恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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お久しぶりです。パソコンを買い換えたので、これからしっかり投稿していきますよ!


23時間目

 のどかたちを乗せたシルフィードはトリステイン王宮の上空を通り、中庭へと降り立った。

現在のトリステイン王宮はなぜか強い緊張感を持っていた。ある噂が流れていたからである。その噂とは、アルビオンを制圧した貴族派の「レコン・キスタ」がトリステインに攻めてくるというものである。そのため、トリステイン王宮の上空には、船、幻獣を問わずに飛行禁止令が出されていた。更に、出入りの者たちに対してもディテクトマジックでメイジが化けていないか、魔法で操られていないかなどを確認されていた。

 王宮の中庭へと降り立ったシルフィードは即座にマンティコア隊に包囲された。マンティコア隊の隊員たちは腰からレイピアのような形をした杖を取り出し、いつでも呪文の詠唱が発動できるように構えている。ごつい髭面の男性が一歩前に出て、大声で叫ぶ。

「杖を捨てろ!」

 シルフィードに乗っていた者、ルイズ、キュルケ、ギーシュはむっとした表情を浮かべたが、マンティコア隊を見てタバサが首を振り、杖を捨て、言った。

「宮廷」

 その一言で、3人とも仕方がないといった様子で、杖を捨てた。

「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。触れを知らんのか?」

 ルイズはその問いに答える様子も見せず、毅然として言う。

「わたしは、ラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものではございません。姫殿下に取次ぎ願いたいわ」

 先ほど前に出た男、マンティコア隊の隊長である彼は、口髭を触りながら、ルイズを見る。

「ラ・ヴァリエール家の三女とな? ふむ、確かに目元が母君にそっくりだ。して、要件を伺おうか?」

「それは言えません。密命なのです」

「では、姫殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。要件も尋ねずに姫殿下に取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶからな」

 困った声で、隊長がそう言った。そのまま間髪入れずにサイトがシルフィードから飛び降りて言った。

「密命だもの。言えないのは、しょうがないでしょう」

 隊長は降りてきた才人の格好を見て苦い顔つきになった。才人の格好はどう見ても、平民のそれであったからである。

「無礼な平民だな。従者風情が貴族に話しかけるという法はない。黙っていろ」

 その態度から才人は頭にきた様子だった。背中に吊ったデルフリンガーの柄に手をかけると、ルイズに聞いた。

「なあルイズ。こいつやっちゃっていい?」

「何強がってるのよ。ワルドに勝てたのなんてノドカの力があったからじゃない。そうじゃないとあんたはワルドにだって勝てなかったわよ」

「いや、そうだけど……」

 隊長はルイズと才人のやり取りを聞き、目を丸くした。ワルドに勝った、ワルドというのはグリフォン隊の隊長のワルド子爵か? なんにしても「ワルドに勝った」とは聞き捨てならない。

「貴様ら何者だ? とにかく、殿下に取り次ぐわけにはいかぬ」

 その声は硬く、警戒しているようであった。

「あんたが余計なこと言うから、疑われちゃったじゃない」

「だってあの髭生意気なんだもの」

「いいからあんたは黙ってなさいよね!」

 才人はそう言われたあと小さく、この世界の髭は生意気なやつしかいないのかよ、と小さく呟く。

 妙なやり取りを見た隊長が隊員に目配せして、隊員全員に杖を構えさせ、捕縛するために呪文を唱えさせようとした時だった。宮廷の入口から鮮やかな紫色のマントとローブを羽織った人物が、ひょっこりと顔を出した。魔法衛士隊に囲まれているルイズの姿を見て慌てて駆け寄ってくる。

「ルイズ!」

 駆け寄るアンリエッタの姿を見て、ルイズの顔が、薔薇を思わせるように赤く染まり、ぱあっと輝いた。

「姫さま!」

 2人は一行と魔法衛士隊が見守る中、ひっしと抱き合った。

「ああ、ルイズ! 無事だったのね。うれしいわ。ルイズ・フランソワーズ……」

「姫さま……」

 ルイズの目から涙がこぼれる。

「件の手紙は、無事、このとおりでございます」

 ルイズはシャツの胸ポケットからそっと手紙を見せる。それを見たアンリエッタは大きく頷き、ルイズの手を固く握り締めた。

「やはり、あなたはわたくしの一番のおともだちですわ」

「もったいないお言葉です。姫さま」

 しかし、一行の中にウェールズの姿が見えないことに気づいたアンリエッタは、顔を曇らせる。

「ウェールズ様はやはり父王に殉じたのですね……」

 ルイズは目をつむって、神妙に頷いた。

「……して、ワルド子爵とノドカさんは? 姿が見えませんが。別行動をとっているのかしら? まさか……、敵の手にかかって? そんな、あの2人に限って、そんなはずは……」

