※今回はやや長めです。ゆっくりお楽しみください。
夜の街を笑顔で談笑しながら歩く男女がいた。
「はっはっは、痛快だったな!」
「久しぶりにいい汗がかけましたね」
会話だけ聞けばスポーツジム帰りの爽やかなカップルのように感じる。だが彼らの外見がその印象を打ち砕く。男は青い戦装束に鋭利な刃のついた赤い槍を担ぎ、女は黒のスーツをきっちり着込んで手には革手袋をはめている。
彼らの会話によく耳を澄ませたなら
「たまには思いっきり暴れないと腕がなまっちまうからな」
「ええ、最近少し
と穏やかでないことを言っているのに気づけただろう。
この物騒な男女、ランサーとバゼットは柳洞寺を出て深山町の彼らの隠れ家に帰宅中だ。
この夜、ランサーとバゼットはキャスターの本拠地である柳洞寺に攻撃を仕掛けた。
理由は、
「ちょっと殴りたい気分になったから」
柳洞寺の山はキャスターが作った結界に守られており、サーヴァントが侵入する事ができない。なのでランサーとバゼットは堂々と参道を通って山門に突撃した。
山門からはキャスターが作った使い魔、竜牙兵が深夜の侵入者たちを迎え撃つべく、わらわらと姿を現した。
その竜牙兵を、
「うらうらうらァ!」
ランサーは朱槍をぶんぶん振り回してなぎ倒しまくり
「フッ、シッ、ハッ!」
バゼットはルーンで硬化した拳を振るって殴り倒しまくる。
彼らが通り抜けた後の地面には砕け散った竜牙兵の白い破片がバラバラと散らばっていく。
真夜中の境内はいつもは深い静けさに包まれているはずだ。だが今夜はランサーとバゼットが奏でるガシャンガシャンという派手な騒音がその静寂をぶちこわしていた。
山門の異変に気づいたキャスターは慌てて眠りこけていたアサシン小次郎を叩き起こしたのだが、既にランサーとバゼットはキャスターの竜牙兵をほぼ全部木っ端みじんに蹴散らし終わっていた。
小次郎が山門に駆けつけたときには既に
「わっはっは!」
と高笑いを残し、ランサーとバゼットが悠々と引き上げた後であった。
「今日は楽しかったなあ」
「キャスターが竜牙兵を作り直した頃にまた
帰宅したランサーとバゼットは部屋でくつろぐ。
ふと、バゼットが思い出したように言った。
「竜牙兵を見て思ったのですが、私たちも使い魔がほしいですね。キャスターのように何匹も作る必要はありませんが、一匹いれば留守番や宅配便の受け取りに便利そうです」
「おお、そいつはいいねえ」
「そうは言ってもさすがにキャスターほど器用ではないので、作るとしても単純なゴーレム程度になりそうですが」
「それならよ、バゼット。この国では巨大ロボットを作るのが人気らしいぜ」
「巨大ロボット……?」
そういえばランサーは最近日本のアニメに夢中になっていた、とバゼットは思い出した。
バゼットが夜中にふと目を覚ますとランサーがパソコンにかじりついて何か見ている。何を見ているのかと尋ねて返ってきた答えは、ガンダム、マクロス、エヴァンゲリオン……。テーブルには山のようにロボットアニメのDVDが積まれていた。
ランサーはいつの間にか大量のアニメのDVDと観賞用のパソコンを調達してきていた。おそらく例によって衛宮士郎から借りてきたのだろう。
「ランサー、それはアニメの話でしょう?」
まったく、この国のアニメにすっかり影響されてしまって。現実とアニメを混同してはいけない。
「これみてくれよ、バゼット!」
ランサーはかちゃかちゃっとパソコンを操作しとある写真を表示してバゼットに見せる。
「こっ、これは……」
その写真には巨大な白いロボットが屋外に立っている姿が映っていた。バゼットはおもわずがたっ!と立ち上がりパソコンのディスプレイを両手でつかんで聞く。
「ランサー、これは本物のガンダムでしょうかっ!」
「おうよ、すごいだろバゼット!」
興奮気味のバゼットに目を輝かせて答えるランサー。
「なんと、もうアニメのロボットが実際に製造されているとは……。
日本はおそるべき国ですね」
むろんこの実物大ガンダムはイベントの見せ物にすぎない。だがランサーとバゼットはこういうロボットがこの国には普通にあるものだと勘違いした。時の果てからやってきた英霊と歳の割に世間知らずの外国人は、その辺りの判断基準が怪しかった。
