恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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今回はキュルケならではの勘違い回です!


12時間目

 次の日、のどかが起きると、タバサがいなかった。タバサのベッドの上に置き手紙がしてあり、のどかはそれを読んだ。内容はとある任務に行くことになったから少し出かけてくる、というものであった。また、明日までには戻るとも書いてあった。

 

 タバサ、任務だなんてどうしちゃったんだろー。私を頼ってくれてもいいのにな……まだ信頼されていないのかなー。

 

 のどかはそう思っているが、タバサはそうは思っていない。むしろのどかは、こんな短期間でタバサの信用を勝ち取っているのだ。タバサも少なからず(かなりと言ったほうが正しいだろうが)、のどかを大切に思っている。それ故に、のどかを巻き込みたくないのだ。今までのタバサの行動からしても当然と言えるだろう。

 

 タバサがいないなら考えても仕方ないよねー……とにかく、今日はちゃんと授業に出ないとー。

 

 のどかは制服とは違う動きやすい服に着替え、部屋の外に出た。まだ時間としては早いのだが、『瞬動』の練習をするためである。

 

 戦いの歌(カントゥス ベラークス)の持続時間をもっと伸ばさないとー……カード溜まってるネギ先生(せんせー)の魔力だって無限にあるわけじゃないんだしー。動きながらでも3分、ううん5分は持つようにしないと……

 

 のどかは大きく息を吸って、静かに呟いた。

 

戦いの歌(カントゥス ベラークス)

 

 のどかは戦いの歌(カントゥス ベラークス)を使い、身体能力を大幅に向上させた。体からは魔力の光が溢れている。その状態でのどかは『瞬動』を連続して使い始めた。そうすると、すぐに限界が来てしまい、瞬動を使おうとしても全く動かなかった。単純に魔力切れを起こしたのである。のどかはその場に座り込んでしまった。

 

「はぁ、はぁ……なんでマチルダさんのゴーレムが相手だったらあんなに持ちこたえられたんだろう。あの時は確か……アーティファクトの展開以外にずっとどうやって勝つかを考えていたけどー……」

 

 のどかが座り込んでその時を思い出していると、今はもう聞きなれた声とどこか懐かしい声が聞こえた。

 

「毎回悪いな、シエスタ。手伝ってもらっちゃって」

「いいえ、気にしないでください。私は仕事ですし、それに好きでやっていることですから」

 

 才人とメイドの1人だろうか、2人が仲睦まじく話をしている。庭に座り込んでいるのどかを見つけた才人は

 

「おーい! のどかー! そんなところで何やってるんだー?」

 

と叫んだ。のどかは才人の近くにいるメイドが恐縮してしまうのではないかと考えたが、声をかけられたのに行かないのも失礼だろう、と思い才人たちに近づいた。

 

「才人さん、おはようございます」

 

 のどかがまず和やかに挨拶すると、才人はこの前のことで吹っ切れたらしく、ニカっと笑って挨拶を返す。

 

「おう、おはよう。それでさっきは何をやっていたんだ? 座り込んでたけどさ」

「さっきはちょっと修行みたいなことをしていてー、ちょっと疲れちゃったので座って休憩していたんです」

「修行、か。凄いな、のどかは」

「そんなことないですよー。でも、ありがとうございますー」

 

 才人とのどかが話していると、先程才人にシエスタと呼ばれた少女がおずおずと才人に尋ねた。

 

「あ、あの才人さん。こちらの方は?」

「あれ? シエスタ会うのは初めてだったっけか? シエスタ、こっちはのどか。俺が危ないところを何度も助けてもらった、いわゆる恩人だな。それとのどか、こっちはシエスタ。俺が飢えているところに飯をご馳走になってる、シエスタも恩人だな」

 

 シエスタは才人とギーシュの決闘は才人の圧勝だと思っていたので、のどかが才人を救う場面など想像することもできないでいたが、才人の言葉ならば本当なのだろうと納得したようだ。のどかはシエスタの声でクラスメイトの1人を思い出していた。

