恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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昨日はどうにも頭が痛くて投稿できませんでした。いやー申し訳ないです


10時間目

 のどかとタバサはそれぞれドレスに着替え、フリッグの舞踏会が開催される食堂の上にあるホールにやってきた。ホールに入ろうとする前に、大きな扉がある。2人が扉を開くと、横で待機していた衛士が2人の到着を告げた。

 

「フーケ捜索隊の一員であり、見事フーケを捉えたお二方! タバサ嬢とミヤザキノドカ嬢のおな~~~り~~~!」

 

 衛士がそう言うと、会場にいた全員がフーケを捉えた若き乙女達を見ようと振り返る。そこには、水色のネグリジェ風のドレスに身を包んだタバサと、白いノースリーブのドレスに身を包み、腕には白い手袋、首には胸元でリボンを出来るチョーカーをあしらったのどかがいた。タバサはそんな視線など気にせずに、いつもの無表情で、料理の元へと歩いていく。その時にのどかが変な男に誘われないようにしっかりと手を引いて、だ。のどかはタバサに手を引かれるまで、その視線を受け、真っ赤になっていた。男たちは顔は可愛くても無愛想なタバサよりも顔を赤くしていたのどかに好印象を抱いたようで、ダンスに誘おうとしているようだった。

 

「ミス・ミヤザキ。僕と踊っていただけ……ウッ!?」

 

 タバサが料理を取りに離れた時に、意を決して、のどかに声をかけた男子生徒がいつの間に戻ってきたのかタバサに蹴られていた。蹴る、と言っても必殺仕事人のような早業だったので、大抵の男子生徒には見えなかったようだ。つまり、周りにはのどかに声をかけた男子が急に苦悶の表情を浮かべ、股間を抑え倒れたのである。

 

「食事中」

 

 タバサがボソッと呟いた声はのどかにしか聞こえなかった。

 

 タバサさん、やりすぎだよー。今の痛い……よね? コタローくんもそこだけは痛いって言って…………うぅ、こんなこと考えちゃダメだよ。は、はしたないよー。それに、タバサさん誘われたのは私なんだから気にしなくていいのに……

 

「タバサさん、私一応ダンスは出来ますから、守ってもらわなくてもいいですよー」

「ダメ、あなたは疲れている」

「た、確かに疲れてますけどー。大丈夫ですよー」

「瞬動をあなたの限界以上に使用していた。普段ならもっと短い距離、短い時間。でも、今日は違った」

 

 確かに瞬動の距離を伸ばしてたし、時間も限界以上だったけどー……どうしてかわからないけど、そこまで疲れていないんだよね。エヴァンジェリンさんが来たれ(アデアット)するなって言ってたのはこれが理由なのかなー。カードにネギ先生(せんせー)の魔力が残っているから、なのかな。また先生(せんせー)助けられちゃったのかなー。今回も才人さんの知識とタバサさんの協力がなかったら、マチルダさんには勝てなかったんだよね……それになぜかマチルダさんもあっさりと捕まってくれたし……いい人だったっていうことだよねー。……お肉!?

 

 のどかが自分の世界に入ってしまったため、タバサはのどかの眼前で手を振ったり、自分で持ってきた肉をフラフラさせてみたりしていた。のどかもお肉が目の前で揺れていたらさすがに驚いたようだった。

 

「た、タバサさん、ビックリしましたー」

「食べる?」

「あ、はい。いただきますー」

 

 タバサが切り分けた肉をのどかは更に小さく切り分けて口に運んだ。

 

「わぁ、美味しいですねー」

「同意」

「ここって料理美味しいですよねー。きっと腕のいいシェフさんがいらっしゃるんだろうなー」

「ここの料理は絶品。特にこれ」

「これ、なんですか?」

「ハシバミ草。あなたの世界にはないの?」

「ないですね。見たことも聞いたこともないですー」

 

 タバサがのどかにあーんをしようとすると、のどかはさすがに恥ずかしかったようで、苦笑しながらそれはちょっと……と言ってもタバサはやめようとはしなかった。しばらくそのやり取りが続く。やり取りと言っても、のどかが一方的に遠慮しようとしているだけなのだが……やがてのどかが折れ、タバサからあーんされた。

