恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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25時間目

 のどかとタバサは授業が終わったあと、部屋で今日の修行の内容を決めていた。

「それじゃあ迷惑にならないようにしないとねー」

 のどかがこう言ったのはわけがあった。夕方から夜にかけて、訓練する予定だからである。いつもは朝に訓練しているのだが、いつも同じ環境ではその環境でしか力を発揮できないかもしれないというタバサの意見であった。

「時間」

「うん、わかったー」

 タバサはいつもの魔法学院の制服で、のどかは制服ではなく、トレジャーハンターとしての装いで修行しに出て行く。

 二人はヴェストリの広場で修行をすることにしていた。あまり人が来ず、修行するには格好の場になっていたからだ。

「じゃあ、始めるよー!」

 のどかの言葉にタバサは頷きで返す。二人とも真剣味を帯びた表情をしている。それは、今回の修行は、技を磨くのではなく、実践形式で行おうとしているためである。

大きめのコインを投げ、それが落ちたら始めの合図である。

のどかはコインを放射線上にふわっと下から投げる。投げられたコインはゆっくりと落ちていく。そして、地面に落ちる。

 その瞬間に二人は動き出す。のどかはまず距離を取るために、『戦いの歌(カントゥスベラークス)』を発動、そのまま瞬動をする。下がりながら、魔法銃を取り出し、同じように瞬動で距離を詰めてきたタバサを牽制し、着地後に『戦いの歌』を解除する。タバサは開始直後にエアハンマーを詠唱しながら瞬動。しかし、のどかの魔法銃を打ち消すために、エアハンマーを振るう。追加の魔法銃の攻撃を横に転がりながら躱す。

「『コンデセイション』」

 タバサの呪文は水属性の初歩的な呪文だったが、トライアングルメイジのタバサが使うことで、より強力なものになる。大気中の水蒸気を液体に変える。その量は人一人を包みこむこともできるだろう。更にそれを凍らせる。それにより、のどかの魔法銃を止めることのできる盾を作り上げる。

「盾……それなら!」

 のどかは魔法銃をもう一つ取り出す。そして、右手に持った銃で、氷壁に向かって打つ。もう片方で左に打つ。今度は銃を持ち替えて先ほどとは逆のことをする。左の銃で氷壁を狙い、右の銃は右に打つ。そのあとは両手で氷壁に向かって構える。タバサが出てきならば、すぐに狙うためである。

 タバサも氷壁を作っただけで安心とは考えていない。氷壁の裏側でエアハンマーを詠唱、銃撃がやんだところで、氷壁を崩し、氷をつぶてとして飛ばそうとする。しかし、タバサの右側から光が迫る。氷壁ができてから、打った一発の銃弾が大きな弧を描きながら氷壁の裏側に向かってきたのである。タバサは光弾を一つ確認してから、逆側からも同じ光弾が迫っていることに気づく。最初の光弾はギリギリまで引きつけ、次弾が来るのを待つ。そして、光弾が近づいてきたところで、エアハンマー左側から横向きになぎ払う。光弾をかき消し、氷のつぶてで反撃、更にもう一つ迫ってきた光弾をも振り抜いて打ち消す。

 のどかは氷のつぶてを打ち落とすことは不可能だと判断し、再び『戦いの歌』を発動し、瞬動を行う。まっすぐ進んでは、つぶてに飛び込んでしまうので、一度斜めに逃げ、もう一度すぐに瞬動を行う。

 タバサはすぐさまエアシールドを形成、不可視の防壁をのどかがタバサを投げるために手を伸ばしたところに配置する。エアシールドに阻まれたのどかはすぐに離れようとするが、今度はエアシールドをのどかの真後ろに作り上げる。のどかは瞬動の勢いのまま、それにぶつかり、ケホッと咳き込む。タバサはそのあいだにエアシールドでのどかを囲い込む。のどかが逃げようとするも、四方を塞がれては逃げることができなくなっていた。

