ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第二十一話:キャリフォルニア・ベース(前編)

 モビルスーツ。

 宇宙世紀(U.C.)0074。2月にジオニック社によって現在のモビルスーツの原型となるMS-05、ザクIがロールアウト。

 本機体は搭乗したテストパイロット、整備兵の意見を取り入れ操縦系統やOS(オペレーティングシステム)、整備性等に改良が加えられU.C.0077年にはMS-06、ザクIIの開発に成功している。

 以降マイナーチェンジを加えながらも増産を続け、ジオン公国と地球連邦政府との小競り合いが頻発すると秘密裏に戦場にモビルスーツを投入。実戦での運用データを収集した本機の性能は次世代のジオン軍の主力兵器として更に飛躍的な向上をみせる。

 U.C.0079にジオン公国の独立宣言を受けた連邦軍と本格的な戦争が勃発。

 ”一週間戦争”、地球降下作戦でモビルスーツが戦場に、今までの戦史に変換期を促した。

 それは戦場で目の当たりにする将兵、取り扱う整備兵に深い感慨を与える。

 場所はキャリフォルニア・ベース地下設備、モビルスーツ工廠。

 とある部隊のモビルスーツハンガーで、一人の少女が見上げる機体。

 蒼いモビルスーツ。

 現在生産体制が確立し、順調に組立作業が行われているMS-07B、先行量産型グフ。

 その試作機が目の前のそれだ。

 量産型は青系統で塗装されているが、試作型は蒼く両腕部が一回り太い。

 これは量産型グフにも装備されている固定兵装、ヒートロッドを両腕に内蔵。しかし出力が安定しない時期の開発であったが為に大型化せざるを得なく、その分威力は現行量産型よりも1ランク高いものに設定。左腕部の指先から弾丸を発射するフィンガーバルカンは搭載できずに終わっている。

 後に取り回しや可動部分確保の為にヒートロッド、フィンガーバルカンをオミットしたA型に戻るのだが、現時点では改善点に上げられずそのままB型が生産中だ。

 さらに量産型は肩部が丸い形状のものにスパイクが付いている。が、試作型は何故かザクⅡの両肩に防御シールドとなっているのが特徴的だ。

「へぇ…同じグフなのに、足回りの推進器の配列が違うのね」

 彼女は手持ちのカタログと現物の機体、量産型と試作型に視線を行き来させた。

 量産型は左右に二基並び四基、計八基の推進器。試作型は脚部の後面に二基並び、側面には一基づつで設置数は同じく八基。何かこだわりでもあるのだろうか、気になってしまう。

 身軽な服装にぱっと見、腕白な少年に見えるが僅かに膨らんだ胸元が彼女を女性と教えてくれる。

 ピンクのリボンで束ねた紺色の髪を揺らしながら、髪と同じ色の瞳を好奇心に溢れさせトコトコと試作機に近寄る。

 腹部にあるコクピットハッチの上、右胸には盾を背にする蒼い獅子のペイント。

 この機体には開発後に型番が改められて送られている。

 改修され防御力の向上とパイロット独自の機動戦闘に対応した機体。

 YMS-07M、先行試作型グフ(メルティエ・イクス専用機)。

 地球降下作戦で名を挙げたパイロットが多く居るが、彼もその中の一人。

 エースパイロットとしても有名でもあるが、国民には今や絶大な人気を誇るガルマ・ザビ准将を支えた人物の側面が濃いだろう。

「あれ? あそこに居るのって」

 通路の先、そのエース専用機のグフを見詰める人物に彼女は思い当たった。

 タタタタッと軽快に走り、

「おーい、隊長さーん!」

 彼、ケン・ビーダーシュタット少尉が振り向くと目前に少女は着地。驚く少尉に彼女は人懐っこい笑みを浮かべた。

「隊長さんもこのモビルスーツに興味あるの?」

「ああ、自分たちの隊にはまだ無いモビルスーツだからな」

 分解整備(オーバホール)の途中なのか、外された装甲から内部構造が剥き出しの蒼い専用機。

 専門家ではない彼ではケーブルや噛み合った歯車、核融合炉等の発動機しか見分けがつかない。 

「うーん、でもこのモビルスーツは専用機だから。部隊に回ってくるグフの性能と比較するのは難しいかも」

「む。やはりそうなのか?」

「うん。推進器の配列から、メインとサブスラスターの噴射口(フェルターノズル)の向き加減、スパイク付の肩がザクIIの防御シールドに換装。最高速度と機体の上昇加減、自重すら変わってるもの」