ルイズは慌ててシルフィードの背中を指差した。

「姫さま、ノドカはあそこです。ただ……」

  ルイズの指差す方向へ目を向け、アンリエッタは少し安心したようだった。ルイズの表情が曇ると、才人が言いにくそうに告げた。

「ワルドは裏切り者だったんです、お姫さま。のどかはワルドの攻撃を受けて動けない状態です。水の秘薬で多少は良くなったんですが、まだ動けないみたいで」

「裏切り者?」

 アンリエッタの顔に雲がかかった。そして、興味深そうに見つめている面々に気づき、マンティコア隊に説明した。

「彼らはわたくしの客人ですわ、隊長どの」

「さようですか」

 アンリエッタの言葉で納得した隊長はあっけなく杖をおさめると、隊員たちと持ち場に戻っていった。

「道中何があったのかお聞きしたいところですが、ノドカさんの治療が優先ですわね。水の秘薬はまだ余っていますか?」

 タバサがアンリエッタに水の秘薬を差し出す。それを受け取るとシルフィードの背に乗っているのどかに近づき、秘薬を媒介に呪文を唱え始める。

「あ、アンリエッタさんすみません、ウェールズさんを連れてくることができませんでした」

 アンリエッタが魔法を唱えると、のどかの傷はみるみるうちに治っていく。ただ秘薬を塗りこんだ時とは違い、「水」の力を受けた秘薬は傷を治すことができたのである。

呪文を唱え終えたアンリエッタは柔らかく微笑んだ。

「わたくしがあなたに依頼したのはルイズたちの護衛ですわ。そんなことまで頼んだ覚えはありませんわ。お気になさらないで」

 のどかは目を伏せ、はい、と力なく呟いた。空になった秘薬の小瓶をのどかに渡し、ルイズたち一行を部屋に案内する。治療によって歩けるようになった、のどかもその後に続いていく。のどかとタバサ、キュルケやギーシュは謁見待合室に残され、ルイズと才人だけがアンリエッタの自室に招かれた。

「それにしても豪華ねぇ。あたしの家もかなり大きいけど、やっぱ宮廷には敵わないわ。これいくらするのかしらね~」

沈黙に耐えかねたキュルケが口を開く。

「君はこのようななところでも相変わらずだな。もう少し静かにしたらどうかね? 貴族としての品格が疑われるぞ」

 ギーシュは何やら緊張しているようで、声が震えて自分でも何を言っているのかわからない様子である。

「はぁ。あんたね、急に何言ってんのよ。それに待合室に通されたってことはあたしたちには用がないってことでしょー。緊張するだけ無駄よ」

キュルケはいつもの飄々とした態度でギーシュを適当にあしらう。ギーシュはそんなことわかっているとも、と言って、それっきり黙ってしまった。

「ねえ、ノドカ」

 ギーシュが黙ってしまったので、今度はのどかに狙いを定めたキュルケが話しかける。のどかがキュルケの方を向き、言う。

「な、なんでしょう?」

「ノドカはまだあのお姫さまに渡すものあったの? ほらさっき、ダーリンに渡していたじゃない? 何かはわかんなかったけど」

「はい、実は秘薬の小瓶から出てきたんです。アンリエッタさんは気づいていませんでしたけど、空になって、受け取った時に気づいたんです。きっと才人さんならうまく渡してくれると思いますからー」

のどかがアンリエッタと才人を想うように目を閉じる。キュルケはのどかを見て余計に気になったようだった。

「それなんだったのよ?」

 のどかが困ったような表情を浮かべていると、キュルケは諦めたようだった。

「はぁ、やめとくわー、タバサも教えないって感じの顔してるしねー」

「すみません、キュルケさん」

「いーのよ、わかってたしねー。気にしないで。元々不躾なのはあたしだし」

 キュルケがそう言ったタイミングでアンリエッタの部屋の扉が開き、才人とルイズが出てきたのだった。

 

 シルフィードの背中にはのどか、タバサ、ルイズ、キュルケの4人だけが乗っていた。才人とギーシュはと言うと、キュルケが手紙の中を知りたいと冗談でゴネた時にシルフィードのバランスが崩れた時にギーシュは落下し、のどかだけが唯一ギーシュさん! と声をあげただけでほかの人たちは全員どうでもいいというような様子を貫いていた。才人はギーシュが落ちそうになった時にルイズもバランスを崩したので、才人が腰に手を回して支えたのだが、その様子を見たキュルケがおちょくったせいで、顔を真っ赤にしたルイズが、才人を突き飛ばして落としたのである。落ちたとは言え、ギーシュはメイジ『レビテーション』の魔法でふわりと減速し着地。才人はタバサが面倒くさそうに『レビテーション』をかけることで事なきを得たようであった。

 のどかは落ちた二人が気になるのか、後ろをしきりに確認しながら、タバサに話しかける。

「あのね、タバサ。私2人を乗せるために戻ったほうがいいと思うんだけどー……」

 タバサはのどかを見たあと、キュルケを見た。

「この風竜が疲れちゃうから却下ってさ。まあ半日くらい歩けば着くから大丈夫じゃない?」

 のどかは困ったように笑って、そ、そうですかー、と言ってそれっきり黙ってしまった。先程まで顔を真っ赤に染めて怒っていたルイズも落ち着きを取り戻したようで、のどかに話しかける。その表情は暗く、先程とは別人のようだった。

「ゴメンね、ノドカ。私のせいで怪我させちゃって、痛かったでしょ?」

「ルイズさん、気にしないでください。アンリエッタさんの魔法で完治しましたから。もう大丈夫です」

 のどかがルイズを安心させようと穏やかに微笑むがルイズの表情は暗いままだった。

「ルイズー、あんたね。謝るよりもお礼でしょ。ダーリンがお姫さまに渡したものとか、ワルドでの戦いのこととかね」

 キュルケはしおらしくなったルイズを見るのが嫌らしく、桃色がかったブロンドの髪を引っ掻き回す。

「キュルケ! やめなさいよ! もう……。あ、ノドカ今回もありがと。えっと……タバサとキュルケもあ、ありがと」

「あら、ヴァリエールがあたしにお礼を言うなんて、世も末ねー」

「照れ隠し」

「なっ! 違うわよ、タバサ! もう!」

 トリステインの空に3人の少女の笑い声が吸い込まれていった。

 




次回は才人の奇行、コルベール先生の蛇くんあたりが書けたらいいなぁと思っています。

ゼロの使い魔21巻が2月25日に発売が決まったようですね。それが最近の楽しみになってますw

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