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決闘が終わり、部屋に戻ったのどかはタバサの質問攻めにあっていた。
「あれは何? どうしてあんなに速く動けたの?」
「えー、えーっと……アレは瞬動っていう技術でー……」
「名前はいい。どうやったの?」
「そ、それはー。足に魔力を集中させてそれを爆発させてー、その勢いでー……」
「やって」
「へ、部屋の中じゃー、せ、狭いですー」
タバサは部屋が狭いならば仕方がない、と思ったらしく、のどかの手を握って外に出ようとした。
「た、タバサさん。ちょ、ちょっと待ってくださいー。明日、明日なら全然いいですから今は少し休ませてくださいー」
「約束」
「はいー、約束です」
タバサはのどかに約束を取り付けたあと、すぐに自分のベッドに戻って寝てしまった。のどかはその変わり身の速さに驚いていた。のどかもそれに倣って眠った。
朝になった時、のどかはタバサに起こされた。寝ぼけ眼でタバサを見ると、タバサは既に着替え終わっており、のどかをジーッと見ていた。のどかが起きたことを確認し、一言。
「約束」
タバサの言葉にのどかは面くらった。のどかは、まだ起きたばかりではっきりとしない頭をフル回転させていた。
あうぅー、タバサさんが私を起こしてー、約束……っていうことはー、瞬動のことだよねー。とりあえず、このままの格好じゃさすがにまずいよねー……着替えないとー。
のどかが瞼をこすりながら制服を手にして、着替えていくのをタバサはずっと見ていた。のどかは苦笑しながら、着替え終えた。タバサはのどかの手を引いて、外に連れ出した。昨日決闘があった場所――ヴェストリの広場に二人はやってきた。ヴェストリの広場は昨日は人が多かったが、普段は人が全くいないのだ。タバサはそれを知っていたので、のどかを連れてきたのだった。
「やって」
「い、いきなりすぎますー」
「約束」
「うぅー、わかりましたー」
のどかが抗議の声を上げてもタバサはお構いなしだった。のどかもそれを察してか、諦めたようだった。そして、普段ののどかからは推測できないほどにキリッとした表情になると、大きく息を吸って吐いた。のどかが集中していることがタバサには、はっきりと分かった。なぜならば、空気がピリピリとして緊張しているのが伝わっているのだ。タバサはこれに似た空気を知っていた。
「(凄い集中力……恐らく、彼女は修羅場を潜ってきている。私も同じだけど、殺気以外でこんなに空間を支配することはできない。昨日の戦闘も彼女の技術――瞬動以外にも目を見張るものがあった。しかし、そんなに強くなかった。彼女の戦闘力はあまり高くはない。彼女に注目するのは技術だけ)」
「よし、
のどかが小さく呪文を唱えると、昨日と同じようにのどかの体が薄く輝き始めた。そして、また同じように一瞬で元居た場所から4メイルほど離れた場所に一瞬で移動していた。昨日は中央までの距離がある程度長かったが、何回も連続で使用して一気にたどり着いたのだった。
「どうですか? 何か参考になりましたか?」
タバサは急に声をかけられて驚愕した。4メイルの距離を一瞬で行って戻ってきたのだ。
「あなたの言うとおり、足に魔力を溜めたことはハッキリと視認できた。出来ればこの技術を教えてもらいたい」
「えっ、ご、ごめんなさい。それは難しいですー」
「なぜ? 東方の秘術のようなものだから?」
「い、いえー、そんなことはないんですけどー。ただー」
「ただ?」
「私の瞬動は下の下くらいのレベルでしてー……」
「アレで下の下……」
「で、ですからー。教えることができないんですー。上手くもないのに人に教えるなんてことはできませんからー」
「……そう」
「あ、で、でも私に教えてくれている人がコツを教えてくれたのでー。そうしたらタバサさんもできるようになるかもしれませんよー」
「教えて」
のどかがタバサも瞬動が出来るようになるかもしれない、と示唆する言葉を発すると、タバサは飛びつくようにのどかの手を握り、目を輝かせていた。