「うーん、参りましたー」

「勝ち」

 その言葉を契機として、さっきまでの緊張した空気が和らいでいく。

「うーん、今のは飛び込みすぎたのかな。風の魔法だとさっきみたいに逃げ場なくなっちゃうんだねー」

「わかっていたから」

「そっかー、動きは読みやすかった?」

「少しだけ」

 二人は話し合いながら、お互いのミスを見つけて改善しようとする。段々と日が落ちてきたため、もう一度同じように模擬戦をする。結果はまたタバサの勝ちだった。

「やっぱり動きを止められちゃうとダメだねー。壊せないから」

「心を読む?」

「そうだけど……もう少し自分で予測をしないといけないかなーって。いつでも『いどのえにっき』が使えるわけじゃないからー」

「決定打」

「私の課題はそこだねー。決定打を何か見つけないと……タバサは特に問題ないよねー、瞬動も使いこなしてるし」

 のどかがそう言うと、タバサは小さく首を横に振る。更にのどかに聞こえないくらい小さな声で「まだダメ」と伏せ目がちに呟く。のどかには聞こえていないようだった。

 

完全に日が落ちたので、二人はそろそろ部屋に戻ろうとしたところで、一つ気になるものが目に入った。それはヴェストリの広場の隅っこにあった。

「あれって鍋……だよね?」

「……鍋」

「大きいね……」

 二人は巨大な鍋がなぜ広場にあるのかが気になり、近づいていった。そこには、才人とメイドのシエスタが鍋の中にいた。二人は何やら談笑しているようで、のどかたちには気づいていないようだ。のどかは混乱しているようで、目を回して考えていた。

「戻る?」

 タバサの声で我に返り、首を縦にブンブンと振ってこっそりと逃げていく。できる限り音を立てないように、その鍋から離れていった。誰にもばれずに離れていった。実はもう一人才人たちを見ていた人物がいた。その人物とは、キュルケである。キュルケもたまたま才人とシエスタがお風呂に入っているのを目撃していた。そして、その様子を見て、自分に振り向かない才人に少し嫉妬していたのである。

 

 キュルケは部屋に戻った後、すぐにタバサの部屋に来て、タバサにあることを頼み始めた。

「ねえ、お願いタバサ。シルフィードでルイズたちの窓が見えるところに連れってってよお願い!」

 ついにはキュルケがタバサに抱きついて、その豊満な胸でタバサの顔を挟んでいる。キュルケの胸の形がタバサの顔に合わせて形を変える。それを見たのどかは顔を赤くして目を背ける。

「ねえ? いいでしょー?」

「わかった」

 キュルケの胸の圧力から解放されたいタバサはそれを了承する。しかし、キュルケは「ありがとー! さすがタバサー!」と言ってタバサをより強く抱きしめる。タバサも苦しそうに顔を歪め、のどかに目で助けを求める。

「あ、あの。キュルケさん」

「何? ノドカもやっぱり気になるの? そうよね~、やっぱり気になるわよね~」

「えっ? えと、気にはなりますけど……そ、そうじゃなくてですね、タバサが苦しそうですー」

「え? あー、ゴメンね、タバサ」

「構わない」

 キュルケの謝罪に口では良いと答えるが、そっぽを向き、キュルケから離れた後、のどかにくっつく。

「嫌われちゃったわー。じゃあ次はのどかを抱きしめないとねー」

「なっ!? なんでそうなるんですかー!?」

 キュルケがのどかを後ろからガッチリと抱きしめ胸の谷間に落とし込む。のどかは目をクルクル回して倒れてしまった。

 

 のどかが目を覚ましたのは次の日の朝だった。起きると、同じ布団にタバサがすぅすぅと寝息を立てている。のどかは無意識にタバサの髪を梳いていた。タバサの髪は指通りがよく、触っていて飽きないものだった。やがてタバサが目を覚ますと、いつものように出かけていく。

