のどかたちは
「頭、連れてきました。こいつらです」
4人を連れてきた男が言う。頭は4人を見ると、睨んでいるルイズに気づき、ルイズを舐めるように見た。ルイズはそれがかなり不快だったようで、更に強く睨みつける。
「いいね、気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さて、名乗りな」
「大使としての扱いを要求するわ」
ルイズは頭の言葉を無視し、毅然として言った。
「そうじゃなかったら、あんたたちなんかと一言だって口を聞くもんですか」
ルイズの言動はすぐに殺されてもおかしくないようなものだったため、才人はビクビクしていた。しかし、頭は気に留めた様子もなかった。ルイズの発言を無視して報告にあったことを確認する。
「お前ら、王党派と言ったな」
「ええ、言ったわ」
ルイズは毅然とした態度を崩さない。
「何しに行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうぞ」
「あなたたちに言うことではありません。少なくとも、今はまだ」
ルイズに代わってのどかが答える。最後はあまり声に出さなかったので、誰にも聞こえていなかったが。
「貴族派につく気はないかね? あいつらはメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ」
才人はさすがにまずいと思ったのか、おい、ルイズと言おうとした。その時に気づいた。ルイズは震えているのだ。ルイズは怖くても男をまっすぐ見ている。のどかが小声で話しかけてきた。
「才人さん、ルイズさんもあなたと同じなんですよ」
「そう……だな。(俺もギーシュとやりあった時は同じだったよなぁ。あの時と同じなら止めても無駄だよな。ご主人様のお手伝いくらいしねえとな)」
「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」
頭の言葉には次はない、というくらいの気迫が含まれていた。ルイズが答えるよりも速く才人が答えた。
「つかねえって言ってんだろ!」
頭が才人を睨む。そう言ったことを何度もしてきたのだろう。人を射すくめるのには慣れた眼光であった。
「なんだ貴様は?」
「使い魔さ」
才人は間を空けずに答えた。
「使い魔?」
「そうだ」
頭は笑った。大声で笑った。
「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないね。まあ、どこぞの国の恥知らずよりは何百倍もマシだがね」
頭は、わっはっは、と笑いながら立ち上がった。才人とルイズは何がなんだか分からずに顔を見合わせていた。
「いや、失礼した。貴族に名乗らせるならこちらから名乗らねばな」
周りに控えていた男たちは下卑た笑いをやめ直立した。そして、頭は黒髪を剥いだ。黒髪だと思われていたものはカツラだったらしい。そして、眼帯を取り、作り物であるらしいヒゲをベリベリっと剥がすと、現れたのは、凛々しい金髪の青年だった。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、と言っても今は『イーグル号』しかない無力な艦隊だがね。まあそっちの肩書きよりこっちの方がわかりやすいだろう」
そう言うと、青年は誇らしく、高らかに名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ルイズと才人は予想外だったのか、ルイズは口をあんぐりと開け、才人は事の重大さを理解しきれずにボーッとしている。ワルドは皇太子を興味深そうに見ている。のどかは少しアテが外れたような顔をしている。
「(王党派の船だとは思っていたんだけど、皇太子様が乗っているとは思わなかったなー。もし、貴族派だったら問答無用でやられてしまっていたでしょうしー。貴族派と偽ったほうが安全なんでしょうか……?)」
ウェールズはにっこりと魅力的な笑みを浮かべたあと、4人に席を勧めた。
「さて、大使殿。御用の程を伺おうか?」
ルイズと才人はあまりのことに口が聞けなかった。のどかが喋ろうとしたが、その前にウェールズが2人に説明を始めてしまった。
「その顔は、どうして私が盗賊風情に身をやつしているのだ? といった顔だね。そこのお嬢さんはなぜかわかるかい?」
ウェールズはのどかに聞いてきた。2人はまだ固まっていたので、緊張が解けるまで、先程と変わらない様子ののどかと話をしようと思ってのことであった。
「お、恐らく自軍の補給物資の補充、敵軍の補給経路の破壊を同時に行うというのが真っ先に浮かびます。私たちが乗っていた船の物資を奪ったのもそれが目的だと思います。それを王軍の旗を掲げて行ってしまうとあっという間に包囲されてしまうと思います。なので、安全のために盗賊の格好をしている、ということでしょうか」
のどかが考えていたことを話すとウェールズは驚いたような顔をした。年端もいかないような少女が自分の気まぐれの質問に答えてみせたからだ。
