恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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のどかのキャラが違うような気がする……難しい


入学編
1時間目


のどかは学院長室と呼ばれる場所でヒゲが長い老人とカツラをかぶり、杖を持った中年の男と対面していた。その老人はオールド・オスマンと言い、のどかがゲートの事故によって飛ばされた後、すぐに見つけた建物――トリステイン魔法学院の学院長らしい。そして中年の男の方はコルベールと言い、教師をしているらしい。

 

 なんか麻帆良学園の学園長さんと雰囲気が似てますー。魔法使いを育成する学校はアリアドネー以外にもないことはないからてっきりそこに飛ばされたのかと思ったんだけど……

 

「ふむぅ、では君は別の世界から来た、と? にわかには信じられんのぅ、信じろという方が無理な話じゃ」

「そ、そうですよね。私でもそんなことを急に言われたらその人を疑っちゃうと思いますしー」

 

 オールド・オスマンがのどかの言葉を訝しげに見ているのに対し、コルベールは感極まった様子でのどかに近づくと、手を握り、目をキラキラと輝かせていた。手を握ったところでのどかは身体をビクッとさせ、困った様子でコルベールを見る。

 

「キャッ! え、えとー。あのー……」

「ミヤザキノドカさん、でしたね! 私はあなたの話を信じようと思います! オールド・オスマン! 彼女の異世界の話は作り物にしては出来すぎています! 鉄が空を飛ぶ! そんなことが考えられますか!? 私はもうそんな想像をしただけでドキドキしてしまいますぞ! しかも、飛行船よりも速い! 乗ってみたいですなぁー」

「これこれ、コルベールくん。簡単に信じすぎじゃろ。確かに、彼女がウソをついとるようには見えんしのぅ。ワシは立場上、こんな突拍子もない話を簡単に信じるわけにはいかんのじゃ。君の着ている制服のデザインは見たことないが、オーダーメイドなら簡単に作れるじゃろうし。系統魔法の種類の違いも筋が通っておった。じゃが、妄想と言われればそれまでじゃ」

 

 のどかはその通りだ、と思った。自分の言ったことは筋が通っていても証明する手立てがない。のどかが少し考えていると、コルベールは何かを思いついたらしくあることを提案した。

 

「オールド・オスマン、彼女の魔法を見せてもらえば良いのでは? 我々とは違う属性の魔法を扱うことが出来れば、証明になるかと」

「その通りじゃが、それじゃと異世界の魔法とはどんなものかと期待し、油断しとるワシらを簡単に殺せるかもしれんからのぅ」

「あ、あのー。ゴメンなさい、私は魔法の才能がないらしいので、魔法を使えないんですー。出来ても、身体強化くらいでー」

 

 のどかが自分について説明したところでコルベールは疑問に思ったことがあるらしく、のどかに説明をした。

 

「? ミヤザキさん、貴方は貴族なんですよね? 貴族じゃないと魔法は使えないはずですが……」

「貴族、ですか? 違いますよー。身分制度なんてないようなものですよ。魔法世界(ムンドゥス・マギクス)ではそういう制度もあると思いますけどー。それに、身分で魔法が使えるとか使えないとかはありませんよー。私の友達も貴族じゃありませんけど、魔法の才能がありましたしー」

「なるほどのぅ。これは大きな違いかもしれんのぅ。貴族を前にしてそんなこと言える平民はおらんじゃろうて」

「ど、どういうことですかー?」

「なに、単純なことじゃ。ワシらの世界、と言ったほうが良いかの。ワシらの世界で平民と貴族はあまりにも力の差がありすぎる。それは身分だけではなく」

「魔法が使えるかどうか、ですね?」

「うむ、理解が早いのう」

「そ、そんなことないですよー。ただ、今までの話から推測できることだと思いますー」

「では、なぜ魔法が使えると偉いのかわかるかの?」

「恐らく、オスマンさんの世界では科学技術が発達していません。ここで重要になってくるのは、魔法使いの存在だと思われます」

「こっちではメイジというのですが……」

「コルベールくん! 話の腰をおるでない!」

「申し訳ありません! 宮崎さん続けてください」

「あ、はいー。魔法使いじゃなくてメイジですね。簡単な話、重要な仕事にはメイジがつく、ということかと。土のメイジは建築業、風のメイジは飛行船の動力源になってくれたり、水のメイジは話を聞く限りお医者さん、火のメイジは思いつきませんけどー。後は嫌ですけど、戦争に出向くのもメイジなのではないかと……思い、ます」

