恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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フーケ編
6時間目


 今日ものどかはタバサと特訓をしてから朝食を食べ、教室にやってきた。そして、タバサの語学講座……ではなく、今日はのどかの語学講座が開かれていた。昨晩のどかが絵本を読めるようになったので、1日ごとにお互いの世界の文字を教えあうことにしたのだ。

 

「この文字は“あ”これは“い”これは…………これが基本となる50音です。ここまでは、わかりましたかー?」

「問題ない。が、少し文字が多い」

「そうですねー、私の国の言葉は日本語と言って基本となる文字が多い上に、同音異義語や擬音語、擬声語、それに文の組み立て方が公用語とは違って、真逆なんです」

「公用語?」

「あっ、私の国ではいろいろな言語あったのでー、みんなが話せるように主要国の言語を世界の言葉として設定したんです」

「納得」

「それで続きですけど、公用語はこっちの言葉と同じように主語、動詞、目的語と繋がっていきます。日本語では主語、目的語、動詞というように順番が入れ替わっているんですー。だから、日本語は難しい言語とされているんですよー」

 

 のどかは一番の基礎となる五十音を教えていると、授業が始まってしまった。また後でー、と言ってのどかは授業に集中し始めた。タバサは学院の授業など受ける必要はないレベルのメイジなので、のどかに教えてもらった五十音の復習をしていた。それを見つけた教師が注意したが、それでもやめなかった。そのせいでタバサは、直径1メートルもの氷塊を作れと言われてしまった。タバサは教師に一瞥することなく、ただタバサの背丈以上もある杖を軽く振って、あっさりと氷塊を作り上げてしまった。しかも、その大きさは直径2メートルはあった。教師はタバサが思いのほか優秀だったので、完全に沈黙してしまった。

 

 わぁ、タバサさんすごいなー。あんなに大きくて、綺麗な氷を作っちゃうなんてー。氷はいい思い出がないけどー……

 

「きょ、今日はここまでとします! 後は自習をするなりなんなり自由にしてください!」

 

 教師はタバサの氷塊を見て、しばらくフリーズしていた。なんとか我に帰って自習を言い渡して、さっさと出て行ってしまった。タバサを一瞬睨んでいたが、当のタバサは教師が言ったことにすら気づいていない様子で、五十音表に目を通して、発音の練習をしていた。

 

「タバサー、ノドカー。一緒にテラスでスイーツでも食べない?」

 

 キュルケが声をかけると、その呼びかけに素早く反応したのは、意外にもタバサであった。行く、と小さく呟いてのどかの手を引いて教室から出ていった。どうやら、タバサも年頃の少女らしく、甘いものが好きであるらしい。食べる量を見てみると、食べることがすきなのかもしれないが……

 3人のあとを追いかける2つの影があった。それは才人とルイズである。珍しく、才人がルイズを無理やり引っ張っているのだ。才人はのどかに聞きたいことがあったのに、昨日聞くことができなかった。なので、聞くためにのどか達の後ろをつけているのであった。そして、のどかたちがテラスの場所を決めたところで、偶然を装って声をかけた。

 

「お、キュルケじゃないか。一緒でもいいか? (完璧だ、これなら何も怪しまれずに質問ができる。ついでに、ルイズに叩かれない!)」

 

 才人は自分で完璧な作戦だと思っていた。しかし、2箇所失敗していた。1つ目は、才人の演技力が足りなかったのだ。言葉は偶然を装っていても、棒読みになってしまっていた。それでは、台無しである。そのせいで、のどかたちに偶然ではないと気づかれていた。2つ目は、キュルケに話しかけてしまったことである。才人はルイズと一緒に3人を尾行していた(のどかとタバサにはバレバレだったが……)。そう、ルイズと一緒にである。ルイズとキュルケは家の関係で、ものすごく仲が悪い。つまり、ルイズの使い魔である才人がキュルケに自分から話しかけるということはどういうことになるか。ルイズの目には、才人がキュルケと一緒にお茶したいから仲間に入れてくれないか? と言っているように映るのだ。しかも、運が悪いことにルイズは才人の演技力の低さなど、見てもいなかった。すると、どうなるか……それは当然……

 

「こんのバカ犬ぅ! 何よ! のどかに話があるっていうから付いてきてあげたのに、結局、ツェルプストーと一緒にお茶したいだけじゃないの!」

「はぁ!? 何言ってんだよ! そんなつもりないっての!」

「ダーリン、あたしのこと嫌いなの? ひどいわ、そんなこと言うなんて」

「キュルケ、あんたは黙ってなさい!」

「あー、やだやだ。これだからヴァリエールは……ねー、ダーリン? こんな口うるさいルイズよりもあたしと一緒にいいことしない?」

 