「話を聞くと、まるで別物だな」

「大まかな外観と、固定兵装のヒートロッドくらいじゃないかな。似てるのは」

 後は共通の武装くらいかな、と彼女―――メイ・カーウィンは続ける。

「この機体のパイロットは」

「ん? ”蒼い獅子”メルティエ・イクス中佐だよ」

 ケンはモビルスーツデッキに佇む蒼い機体を再び見上げる。

 異名取り佐官の専用機。

 大抵はお飾りでモビルスーツをステータスのように保有している事が多い。

 実際は後方で指揮する立場だ、前線ではミノフスキー粒子のため戦場全てを見通しながら指揮を執る事等不可能だ。その為に戦艦や駐屯地に腰を据え、部下の報告や経験を基に戦術を組み立て、戦略を構築する。

 だが、目の前の蒼いモビルスーツ。

 補修や改修の跡が目立つ。

 しかしこれは、乗り手が機体を十全に扱いきれていないからの被弾やその類ではない。

 急所は全て外され、腕と肩にダメージが集約されている。全体的に傷が入っているのは目前で散った破片や爆風の跡だ。

 脚部はアポジモーターの影響で噴射口が歪んだのだろう、取り外されたものと規格が同じものが今も作業アームで取り付けらている。

 もしケンがこの蒼い機体の戦闘映像を見る事ができたのならば、確信を決定付けていただろう。

 激戦区を突破した、最前線に常に身を置き指揮を執った話は伊達ではない。

 装甲表面には傷が付いていない場所など幾つもない。素材本来の光沢で照明の中で反射してはいるものの、煌めき輝くものではなく、いぶし銀といっていい。

 これは機体を、自分を盾に戦い続けた男を象徴している。

(―――自分も同じく前線で指揮を執る身だ、こうも見せ付けられては)

 ケン自身も己のモビルスーツを時に部隊の盾とし、扱う事もあった。

 自分の判断は間違ってはいない。

 そう蒼い機体が言ってくれるようにさえ感じる。

「それにメイ。隊長さん、というのは」

「あ、ごめんね。呼び馴れているから、つい」

 苦笑いを浮かべるケンに、メイは頬を小さく掻いて誤魔化した。

 彼―――ケン・ビーダーシュタット率いるモビルスーツ部隊。

 特別義勇兵部隊。通称”外人部隊”はここキャリフォルニア・ベースに補給の為だけに寄ったわけではない。

「さて、イクス中佐と会う時間だ。そろそろ行こうか」

「りょーかい!」

 蒼いモビルスーツに背を向けて歩き出したケン、その後ろを弾むような勢いでメイはついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「補給物資の受け取り、モビルスーツの整備、共に感謝致します。中佐」

「ガルマ准将に代わり、その言葉を受け取ろう。当然の事をしたまでだ、気にする事はない」

 メルティエ・イクス中佐は彼用に設けられた執務室で来客に応じていた。

 金髪碧眼、優れた美貌には蠱惑的な微笑を浮かべ、いたく男心をくすぐる女性士官。

 ジェーン・コンティ大尉。

(魔性の女、ってのはこういう人を指すんだろうなぁ)

 怖い怖い、とメルティエは胸中で零した。

 今回はこちらから彼女が所属する部隊の補給とモビルスーツ整備を持ち掛けたから交渉等は発生しない。

 メルティエは会って早々、頭の中の警鐘が鳴ったのだ。

 話を切り上げて、即帰らすべし。でないと用意した以上のものを獲られる、と。 

 本来対応するはずのガルマ・ザビ准将は勢力下に置いた北米都市の巡察にニューヤークに向かっている。彼の副官も当然同行しているので、暫定的にメルティエが代行司令官となったのだ。

 無論、その手合いに不慣れな彼である。

 可能な所は極力省き、代行できる人物に割り振ってある。

 サイ・ツヴェルク少佐である。

 彼は最初閉口したものの、自分がやらねば立ち行かぬと即座に理解。

 現在も代理業に従事している。

 途中から自分が重要拠点を回している事で精神的負担により胃の辺りを痛そうに押さえていたが、やり甲斐も見い出せた様で隣の部屋で備え付けのPCと睨めっこしている最中だ。