 

「えと、シエスタさん。宮崎のどか、と言いますー。よろしくお願いします」

「き、貴族の方が私なんかに敬語だなんて恐れ多いです」

「あ、気にしなくていいですよー。私貴族って言われていますけど、才人さんと同じところの出身ですからー」

「と言いますと?」

 

 のどかの言葉はシエスタが疑問を抱くには十分だった。シエスタも思わず聞き返してしまうほどだった。

 

「えーっとですね、私は貴族じゃないんです。貴族ではないですけど、オスマンさんが私を東方(ロバ・アル・カリイエ)の貴族と偽って、入学させてくれたんです。だから貴族じゃありませんし、そんなに堅くならないでください」

 

 シエスタはにわかには信じられないといった様子だったが、それならばと思い、才人と一緒にいる時のような笑顔でのどかに改めて挨拶をした。

 

「じゃあミヤザキさん。私はここでメイドをやっています。シエスタです。こちらこそよろしくお願いします」

「俺はそろそろルイズのやつを起こしに行かないと。じゃあな、2人とも」

 

 才人はルイズを起こす、という重大な役目を背負っているらしく、駆け足でどこかに行ってしまった。

 

「あの、ミヤザキさんは急がなくてもいいんですか? そろそろ朝食の時間ですけど」

「私は今からゆっくり行っても間に合いますからー。それより、才人さんとは何を話されていたんですかー?」

「ああ、それはですねー。主にミス・ヴァリエールの事なんですけど、やれルイズがすぐにブツだの、ルイズが横暴だの、ルイズの魔法は痛いだの、ずっとそんな感じです」

「ぐ、愚痴を聞かされているんですね」

 

 シエスタは楽しそうに才人との会話の内容を話すが、のどかはそれを見て苦笑しかできなかった。

 

「あ、そういえばミヤザキさん。私たちメイドにお礼を言ったりとかしましたか?」

「? 言いましたよ、どうしてですかー?」

「やっぱりですかー。話してみてミヤザキさんしかいないなーって思ったんです。同僚の子が貴族様にお礼を言われてしまったーって、ずっと言っていたんですから」

「も、申し訳ないですー」

 

 のどかは転入初日のことを思い出していた。お礼を言ったら逃げていくメイド達。まだこっちに慣れていなかったので、つい癖でお礼を言ってしまったのだった。

 

「あはは、いいんですよー。その子達も言われてビックリしちゃっただけですから」

「そ、そうなんですかー?」

「はい、落ち着いたあとは貴族様にお礼を言われたって自慢するくらいでしたから」

「へ、へー。そうなんですかー」

 

シエスタと少しの間談笑して、のどかは自分の部屋に戻った。のどかは女の子である。汗をかいたあとは、汗を流したいのだ。シエスタと雑談していたので、少し時間がなくなってしまったようだが、のどかはすぐにシャワーを浴び、髪を乾かし、制服を着て、食堂へと向かった。食堂ではいつものように豪華な朝食が並んでいた。のどかが食堂に入ると、キュルケが手を振っていた。

 

「あら、タバサは? また、なのね」

 

 キュルケはタバサがいないことに驚いたようだったが、すぐにその意味を察したらしく、表情を曇らせた。

 

「キュルケさん、タバサがどこに行っているか知っているんですか?」

 

 のどかは普段出さない大きな声でキュルケに迫っていた。

 

「ええ、何かの任務っていうことは知ってるわ。でも、どこに行っているかは毎回違うからわかんないわ」

 

 キュルケはのどかの豹変ぶりにもいつもと同じ様子で、喋っていた。それには、理由があった。それはのどかがタバサ、と呼び捨てたことである。フリッグの舞踏会での会話を聞いていたキュルケはその時までは確かにのどかがタバサのことをタバサさん、と呼んでいたのを覚えていた。