ランサーとバゼットはお互いの瞳を見つめ、うなずき合う。
「日本の科学は素晴らしい。我々も負けてはいられません」
翌日、商店街でランサーとバゼットは粘土を買い込んできた。館に帰るなりさっそく粘土をこねて膝丈ぐらいの大きさの人形をつくり、それにいくつかの魔術を施す。すると粘土人形は立って歩き回るようになった。
「お、いい感じじゃねえか」
「初歩のゴーレム作成魔術です。実のところ私はこの手の魔術は得意ではないのでおもちゃのようなものです。命令通り歩き回る程度の能力しかありませんが」
そういいながら、バゼットは手に持ったマジックペンの蓋をぱこっと外した。
「ん、何だ、 何か書くのか?」
「今のままでは強度にも問題があります。何かにぶつかったらあっさり壊れてしまうでしょう。そこで強化のルーンを人形に書き込むのです。
さらに、このままではそもそも小さすぎる」
「ふうん、で?」
尋ねるランサーに、バゼットはにやりと得意げに笑う。
「ランサー、我々には巨大ロボット作成にうってつけのルーンがあります」
ランサーは一瞬意味を取りかねて不思議そうな顔をしていたが、ふとひらめいてぽんと手を打った。
「ああ、アレな! なるほどねえ。
へへへ、じゃあ強化のルーンのほうはオレに任せとけよ」
ランサーはバゼットからマジックペンを受け取ると人形のあちこちにきゅきゅきゅっといくつかのルーンを書き込んだ。
「これでよし、と。仕上げは頼むぜ、バゼット」
ランサーからペンを渡されたバゼットはまだ空いている人形の足に1つのルーンを書き込む。棒に三角のトゲがついたような形をした文字だ。
「仕上げは、ずばり巨人のルーン
書き上げ次第バゼットは
ずももももももももももももももっ!
粘土人形は巨大化した。
「おおおおおおお」
巨人と化した人形を見上げてランサーは歓声を上げる。
「全長約20メートル。大きさはかの有名なモビルスーツにも劣りません!
名付けて……」
バゼットは巨人の前でびしっと謎のポーズを決めた。
「『ルーン巨人 スリザズーン』の誕生です!」
「わはははははは! おもしれえ。さっそく街に行ってみようぜ!」
ランサーとバゼットはタタッと巨人の肩に駆け上がる。高みからの見晴らしは快適だ。まるで自らが巨大化したかのような錯覚さえする。
バゼットは街の方向を指差し声高らかに号令を下した。
「進め、スリザズーン!」
巨人はズシンと足音を響かせ、深山町の市街地に向かっていく。
「な、なんだあれは!」
「巨人が進撃してくる!」
「ママー、でっかいロボット」「しっ! 指差しちゃいけません」
突然の謎の巨人の出現に住宅街は騒然となっていた。多くの人が家から飛び出したり、家の窓から身を乗り出して、ずんずんと街を闊歩する巨人の姿を目撃した。
街の混乱の声は巨人の肩に載っている二人にも聞こえてくる。
「ははは、俺たち大人気だな!」
「冬木市の人々は我らがスリザズーンに注目してくれているようですね、ふふふ」
周囲の大騒ぎを人気と思い、ランサーとバゼットは気を良くしている。だが、
「バゼット!、それにランサー!」
彼らの足下でざわめく喧噪の中からひときわ高く、ランサーとバゼットの名を呼ぶ声がした。
「む?」
バゼットは巨人の足下を見下ろして声の主を探す。すぐに気づいた。赤くて目立つ二人組がこちらをまっすぐに見上げている。遠坂凛とアーチャーだ。
遠坂凛は住宅街に謎の巨人が現れたと聞いて、即座にアーチャーを従え現場に駆けつけた。こんな騒ぎの原因はおそらくどこかのマスターとサーヴァントに相違ない。
駆けつけて見れば想像通り。
「あの戦闘バカ、何のつもりよ……」
遠坂家は冬木の地を預かるセカンドオーナーだ。外来の魔術師が起こす騒動を放っては置けない。
「私の土地で勝手な真似はさせないわ」
遠坂家の家訓は『常に余裕をもって優雅たれ』。そう、相手が魔術協会の封印指定執行者だとしても、遠坂の当主として悠然たる姿を見せつけなくては。
凛はバゼットを鋭く見据えつつ呼びかける。威厳を保ち、堂々と。
「バゼット、何そのゴーレム。街を破壊する気?