「その人が言うにはー、『単に足に魔力を溜めるだけでは話にならん。瞬動だけで魔力を使い果たすなど、愚かにも程がある。というかこんなのは技術だ。コツだと? そうだな……軽く水たまりを飛び越えるようにすればいい。そのイメージで魔力を軽く使うだけでいい』みたいなことを言ってたのでー」
「大体理解した。やってみる」
タバサは足に魔力を集中させて一気に跳躍した。のどかよりも長い6メイルほど飛び、盛大にズッコケた。
「だ、大丈夫ですかー!?」
「問題ない、次はうまくやる」
もう一度魔力を溜め、爆発させた。今度は上手くいったようで一瞬で6メイルの距離を移動していた。タバサは自分が信じられないようで、目を見開いていた。のどかよりは入りがうまくはなかったが、それでも成功には変わりない。
やっぱり、私って才能ないんだー……初めて出来るようになったのも4週間練習してようやくだったしー……自信なくしちゃうよー。
のどかが少しだけうなだれていると、タバサが瞬動で戻ってきた。
「どうだった?」
「タバサさん、すごいですー。私瞬動が出来るようになるまでに、4週間かかりましたしー……」
「これは難しい?」
「難しいと思いますー。身体強化もなしでやっちゃうなんてー……」
「よかった」
のどかはタバサが無表情ながらも喜んでいるのを感じ取っていた。そして一つ疑問が浮かんだ。
どうして、私から瞬動を教えてもらおうとしたのかなー。こっちにはない技術に興味を持ったのかもしれないけどー……強くなることが必要だったから? 強くなるための理由が彼女にはあるということ? ううん、こんなこと考えても仕方ないからやめよう。
その後タバサはしばらく瞬動の練習をしていた。食堂に向かう学生たちがちらほらと見えてきた。そこで、のどかはタバサに提案をした。
「時間ですし、そろそろ食堂に行きませんかー?」
「行く」
タバサはお腹が減っていたようで、すぐに練習を切り上げ、のどかと一緒に食堂に向かった。
朝食を終えると、のどかはタバサに職員室の場所を聞いてそっちへ向かった。なぜ職員室に行くのかと言うと、のどかは転校生ということになっているので、教員に挨拶の必要があったからである。そこで、担当教員と初コンタクトを取るのである。のどかは職員室の前に着くと、軽く深呼吸をしてノックをした。中からどうぞ、という声が聞こえたのを確認してから、扉を開いた。
「し、失礼しますー。きょ、今日からお世話になりますー。宮崎のどかですー」
「ミヤザキさんですね、お話はオールド・オスマンから伺っております。私はシュヴルーズと言います。よろしくお願いしますね」
「は、はい。よろしくお願いしますー」
シュヴルーズと名乗った小太りな女性にのどかが挨拶していると、ある教師が近づいてきた。
「ミス・ミヤザキ。私はギトーという。いきなりだが、君は最強の魔法とはなんだと思うかね?」
「え、えーっと……」
「迷うことはない、最強は『風』だ。なぜならば、風は火を吹き消し、水を吹き飛ばし、土を切り刻む。しかも極めつけは『偏在』だ。何人にも分身することができるのだよ。これを最強としてなんという!」
「あ、そ、そうですねー。で、でもー、本当に強いと思うならそこまで誇る必要はないと思いますー。『風』は確かに強いのかもしれませんけどー、『土』がなければ家は建てられません。『水』がなければ、治療薬や、魔法薬を作ることができません。『火』がなければ、暖をとることができません」
「む、むう。しかし、『風』が最強だ。虚無すら吹き飛ばしてみせようじゃないか」
「私は虚無のことは知りません。それに論点がずれています。確かに戦闘面で言えば『風』が一番なのかもしれません。でも、戦場でも『水』のメイジは回復、『土』のメイジならば、拠点の作成や、ゴーレムなどによる制圧、『火』のメイジによって夜戦を有利に進めることができます。それぞれの属性があってこそ、この世界は成り立っているんだと思いますー」
のどかがそう言うと周りの教師はのどかに拍手を贈った。ギトーの話は『風』が最強、最強、とにかく『風』が一番だ、と言って聞く耳をもたなかったので、ギトーは言いたい放題だったのだが、のどかにジッと見つめられて彼女の話を聞いてしまっていた。のどかの話を聞いて、ギトーは少しでも確かに、と納得してしまった。それに彼は気づいて反論しようとしたが、できなかった。のどかはギトーが狼狽えているのも気づかず、話を切った。ギトーはのどかに見つめられたのが少し恥ずかしかったのか、それとも、論破されたことが悔しかったのかはわからないが、多少赤くなっていた。
