恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

15 / 26
キュルケに言われてばっかりじゃつまらないので、ちょっと理由をつけてみました。うまくいっているかは知りません


14時間目

 オスマンに呼ばれたのどかは学院長室にいた。学院長室に入る前にタバサも一緒で良いかと聞いたところ構わないとのことだったので、タバサも一緒である。学院長室にはオスマンとコルベール、そしてもう一人、見目麗しい女性がいた。その女性は、美しいバイオレットの髪を持ち、顔立ちもルイズと同じくらいかそれ以上に整っていた。

 

 わぁ、綺麗な人だなー。こんな綺麗な人がいるんだー。なんていうかお姫様ってこんな感じなのかもー。

 

「さて、急に呼び出して悪いんじゃがのう。ミヤザキくんに是非会ってみたいと姫殿下がおっしゃるのでな」

 

 オスマンが部屋に入ってきたのどかにまず言ったのはそんなことだった。その言葉にのどかは驚いた。

 

 ほ、本当にお姫様だったなんてー……うーん、本当に綺麗な人だなー。羨ましいよー。お姫様が私に用事があるんだー。……ふぇ? わ、私なんかに用事!? な、何か粗相しちゃったのかな。もしかして、昨日の式典に出席しなかったのがバレちゃったとかー!?

 

 タバサはのどかの考えを見破ったのか、アンリエッタのことを考えたときに少しムッとした顔をした。見破ったというよりは、のどかの頬が紅潮していたので、見とれているとわかったからであるが。

 

「あなたがノドカさんですね? わたくしはアンリエッタ・ド・トリステインと申しますわ」

 

 アンリエッタはのどかに近づいて手を握った。のどかは急にお姫様に話しかけられたので、答えるのに少し間が空いてしまった。

 

「…………あっ、はい。わっ、私は宮崎のどかと言います、じゃなくって、と申しますー。よ、よろしくお願いしますー」

 

 何とか答えることができたのだが、それでも緊張しているようでしどろもどろになりながらの返事だった。それでも、アンリエッタは気にした様子はない。むしろ、ニコッと微笑んだ。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですわ。わたくしが王女だからと言って遠慮する必要はありませんわ。いつも通りにしてくれればそれで良いのです」

 

 にこやかな笑顔はアンリエッタの癖であった。いわゆる営業スマイルというやつである。幼い頃から外交や、貴族同士の茶会などに出席してきたアンリエッタは相手が誰であろうと、笑顔で相対しているのである。昨晩その営業スマイルのせいで大変なことになったのだが、ここでは割愛させていただく。

 

「は、はいー。え、えっとアンリエッタ姫殿下は」

 

 のどかがアンリエッタに何かを言いかけたところで、アンリエッタに制止された。

 

「姫殿下なんてそんな堅苦しい呼び方はしないでくださいまし。わたくしはあなたとお友達になりたいのです。ですから、気軽にアンリエッタ、とお呼びくださいな」

 

 アンリエッタの表情は真剣そのものだったが、のどかは逆に緊張してしまった。一国の姫をそんな風に気軽に呼ぶことは憚られたのだ。アンリエッタはのどかにそう呼んで欲しいらしく、いつ呼んでくれるのかとニコニコしている。

 

「ア、アンリエッタさん」

 

 のどかが恐る恐るそう呼ぶと、アンリエッタの表情は更に明るくなった。ちなみに、タバサは不機嫌そうである。更に、部屋の外にいた姫直属の衛士も不機嫌である。

 

「はい、なんでしょう?」

 

 アンリエッタの声色はかなり弾んでいる。

 

「え、えーっと、どうして私なんかを呼んだんでしょうか?」

 

 のどかの疑問は至極当然である。のどかからしたら、朝起きたら一国の王女に呼び出されたのである。これが緊張せずにいられるだろうか、いや、いられない。少なくとも、のどかは緊張し続けている。

 

「それはですね、わたくしの親友であるルイズとその使い魔さんからあなたのお話を聞いたのですわ。なんでも、あの『土くれ』を相手に一歩も引かなかったらしいではないですか。更に予め『土くれ』の正体に検討をつけて、そのための作戦を立てたりしていたらしいではないですか。そんな素晴らしい逸材を一目見ておこうというのは当然ですわ」

 

 アンリエッタは王女として自分の発言の重さを自覚しているつもりではある。これは、自分の発言の意味をのどかが正しく受け取ることができるかという軽いテストのようなものである。実際、それを理解したコルベールは驚きを隠せずにいたし、オスマンはやはりか、といった表情をし、タバサは無表情であるが、思わずのどかを不安げな目で見つめてしまっていた。当然、のどかもその言葉の重要性には気がついていた。しかし、今触れることではないと判断し、その思考を打ち切ったのである。今は姫様の意図を考えるよりも、言葉を返すべきだと思ってのことであった。

