ランサーとバゼットのルーン魔術講座   作:kanpan

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キャラによるグッズ格差って顕著だよね。


喜び 《wunjo》

 今日も偵察と称して街を散歩したランサーとバゼット。二人は帰り道のついでにコンビニに立ち寄った。

 会計を済ませたバゼットの横でランサーはカウンターの上の揚げ物のケースを覗き込んでいる。

 

「買い物終わりましたよ。ランサー、何を見てるのですか」

「バゼット、からあげ丸の新しい味がでてるぜ」

「あなたはまたそういうものを。どれもたいして変わらないのでは」

「まあそう言うなよ。期間限定なんだぜ」

 

 言うが早いか、ランサーはバゼットの隣からひょいと店員の前に顔を出して「ビーフシチュー味2個ください」などと注文していた。

 

「はあ……」

 

 とため息をつきつつ、バゼットはカウンターに背を向けて店内に目をやる。なんの変わりばえもないコンビニの棚の並びに何も考えず目を泳がせていたが、思わず視点が固まった。

 ある人物が棚の前で陳列物を凝視していた。その人物のイメージを一言で表現するなら紫。紫色の髪に尖ったエルフ耳。今はデニムジャケットに巻きスカートという現代衣装だが、深紫の長いローブに身を包んで夜の闇に浮かんでいた妖しい姿を思い出す。

 

「キャスター」

 

 呼びかけられてキャスターがくるりとバゼットの方を向いた。おしゃれな普段着姿のキャスターは見た目上品な美女なのだが、バゼットを見るその目つきは険悪である。

 

「でたわね。この狂犬バカップル。さっさと保健所に自主的に出頭しなさい」

「声をかけただけなのに、ずいぶんひどい言いようですね」

 

 お互い敵対するマスターとサーヴァント同士なのだから仲が悪いのは無理もない。なにしろランサーとバゼットは時々夜中にキャスターの根城に現れては挨拶代わりにキャスターの竜牙兵を蹴散らしたりしているのだから。

 そこにからあげを買い終わったランサーが戻ってきた。

 

「キャスター。もう料理に挫折して、値引き品の総菜争奪戦すらあきらめてコンビニかよ。まだ新婚なんだから手抜きはよくねえぞ」

「ちがうわ!」

「じゃあ何してたんだよ?」

 

 ランサーはキャスターの目の前の棚を見てみた。そこには最近人気のアニメのキャラクターグッズがぎっしりと並んでいた。キーホルダーとか缶バッジとか小さなマスコットとかである。

 

「ははあ、アンタにもこんな少女趣味があるワケね」

「黙りなさいランサー。余計なお世話よ」

 

 キャスターがムキになって言い返しているが、顔を赤らめているあたり図星だろう。本気でこの棚のキャラクターグッズが欲しいらしい。

 バゼットはそのグッズの棚にG賞やF賞といった札がついているのに気がついた。さらに棚の一番上には「最後で賞」という札がついたでっかいぬいぐるみが載っている。

 

「これは一等クジですね」

「あー、これがか」

 

 一等クジとはひけば必ず何かあたるハズレ無しのくじ引きである。最近コンビニなどでよく見かけるようになった。

 このくじのポイントは最後の一枚を買った人にはダントツに良い景品がプレゼントされるところにある。普通くじ引きは人気の景品が減っていくとくじを買う人が減って売れ残りがちだが、この仕組みのおかげで売れ残りが少ない。最後の一番いい賞がどうしても欲しい人は残りのくじを全部買ってしまえばいいのだから。

 

「実にマニア心をくすぐる仕組みだよな」

「考えた人は知恵者ですね」

 

 ランサーとバゼットは棚に並ぶグッズを端から眺めてみた。いくつかのアニメ関連のグッズがある。この店では複数のくじをやっているようだ。

 そして棚の一角には街でよく見かける人が剣を構えていたり、ライオンの着ぐるみを着ている人形などが並んでいた。というか、セイバーのグッズだった。

 

「お、バゼット。Fateのくじがあるぜ」

「予想通りですが我々のグッズはないですね。見たところ全部セイバーです。

 私とてFate作品のヒロインのはずなのですが、立場の違いを思い知りますね……」

 

 キャスターの方をちらっと見ると顔を赤くしたままむすっと黙っている。どうやらキャスターの目当てはセイバーのグッズのようだ。

 

「キャスター、何でそんなにセイバーのグッズが欲しいんだよ? 敵同士じゃねえのか」

「敵同士ではあるけど喧嘩ばかりしているわけではないわ。セイバーも時々私の内職の手伝いに来てくれるのよ」

 

 なんでもキャスターはときどきセイバーを柳洞寺に呼び出してドレス作りの内職を手伝わせているそうだ。セイバーもこれはこれでやりがいがあると言っているのだとか。意外にキャスターとセイバーは仲がいい時もあるらしい。

 それにしてもキャスターはセイバーのクジをひくかどうかで延々と棚の前で考えこんでいたのか。

 バゼットはキャスターに言ってみた。

 

「簡単な話ではありませんか。残りのくじを買い占めればいいのでは? グッズが全部手に入りますよ」

「もうお小遣いがないの。主婦のやりくりは大変なのよ。守るべき家庭もなくふらふらしている野良犬のような身の上の貴方たちと一緒にしないで」

 

 あう、とバゼットは黙る。撃退されたマスターに変わってランサーがキャスターに質問を続けた。

 

「キャスター、アンタならささっと魔術使っちゃえば? どうせ百発百中になる術でもあるんだろ?」

「あのねえ……。宗一郎様の教え子も来る店でそんなアヤシイ真似はできないわ。まったく北方の野蛮人たちは礼儀をしらないわね。そもそも関係者の不正行為はいけません」

 