「まあ、そんなところじゃの。じゃあ最後にメイジが平民に協力することがあると思うかの? 君の話ではメイジと平民がお互いに協力し合っているように聞こえるのぅ」

「………………じゃあやっぱりメイジの人は平民の人を見下しているんですね……魔法が使えないからと言って……ひどいです。……そういう、ことならメイジの人がいなくても動力となるモノが必要になってきますよね。それはきっと資源なんでしょうね。魔法の力が宿ったナニカだと思います」

「その通りです! いやはや素晴らしいですぞ! オールド・オスマンが誘導したとはいえ解にたどり着くとは!」

 

 コルベールがのどかが出した答えに興奮して舞い上がっているのを見てオスマンは少し苦い顔をした。

 

「…………うむ。これが我々の世界のルールじゃ。(洞察力がハンパじゃないのぅ。しかも、()()()()と言ったということは初めからそれは推測しておったことじゃろうな。まあ、貴族と平民の差は本の世界と同じだから浮かんだ、と思ってしまえばそれまでじゃがの。恐ろしく頭の回転が速い。更に、おっとりしておるからと言って油断しとると危険じゃのぅ。ここは、ここに留めておかなければならんのぅ)」

 

 あわわ、私何かまずいこと言っちゃったかなー。オスマンさんは普段通りを装っているみたいだけどー……こんなこと考えちゃダメなのに……やっぱり私ってダメだなー。

 

「ミヤザキくん、ここの生徒になる気はないかのぅ?」

「オールド・オスマン!? さすがにそれは……」

「オスマンさん、そのお誘いは嬉しいですけど、私には魔法の才能は……それに証明が出来たわけではないですし」

「ふむ、そうじゃな。正直に言おう、ワシは君が恐ろしい」

 

 その言葉にコルベールは驚愕した。メイジの中でも最強と謳われているオールド・オスマンがただの少女に恐怖している、と言ったのだ。コルベールにはそれが信じられなかった。

 

「(オールド・オスマンが宮崎さんを怖がっている!? 確かに、彼女の観察眼や推理力は目を見張るものがありますが……)」

 

 私が恐ろしいって……やっぱり私何かしちゃったのー!?うぅ……フェイトさんにも言われたんだよねー……

「宮崎のどか、君は敵に回すと厄介だから真っ先に狙っていたんだけどね。というか正直邪魔だったよ。ついでに言うと今ネギ君は僕と話しているんだ。つまり、今も邪魔だということだ。だからどこかに行ってくれないかい?」

 うぅー、思い出しても悲しくなってくるよー。アレって強制だったような……

 

「何やらトリップしておるようじゃが、話しても良いかの?」

「あ、すいません」

 

 オスマンは場の雰囲気を引き締めるように咳払いをすると、普段の彼を知っている人物からは想像できないような真剣な面持ちになり、のどかを見た。のどかもその雰囲気を感じ取りオスマンに目を合わせる。

 

「君を敵に回したくないというのが本音じゃ。君をここに置いておきたい。気付いておるとは思うが、監視という名目もつくがの」

「魔法は使えませんけど、そういうことでしたら。監視されるのも当然ですし」

「うむ、すまんのう。あと、こんなことは言いたくないんじゃが、ワシが君を恐れている理由を話してもよいかのう?」

 

「い、いえー、必要ないですー。あ、ある人に散々言われましたからー。あ、証明できるものを思いついたので、いいですか?」

 

 のどかの言葉を聞いて真っ先に反応したのはコルベールだった。彼は先程のオスマンの発言など忘れてのどかに詰め寄っていた。のどかはコルベールが急に近づいてくるので、乾いた笑いを漏らしていた。オスマンはのどかを注視していたが、先程のような雰囲気はなく、コルベールほどではないが、楽しみにしているようだった。

 

