「才人さん、少しいいですか?」
「ん? どうしたんだ?」
「少し、お話したいことがありまして……」
才人は少し頭に疑問符を浮かべた。のどかはそんな才人に構わず話を続ける。
「才人さん、私の仲間から連絡が入りました。多分、この世界を探知することができると思うので帰れる可能性がかなり高くなりました」
「本当か!? そっか……のどかの仲間って凄いんだな。もう連絡取れちまったし」
「どうしてかは私にもわからないですー」
才人は帰れる可能性が高くなったと聞いて、とても嬉しいようであった。声の調子も明るくなり、いつもよりも表情に輝きがある。
「でも、帰れるかもしれないんだろ? それだけでも嬉しいよ。でも、ルイズのやつが心配だな……」
「きっと大丈夫です。私の仲間ならきっとこの世界と私たちの世界を繋いじゃうと思いますから」
「そ、そんなことできるのか!? マジかよ……」
「はい、それくらいすごい人たちなんですよー。フフッ」
才人はのどかの笑顔で赤面した。
「(やっぱり可愛いよなぁ。ルイズもスッゲェ可愛いけど、のどかも可愛いし……俺ってこんなやつだったのか……そういえばのどかって好きな奴とかいるのかな? 彼氏とかいても不思議じゃねえよな……)」
才人がそう思案していると、のどかは先程よりも真剣な面持ちで才人に喋りかける。
「才人さん、実はさっきの事なんですけど……」
「うぇ? さっきのこと?」
「はい、さっき私が1人で全部解決するなんて言ってたんですけど……やっぱり1人じゃダメだって気づきました」
「ず、随分急に心変わりするんだな。のどかってもっと頑固だと思ってたよ」
「(私ってそう思われてたんだ……なんだかショックかもー)うう、失敗しちゃったら元も子もないですからー。それで、さっき分かったことをお話します。やっぱりワルドさんは敵です」
「敵? でも、だとしたらあいつは自分の味方をためらいなく、魔法で攻撃したんだぞ。それは躊躇するってのどか自身がそう言ってたじゃないか。どうして?」
「それは、あの攻撃してきたメイジがワルドさん自身だったからです」
「へ?」
才人は素っ頓狂な声をあげた。
「アレは恐らく、『偏在』という最高クラスの『風』の魔法だと思われます。ちょうど、アンリエッタさんが来るということで、中断されたギトー先生が使おうとしていたものですね」
「『偏在』って?」
「『偏在』は自分の分身を作る魔法です。そして、ワルドさんは『風』のメイジ。あの敵も『風』のメイジ。ワルドさんが、なんのためらいもなく攻撃できたのは、分身体だったからだと思います。根拠はそれだけなんですけど……信じてくれますか?」
才人はのどかの答えに笑顔で返す。
「当然だろ、のどかの言うことは今まで外れなかったからな。今回も信じるよ」
「あ、ありがとうございます」
才人の真っ直ぐな答えにのどかは面食らったが、すぐに微笑みで返したのであった。
「そうだ、のどか」
「なんですかー?」
才人は先程浮かんだ疑問をのどかにぶつけることにした。
「のどかって好きな奴とかいるのか? 彼氏とかは?」
才人の突然な問いかけにのどかは顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。
「さ、さ、才人さん!? ど、どうして急にそ、そんなことをー」
「(のどかってやっぱりこういうことに免疫ないのかな? 麻帆良女子中等部って言ってたし……男慣れしてないのか?)い、いや気になったから」
「え、えーっと……は、話さないとだ、ダメですか?」
「無理に話さなくていいからな。単純に俺の興味だから。ゴメンな、急に」
「い、いえー……すいません。慣れていなくてー」
のどかと才人はどこかギクシャクした様子で割り当てられた部屋に戻っていった。のどかの部屋は1人用だったのだが、なぜかそこにはワルドがいた。
「待っていたよ、ミヤザキ。君に聞きたいことがあるんだ」
のどかは思わずワルドを警戒した。当然だろう、のどかはワルドを敵だと認識しているのだ。警戒するなという方が無理な話である。
「わ、ワルドさん。ど、どうして私の部屋に?」
「言っただろう? 君に聞きたいことがある、と」
ワルドはのどかを注意深く観察しているようだ。のどかが妙な動きをしないかどうか監視しているようだ。
「君はどうして、僕をそんなに警戒するんだい?」
「それが、聞きたいことですか?」
「いや、これは君がずっと僕を警戒しているのでね。多少気になっているんだ」
「私の部屋に勝手に入ってきたのに警戒するな、というんですか?」
「これはすまないことをした。確かに、その通りだ」
(ワルドさんは一体何をしに私の部屋に来たんだろう。聞きたいことがあるっていうのはきっと本当。でも、本当にそれだけなのかな?)