 

「い、逸材だなんて、そ、そんなことないです。それに、マチ……フーケさんはなぜかすぐに諦めてくれましたし、アレはわたしの手柄ではないはずです」

「そうですか……でも、ルイズはあなたを高く評価していましたわ。あの子が人を褒めるなんて滅多に見ないものだから……つい、ね(ルイズがあんまり凄い凄い言うものだから、どんなものかと試してみましたが、本当にキレ者なのでしょうか……ちょっと期待はずれかもしれませんわね。枢機卿にも将来有望な子がいるかもしれない、と言ってここに来ていますのに……でも、あの青い髪の子は気づいたみたいね。あの子を将来有望と言っておこうかしら)」

 

 アンリエッタは表情こそ笑顔であるが、腹の中ではいろいろ考えているようである。タバサはのどかが敢えて触れなかったことに安堵していた。

 

「姫殿下、ミス・ヴァリエールから彼女の能力は聞いているのですかな」

 

 質問したのは、コルベールである。のどかのアーティファクトの恐ろしさと強力さを知っている彼はのどかの能力がバレていないか気が気でなかったようだ。オスマンもそのことを気にしていたようで、コルベールのことを内心でよく聞いた、と褒めている。

 

「(もし、ミヤザキさんの能力がバレているのならば、すぐにでも引き抜かれてしまうだろう。おそらくバレてはいないのだろうが……彼女が引き抜きに遭うと帰れなくなってしまうかもしれない。それはマズい、彼女は私たち魔法学院が預かっているのだから)」

 

 コルベールの質問にアンリエッタは頭に疑問符を浮かべたようだが、すぐにいつもの笑顔を貼り付けて答えた。

 

「そうですわね……確かしゅんどうという技で速く動けるとのことでしたわ。あと、青銅で出来たゴーレムを軽く投げることができるとも伺っておりますわ。それがどうかいたしましたか?」

「い、いえ、魔法を使用しない彼女の戦い方は、貴族としてあまり広めて欲しくないものですからな。いやー、お恥ずかしい限りです」

 

 アンリエッタは口に指を当てたあと、確かにと言ってコルベールからのどかに向き直った。

 

「そういえば、ノドカさんはどんな魔法を使うのですか?」

「わ、私は魔法の才能があまりないらしいので、出来ることはほとんどないです」

「あら、そうなのですか。少し残念ですわ(魔法も使えないのに、ルイズのサポートが出来るのかしら。本当は彼女にもルイズの護衛に向かってほしかったのだけれど、これでは及第点にも届きませんわ。……少し厳しいですわね)」

 

 アンリエッタがそう思考していると、部屋の扉が急に開けられ、人の波が流れ込んできた。部屋の外には衛士がいたはずだが、衛士も一緒に巻き込まれているようだ。生徒たちがアンリエッタがここにいると情報をどこからかキャッチしたらしく、一目見ようと学院長室に押しかけたのが原因であった。数の暴力で、衛士を巻き込んで倒れ込んできたのだ。それに対して怒ったのは当然コルベールであった。

 

「何事ですか! こんなことをして貴族として恥ではないのですか! 出て行け小童ども! 無礼であろう!」

 

 しかし、コルベールの一喝も功を奏せず、次から次へとアンリエッタに謁見しようと、生徒たちが流れ込んでくる。さすがにこれはマズいと思ったアンリエッタは逃げようとしたが、退路は生徒たちで塞がれてしまっている。その時である。

 

「アンリエッタさん、失礼します。少し怖いかもしれませんけど、我慢してくださいね」

「ノドカさん。一体何を……キャアッ!」

 

 のどかがアンリエッタをいわゆるお姫様抱っこをして、学院長室の窓から飛び降りた。アンリエッタは思わず悲鳴をあげた。こんな体験は初めてだから仕方がない。タバサは飛び降りたのどかを追って、すぐに空いている背中に抱きついた。

 

「危険」

 

 と言うと、シルフィードを呼んだ。シルフィードはタバサたち3人を背中に乗せて、空を飛ぶ。

 

「ありがとー、タバサ」

「構わない。でも、あまりしないで欲しい」

 

 タバサがのどか少し睨むようにすると、のどかはあはは、と笑ってタバサを見つめた。

 

「タバサなら私のやろうとしていることすぐにわかってくれるって思ったからー」

「……次からは気をつけて」

「うん、ゴメンねー」

 