 キュルケが才人の顔を手で包み、そのままキュルケの豊満な胸元に引き寄せる。才人は抵抗しようとしたが、キュルケの巨大な2つの果実を前にして顔をだらしなく緩ませて、なされるがままにしていた。その様子を見たのどかはあわあわしていたが、ルイズはと言うと、顔を真っ赤にして杖を取り出していた。

 

「この、エロ犬ぅ!!」

 

 杖を掲げ、そのまま振り下ろした。すると、才人が爆発した。

 

「ケフッ……」

「ダーリン!? イヤよ、死んじゃイヤよ! ダーリーーーーン!!」

 

 キュルケが三文芝居を打ちながら、倒れた才人の顔を更に自分の胸に埋めていた。ルイズはこれ以上赤くならないのではないかというくらい顔を真っ赤に染めてもう一度杖を振ろうとしたが、それはのどかとタバサに止められた。

 

「あ、危ないと思いますー」

「危険」

 

 2人がルイズを止めたおかげで、なんとか才人はその場ではもう一度傷つくことはなかった。なんとか復帰した才人はのどかとタバサに感謝してルイズを恨みがましい目で見た。

 

「何よ、あんたが悪いんでしょ。ツェルプストーみたいな女に鼻の下伸ばしちゃって」

「な、何か悪いのかよ! 別にいいだろ、それくらいは」

「ダメよ、特にツェルプストーはダメ」

 

 ルイズと才人がまた口喧嘩を始めようとしたところで、キュルケは呆れた顔を見せ、タバサは昼休みや休み時間にのどかから教わった簡単な言葉を復習し、のどかは意を決して2人の会話に割り込んだ。

 

「あっ、あの! 才人さんは何か私に聞きたいことあったんじゃなかったんですかー?」

 

 才人は口喧嘩でルイズに押されかけていたので、思わぬ助け舟が来た、と喜んでのどかの話に乗った。ルイズは何か文句を言っていたが、才人は聞こえないふりをして、のどかと話し始めた。

 

「なあ、のどか。のどかって日本の出身なのか?」

 

 才人の質問で聞きなれない単語があったので、ルイズとキュルケが同時にニホン? と聞き返していた。タバサは朝のうちに、のどかから日本という単語とその意味を聞いていたので、特に聞き返すことはしなかったが、ずっとノートに視線を向けていた。しかし、のどかの話は気になるようで、のどかの声に耳を傾けていた。

 

「はい、そうですよー。才人さんもそうですよね?」

「あ、ああ。のどかはいつからこっちにいるんだ? 帰る方法はあるのか?」

「ちょっとサイト! そんなに一気に質問してもしょうがないでしょ!」

「ルイズさん、大丈夫ですよー。最初の質問ですけどー、私がこっちに来たのは才人さんがこっちに来る数時間前です。帰る方法はわかりません」

「俺より数時間前、か。そりゃ帰る方法もわからないよな。ん? じゃあなんでそんなに落ち着いてるんだ!? 普通はもっと焦るもんだろぉ!?」

「えーっと、慣れてますからー。それにー、この建物を見たときにー、中世のお城みたいだなーって思いましてー……イギリスとかにはないような本格的な中世の建物ですからー。本の世界に来たみたいで、少し嬉しくなっちゃいましてー……」

「ほ、本の世界って……そういえばのどかこの前本好きって言ってたしな」

「へー、本読んでる子は違うのねー。あたしだったらダーリンみたいに振り回されちゃうと思うわ」

 

 才人は本当に、自分の世界の出身であるか確かめるために、総理大臣の名前や、大まかな歴史。有名な本の作者などを例に出した。のどかから帰ってくる答えは全て才人が記憶しているものと同じだった。のどかから聞かれた、埼玉にある学園都市はという質問に才人は自信を持って答えた。

 

「もちろん、麻帆良学園だろ? 俺あそこ行ったことあるぜ。去年の学園祭だけどな。とにかく、本当にすごいよなー。見てるだけで楽しいよ」

「そうですよねー、特に大学生の方々が本当にすごいんですよー。特にすごいのは、やっぱり麻帆良工学部だと思いますー」

「だよな! だよな! あそこって本当凄いよな! なんていうか本当にロボットが動いてるらしいし! ロマンだよなー」

「才人さんは大学部にしか行ってないんですかー?」

「うーん、他には……そうだ! お化け屋敷怖かったなー。女子中等部のだけどさ」

「お化け屋敷3クラスあったと思うんですけど、どこに行きましたかー?」

「全部行ったんだけど、3年A組が一番怖かったぜ。首が取れたように見えた時は本当に焦ったぜ……マジで走って逃げたよ」

「ありがとうございますー。楽しんでいただけようで良かったですー」

「えっ? のどかって麻帆良の生徒なのか!? スッゲー、羨ましいなー」

「そ、そんなことないですよー」

 