「さて、本題に移ろうか。君の力についてだ。あのルイズを助けた時の瞬間移動のような技術。それを教えてほしくてね。教授しなくてもいいんだ。その名前と特徴を知りたくてね。他にも何か隠しているようなことがあれば聞いておきたいところだな」
「
のどかはワルドの目的を探ろうと、ワルドの一挙一動を注視していた。ワルドものどかをジッと見ている。
「なるほど、それならば仕方ない。では、失礼するとしよう」
「はい、お休みなさい。ワルドさん」
「ああ、お休み。それではね」
ワルドが部屋から出ていくと、のどかはようやく落ち着いて息をすることができた。ワルドはなぜかのどかを鋭い目で見ており、居心地が悪かったのである。
(どうして私に話をしにきたんだろう。それに、聞きたかったことのはずなのに、あっさりと引き下がったことも気になるし……)
のどかは思考の海に飲まれていき、そのまま眠ったのであった。のどかが目を覚ますと、アルビオンが見えたぞー!という声が聞こえてきた。
(航行中には何も問題なかったってことだよね。昨日はシャワーも何も浴びてなかったし……シャワー浴びようかなー。あるかなー?)
その後、のどかは自分の部屋を見渡す。しかし、シャワールームらしき場所はなかったので、大浴場があるのか、と探しに行ったが見つからなかったので諦めるのであった。その後、空賊がのどかたちを乗せた船を襲ってきたせいで、腕を縛られてしまい、そのまま甲板に引っ張られてしまった。
「ほう、貴族の客も乗せているのか。こりゃあ別嬪だなぁ。どうだ、お前俺の船で皿洗いをやらねえか?」
空賊の頭らしき男がルイズの顎を手で持ち上げた。ルイズはその手を叩き落す。
「下がりなさい、下郎」
「驚いた! 下郎か、下郎ときたもんだ!」
男は大笑いした。才人はデルフリンガーに手をかけたが、ワルドが止めるよりも速く、のどかに止められた。
「才人さん、今はダメです。私たちだけなら構いませんが、船員の方々を危険に晒すわけにはいきません。それに、今一番危ないのはルイズさんです」
のどかの言葉にワルドも同調する。
「そうだ、ミヤザキの言うとおりだ。今はおとなしくするしかない」
「クソッ」
才人は苦虫を噛み潰したような表情をした。その後、空賊の頭はのどかたちに近づいてきて、今度はのどかの顎を持ち上げた。
「ほう、こっちの娘も中々別嬪じゃないか。お前は俺らの船の清掃員でもどうだ?」
のどかはルイズと違い、頭の手を叩くことはしなかったが、キッと睨みつけてはっきりと言った。
「お断りします」
「ほう……気が弱そうかと思ったが、そんなこともねえのか。中々気に入ったぜ」
その後、ワルドと才人を縛るように命令し、自分たちの船に連れ込むのであった。のどかたちは船の船倉に閉じ込められていた。その時にワルドとルイズは杖を、才人は剣を取り上げられた。才人も剣がなければ一般人程度であるし、ワルドとルイズも杖がなければメイジとしての力を発揮できない。ルイズはあまり関係ないのだが……のどかは特に取り上げられるものがなかった。パクティオーカードはただのどかの絵が書いてあるだけに見えるため、取り上げられなかったのである。魔法銃はのどかが
船倉には穀物の詰まった樽や、火薬箱、いろいろなものが積まれている。それをワルドは興味深そうに見ている。のどかは積荷を見て、また何か考え始める。才人は船倉の隅に腰を下ろす。その時に激痛が走り、ツッ! という唸り声をあげた。ルイズがそれに気づき、才人に近寄る。
「何よ、やっぱり傷が痛むんじゃない」
「大丈夫、これくらいなら」
「ウソよ、ちょっと見せなさい!」
「おい、やめろよ!」
ルイズが強引に才人の袖を捲ると、ルイズは驚愕した。
「何よこれ! どうしてもっと放っておいたの!?」
