スーパーロボット大戦 code-UR   作:そよ風ミキサー

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ミニゲームの岩石割り+次章への繋ぎです。

セプタギン「!?」


文字数:9305


第10話

 L5戦役が終わりを見せた直後、アイドネウス島は未だかつてない危機に陥っていた。

 DC本部内では緊急サイレンが鳴り響く中を、職員や隊員達が避難を開始している。

 

 その元凶は、DC本部からやや離れた場所に重力アンカーで大地に繋げられ、封印されていた巨大な岩石、メテオ3。それに突如異変が起きたのだ。

 

 ただの巨大な岩石だったが、突然内側から紫色の鋭い水晶が突き破り、その水晶がメテオ3を覆い隠すほどに肥大化し始めたのだ。

 変化を遂げたメテオ3は固定されていたアンカーを引き千切って浮上し、尚も水晶の増殖が続けられていく。

 

 DCもそれをただ眺めているだけではなかった。

 異変を察知してスクランブルを行った機動部隊がそれらの破砕を試みた。

 だが、それらの攻撃は尽く不可視のエネルギー障壁によって無効化されてしまった。

 

 それだけではない、逆にメテオ3が反撃を行ってきた。

 全体を構成する紫の水晶を礫の様に飛ばしたかと思うと、それの直撃を受けた機動兵器が瞬く間に水晶に侵食されてしまったのだ。

 直撃した者に限らず、ただ掠めただけでもその箇所から水晶が蝕んでいく。

 機体だけではない、礫が降り注いだ箇所は、有機物、無機物を問わず全てが紫の水晶に飲み込まれてしまった。

 

 水晶に飲まれた機動兵器は戦闘不能だ。中にいた人間も恐らく水晶の餌食となったに違いない。

 

 太刀打ちできないと判断した機動部隊はメテオ3をけん制しつつ、まだ避難が完了していないDC本部へ水晶が来ない様に破壊活動を行っていた。

 しかし、変貌を遂げたメテオ3から現れた水晶の侵食速度とまき散らされる礫の勢いが圧倒的だ。このままでは、いずれ機動部隊の攻撃速度を上回り、DC本部がメテオ3の水晶に蝕まれてしまうだろう。

 対処を行っている機動部隊のパイロットや避難を行っているDCの職員達へ絶望の影が差そうとした、その時だった。

 

 未だ侵食のされていない滑走路の一部から、赤と青の螺旋を伴った巨大な光が突き破った。

 

 光の行先はメテオ3。

 光は礫を吹き飛ばし、そのままメテオ3へエネルギー障壁を貫いて直撃……否、貫通した。

 

 円形に抉れた形のメテオ3は、先の一撃で支障が出たのか浮遊していたボディが徐々に高度を落としていく。

 

 そんな最中、光が飛び出した滑走路の跡地から、一体の機動兵器が姿を現した。

 全長57m、重装甲を身に纏った巨大な騎士の姿をしたDCが象徴とする地球防衛用の巨大ロボット。

 本来ならばL5戦役に投入される筈だった地球の守り手たる、ヴァルシオンが背面のスラスターから炎を噴きながら空へと舞い上がった。

 

 

「……やはり最後の仕掛けはメテオ3のブービートラップだったか」

 

 

 そう呟く声の主は、ヴァルシオンのコックピットで操縦桿を握る男、DCの総帥ビアン・ゾルダークその人である。

 

 ビアンがこうしてヴァルシオンと共にこのアイドネウス島にいるのには、今こうして猛威をふるっているメテオ3の存在が理由だった。

 ビアンは地球へ飛来したこのメテオ3という存在が、異星人が技術を内包させるためだけの物だとは思ってはおらず、何らかのギミックが仕込まれているのではないのかと睨んでいた。

 実際、メテオ3の内部を当時隈なく調べてみた時、その中枢にあたる個所にブラックボックスめいた存在がある事をビアンは突き止めていたのだ。

 これを見つけた当初、他の調査員達にも意見を訊いてみた所、惑星へ落下する際に減速させるための装置や未だ解析できていない未知の技術が隠されている箇所なのではと様々な意見が多数であり、ついぞ結論が出なかった。

 そんな中、ビアンや極一部の人間はこれが異星人側の罠である可能性を見出していた。

 しかし、その確証を得られるものが見つからず答えは保留となり、今まで重力アンカーで落下したこのアイドネウス島へ固定し、最悪の事態を招かない為にDCの本部を此処へと設けたのだ。

