家紋が入れられてある。
そのような機体に与えられた名前は〝トロンべ”。
どうやら、エルザムは自分の愛機には家で飼っている馬と同じ名前を付ける趣向があるらしい。
アケミツは当初、エルザムの口から洩れてくるトロンベなる言葉に疑問を持ち、他の隊員達に訊ねてみると、隊員達が苦笑しながら先の習慣(?)を教えてくれた。
どうにもエースパイロットと言う人種は、何処の世界でも癖のある人達の様だ。
だがまぁ、仮面を付けたりしないあたりは、まだ常識的なのだろうか。
その様なカスタマイズを施されたエルザムの機体は元々中世的なデザインだったヴァルシオンシリーズの外観と相まって、黒騎士の名前がふさわしい姿である。
此処では〝彼”だけが知っている事なのだが、エルザムには本来専用の特機が与えられるはずだったのだが、どうやら間に合わなかったらしい。
それでも、機体の性能は申し分ない。エルザムの操縦技術に十分応えてくれるだろう。
そんな黒騎士に率いられる彼らの機体は、DCが奮発して全機量産型ヴァルシオンに統一されている。
そうして戦力を着実に高めたクロガネ隊は、文字通りDCが誇る切り札の一つとなり、ホワイトスターの外壁を突き壊す強固な矛という存在になった。
〝彼”はこの戦力に驚きを禁じ得なかった。
何せ、姿かたちに違いはあれど、ヴァルシオンと名の付く機体で一部隊が存在しているのだ。
今まで敵で大量に出て来る事こそあったが、味方で出て来る事など初めてだ。
そもそも、この世界で誕生したヴァルシオンの姿からして〝彼”の知るヴァルシオンとは全く違っていた。
何時だったか、ビアンがヴァルシオンを開発する際にそのデザインを見せてもらった時は、最初それがヴァルシオンなのかと本気で思うほどの別物だったのだ。
理由を尋ねてみると、元々〝彼”の姿でもあるヴァルシオンは、敵対勢力への心理的圧力を与える為、そしてビアン達が反旗を翻した際の世界の敵として象徴づけるためにあの禍々しいデザインにしたらしい。
ところが、〝彼”の存在によってDCは純粋な地球の防衛組織として設立されたため、世界の敵である必要は無くなり、兼ねてからの目的だった地球防衛用のロボットとしてその姿かたちが見直されたのだ。
この世界で目覚めて、こうしてビアン達に協力している〝彼”だが、DCが世界の敵にならなくなった時点で全く先が読めない状況が続いた。
自分の知ってるシリーズに酷似した世界ならばそれに沿って予測をはじき出せるのだが、このスーパーロボット大戦のオリジナル要素のみが混ざり合った坩堝の如き世界では、プレイヤーだった頃の視点なぞ役に立ちはしない。精々、登場するロボット達の性能の大凡が分かる位だろうか。それだけでも多少は利用できるだろうが、全くの同一視が出来ないのが苦しい。
とは言え、それも仕方のない事だと〝彼”は割り切る事にしていた。
世界の流れの大枠を知る事なぞ、普通の人間ならば到底出来る事ではないのだ。他ならぬ、神でもない〝彼”ならば尚の事だ。
「……君ならば、どうすればいいと思う?」
不意に、コックピット内に男の声が響く。〝彼”が問いかけと言う形で声を発したのだ。
問いかけた相手は、コックピットのシートに背を預けたまま〝彼”と接続しているアケミツ・サダ――――その姿をしたアンドロイド。
アンドロイドは瞼を閉じたまま答えようとはしない。当然だ、〝彼”が遠隔操作をしなければ、このアンドロイドは只の精巧な人形でしかないのだから。
静まり返ったコックピットの中で、メンテナンスの終わったアンドロイド――――アケミツが目を開く。
繋げられていたコードは抜かれ、シートから降りてハッチへと向かう。
ハッチへ手をかけ、外へと出ようとしたアケミツは一瞬だけコックピットの方へ向き直り、シートをじっと見つめた。
「――――」
口を開き、何か言おうとしたが、止めた。
目を閉じたアケミツは俯きながら首を振り、そのまま〝彼”から出て行った。
今ここで、深い感傷は不要だ。
為さなければならない事が、目の前に迫っているのだ。
オペレーションSRW開始まで、もう間もないのだから。
地球圏のL5宙域に鎮座するエアロゲイターの拠点、ホワイトスター周辺で未だかつてない戦いの火ぶたが切って落とされた。
オペレーションSRW。
地球連邦軍、そしてコロニー統合軍から集められた全戦力が、地球の存亡をかけて外宇宙からの侵略者を打ち倒すべく計画された作戦が遂に開始されたのだ。