 

「(待って、ノドカがタバサを呼び捨てた、ということは……何かあったの? ハッ! そういえば昨日は2人とも授業休んでいたわね。タバサはまた任務で、それにのどかを連れて行ったんじゃないかって思っていたけど、まさか昨日2人は大人の階段を上ったってこと!? ここは人生の、いいえ、恋の先輩としてなんとかアドバイスしないと)」

 

 キュルケが長い思考の渦に囚われしまった。のどかはキュルケが考えていることなど露知らず、呑気に運ばれてきた朝食を食べている。

 

「のどか……」

 

 キュルケが口を開いた。その言葉にはかなりの重みが込められている。

 

「はっ、はい」

 

 のどかもその様子を察し、食べていた手を止め、緊張した声色でキュルケの方に向き直った。

 

「女同士っていうのも私はアリだと思うわ。でもね、まだ貴方たちには早いと思うわ。だから、今度は私も混ぜて一緒にシましょ?」

「へ……?」

「え……?」

 

 のどかはキュルケの言った意味を理解することはまだ出来ていないようだ。キュルケがのどかの反応に素っ頓狂な声を出したあと、のどかの顔が真っ赤に染まった。顔だけではない、耳、さらにうなじまでも真っ赤にしていた。

 

「あ、わかったみたいね。そうなんでしょ? ねえ?」

 

 キュルケはのどかの反応でのどかが理解したことがわかったらしく、他の生徒には聞こえないように、さっきよりも近づき、興奮した様子で話しかける。

 

「ち、ち、ち、ち、違いますよ~~~。そ、そんなことするわけないじゃないですか!」

 

 のどかが目を回して否定するので、キュルケはますます怪しいと思い、更に問い詰める。

 

「のどか、ウソはダメよ。したんでしょ? ○○(ピー)とか××(ピー)とか」

「そっ、そんなことするわけないじゃないですかー! そんな女の子同士でひ、非常識ですー!」

 

 キュルケはここではそろそろマズいと考えたらしい。

 

「あら、そう。残念だわ」

 

 と言って、引き下がった。のどかは授業が始まるまで、顔を赤くしていた。

 授業が終わると、のどかはここではまだ入ったことのなかった、図書室にやってきたようだ。

 

 うわー、広いなー。さすがに、図書館島ほどではないけどー、これくらいだったら中等部の図書室と同じくらいかなー。ふふっ、いっぱい本があるー。なんだか幸せー。

 

 のどかは図書室の本を手に取って、表紙を眺めたり、パラパラとめくってみたり、手にとって、その質量を確かめたりといろいろしていた。そして、気になった本があったらしく、それを持って、備え付けの椅子に座り、読み始めた。その本の名前は『イーヴァルディの勇者』というものである。その本の内容は囚われのお姫様が勇者によって助けられるという簡単なものだった。しかし、のどかはそれに思うものがあったようだ。

 

 すごく、いいお話だなー。きっとこの世界の子供たちはこういう本を見て、お姫様に憧れたり、勇者様に憧れたりするんだろうなー。きっと長い間親しまれてきたんだろうなー。本の表紙もボロボロ、背表紙も文字がなんとか読めるっていうくらいだし。印刷術が発見されていないのかな、それともそれを専門に行うメイジの人がいるのかな。今はそれよりも、いい本に出会えたよ。帰れたら夕映に教えてあげなくちゃー。そういえばタバサもこの本のこと知っているのかなー……

 

 突然だが、のどかは本を読むのは速い方ではない、速読術なんていらない、と思っているほどだ。速読術を学んだ人は本が速く読めるようになって、時間が短縮できるなどと言っているが、のどかは違う。彼女は速読術を使えば、確かに速く本の内容を理解することができるだろう、とは思っている。しかし、本を速く読むだけでは伝わらない、内容を理解するだけでは伝わらない、本の声があると信じているのだ。のどかはこの『イーヴァルディの勇者』を何度も、何度も、繰り返し、繰り返し読んだ。その内容を頭に残すためだけではない、書いた人の心を知るために……そしてこれを子供の頃に読んだのならば、どんな気持ちになるのか考えるために……