 

 そして最後の保険にこのヴァルシオンをDC本部へ置いたのだ。

 当初それに対する反発はかなりあった。地球防衛の為に開発した最新鋭機を、オペレーションSRWに投入しないとはどういう事だ、と地球連邦軍から非難が相次いだ。

 故にその代案として、兼ねて計画していたヴァルシオンの量産計画の成果物である量産型ヴァルシオンを一部隊分用意し、更にはUR-1をクロガネ隊へ送ったのだ。

 UR-1には悪い事をしてしまったと思うが、〝彼”自身もこの事態を解決させるために自ら戦う決意をしたのだ。なので〝彼”にはホワイトスターを任せ、ビアン自身は己の予測が外れてくれることを願いつつもこうしてヴァルシオンと共に様子を見ていたのだ。

 

 結果は見ての通りの事態となった。

 施設内の職員達が全員退避したのを見計らい、ビアンはヴァルシオンを起動、地下格納施設から直接クロスマッシャーを放って地盤を吹き飛ばしながらやって来たと言う訳である。

 

 

「各機動部隊、応答せよ。こちらビアン・ゾルダークだ」

 

 

 地上へと上がったヴァルシオンを更に上昇させたビアンが通信を機動部隊のパイロット達へと繋げる。

 

 

「ビ、ビアン総帥!? それにその機体は……何故此処にいらっしゃるのですか!?」

 

 

 通信の繋がったパイロット達からは驚愕の声が漏れていた。

 何せ自分達の組織のトップが、それも自分達の組織の最精鋭の機動兵器に乗ってやって来たのだ。驚くのも無理はないだろう。

 対するビアンは、ほんの少しだけ口の端を釣り上げた。

 

 

「〝こんな事もあろうかと”、という奴だ。そんな事より、此処から先は〝私達”に任せて君達は生き残った者達や避難した者達のサポートに回ってほしい」

 

 

 〝私達”?

 パイロット達はビアンの言葉に疑問を抱こうとしたその矢先だった。

 

 ヴァルシオンのクロスマッシャーでボディに大きな風穴の空いたメテオ3が損傷個所に水晶を生やして自己修復を試みていた時、突如その周囲から漆黒の靄めいた空間が幾千幾万と現れた。

 その次の瞬間、その漆黒の空間から光線が雨あられの如く飛び出し、全てがメテオ3へと殺到した。

 修復作業を行っていたメテオ3はその光の数々によって再びボディが破壊され、更にその体積を小さくしていく。

 

 ビアンはその現象に対して警戒する様子も無く、この場にはいない誰かへと通信を送った。

 

 

「所で良かったのかね? 君にも都合があるだろうに」

 

「お気になさらず。あの程度の相手を処理する程度は、そう手間ではありません」

 

 

 何処か己に絶対の自信を持っていると感じさせられるような口ぶりがビアンへ返ってくると、ヴァルシオンの隣に突如先程の漆黒の空間が浮かび上がり、そこから一体の機動兵器が現れた。

 

 深い蒼の重装甲を身に纏い、ヴァルシオンのおよそ半分ほどの全長のロボットの名はグランゾン。DCが創りだしたとされ、ヴァルシオンと対をなすもう一体の対異星人戦闘用機動兵器である。

 ヴァルシオンと言う存在が世に知らしめられた事に対し、この機動兵器は識者達の間でのみ発表を行われるに留められ、極めて認知度の低い存在であった。

 しかし、その機体に組み込まれた技術の数々は従来の機動兵器の常識を超越したテクノロジーの塊であり、ヴァルシオンとは別の次元で一線を画した存在と言えよう。

 その力の一端として、このグランゾンが先ほどメテオ3に対して無数のワームホールを開き、そこから超出力のエネルギー砲の雨を降らせ、自身すらワームホールを介して空間の移動を可能としているのだ。

 

 

「これ以上これを野放しにしておくのも好ましくありません。ビアン総帥、私もお手伝いしましょう」

 

 

 そしてそのパイロット。

 20代前半にしていくつもの博士号をもつ天才科学者であり、DCの副総裁を務めるこの男。

 ビアンに勝るとも劣らない傑物の名はシュウ・シラカワ。自身が今操縦しているグランゾンの開発第一人者でもある。

 