 よく考えたら、アーティファクトを出せばそれで済むはずなんだよねー。なんで思いつかなかったんだろー。

 

 のどかは服のポケットからのどかの絵が描かれたカードを取り出すと説明を始めた。

 

「これはパクティオーカードと言って、魔法使いの従者になった証ですー。呪文を唱えると契約した人専用のマジックアイテムが出てきます」

「ほう……実演してもらってもいいですかな?」

「いや、コルベールくん。その必要はないじゃろう。ワシが宮崎くんを信頼しておるからのぅ。くだらんウソはつかんじゃろ。マジックアイテムはワシも気になるところじゃが、このようなところで使う必要もあるまい。そのカードを調べれば良い話じゃ」

「な、なるほど」

「あ、どうぞー。これが私のカードですー」

 

 のどかがカードを渡すとオスマンとコルベールはお互い顔を見合わせた。そしてひとつの結論に達した。

 

――このカードは間違いなく異世界の魔法がかかっている――

 

「間違いないようじゃな」

「そうですね、このような魔法の術式は見たことありません。オリジナルかと思いきやそうでもないようですね。我々の魔法のコントラクト・サーヴァントと似ていますがね」

「従者になると言っておったからの。似ておっても不思議ではないじゃろう。この文字はどういう意味なのかの?」

「えーっと、それはー。恥ずかしがり屋の司書です。仮契約(パクティオー)、つまり主従関係を結んだ時にその人に与えられる称号のようなものです」

「なるほどのう。これを見るとどんな人かわかる、とうことじゃな。宮崎くんは司書というくらいじゃから本が好きなのかの?」

「はい! 大好きですー。色んな本を読むんですけど……」

「ほほう、そっちの世界の本も読んでみたいものじゃ」

 

 異世界の本に思いを馳せているのどかにオスマンはカードをのどかに返すと、すぐに羽ペンを取り出し、編入手続きをしてくれていた。コルベールは二年生の召喚の儀式があるからと学院長室を出ていった。オスマンはのどかに一人部屋はないから誰かと同室になってもいいかと確認した上で、部屋を手配した。のどかはオスマンから言われた資料を受け取って書かれている部屋に向かった。文字は読めないが、部屋までの地図をもらえたので問題なくたどり着くことができた。

 

 勝手に入っちゃダメだよね……同室の人が来るまで待とうかな。

 

 のどかが部屋の前に座って待っていると、相部屋の人がやってきたらしい。小柄で綺麗な水色の髪をした少女が前に立っていた。

 

「誰?」

「あ、ここの部屋の方ですかー?」

「そう」

「今日から相部屋になった宮崎のどかと言いますー。よろしくお願いしますー」

「相部屋? 聞いてない」

「今日決まったらしいのでー。これは学院長さんにもらった資料ですー」

 

 少女はのどかが見せた資料を見て納得したらしい。

 

「タバサ。よろしく」

 

 小さく自分の名前を名乗るとのどかを部屋に招き入れた。

 

 無口な人だけど、いい人で良かったー。それにしても豪華なベッドだなー。麻帆良学園の方が大きかったけど、貴族は違うんだー。なんだか物語のお姫様になった気分だよー。

 

夜になり、寝ようと思ったところでのどかは一つ疑問に思ったことがあった。言葉が読めなかったのに、どうして会話ができるのだろう、と。それを考えているとひとつの結論に達した。パクティオーカードの効果、ということである。魔法世界(ムンドゥス・マギクス)でも日本語が通じたのはそういう理由だろう。それ以外には考えられなかった。のどかは文字が書けない。魔法が使えない。これでは怪しまれてしまうのではないかと想い、そのことをオスマンに相談することを決めて、その夜は眠りについた。

 

寝る前になぜか男子の叫び声が聞こえてきた気がするが、気にしてはいけない。

 




とりあえず同じ本好きということでタバサと同室に。

パクティオーカードの設定はオリジナルです。実際はカードにそんな効果ないんですよね。亜子たち普通に会話してましたし……こ、細かいことは気にしないことに……
才人もルーンをもらうまでルイズたちが何を言っているのかわかっていなかったので、こういう便利な能力をカードに付与しました。

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