ルイズがこう言ったのは当然である。なぜならば、才人の腕は手首から肩にかけてミミズ腫れが悪化していた。更に、水ぶくれにもなっており、肩も痙攣を起こしている。
「別に放っておいたわけじゃ」
「うるさい! ちょっと! 誰か、誰かいないの!?」
ワルドはルイズの様子に驚愕せざるを得なかった。ルイズがこんなにも取り乱すところなど見たことはなかったからである。のどかもルイズの様子に気づき、2人に近づいていった。そして、ルイズがあまりにも大きな声で癇癪を起こしたので、看守がやってきた。
「うるせえな、どうしたんだよ」
「水を! それと『水』系統のメイジはいないの!? 怪我人がいるのよ!」
「いるわけねえだろ。水くらいは持ってきてやるよ」
そう言うと看守は奥に引っ込んでしまった。
「ルイズ、もういいよ。確かに痛いけどさ、一応捕まってるんだから、おとなしくしていよう」
「な、何言ってるの! ダメよ!」
「ルイズ! 落ち着いてくれ!」
才人が怒鳴ったことで、ルイズは黙ってしまった。顔が歪み、目に涙を溜め、才人から目を背けた。
「おら、水だ。それと、食事だ」
看守はぶっきらぼうに水の入った容器と、スープの入った器を渡すと、元の場所に戻っていってしまった。ルイズは船倉の奥で座り込んだ。のどかはそんなルイズにスープを持っていく。そして、微笑みかける
「ルイズさん、食事にしましょう」
ルイズは目元を腫らしていた。
「あんなやつらの寄越したスープなんて飲みたくないわ」
ルイズはのどかが持ってきたスープを突っぱねた。
「でも、食べないと体が動きませんよ」
「…………わかったわ」
ルイズは渋々スープを飲み始めた。全員がスープを飲み終わった頃に看守が戻ってきた。どうやら皿を回収しに来たらしい。
「そうだ、おめえらはアルビオンの貴族派か? それとも王党派か?」
看守は思い出したように言った。
「それじゃあこの船は貴族派の船っていうことね?」
「いや、それは違うな。一応俺らと反乱軍とは対等な立場で取引しているんだ。まあお前らには関係ねえことだがな。で、どうなんだ? 王党派か? 貴族派か?」
ルイズは看守を睨みつけ、堂々と言った。
「誰が薄汚い貴族派なもんですか! 私たちは王党派よ!」
「彼女の言うとおりです。私たちは王党派です。トリステインを代表してここにいます。つまり、アルビオン王国への大使です」
「そういうこと、大使としての扱いを要求するわ!」
才人はのどかとルイズが王党派であることを隠そうとしないので、かなり焦っていた。それはワルドも同じようであった。
「ちょ、のどかはともかくルイズは何考えてるんだ!」
「ちょっと、なんでノドカは別なのよ!」
「のどかが考えなしにこんなこと言うわけがないだろ! お前は感情的すぎるんだよ! もっと考えて行動しろ!」
「なっ、何よ! 私とノドカの言動が一致したんだからいいじゃない!」
「ふ、2人とも落ち着いてください。ここからですから」
看守はひとしきり笑ったあと、のどかたちを一瞥して言った。
「お前ら、正直なのは美徳だが、どうなるか知らねえぞ」
「え、俺もか!?」
「じゃあな、頭に報告してくらあ。その間にゆっくりと考えるんだな」
看守が戻ってくるまでの間、才人はどうやって脱出するか考えようと言ったが、ワルドの冷静なツッコミによってそれはなかったことになった。半ば諦めかけていた頃に看守が戻ってきた。
「頭がお前らに会いたいと言っている。着いてきな」
「上等じゃない……」
狭い廊下を抜け、細い階段を上り、4人が連れてこられた場所は立派な部屋だった。後甲板の上に設置された部屋こそが空賊の頭の部屋らしい。ルイズは息を飲んで、覚悟を決めた様子で、才人もルイズと同じように覚悟を決めた様子で、ワルドは何があっても対応出来るように緊張感を高め、のどかは何かを確信したようだった。
アルビオン編もいよいよ佳境です!
感想お待ちしております!