 そしてその天賦の才は知能だけにあらず、こうしてグランゾンを操縦している事が異才ぶりの片鱗を証明している。

 グランゾンはその計り知れない性能と比例して、要求される操縦技術も並外れていた。

 それこそ、人知を超えた能力の持ち主が搭乗者であれば、世界を1日で破壊できるとまで言われるほどに。

 

 

「そうか、ならば頼りにさせてもらうぞ」

 

「ええ、我々の本来の目的を成し遂げるために」

 

 

 ビアンがシュウの協力を歓迎し、いざメテオ3の破壊に乗り出そうとしたその時だった。

 水晶の面積がごっそりと削り落とされたメテオ3から、予想外な事に地球の言語で何某かの言葉を発信する電波を通して発しだした。

 ビアンはその電波を受信してメテオ3の言葉に耳を傾けた。

 

 

「ワ……我ガ名……名ハ……セプタギン…………最後……ノ、審判者…」

 

「ふん、この期に及んで審判者とほざくか」

 

 

 ビアンは普段から鋭い眼差しに険しさが加わり、憤怒の表情と称せる顔つきへと変貌する。

 そんなビアンの心情を他所に、メテオ3――――セプタギンは水晶の面積を修復し、拡張させていく。

 

 

「文明レベル……一定値ヲ超過……消去……バルマーノ脅威、速ヤカニ排――――ジョbyが!?」

 

 

 言葉を紡ぐセプタギンへ、超巨大なエネルギーの柱が迸り、セプタギンのボディを穿つ。

 再び大きな風穴が空いた。今度の穴は、先ほど開けられたものよりも更に巨大だ。

 

 とうとう浮力すら失い、そのボディがアイドネウス島へと凄まじい音を立てて墜落する。

 突然の攻撃と、それによって被ったダメージにセプタギンのダメージ値が一気に上がる。

 

 

「警告……警告……直チニ、対象文明ヲ消……」

 

「黙れ岩石如きめ」

 

 

 怒りを滲ませた声がセプタギンの警報を遮った。

 声の主はヴァルシオンの砲撃でセプタギンを地べたに叩き落としたビアン・ゾルダーク。

 コックピットシートに座するその顔は、ビアンを知る人間が見れば驚愕するだろう。未だかつて此処まで怒りを滾らせたビアンは見た事が無い、と。

 

 事実、ビアンは超人的な精神力で冷静さを保ちつつも、愛する美しい地球を穢さんとするこの虚空からの無法者に対して地獄の業火の如き怒りの炎を滾らせていた。

 そして同時に、己の歩んだ人生をふと振り返る。

 

 

(見ているがいい、別の世界のビアン・ゾルダークよ。私は、お前とは違う方法で地球を守る)

 

 

 数年前、ビアンは己の命すら担保に賭けて、地球を守る計画を密かに立てていた。

 今のDCを地球防衛にではなく、世界の敵として結成させて、真の地球の守護者を見定める試金石とする事だった。

 そこで生まれた戦いの果てに自分達が敗れれば、勝者に地球の未来を託す。もしDCが勝つのならば、DCの力で以て世界を統一させ、地球の守護者として君臨するまでである。

 

 だが、その計画はとある存在が介入する事で大きく狂わされた。

 

 誰が予想できるだろうか。別の平行世界の自分が作り上げたロボットの成れの果てが、本人ではないとはいえその造物主の行動を止めるなどとは。

 いくら天才的頭脳を持ったビアンでも、この様な事態は予測しきれなかった。

 

 別の世界から現れた、現在UR-1と呼称される“彼”。

 別の世界の自分(ビアン)が開発した人工知能の成れの果てとも、ビアンの死後ヴァルシオンを悪用した存在が後付で取り付けたものとも考えられたが、判断が付かなかった。

 世界が違えば人の有様にも差異があるだろうとは思うのだが、あそこまで自我の確立した人工知能を果たして開発できるのだろうかという疑問があったのだ。

 人工知能と言う分野において、一人だけ思い当たる人物がビアンの脳裏を過ぎるが、あり得んなとその可能性を除外した。色々と理由はあるが、何よりあそこまで人間そのものとも言っても良い程の自我を持たせるのはその人物でもまず不可能だと結論づけたのだ。

 

 

 そんな“彼”が、自身に備わった恐るべき機能を駆使してビアンが蜂起する原因を作った男、カール・シュトレーゼマンとその一派を尽く暗殺したのだ。

 何故そのような凶行に及んだのか、事前に理由は聞いている。

 “彼”自身がそれを行う前にビアンへ告げたのだ。

 

 

――――ビアン博士、貴方が世界の敵となろうとしているのは、カール・シュトレーゼマンとその一派の横槍が原因なのですよね?