 真面目で有能な副官に仕事を押し付ける。

 なんと言うぐう畜。

 しかし彼は反省しない。如何にサイに大盛り増し増しで仕事をぶん投げ様と必ず自身の仕事は積もっているからである。

 来客の対応もその一つであった。

「それで、用件は以上かな。大尉」

 穏便に御帰り願いたい、彼の心はその一文に集約されていた。

 穏やかな笑顔も付けている。

「はい。後ほどダグラス大佐も足を運ばれるそうです、その時にまた伺わせていただきますわ」

「了解です。では、またその時にでも」

 敬礼を返し、穏やかに別れる事ができた。

 彼女の男の視線を釘付けにする後ろ姿、しかしメルティエは(乗り切った…)等と安堵しており引っ掛かり(・・・・・)はしなかった。

 扉が締まる瞬間、こちらを観ていた女の瞳と合ったが彼は深く考えないように努める。

(誘ってる女の感じがしているようにみえて、ほいほいついて行ったら死ぬほど面倒事を押し付けられる。そう言う感じがするよ、アレ)

 一人になった執務室で、彼は重い溜息を胸の奥から吐き出した。

 気を取り直して、積まれた書類に目を通す。

 分配される補給物資に日用品も混ざっている事を確認。以前に日用品の不足で随分と困っていた部隊を助けてから今日まで、この項目は欠かさず確認している。

 兵士だって人間だ、娯楽に飢えているのもそうだが衣類関係には気を配る。衛生問題は特にそうだ。

 慣れない地球環境下では体を壊す者が後を絶たない。

 その中で彼ができるのは衣類や食事等を出来る範囲で助けてやる事くらいだ。 

 戦場で武威を奮え、戦線を押し上げろ等は幾度もこなしてきたが。

(後方支援任務、気を遣える人間じゃないと任せちゃダメだな。特に頭で考えて終わる奴はだめだ。発想、想像力に富んでるならまだしもこれは実際に経験、その生活で過ごさないと理解できないだろう)

 彼らに必要なものは何か。

 突き詰めればそれである。

 ただただ、戦闘に必要な物資だけを送るだけでは駄目なのだ。

 彼らは生きた人間。

 例え戦争の歯車の一つだとしても、彼らは一人一人生きているのだから。

「くそう、キシリア閣下に駄目出し喰らいながら部隊設立に奔走してた時期が懐かしく感じる…」

 あれからまだ一ヶ月足らず。

 激動の一ヶ月。いや、四ヶ月か。

 少尉の彼が、今では中佐の階級。尉官から佐官にまで昇格しているのだ。

 ちょっとしたサクセスストーリーではないだろうか。

「ええと…次はなんだ? モビルスーツ1機分の補給?」

 ふむ、と腕を組んで考えた。 

 所属を見れば同じ突撃機動軍の部隊。何でも部隊員分のモビルスーツが確保できずに第二次地球降下作戦に参加、北米大陸の制圧後に補給を必要とした為にこのキャリフォルニア・ベースに向かっているとの事らしい。

 所属部隊の(よしみ)、とは行かないが規定した戦力すら満たせずに壊滅では無念だろう。

「確か、モビルスーツ工廠で陸戦型ザクIIが問題なく量産されていたな。それを充てるか」

 メルティエは書類に目を通し、部隊名とその指揮官の項目で視線を止めた。

 MS特務部隊。

 部隊名、闇夜のフェンリル隊。

 ゲラート・シュマイザー少佐。

「うわぁ、大変な事になったぞ」

 養父ランバ・ラルの旧友。

 つまりは、知り合いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動する時間も惜しかったので食事を執務室で食べる事が多くなったメルティエは、その日も同じ場所で同様に摂るつもりだった。

 隣室、秘書官室で同様に仕事をしているサイも同じ心境だったらしいが、食事等の時くらい出歩かないと何も行動できなくなりますよ、と諫言して彼は将兵らが共に食事をする基地食堂に移動していった。

 それもそうだな、とメルティエ自身も思い直し。腰を上げた所で扉をノックする音が聞こえ、浮いた腰を再び椅子に沈ませる。

「アンリエッタ・ジーベル大尉です」

「大尉か。どうぞ」

 入室する女性にほっと息を吐く。

 美貌の女史、ジェーン・コンティ大尉に思う所がないわけでもない。

 が、気疲れする女性とは付き合いたくないものだ。美しい薔薇には棘がある、というが。彼女は棘有り過ぎだろう。触れたくても時間差で刺さりそうだ。 

 高嶺の花より、近くの蒲公英。ではないが、崖上にある綺麗な花よりも身近にあって自分を癒す太陽の香りが、欲しい。

 彼女は両手で盆を捧げ、その上には今日の食事だろう。食器の上にまだ湯気がのぼる食べ物が見えた。彼は移動する手間が省けたと喜んでいいのか、移動する気を失ったと嘆けばいいのか、一秒ほど思ったがどうでもいい事だろう、と切り捨てた。

