のどかとタバサがキュルケによって連れてこられたのはヴェストリの広場という普段はあまり使われていないような場所だった。だが、今はのどかたちだけではなく、多くの人が集まっていた。ガーデンテラスで何やら事件があったらしいのだ。その事件とはチャラい金髪の男子――ギーシュが二股をかけていて、それが発覚してしまったからである。発覚したのには理由があり、学園のメイドがギーシュが落とした香水の瓶を拾ったことが原因である。その香水の瓶は彼が付き合っていた女生徒が自分で作成しているもので、他人には渡さないことで有名だったからである。それが彼のポケットから落ちたということは、彼とその女生徒は付き合っているということになる。実際彼の周りにいた貴族たちもそれを見て、はやし立てた。そこまでならば良かったのだが、偶然にもその女生徒ともう一人、ギーシュが狙っていた女生徒が居合わせたのである。その結果、どちらにもフラれてしまった彼はその責任をメイドに押し付けたのである。それを見た青いパーカーを着た少年――サイトがギーシュに突っかかった。そして、いろいろあり、決闘ということになって現在に至る。ちなみに、のどかはそんなこと1ミリも知らないのであった。
うーん、なんでこんなに人が多いんだろー。キュルケさんは普段は使われていない場所だからいいって言ってたけど、どういうことなんだろう……
「タバサさん、ここで何をやるか知っていますかー?」
「知らない。私はあなたとずっと一緒にいた。知る手段がない」
「そ、そうですよねー。変なこと聞いてすいません」
のどかは隣にいたタバサに尋ねたが、タバサが言ったとおり、彼女とずっと一緒に行動していたので、知るタイミングはなかった。ちなみに、事の成り行きを知っているキュルケはというと、タバサほど小さくはないが、それでもピンクがかったブロンドの髪を持つ小さな少女をからかいに行ってしまった。残されたのどかたちは、何か始まるのをずっと待っていた。
「諸君、決闘だ!」
ギーシュがそういうと周りは歓声に包まれた。中央にいるギーシュはその声を心地よさそうに聞きながらバラの花を上に掲げた。少し経ち、観客が道を開けると、サイトがやってきた。
「逃げずに来たようだな、平民。それだけは褒めてやろう」
「誰が逃げるかよ」
余裕な態度を崩さないギーシュをサイトは睨みつけていた。
「では、始めるとしようか。愚かな平民、ゼロのルイズの使い魔よ」
「ごちゃごちゃうるせえ! 喧嘩は先手必勝だ!」
言うやいなや、サイトは駆け出した。先手を取るというのはかなり大きい。しかし、ギーシュは焦ることなく、対処した。ギーシュがバラを振ると、花びらが1枚宙に舞った。そして、甲冑を着た女戦士の形をした、銅の人形が出来上がった。サイトは驚きを隠せなかったらしく、立ち止まってしまった。
「なっ、なんだこれ!?」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。まさか文句はあるまいね?」
「てめぇ……上等だ!」
サイトが再び駆け出そうとした瞬間……人形の腕がサイトの腹に突き刺さっていた。もちろん、貫通はしていないが、鳩尾をしっかりと捉えていた。なんの警戒もしていなかったサイトは咳き込んでいた。遠くから見ていたのどかは思わず口元を抑えてひどい、と呟いた。
「言い忘れていたな、僕の二つ名は【青銅】。青銅のギーシュだ。僕の『ワルキューレ』たちがお相手するよ」
ワルキューレ、北欧神話で戦死者を選ぶ乙女だったっけー。名前負けしてるようなー……でも、青銅の重さで攻撃されちゃったら……かなり痛いはずだよー。止めなきゃ……
のどかがサイトにやられるのを見て、助けなければ、決意をした時だった。キュルケにからかわれていたルイズが決闘を止めに入った。
あ、止めてくれるんだー。じゃあよかったー、もうこんなことを続けさせたくはなかったしー。
のどかが安堵し、ふぅ、と息を吐いた。しかし、サイトがまだ戦おうとしているのを見て、のどかはまた身体をこわばらせた。そして、ギーシュの使役する人形の数が増え、サイトを6方向から殴りかかった。それを見たのどかは思わず飛び出した。
あんなの……ひどい。さっき、キュルケさんは平民が召喚されたって言ってたけど、きっと彼はこの世界の人じゃない! 確信はないけど……
「