地球の戦力は、過去に類を見ない大艦隊だ。
その中には、全長1200mもの巨体を誇る大型宇宙戦艦のアルバトロス級が地球連邦軍と宇宙統合軍側に1隻ずつ旗艦として据えられ、それらの旗艦を中心に数百隻にも及ぶ戦艦と、数千にも上る機動部隊の大群である。
両陣営の指揮を執るのは地球連邦少将のノーマン・スレイ、コロニー統合軍総司令官マイヤー・V・ブランシュタインだ。
しかし、エアロゲイター側の戦力も侮れない。
5000mもある巨大戦闘母艦を多数空間転移させ、そこから雨後の筍の如く機動兵器を大量に吐き出し、地球側の戦力の迎撃に当たらせてきた。
そうして行われた作戦のフェイズ1、各艦隊と機動部隊による陽動、そしてジャミングは概ね成功していた。一進一退の攻防を繰り広げる中、エアロゲイターの機動兵器達は地球側の思惑通りにその大勢力を陽動部隊の方へと動かしていく。
そして手薄になり始めた頃合いを見計らい、主力艦隊が一斉に核ミサイルをホワイトスターへ打ち込む。フェイズ2の開始だ。
核ミサイルは順調に手薄になった部隊を潜り抜けてホワイトスターの懐目がけて飛んでいく。着弾するのは時間の問題かに思われた。
だが、やはりというか、事はそう上手く行かなかった。
着弾するかに思われた核ミサイルは、ホワイトスターの直前で突如爆発を起こしたのだ。
核の爆発はホワイトスターへ届かず、まるで見えない壁に遮られるようにして跳ね除けられてしまった。
そこへ更にダメ出しと言わんばかりに、エアロゲイター側から核ミサイルが転移で主力艦隊へ送り込まれ、主力部隊の半数がそれによって撃沈される。
これによりホワイトスターには不可視の防御フィールドが備わっていることが判明、ただちにハガネとヒリュウ改による直接攻撃のフェイズ3へ移行した、
(まずいな、フーレが集まり始めた)
主力艦隊へと組み込まれたクロガネ隊達が繰り広げる戦闘宙域の只中、〝彼”は眼前に現れた敵の増援に焦りの感情が浮かんだ。
エアロゲイターの戦闘母艦フーレ。歪な葉付きの根菜類の様な形の巨艦が空間転移でぞろぞろと現れ出したのだ。
その数は40隻、5000mもある巨大戦艦が群れを成す姿は敵からすれば悪夢のような光景だ。
戦艦内に機動兵器を大量に保有する艦載能力もさることながら、恐るべきはその艦首から放たれる主砲だ。
その一撃は、大気圏から地球の地表へ都市ごと消し飛ばせるほどの破壊力があり、この戦闘の最中もその砲撃でいくつもの友軍の戦艦と機動兵器達が宇宙の塵に還されている。
そんな恐るべき戦艦の増援は、味方の精神的負担をかさ増しさせるだけでなく、実質な戦力面でも打撃が大きいのだ。
現在ハガネ、ヒリュウ改の部隊は最大攻撃の有効射程範囲へ到達するべく、眼前に立ちふさがる敵の機動兵器群を叩きながら突き進んでいる最中である。
クロガネ隊は、そんな両艦の護衛と、最終フェイズが必要となった場合を兼ねて随伴している。
そんな折、先のフーレの増援艦隊が現れたのだ。
先ほどからクロガネ隊はエルザムを中心に何隻ものフーレと機動兵器達を叩いてきた。量産型ヴァルシオンに乗り換えた事でパワーは当然の事、機動力も軒並み上がり、地球戦力内でも有数の破壊力を誇る部隊へとパワーアップを遂げていた。
しかし、エルザム達の力も無尽蔵ではない。機体やパイロットの消耗はいかんともしがたく、次々と現れるエアロゲイターの戦力への対処が限界を迎えようとしていた。
更に言えば、ハガネとヒリュウ改の機動部隊達もクロガネ隊と一緒に敵勢力へ攻撃を行っており、こちらも少なくない消耗を強いられていた。
見覚えのある機体達も、数で攻めてくる敵の猛攻の連続で精彩を欠き始めている。
それに引き換え、〝彼”は今の所殆ど消耗が無かった。
エネルギーは減ったとしても雀の涙が良い所ですぐに充填が出来るし、機体も表面的に損傷している様に装っているだけなので、その薄皮をめくれば本来の硬い装甲で被害はゼロだ。
内部的にも機械になった事で肉体的な負荷は無く、演算機能もまだまだ余裕を残している。
手を抜いていたわけではない。世間的に公表したスペックで全力で戦い続けても、本来の性能がそれを遥かに上回っているからである。
しかし、このままではいけない。
当初、現状で作戦が遂行できればと思っていたが、エアロゲイター達の戦力が予想以上に強力だ。