 

――――……ならばもし彼らの存在がいなくなり、地球連邦政府の姿勢が変わるのならば……貴方は踏み止まりますか?

 

――――私にはそれを行える“術”があります。まず間違いなく痕跡は残りません。ビアン博士にご迷惑が被る様な事もありません。

 

――――……ビアン博士、貴方は私の本当の造物主なのかもしれません。ですが、私は一人の友人として、貴方にはどうか生きていて欲しい。

 

 

 “彼”はビアン・ゾルダークを守るために動いたのだ。“己の意思で”

 

 そしてビアンが最も衝撃を覚えたのは“彼”がカール・シュトレーゼマンとその派閥に属する者達を亡き者にした後の事だった。

 

 〝天岩戸事件”

 ビアンとテスラ研の一部の者しか知る事のない、“彼”が突然地下第99番格納庫からあらゆる接触を遮断して引き籠ってしまった騒動だ。

 シュトレーゼマンが謎の死を遂げた後の混乱にEOTI機関も巻き込まれた関係上、その後始末に奔走していた最中に、突如テスラ研のジョナサンが困り果てた様子でビアンへ連絡を寄越してきた理由を聞いて、ビアン自身も驚いた。

 現在進めている仕事を切り上げ、テスラ研へと急行して専用の通信経路を介してコンタクトを何度か試み、ようやく“彼”は反応した。

 

 何があったのかと慎重に訊ね、ようやく返って来た答えにビアンは愕然とする。

 

 “彼”は、シュトレーゼマン一派の暗殺に対して葛藤を抱き、その結果気を病んでしまったのだ。

 

 それはプログラムの矛盾から発生したエラーではない。

 紛う事なき人の心を宿した者が持ち得る良心の摩耗による心理現象だ。

 

 ビアンはその有様に言葉を失った。

 これが機械だと言うのか?

 生物の細胞と同質の金属と言い、これではまるで、人と同等の自我と知性を持つ生物ではないか。

 

 あの時初めて言葉を交わしてから、ビアンは心のどこかで“彼”を人造物として見ていた所がある。

 “彼”のセリフや感情は、高度なプログラミングによって生み出された産物なのだろうと言う科学的な解釈の基に認識していたが、此処までくればもはやその様な無機質な物では無い。

 

『充分に発達した科学は魔法と区別がつかない』

 かの有名なSF作家が遺した一説だが、まさにその通りだ。

 

 “彼”の機体の奥底には、紛う事なき魂が宿っている。未だにそれらを科学的に実証する術を持っていないビアンだが、その類稀なる頭脳と直感がそう結論付けた。

 科学の果てに生み出された奇跡の産物か、それともこの世界へやって来た際に生じたバグやエラーによって誕生した偶然の結果なのかまでは、終ぞビアンにも見極めることは出来なかった。

 

 もはやビアンには“彼”が此処まで己の心をすり減らし、血に濡れてまで自分を守ろうとした“彼”の意思を無碍にする事など出来なかった。

 結果的にではあるが、今の地球はビアンが予想していたよりも良い状況へと進んでいる。

 “彼”の拓いた道を、無駄にはしない。

 

 

「消え失せろ。この星は、貴様の様な輩が穢して良いような所ではない」

 

 

 それゆえにこそ、この宇宙から飛来したよそ者の無法をビアンは断じて許さなかった。

 

 

 

 程なくして、暴走したメテオ3ことセプタギンはヴァルシオン、グランゾンの2体と交戦状態に突入する。

 しかしその十数分後、近辺の無人島が消滅しつつも2体のロボットの手によってこの世界から跡形も無く消滅した。

 ヴァルシオンとグランゾンの常軌を逸した大火力を息つく暇も無く受けた事でボディが耐え切れず爆散し、さらに追い打ちをかける様にグランゾンがブラックホールを生み出してセプタギンを残骸ごと重力の井戸へ引きずり込み、無へ帰したのだ。

 