 

「どう?」

 

 のどかがハシバミ草を食べると、のどかは笑顔のまま固まった。しかし、口は動いている。数分後、のどかはようやく飲み込むに成功した。

 

「これは……苦い、ですね。あ、ははは。私は苦手かもですー。ゴメンなさいー」

「残念」

「あ、でも私の親友の夕映なら喜んで食べるかもしれないですよー。夕映ってそういう物好きですからー」

「会ってみたい」

「そうですねー、きっと会えると思います」

「楽しみ」

 

 タバサはずっと食事をしているようだが、のどかは軽く動きたい気分だった。タバサはのどかが踊ることを頑なに拒んだが、才人と不埒な目で見てくる相手じゃなければ構わない、と言って許可してくれた。

 

 タバサさん、すごく私の心配してくれるんだよねー。ここの人たちや、才人さんも絶対に悪い人じゃないと思うんだけどなー……うーん、クレイグさんに教わったダンスしか出来ないけどー、誰か踊ってくれないかなー。でも、踊るなら誰か知ってる人がいいなー。

 

「あ、ミヤザキさん。い、いや! ミス・ミヤザキ、僕と踊っていただけませんか?」

 

 のどかに声をかけたのはギーシュだった。隣にモンモランシーがいるのにも関わらず、他の女の子に声をかける勇気は凄いものだ。

 

「あ、えーっと……」

 

 のどかはモンモランシーを見る。踊ってもいいかの確認だ。モンモランシーは諦めたように、頷いた。のどかは会釈して、ギーシュにオーケーを出した。

 

「本当かい!? 実はモンモランシーが他の子と踊るのを全然許可してくれなくてねー。でも、ミヤザキさんなら良いってモンモランシーが言っててね。ようやく見つけたんだよ」

「た、大変でしたねー」

 

 のどかはギーシュに手を差し出した。ギーシュは跪いてその手を取り、軽く口づけをすると、壊れやすい物を扱うようにのどかの手を持ち上げる。そして、曲が流れると、ギーシュのリードで踊り始める。のどかはリードされているだけでなく、クレイグから教わった方法で逆にギーシュをリードする。ギーシュがそれに驚いた様子だったが、すぐに顔に笑みを貼り付けた。

 

「驚いたな、これは東方(ロバ・アル・カリイエ)のダンスかい? 可憐だね、君にそっくりだ」

「うぇ!? あ、い、いえー、これは私の仲間に教えてもらったダンスでー、その私はそんな……可憐だなんてー」

 

 のどかはギーシュの歯が浮くようなセリフは言われ慣れてないので、顔を真っ赤にしてそれを否定した。ギーシュはその様子を楽しんでいるようで、更に続ける。

 

「ははは、本当に可愛いな、君は。どうだい? このまま僕と一晩を……うぁ!?」

「ギ~~~シュ~~~! あんたは何やってるのよ! ……ってあれ?」

 

 モンモランシーがギーシュの制裁にやってきた時には既に、ギーシュは股間を抑えて尻を突き出した格好で倒れていた。空の皿を持ったタバサが、ギーシュの股間を蹴ったのだ。タバサはギーシュを見下した後、料理のおかわりに行ってしまった。のどかはまた苦笑を漏らすことしかできないでいた。

 

「も、モンモランシー、許しておくれ。僕は、僕はもう……ダメかもしれ……ない。ガクッ」

「そんな!? ギーシュ! ギーシューーーーー!」

 

 ギーシュは気を失ったフリをし、モンモランシーはそれに気づかずギーシュに駆け寄る。そして、彼の名前を呼んで、ギーシュの服を掴む。そうすると、ギーシュがモンモランシーの背中を抑え、自分に近づける。

 

「ありがとう、モンモランシー。君のおかげで、僕はまた立ち上がれそうだ。しかし、パーティーだからと言って、その下着はやりすぎじゃ……ウッ!?」

「最っ低ッ! そのまま不能になっちゃえばいいのよ!」

「ああ! 待っておくれ、モンモランシー! 僕のモンモランシー!」

「もうギーシュなんて知らない!」

「あ、ミヤザキさん。一晩って言うのは冗談だけど、今度は僕とモンモランシーも君たちの茶会に混ぜてもらいたいな。じゃあこれで」

 