だいたい魔術の神秘の秘匿をなんだと思ってるのかしら。魔術協会に言いつけるわよ」
ぴしりと言い切り、凛はツインテールをさらりと片手で払った。
内心で思う。よし、きまった。
バゼットはそんな凛の姿を怪訝そうに見ている。
「なにを言っているのです、遠坂凛。
巨大ロボットは日本の工業のお家芸だと聞きました。この国では別にめずらしくもないのでしょう? それなのに日本人である貴方がなぜそんなに驚くのですか?」
そこまで言って、バゼットはふと思い出した。凛には一見彼女らしくない、意外な特徴があるのだ。思わずフッと笑う。
「ああ、そういえば遠坂凛。あなたは現代科学に疎いのでしたっけ」
「なっ、なぬ!」
い、いま鼻で笑ったな……現代科学に……なんですって!
凛の耳はバゼットの余計な一言を敏感にキャッチした。あの人間凶器女、許すまじ。
隣のアーチャーの方を勢いよく振り向く。
「撃ち落としなさい、アーチャー!」
「凛、優雅に振る舞っている時間が短すぎるように思うのだが。余裕というものにはスルースキルも含まれるのではないかな……」
軽く凛をいさめようとしたアーチャーだったが、彼女の目を見て思わず口ごもった。向き合った凛の視線の迫力には鬼気迫るものが宿っている。
「ああ、そら魔術の神秘の秘匿をすべきだとかもあるのでは……。
……とにかく了解した」
迫力を増す主の眼に堪えかね、アーチャーは口をつぐんで戦闘態勢に入る。手ぶらだったアーチャーの手にはいつの間にか弓が握られていた。
「遊びがすぎたな、ランサー。撃ち落とす!」
アーチャーは巨人の胸板めがけて、ぎりっと弓を引き絞る。
構えているのは矢というよりも、全体がドリルのように螺旋状に拗くれた奇妙な剣に見える。これは単なる矢でも剣でもない。剣製の英霊たるアーチャーが作り出す、ケルト神話の伝説の剣カラドボルグの
「
アーチャーは剣の銘を呼び、弦を放った。オリジナルよりランクが劣るとはいえ宝具による一撃だ。でかいだけの人形の胸板に大穴を開けるだろう。
偽・螺旋剣はまっすぐに巨人に向かって飛翔し、その体のど真ん中に突き刺さり抉らんとする。
アーチャーは偽・螺旋剣が巨人の胸板をズバン!と貫通すると確信した。
ガツッッッッッッッッッッッッ!
しかし響いた音は鈍い衝突音。偽・螺旋剣は巨人の体に弾かれて地面に転がる。
「何だと……」
アーチャーの放った剣は巨人の体に傷一つつけることができなかった。
「はっはっは!」
ランサーの愉快そうな笑い声がアーチャーの頭上に振ってくる。
「この巨人にはオレの原初の18のルーンの護りを施してある。上級宝具の一撃も防ぐ技なのさ。どうだ堅てえだろ?
オレにカラドボルグはいい選択だが、あいにくとテメエはアルスター生まれじゃなくて残念だったな」
「どうです、我らがルーン巨人スリザズ—ンの能力は!」
してやったりと得意げに笑っているランサーとバゼットに対して、
「くっ……」
アーチャーは悔しそうに巨人を見上げた。
「すげー! ロボットすげー!!」
「けど、あの赤い人のさっきの弓矢すごかったぜ!」
「激突したときの写真とれた!?」
「ねえ、あれ何のアニメのコスプレ?」
巨人の周囲はすでに野次馬だらけになっていた。謎の巨人、そして巨人と戦うこれまた謎のヒーローの出現に野次馬は大喜びし、盛り上がっている。
その喧噪うずまく人混みのなかを
「どいてください」
がしゃり、と金属音を響かせて鎧姿の少女が掻き分けて前に出る。また新しい謎の人物の出現にさらに沸き立つ野次馬を背にして、少女は巨人の目の前に立ちはだかった。
「ランサーーー!」
少女は巨人の肩に乗る人影に向かって叫んだ。その一声は激しく、しかし涼やかに周囲に響きわたる。ざわついていた野次馬が静まり、浮ついた空気さえもが引き締まる。
「お!?」
「この清澄な剣気……セイバーですね」
地上に眼をやったランサーとバゼットの視線の先で、青い衣に白銀の甲冑をまとった
今のセイバーは商店街で大判焼きや中華まんを抱えて歩く腹ペコ王ではない。彼女が右手に握るのは揺らめく風に守られた不可視の剣だ。
「よう、セイバー! オマエも来たか。どうだオレたちのロボットは」
相変わらずランサーは陽気なノリでセイバーに挨拶を返したが、セイバーがそのノリに付き合ってくれそうな気配はなさそうだ。
「ランサーに
セイバーはちゃきっ、と右手の剣をランサーとバゼットのほうに掲げつつ気を吐いている。すっかり本気だ。生真面目なセイバーにランサーは少々困惑した。
「うう、相変わらず遊びのわからねえやつだなあ」