「食事か。ありがとうな、アンリ」

「うん。どうしたの?」

「ああ、少しな。気疲れのようなもんだ」

 応対に使う長テーブルの上に座り直し、彼女が盆から食器を並べていくのをぼぅと眺める。

 精神的な疲労が重なっている。息抜きをせねば、不味い。

「何も考えず肉をがつがつ食いたい気分」

「ダメだよ、栄養のバランスを考えて献立を作る料理長に失礼。残さず食べなきゃ」

「いや、残さないけどね。心境をぽつりと、つい」

「そんなにエネルギー摂ってどうするのさ」

 スープ、サラダ、メイン、パンと並ぶ。今日のメインは白身魚のムニエルである。

(レトルトのパウチに比べたら天と地の差、だな。うん、贅沢いくない)

 食事を開始するメルティエに話を聞いてるのか、と見やるアンリエッタ。

 その視線に糖分不足で廻りきらない頭で答える。

「うん? 夜の運動とか」

 ごふっ、とアンリエッタが喉を抑えている。

 器官に入ったのか、あれ地味に辛いよね。と彼は思った。

「よ、夜の運動って…何をするのさ!」

「えっと、体に汗をかくまでだから…激しい運動(ランニング、実技訓練の意味)かな」

「激しい運動(男女の夜の営み的な)!?」

「ああ…それくらいやらないと満足(技量上達の意味)できないからな」

「満足(何度もする的な捉え方)できないの!?」

「じゃないとすごさ(部下たちに技量を見せる意味)がわからないだろう?」

「す、すごさ(持続力的な捉え方)をわからせるって…だれに?」

 いま口に運んだ赤茄子のように顔を赤く染めたアンリエッタに視線を送る。

 濡れた瞳と、小さく開いた唇に目を奪われ、いつぞやの危険な感じが湧く。

「時間あるなら、やるか(一緒に運動で軽く汗を流す意味)?」

「や、やるの(合体的な捉え方)!?」

 もじもじと身体を動かしてはオーバーリアクションの彼女に、男は会話に不適切な所があっただろうかと自問。

 いや、ないだろうと自答。

「なぁ、アンリ。もしかして何か食い違いが―――」

「失礼。中佐は居られるか?」

 ピタリ、と宙に手を留めてメルティエは止まり。

 彼の手がこちらに出されていたので、その指先をドキドキしながら視ていたアンリエッタ。

「ええ。どなたですか?」

 もう少し緩んだ空気を楽しみたかったメルティエは渋々仕事モードに戻り。

 動悸が治まらないアンリエッタは慌てて机上に広がった食器を盆の上に片付けていく。

「ダグラス・ローデン大佐だ。ジェーン・コンティ大尉から伺いの話を聞いていると思っていたが」

「ああ、聞いております。少しお時間を。片付けますので」

「急かすようで申し訳ないな。外で待っていよう」

 出て行こうとするアンリエッタに、長テーブルの今まで自分が座っていた場所の右側を指差した。

 指差した場所と、メルティエを交互に見ながら彼女は早歩き気味にその場に移動。盆は出入口から見え難い場所にそっと置く。

 食事の時に座っていた椅子、掛けずに立ったまま外に向かって声をかける。

「どうぞ、大佐」

「すまんな、日に何度も押しかけるような真似を」

 言葉では申し訳そう言いつつも、満面の笑みを浮かべて入る壮年の男と美貌の女性。

 ジェーンはメルティエの後ろにじっと視線を置いている。

(なんだ…彼女は何を見ている?)