のどかとタバサが授業を終えて戻ってくる途中に、ある光景が目に入った。昨日の夜、才人と一緒に鍋風呂に入っていたメイドがルイズの部屋に入っていったのだ。それが気になり、のどかはタバサに先に部屋に戻ってもらうように言ったあと、ルイズの部屋をノックする。すると、中から才人の「やばい!」という声とともにガチャガチャと音が聞こえてくる。そして、音が聞こえなくなったあと、才人の震えた声で「ど、どうぞ」と聞こえてくる。

「失礼します」

 入ってきたのが、のどかだったので、才人はほっと胸をなでおろした。

「な、なんだ、のどかか……ルイズだったらどうしようかと思ったぜ」

「ふふ、ルイズさんだったらノックなんてしないと思いますー」

「……それもそうだな。のどかは何か用があって来たんだろ? ルイズは今いないぞ」

「いえー、特に用があってわけじゃないんです。ただ、メイドさんが部屋に入っていったので、少し気になって」

 才人はギクッとした様子で、顔を引きつらせる。そして、少し考えたあとシエスタにもう出てきても大丈夫だと声をかける。すると、布団の中からシエスタがひょこっと顔を出し、おずおずと出てくる。

「あ、あのサイトさん。良かった、ミヤザキさんだったのですね」

シエスタも安心した様子で出てきたそして、先ほど才人と話していた『飛行機』のことについて聞いたりした。

「そういえば、貴族ではないと仰っていたのですが、やっぱり貴族は偉いんですか?」

「実は私たちの国は貴族制はなくなっているんです。他の国にはまだあるんですけどね」

「貴族がいないなんて、考えられないです! 貴族がいないなんて考えたこともなかったです」

「そうですね。私もあんまりこっちに来て初めて貴族制に触れましたからてんてこ舞いです」

「ミヤザキさんは魔法を使っていましたよね? 貴族でなくても魔法を使えるんですか?」

「確かに、こっちみたいに貴族だから使えるわけではないです。でも、才能の有る無しで決まってしまいますね。それに、『飛行機』とかがある時代ですから、『魔法』自体は内緒になっているんです。多分、ここに来なければ、才人さんも一生魔法に関わらなかったんじゃないかと思います。もちろん私もある人が来なかったらそうなっていたと思います」

「わぁー、やっぱりサイトさんたちの国は素晴らしいですね! 行ってみたくなっちゃいます! サイトさん、いつかは連れて行ってくださいな?」

「えっ、それは……」

 才人が口ごもっていると、のどかが、連れて行くことがまだ難しいことを説明し、笑顔を作って補足をする。

「でも、近いうちに行き来できるようにしますからー」

「そんなことができるんですか!? そうしたらなんだか素晴らしいです!」

「俺も会ったことはないんだけど、そういうことまでできるらしいんだ。のどかの仲間たちは」

 のどかも仲間が褒められると嬉しくなり、ニコッと笑う。その時に髪で隠れた目元が見えて、それを見た才人が赤面し、それを隠すようにブンブンと頭を振る。シエスタは才人の世界の妄想に浸っているようで、気づいてはいないようだった。のどかも、シエスタが悪い人ではないということを確かめたので、「そろそろ部屋に戻りますね」と言って出て行った。

 のどかが出ていき、部屋に戻り、夜を迎える。のどかは今日も修行をしようと思っていたのだが、タバサが「勉強」と言ったので、お互いにお互いの言語を学びあっていた。

ヴェストリの広場で謎のテントがギーシュによって発見されたのは、その3日後だった。のどかや、タバサは色々な状況での修行をしていたため、ヴェストリの広場は使用していなかったので、発見できなかったのである。何より才人の風呂場と思っていたので、尚更立ち寄らないようにしていたのも理由の一つであった。




この休み中にいっぱい投稿していきますよー

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