(……ビアン博士、ジョナサン博士、すみません。せっかくお膳立てしてもらったものが、無駄になるかもしれません)
これ以上黙っていたら、この部隊にも死者が出てきてしまう。
そう判断した〝彼”は、今まで抑えていた機能の開放を決断する。
「エルザム少佐、今から私が皆さんの道を作ります」
『何! 一体何をするつもりだ?』
「すみません、お話は後で。今からお送りする射線軸から皆さんを退避させてください」
怪訝に問い返すエルザムだが、今は戦闘中だ。話をしている余裕が無い。
質問を切り捨て、〝彼”が射線軸のデータを部隊に一斉送信する。
突然のデータ送信にクロガネ隊や、他の艦の部隊達からも詳細を求める通信があったが、〝彼”はそれらの全てを無視して機体の推力を全開にし、流星の如き速度で他の味方機を追い抜いて、敵の増援部隊の正面に躍り出た。
その途端、敵の増援部隊から攻撃が放たれた。
戦闘母艦フーレが多弾頭式のミサイルを放ち、他の機動兵器達が各々の武装を打ち込んでくる。
標的は全て〝彼”に向けられていた。前へ先行した愚か者を血祭りにあげようとでも思ったのだろうか。
傍から見れば、オーバーキルと言えるほどの大物量の火力と火線が〝彼”へと殺到してくる。
「死ぬ気か」「止せ」「逃げろ」と味方の部隊から必死の声で通信が入ってくる。
どうも、此方が命を賭して味方の為に血路を切り開こうとしていると思われている様だ。
コックピットのシートに座っているアンドロイドのアケミツの顔に、小さく笑みが浮かんだ。
(……良い人達だ)
アケミツはクロガネ隊と一緒に開戦の前日、宇宙へ上がる前に最終フェイズの中心となるハガネ、ヒリュウ改の隊員達と顔合わせをしていた。
ハガネの艦長は壮年の厳格そうな男性で、副官の男性はアケミツと同じくらいの年齢の様だ。
ヒリュウ改の艦長は驚いたことに、二十歳前の女性だが、航空士官学校を首席で卒業した才女で、その副官は英国紳士の様な人だった。ハガネの艦長と長い付き合いらしい。
そんな艦長達からして個性のある彼ら彼女らの艦の隊員達もまた個性的だった。
ゲームで見た事がある様な、しかし現実で見るのとでは違うパイロット達。
ハガネのパイロット達の中には高校生から中学生あたりの年齢の少年少女までいたのだが、どうやら訳ありらしい。姉弟の様に仲が良く、そんな彼らを保護者の様な二人のパイロットが見守っていた。
他にも、ビアン博士の一人娘がこれまた随分と〝趣味的な姿をしたロボット”のパイロットとして参加しており、既に地底世界から来た魔装機神操者に惚れているのだが……親御さんは知っているのだろうか?
その時色々と話す機会があったので、隊員達へ挨拶回りのような事をしていたのだが、気の良い人達が多かった。
中には軍人然とした人達も勿論いたが、それでも悪人の様な人はいない。
そして、彼らの操縦する機動兵器達。
およそ他の部隊ではまずお目に掛かれないであろうと言えるほどにここの部隊のロボット達は悪く言えば統一性が無い、よく言えば個性的だった。
規模的に言っても、ここの部隊達だけで試作機と新型機の展覧会が出来るだろう。
そんな彼らの機体は、アケミツの知るロボット大戦を戦い抜いたあのロボット達と重なって見えた。
アケミツは確信する。
彼らこそが、この世界で起こる戦いの中心となる者であることを。アケミツが知る、彼の大戦で結成された独立部隊と同じ立ち位置の存在達なのであろうことを。
彼らを、此処で倒れさせてはならない。
例え、その想いの行き着く先が、己の保身が目的だとしてもだ。
そして、咄嗟に左腕の盾を前に構えた〝彼”に敵の攻撃が直撃する。
光が飲み込み、雨のように降り注いだミサイルが全弾炸裂し、〝彼”の姿が第三者の視界から隠されていく。
並の機動兵器ならば跡形も残らないだろう。だが、〝彼”はそうではない。
(これでもダメージは殆どゼロなのか)
地球側の戦艦ですら一撃で消し飛ぶ攻撃もあったというのに、擬態している表面の装甲が一部損傷しただけで、内部装甲に影響はない。
感嘆する事すら余計と切り捨て、〝彼”はそれらの攻撃をものともせず、既に展開していた右腕の砲身を前に突き出してクロスマッシャーの反撃に出た。
攻撃を行っている敵機達は、〝彼”の位置から丁度いい具合に固まっている箇所がある。射線の向こう側には、味方や施設は見当たらない。好機だ。
(出力は……50%、どうだ?)