セイバーは剣を両手で構え直した。見えない刀身を支点に風が渦を巻く。風の渦は瞬く間に強くなり、セイバーの周囲に突発的な豪風が吹き荒れた。
セイバーの後ろでがやがやと観戦していた野次馬の集団は風のあおりをまともにくらう。
「うわわわ、飛ばされる」
「なんだ、この突風は!」
「ひいいいいい」
ごおっ!と巻き起こった風は野次馬の集団を数メートル後ろまで押し戻した。
———よし、
セイバーは剣を持った両手を頭上に高く掲げる。セイバーの手元から徐々に風のヴェールが取り払われ、金色にまばゆく輝く剣が姿を現し、辺りを照らす。
周囲を騒がしていた悲鳴や歓声が、感嘆のどよめきに変わっていく。
「光の剣だ!」
「ライトセイバーだ!」
「いや、フォトン・ソードだ!」
ランサーとバゼットは巨人の肩から輝きを増していく聖剣を見つめている。バゼットは傍らのランサーに声をかけた。
「ランサー、セイバーは宝具を使う気です。ここは私に」
「え、バゼット?」
ランサーがバゼットを見ると眉をきりっと引き締め、真剣にセイバーの姿を見つめている。
あれ? いつの間にか向こうのノリに釣られてないか……、もっと軽いカンジで来たつもりが。
戸惑うランサーに構わず、バゼットは背負っていた筒からごろりと球体をとりだした。
「
詠唱とともに球体がバゼットの頭上に浮遊する。セイバーの剣の光を感知してフラガラックも青く輝き始めた。バゼットの持つフラガ家秘伝の迎撃礼装がセイバーの宝具発動を待ち構える。
———あ、こっちももう遊びじゃなくなってるっぽい。
地上で構えられる聖剣が輝きを集めるごとに、巨人の上に浮かぶ逆光剣もさらに閃光をまとってゆく。
地上と空中で黄金の光と青い雷は輝きを増しながらにらみ合う。
「おい……ちょっと……」
ランサーが見守る前で正面に構えていたセイバーが一歩足を踏み出した。それを見てバゼットも右腕を大きく後ろに引いた。
「
「
セイバーとバゼットが宝具の真名を叫び、
ランサーの悲鳴があたりにこだまする。
「うわあ、オマエらマジなのかあああああああああああ」
セイバーが頭上高く掲げた聖剣を振り下ろそうとしたその時、
「だめだ、セイバァァァーーーーーーーーーーーー!!」
人混みの中を突っ切って飛び出してきた少年が一人。そのままセイバーの横に走り込む。
「シロウ!」
驚いたセイバーは間一髪、エクスカリバーを振りかぶったまま静止した。
「セイバー、ここでエクスカリバーは駄目だ」
「シロウ、出力をぎりぎり絞れば」
衛宮士郎は頑に首をふる。
「ここでセイバーがエクスカリバーを撃って、街が無傷ということは考えられないだろ」
「……仕方ありません」
セイバーは聖剣を降ろす。漲っていた光が散り、もとの黄金の剣の姿に戻った。しかしセイバーはいまだに手に剣を握ったまま、巨人の肩にいるランサーとバゼットを見据えている。
「ですが、一度抜いた剣をやすやすと収めるわけにはいかない」
セイバーの宝具の発動は消えた。宝具を打ち返そうと狙っていたバゼットのフラガラックも光を失い、もとの球体に戻った。バゼットは宙から落ちてきたフラガラックの玉をぱしりと受け取る。こちらも宝具は仕舞ったが、やはりセイバーから眼をはなさない。
「無論、我らも敵を前にして背を向ける事などできない。ですよね、ランサー!?」
「えっ、そろそろ帰らないか、バゼット……」
「ランサー、貴方ほどの人が何を言うのですか」
「アンタ、セイバーに釣られ過ぎだーーー!」
口喧嘩を始めたランサーとバゼット。その足下からふいに、
「ワン!」
と犬の声がした。
「ん、見た事ある犬だな?」
「あれはこの前の子犬では?」
巨人の足下を見下ろすと、茶色い子犬がランサーとバゼットを見て「ワオン!」と鳴きながらぶんぶんと尻尾を振っている。
あれは確か、先日飼い主探しをした迷子の子犬だ。
そして、野次馬の人垣のなかから飼い主の少年が子犬を呼んでいるのが見えた。
「タロー!そっちへいっちゃだめだ。危ない!」
子犬は飼い主の少年に「ワン!」と応えると、巨人の足にしゃーっ、とおしっこをかけてから少年の元に走って戻っていった。
ごごごごごごごごごごごご…………
「おや?」
巨人の肩に乗っているランサーとバゼットは不思議な振動を感じた。
「な、なんでしょうか、この揺れと音は……」
「な、なんか巨人が揺れてないか、バゼット?」
不審に感じた二人が巨人の体を見下ろすと、がこっ!という音とともに巨人の片足が崩れていく。
「なっ、なぬ!?」
「ええええええええええ!?」
がらがらがらがらがらがら…………
がっしゃーーーーーーーーーん!!!