 ギーシュのモンモランシーを呼ぶ声が遠ざかっていく。2人がどこかに行ってしまったせいで、のどかは1人取り残されてしまった。しばらくボーッとしていると、知らない男子たちからダンスを申し込まれていた。申し込んだ人は後輩、先輩、同級生、と様々である。ちなみに、全員が全員イケメンである。まさに選り取りみどり。のどかの友人が1人でもいれば、モテ期なのか! モテ期なのか! とそうはやし立てるだろう。しかし、のどかは男慣れしていない。ネギや、クレイグたちのおかげで多少はマシになったがそれでもまだまだ苦手ではある。

 

「ミス・ミヤザキ、是非このボクと」

「いやいや、この私と」

「ミヤザキ先輩。僕と踊ってください!」

 

 申し込んでいるのはこの比じゃないくらい大量である。のどかはどんどんパニックになっていき、目を回していた。そして、誰かがのどかの腕を掴んだ。のどかを引っ張って、男たちから解放されないとのどかはその人物を確認できなかった。

 

 一体誰が……あ、才人さんだったんですねー。

 

「のどか、俺と踊ってくれ。さっきの奴らよりはマシだろ?」

「マシだなんて、むしろ才人さんで助かっちゃいましたー。ありがとうございます」

 

 のどかが笑顔でお礼を言うと、才人は顔を赤くした。のどかは先程まで男子生徒の中にいたので、少しだけ他の場所よりも暑かったのだ。なので、肌が上気し、ほんのりとピンク色に染まっていた。頬だけでなく、露出した肩や、首筋、胸元までである。のどかの可愛らしさだけでなく、ほんの少しエロスがプラスされているのである。その上、のどかの笑顔である。これで男が照れないだろうか、いや、照れないはずがない。照れない男は確実にホモである。

 

「どうかしましたかー?」

「……あっ、いや何でもないんだ。気にしないでくれ」

「そうですか? じゃあ踊りましょうか」

「ああ、でも、俺ダンスなんて出来ないぞ」

「じゃあ、私が教えますねー。あとで、ルイズさんをビックリさせてあげてください」

「る、ルイズをか!? うーん、あいつこんなことでビックリするかなー」

「きっとしてくれると思いますよー。それに多分嬉しいと思います」

「ま、まあいいや。じゃあせっかくだから教えてくれよ」

「はい」

 

 のどかは才人に手取り足取りダンスを教えた。その中で、才人はのどかにどうしても聞きたいことがあったので、それを聞いた。

 

「なあ、のどかは帰れないことに不満はないのか?」

「不満、ですか? そうですね、友達がどうしているのか、とか先生(せんせー)がどうしているのか、とか色々考えちゃいますけどー」

「……けど?」

「ここでの出会いや生活も悪くはないかなーって思います。永住するか、と言われればそれはわかりませんけど……」

「俺もここでの暮らしは気に入ってるよ。ルイズの仕打ちが気に入らないけどさ。それでもやっぱり日本に帰りたいよ」

「そうですね……でもここに来たことには何か意味があると思います」

「意味?」

「私は本当に事故ですけど、才人さんは呼び出されるべくして呼び出されたんじゃないかなー、って思います」

「呼び出されるべくして……なんでそう思うんだ?」

「才人さん、一つ質問いいですかー?」

「ああ、なんだ?」

「才人さんは元々剣を持っただけで、あんなに早く動けましたか? ロケットランチャーを持った時に、使い方が頭に浮かんできたりしましたか?」

「ッ!? ロケットランチャーは持ったことないからわかんねえけど、剣はないな。友達がさ、ナイフ好きでよく持たせてもらってたけど、あんな風に使い方がわかるなんてことはなかった」

「やっぱり、あらゆる武器を操る力なんですね。その能力が何か重要な役割を持っているんだと思います」

 

