ランサーとバゼットのルーン魔術講座   作:kanpan

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冬コミの日向け特別おまけ編です。


アトゴウラ《algiz、nauthiz、ansuz、inguz》

 バゼットは目の前にいる男を凝視している。あの青い戦装束の男は間違いなくサーヴァントだ。だがそんなはずはない。

 サーヴァントは7騎しか存在しないはず。今彼女の目の前に立っている男は彼女が存在を知らないサーヴァントなのだ。

 バゼットは傍らにいる影に尋ねた。

 

「アレは何のサーヴァントだ。セイバーでもない。アーチャーでもない。ライダーでもキャスターでもアサシンでもない」

「何って一目瞭然じゃないか。なあマスター。あの武器を見て、まだ何もわからないのか」

 

 武器———? バゼットは青い男の手元を見た。その手にあるのは禍々しい真紅の長い槍。

 その男はバゼットに向けて冷酷に言い放つ。

 

「おい。今からアンタを殺す訳だが」

「え———?」

 

 青い男の非情な声に、バゼットは怯えたように身構えた。すでにバゼットから戦意は消え失せていた。震える声で男に向かって叫ぶ。

 

「違う———私は貴方とは戦わない……!

 だって、だって———貴方、私のコト———知っているんだもの!

 ランサーーーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 バゼットはランサーに向かって一直線に走り出した。ランサーは槍を放り出し両手を広げてバゼットを迎える。

 

「ああ、バゼット! バゼットじゃないか。生きてたんだな!」

「ランサー! また会えてよかった。もう貴方を放しません!」

 

 2人はしっかりと抱き合った。

 そしてそのまま熱い口づけをかわし————————

 

————————————————

————————

 

 

「…………………………」

 

「どうですか、ランサー!」

 

 ランサーはそのバゼットの一言で、ようやく心臓を貫かれたかのようなショックから息を吹き返した。

 

「えっと、これは……」

 

 ランサーはバゼットに渡された薄い本を呆然とめくりながら呻いた。それは冬コミに出展するといってバゼットが持ってきた同人誌だ。

 

 アトゴウラってこんな話だっけ? ランサーの記憶ではこのシーンは赤枝の騎士の精神を受け継ぐ主従がその運命に殉じる悲しくも美しい名場面だったはずなのだが。

 

「他でもない貴方に声も出ないほど感激して貰えるとは。ああ……、この作品を書き上げた甲斐がありました」

 

 声が出ないほどの衝撃を受けただけ、という事実をランサーはまだショックから立ち直れていないので声に出せないだけだ。

 

 バゼットの目から涙がつたう。涙を拭いながらバゼットは言った。

 

「人間は嬉しくても泣けるのですね。子供の頃には学ばなかったことを今さらになって思い知りました」

 

 バゼットは手に持った同人誌の表紙をくるりとランサーの方に向けた。表紙の四隅に1つづつルーン文字が配置されている。

 algiz(アルジズ)nauthiz(ナウシズ)ansuz(アンサズ)inguz(イングス)……。

 

「同人誌の四隅にはアトゴウラのルーンを印刷しました。ルーン使いなら意味が分かるでしょう?」

 

「えっえっ!?」

 

 どういう意味だかさっぱりわからない。戸惑うランサーに自信満々でバゼットは告げた。

 

「この陣を敷いた作者に敗走は許されず、この陣を見た読者に退却は許されない。

 そう、完売まちがいなしです」

 

 

 

 ドンドン、とランサーとバゼットの館のドアが叩かれた。玄関の外から、

 

「バゼット!」

 

 と呼ぶ声がする。結界を張って他人を寄せ付けないようにしているこの隠れ家を訪ねてくるのは只者ではない。

 警戒しながらランサーはがちゃりとドアを開けた。

 そこには———

 セイバー、ライダー、キャスターが雁首揃えてやってきていた。

 

「さあ出陣です、メイガス!」

「何を手間取っているのですか。あまり待たせないでください」

「早く支度しないと置いていくわよ」

 

 突然、女サーヴァント軍団に押し掛けられてランサーはわけもわからず当惑している。

 

「何だよ、オマエら何しにきたんだよ」

「冬コミのサークルですよ、ランサー。私の同人誌にセイバー、ライダー、キャスターも寄稿してくれたのです」

 

 寄稿だと……?

 ランサーは手にしていた同人誌のページをぱらぱらとめくった。確かにバゼットの謎の小説のあとにも別の謎の小説が載っていた。

 

 

〜 アーサー親子物語 〜

 

騎士王への忠誠で一致団結した円卓の騎士たちの大活躍によってブリテンは異民族を退け、騎士たちと国民は平和な日々を過ごす事ができました。

セイバーは国を一つにまとめ危機を救った偉大な王として後世まで讃えられました。

 

ランスロットとギネグィアは仲の良い夫婦となり、

セイバーは素直でかわいい息子のモードレッドと共に末永くブリテンを統治しました。

 

 

〜 Pereforme 〜

 

形なき島にはとても仲のよい三人姉妹が住んでいました。その名もゴルゴン三姉妹。

長女ステンノ、次女エウリュアレ、三女メドゥーサです。

3人は唄って踊れるテクノユニット Pereforme(ペルレフォーム)を結成し、日々アイドルとして活動していました。

 

彼女たちの住む島には絶え間なくファンの男性が訪れ、

ファンからのプレゼントとお布施で三姉妹は裕福に楽しく暮らしました。

 

 

〜 魔法少女プリンセス☆メディア 〜

 

コルキスの王女メディアに女神アフロディテがかけた呪いは失敗し、イアソンはとっとと追い返された。

 

「アルゴンコイーン☆」

 

メディアはコルキスの秘法、金羊の皮を地に投げた。地面から姿を現した竜の背に乗って、魔法王女メディアは今日もコルキスの平和の為に得意の魔術を披露する。

 

そう私はこのために———魔法少女になるために魔術を習ったの!

 

 

 

 届かない願いの具現。叶えたい夢の実現。それが二次創作だ。

 同人誌の世界なら、特別な力を持たない一般人でも現実にはあり得ない物語を読み書きする事ができる。

 ああそれは、ある意味で聖杯のような万能の願望機なのかもしれない。

 

 

 

 では、いってきます。

 とバゼット含め女ども4人は出かけて行った。

 

 ランサーは手元の同人誌を閉じてテーブルに放りなげてからぼそりと呟いた。

 

 釣りにでも行くか……。アーチャーとギルガメッシュいるかな。

 今日は男同士で駄弁るのも悪くない気がする。

 

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四枝の浅瀬(アトゴウラ)  

 

意味:赤枝の騎士に伝わる一騎討ちの大禁戒。

   その陣を布いた戦士に敗走は許されず、その陣を見た戦士に、退却は許されない。




ランサー「そうか、オレもゲイ・ボルクが百発百中する二次創作を書けばいいのか!」

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