「1時間目は私が担当しますので、ミヤザキさんは付いてきてください」
「わかりましたー」
今日の最初の授業はシュヴルーズが担当するらしく、のどかはシュヴルーズについて職員室を出ていった。その時に一礼するのも忘れずに、である。のどかが出ていったあとの職員室はのどかの話題で持ちきりになった。
職員室を出てから教室までの道中でのどかはシュヴルーズにベタ褒めされていた。曰く、ギトーの鼻を明かしてくれた、とのこと。普段もあの調子で、聞く耳を持たず、更に実力もあるので、皆何も言えずに困っていたらしいのだ。シュヴルーズだけでなく、他の教師ものどかに感謝しているだろう、とのことだった。のどかは大したことはしていないどころか、ただ普通に会話をしていただけだったと思っていたので、顔を赤くして照れていた。
教室に着き、外で待っているように言われたのどかは、シュヴルーズに呼ばれるのを待っていた。
「ミス・ミヤザキ、入ってきてください」
シュヴルーズの声が聞こえたので、扉を開けて教室に入った。教室には、タバサやキュルケ、昨日決闘を起こしたギーシュがいた。
よかったー、タバサさんやキュルケさんがいてくれるとなんか心強いよー。夕映は凄いなー、だって記憶をなくした時は、知らないところに入学することになったんだもんね。よーし、私も頑張らなきゃー。
「では、ミス・ミヤザキ。挨拶してください」
シュヴルーズはのどかに挨拶するように促した。
「は、はいー。わかりましたー」
のどかは多少緊張しているのか、軽く深呼吸をしてから自己紹介に入った。
「み、宮崎のどかと言いますー。す、好きなことは本に囲まれることです。こっちの文字はまだ読めないのでー、早く読めるようになりたいと思っています。あっ、文字が読めないのは、東方の出身でー、自然発生したゲートに巻き込まれてしまったからです。戻るに戻れないので、しばらく皆さんと一緒にお勉強させていただきます。よろしくお願いします」
ふぅ、緊張したー。で、でもこれでいいんだよね?
のどかが自己紹介を終えると、シュヴルーズはタバサの隣に座るように指示した。まだ慣れていないだろうからルームメイトの隣にしようと思ったらしい。のどかはその気遣いに感謝しながらタバサの隣に座った。ただ、一つ違和感を感じていた。
ま、麻帆良学園ならここで歓声が上がったけどー、やっぱり麻帆良が特別だったのかな。静かなのは好きだけどー、麻帆良の空気に慣れてるとちょっと不思議な気分かもー。
転入生がいても、授業は滞りなく進んだ。全ての授業が終わると、のどかはギーシュの彼女であろう人物に捕まっていた。彼女――モンモランシーは金髪ロールという特徴を持っていた。さすがに教室では問い詰めることができなかったらしく、のどかを教室の外に連れ出して詰問していた。
「それで? ミヤザキって言ったわよね。ギーシュに色目使わないでくれるかしら。大体、あなたが邪魔さえしなければギーシュが決闘に負けることなんてなかったし、更に言えば、私がギーシュを褒めて仲直りするっていう計画が……」
確かー、モンモランシーさんだったよね。昨日キュルケさんから聞いたけど、この人ともう1人下級生の女の子がギーシュさんに二股をかけられていたんだっけ。最後の方は聞き取れなかったけど、別に色目を使ってるつもりじゃないよー。
「べ、別に色目を使っているわけじゃ……」
「ウソよ! だって昨日からギーシュの様子がおかしいもの! ずっと何か真剣な面持ちなのよ! そ、それもカッコイイって思っちゃうんだけど……」
「真剣なのはいけないことなんですかー?」
「そういうわけじゃないけど……ギーシュは私に謝りに来るべきなのよ! そうじゃないとまた付き合ってあげないんだから!」
のどかがモンモランシーの我侭な言い分に困っていると、教室から出てきたキュルケが助けてくれた。