 これにより、新西暦179年のヒリュウ襲撃から端を発したエアロゲイターとの戦いは、L5宙域での戦い――通称“L5戦役”にて一応の終結を見る。

 地球圏の人類はその勝利に歓喜した。有史以来初の異星文明からの侵略者達を見事退けたのだ。

 

 何も問題が無かったわけではない。

 これまでのエアロゲイターとの戦いで被害を受けた世界各国の都市や施設、そして何より命を落した者達は、いくら戦いで勝ったとしても戻ってくるわけではないのだから。

 

 そもそも、外宇宙からの侵略がこれで最後だと言う保証が無いのだ。

 異星文明の存在が確認された事によって、此度のエアロゲイターの様に地球へ武力介入を行う他の異星文明がいないとも限らない。

 エアロゲイターもあれはあくまで尖兵であって、本隊はいまだに健在だと言う意見が多数挙がっていた。

 

 それらを踏まえ、地球連邦軍はDCの力を借りて軍事拡張計画、通称「イージス計画」の発動を宣言。

 地球圏は戦後の復興と並行して次の襲来に備えて更なる戦力の充実化を図る道へと進んでいった。

 

 

 だが地球圏がこうしている最中に、今度は宇宙の彼方では無く、地球のどこかで息を潜めていた悪意が鎌首をもたげる。

 

 それを人類が知る事になるのは、もう少し。

 

 

 ――――そしてL5戦役からほんの数か月、時が流れる。

 

 

 

 

 

 場所は地球圏ラグランジュポイント5宙域。

 其処にはL5戦役で異星文明エアロゲイターの拠点として運用されていた機械仕掛けの人工惑星ネビーイーム――地球側のコードネーム“ホワイトスター”が、今も未だその宙域に鎮座している。

 先の戦役で所持者であるエアロゲイターが打ち倒された事により、地球連邦軍の管理下に置かれることになった。

 

 接収してからすぐに地球連邦軍はDC、コロニー統合府からはコロニー統合軍を派遣して衛星内部への調査に乗り出した。

 L5戦役収束間際に起こったメテオ3暴走の件があるため、今回は慎重に慎重を重ねた調査だ。

 現在は解析班の手で人工惑星の表層を入念に調べ、慎重にトラップを警戒して内部施設を調べた結果、其処は異星文明が遺したテクノロジーと言う名の宝の山だった。

 地球外の未知の金属物質、地球の概念とは違った食糧生産技術等、小惑星規模のホワイトスターのほんのごく一部の表層ブロックを調べてこれなのだ。最深部まで行けば未だに地球では確立されていないエアロゲイターが保有する物質の転移システムの構造も暴けるかもしれない。

 更には、自分達が辛酸をなめさせられた強力な兵器群が生産プラントの中にゴロゴロとある事だろう。

 解析班達はこの人工惑星が宝船の類に見えた事だろう。湯水のごとく見つかる高度な外宇宙の技術は研究者たちを虜にした。

 

 

 そんな、ホワイトスター内部の奥に設けられた兵器生産プラントの一角で人知れずに脈動する存在達がいた。

 

 数は4つ。それはまるで銀色の糸に包まれた繭の様な形状をしており、繭状の物体から伸びた糸が周りの施設やエアロゲイターの兵器へと絡み付いている。

 その糸に包まれた物はドロドロに溶かされ、繭に吸い込まれていった。

 

 繭の大きさはそれぞれバラバラで、小さいものはPTより小さく、一番大きいものは優に特機以上もある。

 それらが心臓の鼓動の様な音を立てながら生産プラント内部を静かに食い荒らしていったが……突然鼓動が止まった。

 

 

 鼓動が止まってから数分後、突然一番小さい繭の中から何かが突き破って飛び出した。

 飛び出した“ソレ”は空中で軽やかに一回転すると、音も立てずに地面に着地する。

 

 ヴン……と音を立てて二つ眼に光が灯り、光源の無い暗い生産プラント内を僅かに明るくした。

 

 

(――――)

 

 

 人の形をした“ソレ”は、設けられた両手を見る。

 ゆっくりと握っては開き、腕を回し、腰を回して己の体を確認するように動かし、満足すると頭部を俯かせて二つの眼――アイカメラの光を細めた。

 

 

「……懸念が当たってしまったのか」

 

 

 “ソレ”がまるで人間の様な口調で呟く。

 人間の様な口は無い。あくまでその体に取り付けられた音声機構から発せられた声だった。

 