「素晴らしい、その通りだよ。しかし、驚いたな。君ほどの年で我々の作戦が看破されてしまうとはね。しかし、あの一瞬でよくわかったものだ」
「いっ、いえ、今のだけでわかったわけではないんです。船倉の積荷を見たときからずっと考えていたんです」
ウェールズはのどかの言葉に疑問を覚えた。
「積荷?」
「はい、この船の積荷には食料が多く積み込まれていると思ったんです。でもこの船の積荷は硫黄が多く、食料はほとんど見当たりませんでしたから」
「それだけでなぜこの船が王党派だとわかったんだね?」
ウェールズがのどかに尋ねる。ワルドものどかを注視し始めた。
「確証はなかったんですけど、貴族派に売るんだったら大量の食料の方がいいかな、って思ったんです。それにこれだけの硫黄が必要ということは」
「つまり、ミヤザキはこう言いたいのだな。アルビオン王国には火力が必要だ、と。だから、食料ではなく硫黄が必要になっているということだね?」
のどかの言葉を遮り、ワルドが答える。その答えはのどかとは違っていたものの、のどかはそれに頷いた。
「なるほど、最近の魔法学院の生徒は賢いのだな。我々ももう少し考えて行動しなければな。そろそろ本題に移ろうか。大使殿?」
ルイズはまだ心の準備が出来ていないらしく、プルプル震えていた。これではまともに喋ることはできないだろう。それを見たワルドが頭を下げ優雅に話し始める。
「アンリエッタ姫殿下から密書を預かってまいりました」
「アンリエッタから? 君は?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
そう言うとワルドはルイズたちを紹介した。
「そしてこちらが姫殿下から大任を仰せつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔、最後にミヤザキ嬢でございます。使い魔の彼と彼女は
「なるほど、君のような男があと10人居れば我々の国も今日のようなことにはならずに済んだだろうに! して、その密書というのは?」
ルイズがその言葉で我に返ったらしく、慌てて胸のポケットから密書を取り出し、ウェールズに恭しく近づこうとしたが、立ち止まった。
「どうしたのかね?」
「あの、失礼ですが、本当に皇太子様?」
ウェールズは笑顔で答えた。
「先程のことを考えれば当然の反応だな。君の優秀な仲間が示したとおり、私たちが王党派で、本物の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」
そう言ってウェールズは、ルイズの持つ水のルビーを見つめ、自分の指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。そうすると、2つの石が共鳴し合い、虹色の光を振りまいた。
「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君が嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」
ルイズは頷いた。
「水と風は、虹を作る。王家の間に架かる虹さ」
「大変失礼をば、いたしました」
ルイズは皇太子に一礼をして、手紙を渡した。ウェールズはその手紙を愛しそうに見つめ、花押に接吻した後、慎重に封を切った。そして、その手紙に目を通し始める。
「ああ、何てことだ。姫は結婚するのか? あの愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」
ワルドは無言で頭を下げ、肯定した。そしてまた、手紙に視線を落とした。最後の一行まで読むと、微笑んだ。
「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な姫からもらった手紙だが、その姫の頼みとあれば断る理由がない」
ルイズの顔が輝いた。才人もその答えに安堵したようだった。
「しかし、今この場にはないんだ。ニューカッスルの城にある。誰が大切な姫の手紙を空賊の真似事をする場に連れてくるわけにはいかぬのでね」
ウェールズは笑って言った。
「少々、面倒だが、ニューカッスルの城までご足労願いたい。それまでゆっくりと休むといい。何かあるかね?」
ウェールズが笑顔で問いかけると、才人は間髪入れずに答えた。
「飯が食いたいです!」
「ちょっとサイト! 失礼でしょ! 申し訳ありません、皇太子様。私の使い魔が……」
「ははっ、いや構わないさ。食事は、そうだな。ニューカッスルの城でご馳走しよう。この船には食料が少ないからね」
「ありがとうございます!」
ルイズは今にも才人を叩きそうな勢いだったが、ウェールズの手前、なんとかこらえていた。4人が退室する前にのどかがウェールズに才人の傷を治すメイジをお願いし、解散となった。
久しぶりの上に文字数もあんまりないですが、いろいろと終わりましたので、これから投稿頑張っていきます!
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