「なーに、モンモランシーあなたギーシュが自分を見てくれないからってノドカを脅しているわけー? ひどいことするわねー」
「なっ、キュルケ!? だってギーシュが……」
「完全に逆恨みじゃないの。ノドカは気にしないかもしれないけど、だいぶタチ悪いわよー。これじゃあギーシュもヨリを戻そうなんて言ってくれないかもしれないわねー。まあ、私は男と別れてもー、新しい男が寄ってくるんだけどねー」
「クッ、あんたみたいにホイホイと寄ってこないわよ!」
のどかはキュルケとモンモランシーの言い争いに口を挟むことができないでいた。元々口数が少ない方なので、こういう時は大体黙ってしまうのだ。キュルケはのどかとモンモランシーを見比べて言った。
「そうねぇ、のどかとあんたはおっぱいの大きさはそんなに変わらないけど……のどかの方が可愛いからのどかの方がモテるんじゃないのー」
「なっ、何よ! あんたが大きすぎるのよ! 何よ、この子そんなに顔がいいっていうの!?」
モンモランシーはのどかの方が可愛いと言われたことが頭にきたらしく、ポニーテールにしていても隠れていた顔を見るために、のどかの前髪を上げた。髪を上げられたのどかは恥ずかしから顔を赤くして俯こうとした。それはモンモランシーがさせなかった。モンモランシーはジッとのどかの素顔を見て、その場に崩れ落ちた。
「確かに、可愛いわ……悔しいけど負けた気がするわ……」
「ふふっ、でしょう?」
「かっ、可愛いなんてそんなことないですー……」
「なんで謙遜するのよ……」
なぜかキュルケが勝ち誇ったような顔をするので、モンモランシーはそれに食ってかかった。
「というかなんであんたが勝ち誇ってるのよ! あんた関係ないじゃない!」
「だってノドカってこういうところで自慢しないからあたしが代わりに、と思っただけよ」
「確かにそういうことする子じゃないって分かったけど……」
モンモランシーはしばらく逡巡したあと、のどかに頭を下げた。
「ゴメンなさい、勘違いしてたみたい。あなたは男を誘惑なんてそんなこと出来なさそうだもんね」
「い、いえー。彼氏さんを心配するなら当然だと思いますしー。こんなふうに思われてギーシュさんも嬉しいと思いますよー。モンモランシーさんってすっごくいい彼女さんなんですねー。ギーシュさんが羨ましいです」
「なっ、そ、そんなことないわよー!!」
モンモランシーはのどかの言葉に驚いてそのまま逃げていった。キュルケですら今の言葉に固まるほどだった。のどかは自分の発言の意味に気づいていないらしい。モンモランシーが逃げていったので、モンモランシーさーん、と呼び止めようとしていた。
「ノドカ、あんたすごいこと言うわねー。モンモランシーの弱点をしっかりつくなんて……」
「ふぇ? わ、私やっぱり何か失礼なことを言っちゃいましたかー!?」
「ううん、あの子にはとっても嬉しいことだと思うわ。多分これからギーシュにアタックしに行くんじゃないかしら。って、無理ね。きっと部屋でジタバタしてると思うわ」
「え、えーっと?」
「良かったってこと」
「そ、それなら良かったですー」
この日の授業は既に終わっていたので、キュルケはのどかを連れてテラスに向かっていった。タバサは授業が終わると、用事があると言ってタバサの使い魔である風竜――シルフィードに乗ってどこかへ行ってしまったので、キュルケと二人だけである。2人は軽くお茶をした後、自室に戻った。のどかはコルベールからもらった教材に手を伸ばしていた。
本当はタバサさんに教わりたいんだけど、基礎くらいはやっておかないとー……さすがに1から出来ないようじゃ迷惑かけちゃうだろうしー……
のどかは教材を開いて勉強を始め、基本の文字と軽い単語を読めるようになった。コルベールのくれた教材は音声式で、貴族の子供や、学びたい平民にはもってこいの教材であった。のどかは聞くことはできるので、コルベールに感謝しつつ、夜遅くまで勉強していた。
のどかの師匠は言わずもがなエヴァンジェリンさんです。ネギのように完全に弟子入りしたわけではないので、
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