〝彼”の砲撃が放たれた。
その規模はテスラ研の時や、ましてやクロガネ隊に所属した時の制限のかかった時とは比べ物にならない。
砲口から飛び出した莫大なエネルギーの波は極大な光の柱となって伸び、〝彼”の前方に展開していたエアロゲイターの部隊を飲み込んでいく。
さながら、洪水に巻き込まれた玩具の様相だ。
直撃した機体はもちろんの事、射線から離れていた人型機動兵器達までもが、まるで熱線を浴びせられたバターの様に溶けて蒸発し、宇宙空間へ霧散していった。
更に、その一撃は予想外の事態を招いた。
光はエアロゲイターの機動兵器やデブリ達を消し飛ばしながら、丁度ホワイトスターへまっしぐらに突き進んでいく。
クロスマッシャーの光は減衰する事無くホワイトスター間近まで行くと、問題だった不可視のフィールドを破壊しながら表層へと到達。
光はホワイトスター表層へ到達。そのまま光はホワイトスターの外装を貫いて内部へと入っていった。
そして数秒後、ホワイトスターに異変が起きる。
〝彼”の砲撃が着弾した場所から爆発が起きたのだ。
其処だけではない。着弾箇所を中心に、周辺の複数ブロックと思しきホワイトスターの表層部分が火を噴きながら爆発を起していたのだ。
おそらく、最初の爆発が他のブロックの誘爆を引き起こしたのだろう。
このままいけば、ホワイトスター全体に爆発が及ぶのでは? そう思わせるほどに一部が爆発によって吹き飛んでしまったホワイトスターだったが、どうやら打ち止めに入る様だ。
爆発箇所をぐるりと囲むように、ホワイトスターを構成していたパーツが切り離され出したのだ。先の誘爆をせき止めようとしているのか。
そうして爆発を止めたホワイトスターだが、球体だった姿が齧られたリンゴの様な不出来な形になってしまった。
とりあえず、ホワイトスターへ打撃を与える事に成功したらしい。
しかし、機動兵器達の攻撃が止むことはない。
砲撃で薙ぎ払った〝彼”の前に、敵側の援軍が再び転移してきたのだ。
しかも場所はホワイトスターから射線が明らかに離れている。向こうもこちらの攻撃力を警戒しているのかもしれない。
エアロゲイターは、〝彼”をこの場で最大の脅威と見做した様だ。
増援に現れたフーレの数が、さっきよりも明らかに多い。それどころか、ゼカリアの上位機種、エゼキエルまで現れたではないか。
あまりの物量に、視界が埋め尽くされそうだ。ホワイトスターの中身をひっくり返して出したかのようだ。
最後の悪あがきか、それとも余裕を残しているのか。
どちらにせよ、やはりこの程度でエアロゲイターは止まらない。
やるなら中枢を潰さないとダメな様だ。
考えている間にもフーレとエゼキエル達が殺到してくる。
フーレに至っては5000mもあるため、それらが大量に迫って来ると流石に面喰ってしまう。
だが、何となくだがエアロゲイター側の思惑が見えた。
ホワイトスターに攻撃を集中すればいいのだろうが、増援部隊を無視すれば今突入しようとしている3隻の戦艦達が危ない。
となるとそれらの対処をするのは自分、ということになる。
〝彼”をこの場に釘付けにしたいらしいのだ。
「エルザム少佐、聞こえますか?」
『……アケミツ、お前は……』
「……敵の大部隊が此方へ迫ってきています。私は、これからそれを抑えに向かいます」
通信を入れたエルザムの困惑気味な声を、申し訳なく思いつつも敢えて無視し、〝彼”のコックピットに搭乗しているアケミツは、これから自分がやろうとしている事を告げた。
「ですので、当機は只今からクロガネ隊を一時抜け、ハガネ・ヒリュウ改・クロガネの部隊を突入させるために少し時間を稼ぎます」
『まさか……一機で戦うつもりか!?』
「まだ当機は戦闘を続けられるだけの余力は残してあります」
『しかし、あの物量をか……ッ!』
此方に接近してくるエアロゲイターの増援部隊の数は、先程〝彼”の攻撃から逃れた分の数も合わせると、絶望的な数だ。到底1機の特機だけで対応できる数をとうに越しているのだ。