「ようこそ、キャリフォルニア・ベースへ。歓迎致します、ダグラス大佐」

「はっはっは、よろしく頼むよ。メルティエ・イクス中佐」

 敬礼をする若い将校に、ダグラスは返礼をして手を差し出した。

 メルティエは間を置かず、彼の太く力強い手を握る。

「立ったままでは話しづらいでしょう。どうぞ、お掛けになってください」

「うむ。失礼するよ」

 大佐が座った後に、中佐は自らの席に腰掛ける。

 彼らが座れば、アンリエッタがその前にそっとソーサーと淹れた紅茶のカップを置く。

「おお、これはすまんね」

 喉が渇いていたんだとそう彼は続け、少し赤みが頬に残るアンリエッタは穏やかな笑みを浮かべて一歩引く。

 そして、ダグラスの後ろにはジェーンが。メルティエの後ろにはアンリエッタが付いた。

「中佐の判断が早いおかげで補給とモビルスーツの整備に取り掛かることができた、改めて礼を言うよ」

「小官は命じられた職務をこなしているだけです。しかし代行司令官としてガルマ准将に代わり、その言葉受け取らせて頂きます」

 ダグラスはメルティエの態度に太い笑みを浮かべ、紅茶を口に含む。

「補給ついでで悪いのだが、しばらく駐留を許可願いたいのだが」

「構いませんよ。その代わりといってはなんですが、有事の際は防衛戦力として助力願いたいですね」

「”蒼い獅子”の采配の下、動けと?」

「いいえ、小官は戦場では前線に出て槍働きをする輩です。後方での支援、全体の指揮を執って頂きたく」

「全体の…正気かね、中佐」

「暫定的な処置としては妥当と思います、大佐。モビルスーツパイロットとして功績を認められた者が後ろで采配を振るう事の方がナンセンスだと思いますが。階級も大佐が上ですし、あくまで准将が戻られるまでの期間です。常の補給物資やその他を託す事はできませんが」

 ダグラスの後ろで、ジェーンが動いた気がするが。メルティエは無視。

「なるほど。何事もなければ補給とモビルスーツの整備が完了次第我々は去る。有事の際は前線で中佐が、司令室でわしが指揮を執る。そういう事だな」

「ええ。いかがでしょうか、大佐」

「いや。特に異議はないよ、中佐。妥当なものだとわしも思う」

 大きく頷き、ダグラスは腰を上げる。

「今後ともよろしく頼む。では、失礼するよ」

「は。こちらこそお願い申し上げます」

 すっと綺麗な敬礼を見せたメルティエに、少し面食らったようだが彼は返礼。後ろのジェーンも続く。

 メルティエが扉前まで送ると、ダグラスは何を思ったのか一歩踏み込み。

「いい娘じゃないか。可愛がってやれ」

「は!?」

 澄まし顔を取り繕っていた若い中佐の背を豪快に叩くと、彼は晴れ晴れとした顔で美貌の大尉を引き連れ退室していく。

「大佐は、何を…ん?」

 訝しむが背に視線を感じ、振り返った先で。

「夜の運動、は。する、の?」

 ちらちらとこちらを見るアンリエッタと目があった。

(―――あの爺、何を勘違いしやがった!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機嫌がよろしいようですね、大佐」

 メルティエの執務室から離れ、通路を曲がった辺りでジェーンが口を開いた。

「ああ、面白い男だ。わしの事を詳しくは聞いておらんようだな」

 ダグラス・ローデン大佐。

 彼はジオン・ズム・ダイクン存命時に彼を支持した軍人。

 つまり、今ではザビ家が牛耳るジオン公国にとってはダイクン派として警戒され、冷遇される身。

 そして今日顔を合わせた青年、メルティエ・イクスは養父ランバ・ラルの繋がりで同派閥とされる。

 ザビ家内でダイクン派とされた将校が昇龍の勢いで昇進を重ねる。

 どんな手管を使って今の身分に入り込んだのかと思えば。

「ふふ。彼は運を味方につけているのかもしれん」

「運、ですか?」

 ガルマを後援者、少なくても味方にした事でダイクン派と警戒される事なく今の地位に至ったのだろう。

 ただの強運でここまで来たのか。

 それとも、人を味方にする誑し(・・)なのか。

 どちらにせよ、面白いとダグラスは感じた。

 しかし。

「あの若いの、女難の相は確実にあるな」

「大佐?」

 刺されなければ御の字よ、中佐。

 彼は心の中で今頃あたふたしている青年を応援した。

 無論、野次馬根性剥き出しの笑顔と共にである。

 

 

 

 

 

 




部隊名アンロックと言ったね、ごめん。ありゃ嘘だ。
言うタイミングが中々出て来ない、次話で見つけたいと思う。
キャリフォルニア・ベースのMS工廠とかも、妄想で少し紹介していきたい。

ダグラスさんのキャラクターは本作品ではこんな感じであります。
”外人部隊”の人もぼちぼち出していく予定。
フライングはケンさんとメイさんでしたね。

誤字・脱字報告、評価、感想等などお待ちしております。
では、閲覧ありがとうございました!

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