皆さんありがとうございます!
フリッグの舞踏会が終わった翌日、のどかはタバサに気づかれないように部屋を出た。いつもよりも遅い時間だったが、昨日は色々あったのでタバサも疲れてまだ眠っているようだった。なぜ、のどかがタバサに告げずに部屋を出たかというと朝起きた時、オスマンの使い魔がやってきたからである。オスマンの使い魔であるハツカネズミは小さな手紙を持っており、それをのどかに渡すとどこかへ行ってしまった。その手紙の内容はのどか自身の能力について話がしたいとのことだった。しかし、オスマンよ、人を呼ぶためとはいえ自分の使い魔を女子寮にやるのはどうなのだろうか。
「宮崎ですー。失礼します」
のどかはコンコンとノックをすると、学院長室に入っていった。そこにいたのは案の定オスマンとコルベールであった。
「おお、待っておったぞ。早速なんじゃが、君のその
「オールド・オスマン、なぜ今更になってそんなことを……まあ私も気になりますが」
「なぜか、じゃと? 単純なことじゃ、今知りたくなったからじゃ」
「はぁ……確かにこの前いつでも聞いてください、とは言っていましたが……急すぎませんかな」
「い、いえー。私もいつかは話さないといけないと思っていましたしー」
「ほれ、ミヤザキくんは優しいんじゃ」
のどかの言葉にオスマンは勝ち誇ったような顔で、コルベールを見る。コルベールは確かに、と頷いた。
「スマンのう、話が最初から脱線してしもうた。では見せてくれるかね?」
「はい、わかりましたー。
のどかがそう言うとひとつの本が現れる。しかも、今回はそれだけではない。のどかの服も変化していた。いつもの麻帆良学園の制服ではなく、のどかが
「服が変わるとは一体どういう手品じゃ?」
オスマンも急に服が変わるとは思っていなかったので、驚きを隠せないでいた。コルベールはそれよりものどかの手元に現れた本に注目していた。
「こ、これはー。カードの機能の1つで、服を予め設定できるんですー」
「ほう……」
「それで、ミヤザキさん! あなたのその手元にある本はどのようなものなのですかな?」
コルベールはやや興奮した様子でのどかに詰め寄る。
「これこれ、コルベールくん。傍から見るとそれはかなり危ないぞ。いい年した大人が年端もいかぬ少女に興奮しながら迫るというのは。タバサくんに股間を蹴られてしまうぞ」
オスマンは昨晩のタバサの冷酷無比な股間蹴りを思い出して顔を青くさせた。コルベールも同様でオスマンと同じようになっていた。
「えと、そのー、は、話をしてもいいですかー?」
「うむ、スマンのう。何度も何度も」
「い、いえー」
そう言うとのどかは咳払いをして、彼女のアーティファクトの説明を始めた。
「この本の名前は
のどかのその言葉にオスマンたちは驚きを禁じ得なかった。なぜなら、心を読むということは魔法でも不可能だからだ。相手の取りそうな行動を予測して動くことはできるが、そんなことは達人の域に達した者しかできはしない。それ以上のことを相手の名前を知るだけで、簡単に読めてしまうというのだからこれほど恐ろしいものはないだろう。
「な、なんと!? 心を読む……ですか。にわかには信じられませんな」
「ううむ、ワシも長いあいだ生きてきたが、そんなことができるものなど見たことはないのう。君を信用しとらんわけではないのじゃが、試しにワシが考えていることを当てて見せてくれないかのう。さすがに読心術と言われて、一口に信じるわけにはいかんのう」
のどかは少し迷った後、オスマンの言葉に頷いた。
今回は仕方ないよね。信用してもらうためだしー……
「あ、あのー、確かに私の能力は思考をリアルタイムでトレースできますけど、今はきっと私の能力の真偽しか頭にないと思うので、質問をしてもいいですかー?」
「ふむ、構わんぞ」
「じゃあ失礼します。オスマンさん、質問です。どうして今朝女子寮に使い魔を放ったんですか? ただ、私を呼ぶためですか?」
のどかが質問したのは、どうしてオスマンの使い魔を女子寮に放ったのか、というものだった。これはのどか自身が呼ぶだけだったら、女教師に任せれば良いのに、と思ったからである。きっと手間だったのだろう、とのどかは思っていたが、オスマンの思考は違った。