のどかが発したその声はタバサにしか聞こえなかった。タバサはのどかを見て驚いた。のどかの体が薄く光っていたからだ。
「呪文詠唱?」
「はい、ある人に教わったんです。なんどもお願いしました。それでようやく教えてもらえたんです」
「何するの?」
「決闘を止めます。これ以上は見てられませんから」
「あなたじゃ無理」
「大丈夫です、止めるだけなら」
「……そう」
タバサはのどかは言っても聞かないと不承不承ながらも引き下がった。のどかとタバサの会話が終わった時、フラフラになったサイトの顔にワルキューレのパンチが迫っていた。のどかはそこに割り込んだ。そして、サイトに殴りかかっていたワルキューレを投げ飛ばした。
「なっ……」
その声はギーシュのものだった。彼はドットメイジながらも自身の魔法に少なからず自信を持っていた。実際、彼のワルキューレの精度はそこまで高くはないが、素早く動くことができる。更に、数も多く、それなりに厄介ではある。相手が生身ならば、まず負けはしないだろうと彼は思っていた。不意打ちだったとはいえ、非力そうな少女に自慢のワルキューレが投げ飛ばされたのだ。彼はそのことで頭がいっぱいだった。混乱し、恐怖している彼は普段ならば絶対に女性には攻撃しないというのに、ワルキューレを使って攻撃を始めた。
「君はなんのつもりかね! これは決闘だぞ! じゃ、邪魔をすると言うならば君も……」
ギーシュは茎だけとなったバラを振った。それに合わせて、ワルキューレたちが同時に襲いかかった。同時、と言っても攻撃が完全に同時になることはない。少しずつ攻撃する速度にはズレが生じる。完全に同じしてしまったら、ワルキューレ同士で相打ちしてしまうためである。のどかはそれを理解していた。
私の
ギーシュのワルキューレは最初に投げたモノを除いて後6体。合気柔術は相手の力を利用して投げる。これは相手の攻撃を見切らなければならない。のどかは見切りなんてできないので、
死角からの攻撃が迫る。サイトは危ない、と言いかけて止まった。のどかは身を屈め、拳を躱し、伸ばしきっていたワルキューレの腕を掴んで勢いのまま投げ、次は既に右から来ていた拳に手を添え、そのまま受け流した。その時にワルキューレの背中を押し左側に倒れさせた。その先にはのどかが避けた先を狙っていたワルキューレがあった。二体のワルキューレは音を立てて崩れた。
「はぁ、はぁ……」
後三体……これならいけるはず!
「そんな……バカなッ!」
ギーシュは次々と倒されていく自分のワルキューレを見て激しく狼狽えていた。のどかに対しての恐怖心がどんどん上がっていった。
残りの3体のワルキューレも同じように、投げられて砕けた。ここでのどかの
「うわああああああ! いけェ! ワルキューレェェェェ!」
ギーシュは半ばやけになって2体の壊れていなかったワルキューレでのどかを襲わせた。投げたワルキューレは地面に打ち付けられた衝撃で砕けていた。しかし、受け流すだけでは、破壊までには至っていなかったのだ。
「えっ、まだ残って……」
「させるかよォッ! グァッ!」
「キャッ!」
のどかは完全に不意を突かれていたが、先ほどとは違い、今度はサイトがそこに割り込んだ。しかし、投げ飛ばすという芸当は出来るはずもなく、サイトは飛ばされた。のどかもサイトに巻き込まれて一緒に飛ばされた。ギーシュはその様子を見て高笑いをし、サイトを嘲笑い、それと同時にルイズのことも馬鹿にしていた。サイトはボロボロになりながらも、立ち上がった。立ち上がる時、脚がガクガクと震え、腕もプルプルしていた。体は限界だということがよくわかる。それでも、サイトの心は折れていなかった。むしろ、決闘が始まった直後より、気力がみなぎっていた。
確か、サイトさん、だったよね。武器もなしに金属に挑むのは無謀すぎます。それにさっき助けてもらったお礼に……魔法剣を渡そう。アイシャさんたちが護身用にってくれた小さな剣だけどー……
「てめぇ! よくもやってくれたな! 今から俺がぶっ倒してやる!」
「ハッハッハ、そんな状態でよくそんなことが言えるものだな。しかも、君は攻撃をくらうだけだったな。僕のワルキューレを倒したのはそこのお嬢さんじゃないか」
ギーシュはのどかが動かず、ワルキューレを投げ飛ばされなかったことから、もう動けないのだ、と結論づけて余裕を取り戻していた。冷静になったギーシュは女性に手を上げてしまった、とかなり後悔しているのだが……