だからこそ、エルザムはアケミツを案じているのだろう。一時的とはいえ、アケミツはエルザムの指揮する隊の一員なのだから。
そんなエルザムに、アケミツは努めて穏やかな声で説いた。
「御心配には及びません。先程ご覧になった通り、この機体は多数の敵でも相手取れますので、皆さんの道を作る位は出来ます」
『だが……』
「それに、私だってまだやりたい事があります。此処で命を捨てようなどとは、思っていません」
アケミツの……〝彼”の本心だった。
未知の世界に放り込まれた挙句の果ての、こんな戦いで死ぬわけには行かない。やりたい事も、知りたい事も沢山あるのだ。
しばし互いに沈黙の帳が落ちるが、それを許さない輩がいる。
〝彼”はすかさず砲身を向けてクロスマッシャーを射ち放つ。
再び奔る閃光が敵の群れを蹴散らし行く中、アケミツが叫んだ。
「さあ、早く行ってください! 私もひと段落しましたら、そちらへ合流します」
『……お前には色々と言いたい事があるが……分かった、無理はするなよ』
「ええ、またお会いしましょう。エルザム少佐」
ようやっとエルザムが折れて、全ての部隊へその旨を伝達してくれた。
アケミツ一人を残していく事を反対する者もいたが、最終的には先ほど見せた大火力の砲撃があるためアケミツの提案を承諾する事が決まった。
幸い、〝彼”の砲撃のおかげでホワイトスターは一部が破壊され、障壁にも一部綻びが出来たらしいので、最終フェイズ――――ホワイトスター中枢の破壊を行う事が決定した。
どうやらハガネとヒリュウ改の最大攻撃は、〝彼”の火力に至らないらしく、致命打を与えられるか怪しくなってきたらしい。
そうなると今度はクロガネの番という事で、ハガネとヒリュウ改がクロガネが突撃するためのサポートに回ると言う形を取る事になった。
3隻の戦艦がホワイトスターへ向かう最中、部隊の何人かから連絡があった。クロガネ隊の隊員や、先日顔合わせをしたハガネ、ヒリュウ改の部隊の人達だ。
皆口々に此方を案じるセリフを贈って来てくれた。
こんな自分を案じてくれるのかと、〝彼”はありもしない胸に熱さを感じた。
(彼らは、私がロボットだという事を知ったらどう思うだろう?)
この事を打ち明けるのかどうかは、まだ〝彼”にも分からない。
そこから先の事を考える前に、まずは眼前の敵機部隊を破壊するべく〝彼”は機動する。
敵の残存勢力は未だ健在だ。
先ほど蹴散らしたのに、一体あのホワイトスターにはどれくらいの戦力を保有しているのだろうか。
(ホワイトスター……念のために〝準備”をしておく必要がありそうだな)
バルマー帝国の謎の人工衛星拠点。
全貌の見えない彼の異星文明が寄越してきたこの衛星要塞が、どうも後を引きそうな気が〝彼”にはしてならなかった。
しかし、〝彼”のやる事は変わらない。
〝彼”の背後には、味方の部隊が敵の中枢を討つべく進み、〝彼”の前方には、敵異星人の大部隊が群がり襲い掛かって来る。
ならば、やる事はただ一つ。
(行くぞヴァルシオン、お前の本来の役目を果たすんだ)
それは、とある世界で果たせなかった、天才科学者の生み出した最高傑作への手向けか。
〝彼”は、右腕の砲口を集まり出したエアロゲイターの部隊へ向けて、再びその必殺の閃光をお見舞いした。
というわけで、L5戦役前篇でした。
またまた端折らせていただきました。
色々とアドベンチャーパート的に各キャラの会話なども考えたのですが、ごっちゃになりそうでしたので、そのままL5戦役まで飛ばさせていただく事に。
ホワイトスター? 軟な装甲だぜ、まるで卵の殻みてぇだ!
当初はホワイトスターの中枢部を撃ち抜く事も考えましたが、その後のしらけっぷりが恐ろしいので苦しい言い訳をして主人公を置いてきぼりにさせました。
それと、この世界のヴァルシオンの量産機が誕生しました。
ただし、過去のヴァルシオン改みたいな感じではありません。
敢えて言わせていただければ、ガンレックスに対するグランレックス的な感じで見ていただけばいいと思います(?
え、主人公?
……フューラーザタリオンとか(白目