 キャスターにまともな理屈をまくしたてられ、バゼットはたじたじと後ずさっている。ランサーはふうん、とおもしろそうに話を聞いていた。

 

「うう、まったく正論ですね……」

「じゃあ、オレもくじをひいてみるかな」

「ランサー!?」

 

 バゼットは驚いてランサーの方を振り向いた。ランサーがこんなくじに興味を持つとは思わなかった。また目新しいモノに手を出そうとしているのだろうか。だがしかし、

 

「くじをひくのは問題ないのですが、ランサー、あなたの幸運パラメータはEですよ」

「はうっ」

 

 ランサーは我に返った。

 くすくすとキャスターが笑う。

 

「ああ、でも私のポリシーは気にしなくていいのよ。どうせ貴方たちの貧弱な魔術なら影響ないでしょうし」

 

 むむ、とバゼットはキャスターを見返した。いくら相手が魔術師(キャスター)のサーヴァントであろうとも、そこまでバカにされっぱなしで黙っているわけにはいかない。

 

「言いましたねキャスター。ではお言葉に甘えるとしましょうか。くじをひきましょう、ランサー!」

 

 バゼットはランサーの右手をとってルーン文字を書き込む。三角形の旗のような図形だ。

 

wunjo(ウンジョー)のルーンか」

「ええ、努力が実る喜びのルーンです。

 ですが、私は戦闘魔術以外は苦手なので、実質おまじないくらいの効力です……。街角の占い師程度のレベルでしょうか」

「大丈夫だって。じゃ、くじをひくぜ」

 

 バゼットは自信なさそうだったが、ランサーは意気揚々とくじをひきにカウンターに向かった。

 くじの箱に手を突っ込んでガサゴソやっているランサーをバゼットとキャスターは後ろから見ている。バゼットは内心ひやひやしていた。これで最下位の賞だったらまたキャスターの嘲笑が響くだろう、せめて真ん中くらいの賞が当たってほしいものですが。

 キャスターは無言でじっと様子を見ている。

 結果がわかったらしくランサーがくるりとこっちを振り向いた。

 

「A+賞だぜ!」

 

 こちらが賞品になりますと店員がカウンターに箱を出してきた。バゼットとキャスターも賞品を確認しにカウンターに近寄った。

 

「セイバーの人形ですね」

「こういうのはフィギュアと呼ぶんだ。マニアが欲しがるアイテムなんだぞ」

「なるほど。それにしてもこれは我々が見た事のない服装です。それにしてもセイバーには服装バリエーションが多い」

 

 またしてもヒロイン格差を感じるバゼットであった。

 一方、キャスターは眼を見開いてフィギュアを凝視している。

 

「ああああああああああああああああああああ」

「キャスター、アンタこれが欲しかったのかよ」

「まさか貴方たちにこれを当てられてしまうなんて……」

 

 キャスターはぎりぎりと歯ぎしりしてこの上なく悔しそうにランサーの顔を見ている。あ、目にはうっすら悔し涙まで浮かんでる。

 恨み顔のキャスターにランサーはあっさりと言った。

 

「じゃあコレあんたにやるよ」

「い、いいの?」

 

 キャスターは驚いて目を丸くし、ランサーとバゼットの顔を交互に見ている。

 

「オレはくじをひいてみて気が済んだしな。いいだろバゼット?」

「ええ、どうぞ。家にセイバーの人形があってはむやみに闘志が湧いてしまい落ち着かないですから」

「あ、あ、ありがとう——————————!!!」

 

 

 キャスターはフィギュアを抱えてコンビニのカウンターの前でくるくる舞っていた。見ているランサーとバゼットが恥ずかしくなって、ほっといて帰ろうかと目配せしあった頃にキャスターはようやく喜びの踊りをやめ、

 

「礼をいうわ。代わりに先日貴方たち柳洞寺で暴れた件は不問にして上げましょう」

 

 そう言い残してキャスターは去っていった。

 ウキウキとした足取りで街の人混みにまぎれていくキャスターを見送って、ランサーとバゼットもようやくコンビニから出た。

 

「あれだけ喜ばれると気分が良いものですね。ランサー、あなたのグッズが出たらまたくじを買いましょう!」

「はいはい、早く帰ってからあげ食おうぜ、バゼット」

 

 

 

 その日の夜。

 セイバーは柳洞寺を訪れた。キャスターから内職の手伝いがてら見せたいものがあるからと呼ばれたのだ。

 キャスターの部屋の前に案内されたセイバーは挨拶をしながらふすまを開けた。

 

「こんばんは、キャスター。私に見せたいものとは何ですか?

 ……と、えっ、こっこれは一体」

 

 キャスターの部屋を見回したセイバーは思わず驚きの声をあげた。部屋の壁の棚一杯に小さなセイバーが、それも様々な衣装とポーズのセイバーのフィギュアがずらりと飾ってあったのだから。

 

 部屋の真ん中のちゃぶ台には満面の笑顔を浮かべたキャスターがいた。そのちゃぶ台の上にもフィギュアのセイバーが載っている。

 それを見たセイバーはさらに固まる。

 

「キャスター、そ、そのフィギュアの衣装は………」

 

 上半身が胸から下しか覆われていない白のロングドレス。腰に紫の大きなリボンがアクセント。

 

「あの時の衣装よ。可愛いでしょう、セイバー。ふふふふふ」

「えっ、ええええええええ—————!?」

 

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wunjo(ウンジョー)  

 

象徴:喜び

英字:W

意味:喜びを象徴する豊かさ、充実のルーン。果実の実る木の形をしている。努力が実り念願が叶う、望みが満たされるなど幸運を意味する。

 

ルーン図形:

【挿絵表示】

 




例のシーン、アニメUBWではどうなるんでしょうか。

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