「あの、サイトさんですよね?」
「ああ、そうだけど、どうして俺の名前を?」
「それは後で話しますー。これを……さ、さすがに素手では厳しいと思うのでー」
「これ剣か? でもサンキュな! 絶対勝ってくるぜ!」
サイトに剣を手渡した瞬間、サイトの左手が光り始めた。サイト自身はそれに気づいた様子はなかった。そして、サイトは残り2体となったワルキューレに瞬動ほど一瞬で近づいたわけではないが、ものすごいスピードでワルキューレに近づき、そのままの勢いで切り裂いた。のどかの渡した魔法剣は、そこまで切れ味が良いわけではないのに、青銅で出来ているワルキューレがあっさりと真っ二つになった。
「バカなッ! そんな小さな剣で僕のワルキューレが真っ二つになっただと!?」
サイトが一番そのことに驚いていたが、きっともらった剣に何かそういう力があったのだろう、と解釈した。そして、残ったもう一体のワルキューレが迫っていたが、殴りかかってきた腕を切り落とし、一体目と同じようにワルキューレを切り裂いた。そして、ギーシュに肉薄した。
「まだ……続けるか?」
「ウソ……だろ。参ったよ、降参だ。僕の負けだ」
ギーシュが負けを認めた瞬間、歓声が湧き上がった。ゼロのルイズの使い魔が勝ったぞー! だとかいろいろである。
サイトはそのまま気絶してしまったが、ギーシュはのどかに近づいて謝罪した。
「申し訳なかった。僕が女性に手をあげるなんて……気が動転していたんだ。許してくれないかもしれないが許して欲しい。すまなかった」
「あ、謝ることはないと思いますー。私が割り込んだんですからー」
「そうだ、どうして割り込んだりなんかしたんだい?」
「それは……あなたが間違った力の使い方をしていると思ったからー、それを止めたかったんです」
「間違った力の使い方……?」
「は、はいー。貴族がどうして魔法を使えるのか、って考えてください」
のどかの例えはギーシュにはうまく伝わらなかった。腕を組み、真剣に考えているようだが、まったく思い当たらないようだったが、何か考えついたようだった。
「うーんと、そうだな……今思いつくのは、民を守るために魔法がある、ってことかな」
「それでもいいんです。あなたはさっきその民を守る力である魔法を何に使っていましたか?」
「平民に制裁を加えるため……と思っていたが、単なる憂さ晴らし……になってしまう、ね」
「貴族だから、魔法を使えるから、何も成していない人が威張るのはおかしい、と私は思いますー」
「なるほど、君の言わんとしていることは大体分かったよ……気を付けよう」
のどかはギーシュが理解してくれたことが嬉しかったらしく小さく笑った。
「! そうだ、まだ名前を聞いてなかったね。僕は、ギーシュ・ド・グラモン、だ。君は?」
「私は宮崎のどかですー。よ、よろしくお願いします。グラモンさん」
のどかが微笑みながらそう言うとギーシュの顔は一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤になり、よっぽど恥ずかしかったのか、すぐに後ろを向いた。
「あっ、ああ! よ、よろしく!」
「? どうかしたんですかー?」
「いっ、いやーなんでもないさー。気にしないでくれたまえ」
「それならいいんですけど……」
ギーシュが顔を真っ赤にして後ろを向いた理由は言うまでもなく、のどかが可愛かったからである。ギーシュは最初からのどかを怖がっていたため、顔を見ていなかった。恐怖していた相手がものすごく可愛くて、性格も穏やかなので、ギーシュはそのギャップにやられてしまったのであった。その後、香水を作ってギーシュに渡した女生徒がギーシュを連れて行った。のどかはタバサに一瞬で移動した技術は何か、どうやって金属でできたゴーレムを投げたのか、など質問攻めにあっていた。
ところ変わって学院長室では、遠見の魔法でコルベールとオスマンが今の決闘を見ていた。オスマンはのどかを見て、敵に回って欲しくない、という考えは正しかったと思っていた。コルベールはのどかよりも、サイトの方を注視していた。
戦闘描写って難しい……上手く書けてる自信ないし……しかも、ギーシュとの会話がグダグダになってるような……
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