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それは決まっておるじゃろ。モートソグニルに今の若い子たちの発育やら下着の色やらを確認してもらってワシと共有するためじゃ。ミヤザキくんはガードが硬いからいかんのう。他の貴族の子たちならもっと緩い服を着ているんじゃが……ただミヤザキくんを呼ぶだけなら、教師に呼ばせればいいからのう。しかし、こんなことを本当にわかっておるのかのう。もし、ばれていたらかなりマズいんじゃが……
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のどかはオスマンの考えを見て顔を真っ赤にした。こんな不埒な目的があったとは思いもしなかったのだ。オスマンはその表情を見て、思わず本当に読めるようじゃの、と言った。コルベールだけが話についていけていない。
「い、今ので何かあったのですかな!? 私には本を見ていたミヤザキさんが急に赤くなっただけに見えますが……」
コルベールはどうしても知りたいようだが、どうすればいいかわからず、オロオロしている。そこで、のどかは
「これを見ればよろしいのですかな? どれ……」
コルベールはその内容を見て、オスマンをジト目で見た。
「オールド・オスマン、これはいくらなんでも……」
「大体予想は付くがの。黙っておいてくれんかのー」
オスマンがそう言うと、また本にオスマンの思考が浮かび上がる。
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しかし、本当に心を読むことができるとはのう。ふむ……彼女の思考速度、判断力、そして読心術を持ち合わせれば、
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のどかのアーティファクトを持っていたコルベールはオスマンの思考していることがあまりにも危険すぎるため、叫んだ。
「オールド・オスマン! それ以上は危険ですぞ! その考えは捨てるべきです!」
「急にどうしたんじゃ、コルベールくん。ッ!?」
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なんじゃ、急にどうしたと言うんじゃ。まったく、彼のツボはどこにあるかわからんのう。しかし、なぜ……ッ!? そうか、ワシの思考は全てあの本に記録されている。つまり……先程の考えも全部読まれてしまうというわけじゃな。なんと恐ろしい……
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「み、ミヤザキさん、これはどうすれば思考をトレースできなくなるのですかな」
コルベールは慌ててのどかに質問する。オスマンの思考をこれ以上読ませないようにするためと、その記録を消したいからだ。
「あ、すいません。心を見られるなんて気分が悪いですよね。
のどかがそう言うと、本が消え、カードに戻る。すると、のどかの服も元の麻帆良学園の制服のものに戻った。コルベールはふぅ、と大きく息を吐いた。さすがのオスマンものどかの能力の恐ろしさを改めて思い知ったようである。そして、今度からは変なことはしないでおこう、と心に誓ったのであった。
「なんと恐ろしい力じゃ。何か弱点はないのかね。ワシが思いつくのは相手の名前がわからないと力を発揮できんということじゃな」
「そうですね、相手の名前がわからないと、私のアーティファクトは使えません。でも、それを打開するために別のアイテムがあります」
「そんなものまであるとは……末恐ろしいですな」
のどかはあるものを取り出した。それはフーケと名乗っていたマチルダの本名を暴くときに使った悪役を連想させる指輪だ。それを見たオスマンは秘めている魔力の大きさに感嘆した。
「これは、
「ただ相手の名前がわかる魔法具というのは微妙じゃが君のアーティファクトと組み合わせると恐ろしいのう」
「全くです、私も驚きましたぞ。そういえば、オールド・オスマン、私もこの弱点のようなものを発見しました」