 タバサは顔を少し赤くして、のどかの背中に抱きついた。アンリエッタは今の一連の出来事をイマイチ理解できていないようで、ボーッとしている。そして、我に帰ると、のどかの思い切りの良さとタバサと息の合った行動を賞賛していた。

 

「凄い! 凄いわ! わたくしお城を抜け出したり、いろいろしたことはありましたが、飛び降りるなんてことはしたことありませんわ! よく思いつきになられましたわね」

 

 アンリエッタは興奮して、のどか達を褒める。

 

「え、えーっと、それはタバサがいたのでー、大丈夫かなーって……」

「タバサ? ああ! そちらの青い髪の方ですわね! 助かりましたわ。正直、あの量の生徒を相手にすることはできませんでしたから。タバサさんもありがとうございますわ」

「私はのどかを助けただけ」

「ふふっ、お二人は仲がよろしいみたいですわね」

 

 3人は空の旅をしばしの間楽しみ、そして地上に降り立った。生徒たちの騒ぎも収まっている(諦めた)ようで、静かになっている。先程の、のどかの行動でアンリエッタはのどかの評価を改めていた。

 

「ノドカさん、タバサさん。今からアルビオンに行くルイズたちの護衛に行っていただけませんか? お二人にならば任せられると思うのです。いいえ、任せられます」

 

 のどかはルイズたちがどこに何をしに行っているかを聞いたら、居ても立ってもいられないようで、タバサを見た。タバサはこくりと頷いて、のどかの意見を受け入れた。

 

「では、お願いいたしますわ。わたくしの責任なのに、ルイズたちだけでなく、今日会ったばかりの友人の方々にもお願いすることになるなんて……本当に申し訳ありませんわ」

 

 アンリエッタは本当に申し訳ないらしく、深く頭を下げる。

 

「アンリエッタさん、私はルイズさんや才人さん、ギーシュさんの力になりたいから行くんです。どうか気にしないでください。それに、私は私なりの修羅場を潜ってきていますから、心配しないでください」

「ですけど……!」

「あなたは、自分の責務を全うすべき。王女なら当然のこと」

 

 なぜかわからないが、タバサの言葉には重みがあった。アンリエッタですら、気圧されるほどであるから相当のものである。更にタバサは続ける。

 

「のどかは私が知る限り最も聡い人物。心配する必要はない」

 

 アンリエッタはその言葉には反論したくなった。なぜなら、先程自分の意図を察せずにいたからだ。アンリエッタがそれを言おうとすると、タバサが遮った。

 

「のどかはさっきの貴方の意図を理解している。ただ場にふさわしくないと思っただけのはず」

「そうなのですか? ノドカさん」

 

 アンリエッタはあまり喋らないタバサがここまで言うのだから、少し信じてみようと思ってのどかに聞いた。

 

「はい、タバサの言うとおりです。アンリエッタさんが私のことを褒めてくれているのに、話の腰を折るのは失礼だと思ったので……」

「そうだったのですね……では、改めて聞きますわ。わたくしはあなたをどうしようと思っていたのか分かりますか?」

「それは、私を王室の役職に引き抜こうとお考えになっていたんだと思います」

「その通りですわ。まあこれくらいは簡単ですわよね。それであなたの評価を落としていたなんて申し訳ないことをしましたわ」

 

 アンリエッタは今日何度目になるか分からない謝罪をした。その後、すぐに衛士たちが来て、アンリエッタを連れて行き、残された2人はシルフィードに乗ってルイズたちを追いかけようとしたところで、ある人物に声をかけられた。

 

「何よ、2人とも。あたしも連れて行きなさいよ。盗み聞きなんてらしくないけど、聞いちゃったものは仕方ないわよね。それにダーリンもいるなら行くしかないわ」

 

 その人物はキュルケだった。シルフィードが降りてくるところを見て、近づいたらアンリエッタと2人がいたので、声をかけずに隠れて話を聞いていたらしい。

 

「キュルケさんがいてくれると私も心強いです」

「同感」

「じゃ、決まりね。さっさと追いついてダーリンたちを助けるとしましょうか」

 

 3人はシルフィードに乗ると、ルイズたちに追いつくためにすぐに出発した。ちなみにタバサはお気に入りの場所となったのどかの膝の上に乗って、本を読んでいる。のどかもそれを気にする様子はなく、タバサを人形のように抱いて、タバサの読んでいる本のページを見ていた。キュルケはやはり2人はそういう関係なのかと疑っているようで、機会があったらタバサをけしかけようと考えていた。

 そして、シルフィードがルイズたちを見つけた時、ルイズたちは盗賊に襲われていた。それを追い払って遂にルイズたちと合流するのであった。

 




盗賊は簡単に追い払うことができた覚えがあるので、省略されましたw

感想お待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。