 才人は自分の世界にいた少女を見つけたと知った瞬間すごく元気になって、のどかと麻帆良学園祭の思い出を語っていた。ちなみに、キュルケやルイズ、タバサはと言うと、話がまったくわからないので、退屈そうにしていた。

 

「じゃあ、図書館探検部の催しには来てくれなかったんですねー」

「ああ、イマイチ魅力がなくてさー。図書館探検ってなんか飽きちゃいそうだしさー」

「残念ですー、男の子なら結構好きだったと思うんですけどー……」

「そうかなー、図書館って言ってもそんなに広くないだろ?」

「そんなことないです! 図書館島って言って、島1つが丸々図書館になっているんですよ! きっと……ううん、絶対に一生かかっても読みきることのできないほど本がたくさんあるんです。本っていうのは、その人の人生そのものだと思うんです」

「え、えーっとのどか?」

 

 才人が急に饒舌になったのどかに困惑しているのも気づかず、のどかは続ける。タバサは同じ本好きとして、のどかの本に対する想いや、情熱を知ろうとしていた。

 

「人類がどうしてここまで進歩できたのか、そう考えたとき、私はその理由は本、だと思うんです。さすがに昔は本で伝えることはできなかったので、口承だとは思うんですけど……ある人が生涯をかけてある真理たどり着いたとします。それを伝えなくてはまた誰かが同じことを発見するために生涯を費やすでしょう。ですけど、本にして残して、それを読むことでその人が生涯で得た知識を吸収することができるんです。そこからまた新しい真実を発見することがあるかもしれません。そして、またそれを伝えるために本に残します。いわば、本というのは人類が歩んできた歴史であると同時に人類の英知の結晶、そう言っても過言ではないはずです。本を読むということは、その結晶を溶かしていく……そして更なる知識の深みに辿りつくんです。なんだかそういうのってすごくいいと思いませんか?」

「あなたの意見は素晴らしいと思う」

「悪い、のどか俺には理解できない……」

「あたしもちょっと……」

「そういう考え方をするんだ。本は私も読むけど、さすがにそこまでは考えていなかったわ……」

 

 ルイズとタバサはのどかの演説に感銘を受け、才人とキュルケはお手上げ状態になっていた。そこでちょうどメイドがお茶とお菓子を運んできてくれたので、ちょうど話は切れた。

 

「はぁー、なんかのどかの話って難しいから聞いたあとだと、甘いものがいいわねー」

「お、キュルケもか。俺ものどかの話難しくってちょっと頭パンク気味だ。でも、のどかはそんなことずっと考えてるのかー、俺とは違うなー」

「ず、ずっとわけじゃないですよー……私の友達にお爺ちゃんが哲学者でその影響を受けている子がいましてー、私もその子の影響を受けているみたいでー」

「確かに理屈っぽいわね」

「あなたの話は面白い。機会があればもっと聞かせてほしい」

「はい、全然いいですよー」

 

 のどかたちはお菓子に出されたケーキを味わいながら、難しい話は抜きにしてだべっていた。主にキュルケとルイズが才人に関することで言い合いをして、のどかが慌てて、タバサはそんなことを気にせずに、日本語の勉強をしている、という中々異様な光景だ。

 タバサが用事があると言って、彼女の使い魔である風竜のシルフィードを指笛で呼ぶと、それに乗ってどこかへ行ってしまった。それで今日はお開きになったので、のどかは一度部屋に戻ってからヴェストリの広場にやってきて、周りに誰もいないことと、監視の目がないことを確認してから、小さな声である呪文を唱えた。

 

来たれ(アデアット)

 

 その呪文を唱えた瞬間、のどかの服装が変わった。麻帆良学園の制服からのどかが冒険者(トレジャーハンター)としてクレイグやアイシャ達と共に行動していた時のモノになっていた。そして、のどかの周りに一冊の本が浮かんでいた。のどかはその本を手に取ると、開いた。しばらくその本を眺め、そして閉じた。のどかは満ち足りた表情になって、もう一度呪文を唱えた。

 

去れ(アベアット)

 

 そして、自室に戻り、こちらの世界の絵本を読んだり、文字の勉強をした。床についたのは少し遅い時間だったが、昨日よりはマシだった。

 

 私のアーティファクトも問題なく使えるみたい。パクティオーカードで先生(せんせー)と連絡は取れなかったけど、仕方ないよね。異世界だから繋がらなくても、当然だよねー。今ここで私ができることって何かあるのかなー……

 




今回でのどかと才人が仲良くなって、タバサの好感度も上昇しましたw

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