 

 あ、もうこんな時間なんだー。急いで戻らないと……もしかしたらタバサも帰ってきているかもしれないしー。

 

 のどかが部屋に戻っても、まだタバサの影はなかった。のどかはそれに落胆したが、帰ってきていないのならば仕方ない、と思いお風呂を入れた。お風呂が沸き、体を洗ってから、部屋の外に出ると、なんとのどかのベッドの上にキュルケがいるではないか。キュルケはなぜか紫色のスケスケの服を着ており、のどかを誘っている。

 

「ほら、のどか。あたしの胸に埋まってもいいのよー」

 

 のどかは一瞬、キュルケの行動の意味がわからなかったが、すぐに理解したようで、顔を真っ赤にしてキュルケを自分のベッドから追い出した。

 

「もう、やっぱりタバサじゃないとダメってわけー?」

「だから違うって言ってるじゃないですかー! タバサがそんなことするように見えるんですか?」

「割と見えるわよ。特にノドカに関しては……ね」

「へ? どういう意味ですか?」

 

 キュルケの真意がわからずのどかがそれを聞こうとした時、窓がノックされた。タバサが帰ってきたのだ。のどかはキュルケの話しそっちのけで、窓を開け、タバサを向かい入れた。

 

「タバサ、お帰りー」

「ただいま、のどか」

 

 キュルケはタバサがのどかを名前で呼んだところでますます燃え上がり、今度はタバサに詰め寄った。

 

「タバサ! あなたとノドカってどういう関係なの? 教えてよ」

「友人」

「ウソよ、それ以上の関係に見えるわよー。本当のところはどうなの?」

「友人」

「はぁ、面白くないわね。せっかく2人を盛り上げようとしてこんな格好までしたっていうのに……」

 

 キュルケは先程までの盛り上がりが嘘のように、心底面白くなさそうになり制服に着替えて自分の部屋に戻っていった。

 

「何かされた?」

「ううん、タバサと同じようなこと言われただけだよー」

「そう、それなら良かった」

「シルフィードに餌あげてくれる?」

「うん、全然いいよー」

 

 のどかは調理台に立つと、手早く料理を始めた。朝帰ってくる前にシエスタからお肉はないか、と聞いたら挽いたものだったらたくさんあるとのことだったので、図書室からの帰りにもらってきたのだ。

 

それを使い、ハンバーグを作った。のどかはシルフィードに対し、これで足りるのだろうか、と思ったがとりあえず渡すことにした。シルフィードはのどかお手製のハンバーグを食べ、美味しかったらしく、もっともらおうと思ったのだが、タバサの視線を感じ、使い魔たちの寝床に戻っていく。よほど、タバサが怖かったらしい。

 

「私も食べる」

 

 タバサはのどかが作ったハンバーグの臭いにつられて、それを要求した。のどかは自分の作った料理がタバサに食べてもらうのが嬉しかったので、笑顔でそれに応えた。

 

「結構自信あるんだけど、どう?」

「美味しい」

「よかったー。まだまだあるからおかわりしていいからねー」

「おかわり」

「は、速いねー」

 

 のどかはシエスタからもらったかなりの量の肉を使い切るまでハンバーグを作り続け、タバサはそれを全て食べきったのであった。その後、タバサはお風呂に入り、のどかの日本語講座漢字編を軽く受けて眠りについた。ちなみに、タバサは教わるときなぜかのどかの膝の上に乗っていたが気にしてはいけない。タバサ曰く、居心地が良いとのことである。

 




のどかとタバサの絡みは書いていて楽しいです!

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