 才人はのどかの推論に驚いた。オスマンとコルベールから聞かされた伝説の使い魔『ガンダールヴ』の能力を言い当てたからだ。

 

「才人さん? どうかしましたか?」

 

 才人が黙ってしまったので、心配して声をかけた。

 

「のどか、俺が伝説の使い魔、って言ったら信じるか?」

 

 才人はオスマンから他言無用だと言われたことを話そうとしていた。

 

「伝説の使い魔、ですか? こっちの伝承は読んでいないので、わからないです。でも、そう言うということは、本当に伝説の使い魔なんですね」

「ああ、『ガンダールヴ』って言うらしい。このルーンが証拠だってさ。能力はのどかが言ったとおり、あらゆる武器を操る」

 

 のどかは少し思案した後、才人にまた質問をする。

 

「……才人さん。私たちの世界で英雄が生まれる時の条件って知っていますか?」

「英雄? そりゃ何か凄いことやった時だろ」

「そうですね、それは現代の英雄です。じゃあ古代は? 中世は?」

「えっと…………もしかして戦い、か?」

「そうです、昔は戦争に勝つことで英雄になれたんです。ここでも、きっと近いうちに戦争が起こるんじゃないかと私は思います」

「せ、戦争!? じゃあ俺はその戦争のために呼ばれたってことか!? なんでだよ! なんで俺なんだ!」

「そればっかりは私もわかりません。でも、才人さんが伝説の使い魔『ガンダールヴ』なら、才人さんを英雄たらしめる何かが起こるはずです」

「そうとは限らないだろ。もしかしたら俺が科学技術をここで発達させるかもしれないじゃないか」

 

 才人は自分が戦争の道具として喚ばれたことに納得がいかないらしく、反論していた。

 

「私も最初はそう思いました。でも、それならば、『ガンダールヴ』の力はもっと別のものだと思います」

「そう、か。そうだよな。第一俺そんなに頭良くないしな。戦争、か。ハハ、余計に帰りたくなってきた」

「起きるか分かりませんよ。あくまでも、私の推測ですから。それに、ルイズさんを守るためかもしれませんよー」

「あいつを? そうかもな、そっちの方が気楽だな。つまり、俺はここで何かやるためにここにきたってことか」

「そうだと思います。有名なフランスの思想家ルソーはこういうことを言っています。[われわれはいわば二度生まれる。一度は生存するために、二度目は生きるために、一度は人類の一員として、二度目は姓をもった人間として]この言葉は本来、第二次性徴を表す言葉なんですけど、新しい土地で頑張る才人さんが、ここで新たな成長をしてくれることを願って……」

「ルソーは知ってるけど、そんなことまで言ってたのか。ありがとな、なんか元気出たよ」

「い、いえー。私こそ変な事ばかり言ってすいません。戦争だなんてそんな物騒なことをー」

「いや、いいんだ。俺が来た意味があるかもしれない、そう思うだけで全然違うからさ」

「それなら良かったですー」

 

才人がスッキリした顔をしていると、ルイズがやってきたことを告げる衛士の声が聞こえたので、ルイズに気づかれる前に2人はダンスレッスンをやめ、バルコニーに移動し、談笑を始めた。やがてルイズが才人に気づき、バルコニーにやってきた。腰に手を当てて、赤くした顔を背けながら才人に声をかけた。

 

「サイト、楽しんでいるみたいね」

「ああ、さっきスッキリしたんだ。胸に支えてた物が取れた感じだよ」

「そう。ゴメンね、ノドカ、ちょっとサイトと話したいから席を外してもらっていいかしら?」

「構いませんよー。じゃあ私はこれでー」

 

 ルイズさん、きっと才人さんのこと褒めるんだろうなー。私はどうしようかなー。もう結構踊ったから、タバサさんのところに行こうかなー。タバサさん、まだ食べてるー!? すごいなー……

 

 のどかは、パーティーが終わるまでずっとタバサの食べっぷりを見ていた。タバサは時々のどかに食べ物をあーんして、楽しんでいるようだった。

 




キュルケ出てないなー、と書き終えてから思ってしまった。ごめんよ、キュルケ。君の枠はギーシュ先生食われたんだ

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