「ほう、さすがじゃな。コルベールくん」
「いえ、これは使えば分かることなのですが、使用するためには視線を相手から外して、文字を読まなければなりません。これでは戦闘中に使用はできませんな。使い道があるとすれば、やはり拷問の代わりでしょう」
「君はまたそうやって血なまぐさいことを考えよってからに。なるほど、確かにコルベールくんの言うとおりじゃな。じゃが、解決方法はあるのじゃろう?」
オスマンはコルベールがすぐに気づいた弱点をのどかが補強していないわけがない、と考えた。
「はい。私もそのことは常に思っていました。だから、これを使います」
のどかはまたもある物を取り出した。白い羽のイヤリングであった。
「それは?」
「これは、書物を読み上げることが出来るイヤリングです。これを使えば、相手から視線を外すことなく、能力を使用することができます」
2人は弱点を完全に克服しているのどかを素晴らしいと思った。
「なるほど、素晴らしいですな。ミヤザキさんは自分の弱点を知り、克服している。中々できることではありませんぞ」
「うむ、コルベールくんの言うとおりじゃな。誇って良いぞ」
「そ、そんなことないですー。私なんか全然です」
「謙遜は美徳じゃが、あまり謙遜しすぎるのは良くないのう。こういう時はビシッと胸を張っておればいいんじゃ」
オスマンがそう言うと、のどかは顔を少し赤らめた。
「は、はい! あ、ありがとうございます……?」
「うむ、それで良いのじゃ」
のどかが照れながらお礼を言うと、オスマンは笑顔になった。
「今日はこれで解散にするかの。朝から呼び立てて済まなかったの」
「い、いえ、それじゃあ失礼します」
オスマンの言葉で今日は解散になり、のどかが部屋に戻った頃には昼近くになっていた。本来授業があるのだが、モートソグニルの手紙には今日の授業は出席しなくて良いということだったので、のどかは部屋に戻ることにした。
「遅い」
のどかに部屋に入ると、タバサがのどかのベッドの上で布団に包まったタバサがいた。のどかが置き手紙だけして出ていってしまったせいで、タバサはかなりご立腹のようだ。
「ご、ゴメンなさい」
「あなたの能力はあまり他人に喋るようなものじゃない。気をつけて」
「は、はい。気をつけます」
のどかを恨みがましい目で見たあと、タバサは寝転がっていた体を起こして、座ったあと、ポンポンと隣を叩いた。おそらく隣に座れ、ということだろう。のどかは恐る恐るタバサの隣に座った。
ううー、タバサさんがなんだか怖いよー。確かにこの前オスマンさんに私の能力を話そうとした時もなんだか怖かったけど……やっぱり出来るだけ話さないほうがいいのかなー。そういえばタバサさん授業はどうしたんだろう。サボタージュ……?
「日本語を教えてほしい」
「あ、はい。どこからやりましょうかー」
「この本に書いてあった文字の読みと意味を教えてほしい」
タバサが指差した文字は長閑だった。ある小説の中に使われていた言葉を抜き出したようだ。その文字を見てのどかはちょっと笑った。
「これは、私の名前と同じ読み方をするんですよー。意味は静かで落ち着いているさま、のんびりとしているさま、とかです。」
「のどか、そう」
タバサがそう言うと、のどかの表情は更に明るくなった。
「どうしたの?」
タバサはそれが不思議だったようで、のどかに尋ねた。
「いえ、ただ初めて私の名前を呼んでくれたなーって思っただけですよ。いつもあなたって呼ばれていたのでー」
「名前……」
タバサはどこか遠いところを見た。その後、のどかをしっかり見て、照れながら言った。
「…………のどか。これでいい?」
言葉こそ淡々としているが、のどかに問いかける時はそっぽを向いているので、恥ずかしかったのだろう。それを見たのどかはタバサを抱きしめていた。
「うん! 改めてよろしくね。タバサ」
のどかは敬語を取り払ってタバサに抱きついた。
タバサさん、はもう終わり。これからは名前で……やっぱり夕映に重ねちゃってるのかも。それはひどいことかもしれないけど……夕映、ハルナ、
のどかが遂にタバサを名前で呼び始めました! ここから2人の仲は更に進展しますよ!