 

「ならば、私は私に課せられた役目を果たすだけだ」

 

 

 強い意志の籠った声と共に、“ソレ”が残り3つの繭へと向いた。

 

 

「さあ、お前達も出て来るんだ」

 

 

 “ソレ”が声をかけた途端、3つの繭達が各々の方法で繭を破ってその中身を顕わにした。

 

 

「――俺達の出番って訳かい」

 

 

 繭が横一文字に切り開かれると、“巨大な羽を持つ人型”が腰に手を当てながら不敵な声色を放つ。

 

 

「――事情は把握している」

 

 

 鋭い爪を備えた獣の脚が繭を叩き破ると、戦艦に匹敵しそうなほどの〝巨大な四肢動物の様な存在”が静かに喋る。

 

 

「――僕ぁシステムオールグリーンですのでいつでもどうぞ」

 

 

 繭から無数の触手状の物体が突き破り、繭を切り裂いたそこから〝甲殻類とも、貝類とも名状しがたい海洋生物の如き何か”が眠たげに返してきた。

 

 

 〝3体”の様子を確認すると、〝ソレ”は頷いた。

 

 

「よし、早速だがこのまま私達は地球へ向かう。皆の役割は〝孵化”する前に情報で送っている通り、問題はないな?」

 

 

 〝ソレ”が問えば、〝3体”から是認の旨が返って来た。

 ならば確認する事は済んだと言わんばかりに〝ソレ”が〝四肢動物の様な存在”へ指示を出した。

 

 

「〝グランド”、砲撃開始だ。間違っても外の人々を巻き込むなよ」

 

「任せたまえ」

 

 

 他の皆が己の背後へ退避したのを確認したグランドと呼ばれる四肢動物の様な存在は、腰だめに構えると口を開いてその奥にある砲口へとエネルギーをチャージ。

 近くの壁目がけてそれを放った。

 

 極大と言うのもおこがましい、砲撃した本人(?)すらかるく覆い尽くすほどの規模を誇る重力エネルギーの砲撃だ。

 その砲撃はホワイトスターの壁面を容易く突き破り、いくつもブロックを貫いて表層部を這い出し、宇宙空間の彼方へと突き抜けて行った。

 

 道が出来るや否や、4体が自身のあらゆる機能を駆使した最大速度で駆け出した。

 

 ある者は翼を広げ、鳥の様な形に姿を変えて飛び立ち。

 またある者は背面の全ての推進装置から炎を噴きながら背中に一番小さな仲間を乗せて四肢を躍動させながら走り。

 更にある者は全身から伸ばしていた触手状の物体をしならせながら宙を泳ぐように進んでいく。

 道行く先々に転がる残骸を蹴散らしながら駆け抜け、そうして4体はホワイトスター外部へ繋がる大穴を抜けて宇宙空間へと躍り出た。

 

 そんな4体に気付いた者達がいる。ホワイトスター近辺を警備している艦隊だ。

 最初は通信で呼びかけを続けていたが4体はそれを完全に無視して地球へ目がけて飛んでいくので、とうとう艦隊は機動部隊を発進させて武力行使による停止を試みた。

 だが、4体の宇宙を駆ける速度が機動部隊を大きく上回り、遂にはそれらを振り切って成層圏へと飛び込んで行った。

 

 向かう先は皆違い、4つに分かれて地球の各地へと大気圏の熱を纏いながら落ちていく。

 

 追いかけてきた警備艦隊は4体の追跡を打ち切り、後の追跡を地球を縄張りとしている地球連邦軍へと連絡して委ねる事にした。

 

 

 

 新西暦188年某月。

 地球圏はホワイトスターから現れ、地球へと降下したと観測された謎の機動兵器をエアロゲイターの残党と目し、それらに対して「AGX16~19」のコードネームを付けて捜索を開始する。

 だが世界各地へ地球連邦軍、DCの部隊を派遣して捜索に乗り出したものの、現在に至るまで彼らは発見されることは無かった。




最後の審判者さんはブラックホールの彼方へボッシュートされました。


と言う訳で、OG1編は終了してOG2編の始まりです。
ちょっと一時的に主人公がバトンタッチします。根本的な所は変わらないと言えばそうなのですけれども。

4体の愉快な仲間達は特定の地域を徘徊していれば会えるかも(ポ○モン的な意味で

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