派手な破壊音ともうもうとした土煙をたてながら、巨人の姿はあっという間に崩れていき、潰れて瓦礫の山と化した。
「え!?」
「いったい何が起こったの?」
「なぜ急に壊れたのでしょうね……」
呆然とする野次馬の皆さんと共に凛、アーチャー、士郎、セイバーもあっけにとられて巨人の残骸の瓦礫の山を見る。
崩れ落ちた巨人の残骸とともに地面に転落したランサーとバゼットは瓦礫の山のてっぺんに埋まっていた。
「バゼット、なんで崩れたんだ……」
「おそらく巨人の足に書いた
そういえば……、ルーンを書くのに水性マーカーを使っていたのです」
「なぜ今回に限って水性ペンだったんだよ」
「たまたま手元の油性マジックペンが切れていたのです、ランサー」
「ああ……」
がくり。
ランサーとバゼットは瓦礫のうえに突っ伏した。
かくして正義の味方+αによって謎の巨人は倒され、
冬木市に元通りの平和な日々が戻ったのだった。
翌日の冬木駅前。
「号外でーす」
「号外をお配りしております」
ランサーとバゼットは駅の前で往来の人々に新聞の号外を配っていた。
「バゼット、これオレたちいつまで配らないといけないんだ?」
「とりあえず用意された号外を全部配り終えるまでと言われました。それにしても朝からずっと配り続けていてさすがに疲れましたね、ランサー……」
ため息をつきながらランサーとバゼットは延々と通りすがりの人たちに号外を渡し続ける。
彼らが配っている号外の内容は以下の通り。
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毎朝新聞 冬木市版
〇〇地方で放映の特撮番組。冬木市内で撮影。
〇〇地方で限定放映の特撮ロボットアクション番組「ルーン巨人スリザズーン」の撮影が冬木市住宅地内において特別に行われた。
集まった観衆は最新鋭の巨大ロボットの姿に大喜び。
さらに特撮ヒーローたちと巨大ロボットが繰り広げる大迫力の必殺技の応酬に観衆の視線は釘付けとなった。
なお、観衆からは次回の撮影もまた冬木市で見たいとの要望が寄せられたが、撮影プロダクションの担当者より、住宅地においてこれだけの規模の撮影を行う事は大変に稀であり、残念ながら次回の撮影の予定は今のところはないとのコメントがあった。
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「隠蔽用の号外の配布は進んでいるか?」
ランサーとバゼットの後ろから陰険な声がした。振り向くと言峰綺礼が大量の号外の束を抱えて立っていた。
言峰はランサーとバゼットの脇に新しい号外の束をずん、と容赦なく積み重ねる。
「綺礼、まっ、まだ号外があるのですか……」
「言峰、テメェ号外刷り過ぎだろ!」
言峰は実に愉しそうにニヤニヤと笑っている。
「あれだけの騒動を起こしたのだから、隠蔽に手間がかかるのは当然だろう。私も擬装用の新聞を手配するのにずいぶん苦労したのだ。騒ぎの張本人の君たちが労働するのは自業自得だと思わないかね?
くっくっく、まあせめても情けだ。全部配りおわったら晩飯くらいは振る舞ってやろう」
その言峰の申し出からランサーとバゼットは不穏な気配しか感じ取る事ができない。
「なっ、なんだと……?」
「そ、それはもしや……」
怯えるランサーとバゼットを見て、言峰はひときわ嫌みな笑みを浮かべた。
「もちろん、泰山の激辛麻婆豆腐だ。不満か?」
「やっぱりーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「いらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
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thurisaz(スリザズ)
象徴:巨人/トゲ
英字:Th
意味:巨人やイバラの棘、門を象徴する。雷神トールのルーンとも言われる。これらの象徴には物事の進展を阻害するという意味があり、このルーンが出たときは計画的な足止めを行ったり周囲の信頼すべき人からの助言をもとめるなど慎重な行動をすべきとされる。
ルーン図形:
神父様、乙です。