ある父親の子育て日記   作:エリス

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変わらない街、変わる生活

「やっと着いた……」

「ここが、旦那様の故郷ですか」

「うわー、すごく広―い!」

 

目の前に広がる街を見て、三者三様の声を出す。

 

「取り敢えず、師匠の家に顔を出さないと」

「王様に報告はなさらなくていいのですか?」

「いや、ルリは城には連れていかない。だから、俺の師匠の家に少しの間、預かってもらおう……ルリ、行くぞ」

「はーい!」

 

街を見渡していたルリは、俺の声を聞き、俺の手を掴んだ。

……それじゃ、師匠の家に向かうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルリとキューブに会ってから、約三ヶ月。

ようやくといった感じで、俺の故郷に帰ってきた。

約三年ぶりに見る街は、俺を懐かしい気持ちにさせた。

 

「マコトじゃねぇか!久しぶりだなぁ、おい!」

 

「あら、マコト君?また大きくなったわねぇ」

 

「マコト兄ちゃん、おかえりー!」

 

道を歩いていると、街のみんなが俺を見て、声を掛けてくれる。

懐かしい顔ぶれで、それでいて俺を覚えてくれていたことに、嬉しい限りだ。

それでいて、また同時に投げかけられる質問。

 

「あら、そのお兄さんはマコト君の友達かしら?」

 

「マコトお兄ちゃん、その女の子だれー?」

 

「おいマコト!その子供はどうした!?誰かとヤったのか!?」

「子供の前でなに言ってんですか!」

「何って……」

「いいかげん黙れ!」

 

とんでもないことを言うオヤジもいたが、その人は奥さんに殴られていたのでよしとしよう。

 

「パパ、人気者だね」

「別に、そんなことはないと思うぞ」

「旦那様に話しかける人たちは、みんな笑顔です。お嬢様の言う通り、好かれているのだと思いますよ」

「…………」

「あれ、パパ顔赤いよ?」

 

俺はその言葉には答えず、顔を背けた。

キューブはクスクスと笑い、ルリは首を傾げている。

 

「……ほら、ここが師匠の家だ」

 

俺は誤魔化すように言う。

俺たちの目の前にあるのは、ひとつの家。

自分の家以外で考えると、おそらく一番よく通った建物。

俺はドアをノックする。

すると、中から、はーい、という声が返ってきた。

 

ガチャ

 

「はい、どちら様……」

 

ドアを開けたのは一人の女性。

栗色の長髪で、一人の子持ちにしては若々しい容姿をしている。

俺は、目の前の女性が俺を見て固まる様子に苦笑する。

 

「お久しぶりです、クラリスさん」

「……マコト君!?」

 

師匠の奥さんである、クラリスさんは驚いた声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな……」

 

目の前で考える素振りを見せる師匠。

 

「それにしても、大変だったな、マコト」

「まぁ……そうですね。でも、いい経験にはなりましたよ」

 

確かに、大変だったのは事実だからそれに同意すると、師匠は、ハッハッハ、と笑った。

 

「どうしたんですか?」

「いや……マコト、成長したな。三年前とは、顔つきが違う」

「……単に成長したからでは?」

「それもあるかもしれないが、それだけではない。まぁ、自分ではあまりわからないかもしれないがな」

 

少し釈然としない気持ちを持ちながら、目の前で笑う師匠につられ、俺も笑う。

先程、師匠と再会の言葉を交わし、今の事情を話したところで。

俺の横には、ルリとキューブが座り、目の前に師匠とクラリスさんが座っている。

 

「それでは、マコトと一緒に城に出向けばいいのだな?」

「はい、お願いします」

「私はルリちゃんを預かっておけばいいのね?」

「すいませんが、お願いします。ルリ、あまり迷惑かけないようにな」

「うん。よろしくお願いします」

「あらあら」

 

クラリスさんに予定通り子守を頼み、師匠に一緒に城に行くことをお願いする。

別に王様に言われたわけではないが、師匠と一緒の方がなんとなく心強い。

 

「それじゃ、行きましょう。師匠、キューブ」

 

俺は立ち上がり、二人に行くように促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか、少し拍子抜けでした」

「一応事前に報告していたのだろう?だからではないか?」

「……そういうことにしときます」

 

王様への報告は、思ったより早く終わった。

イザベルに言われたように王様に例の指輪を渡すと、王様は俺がイザベルと会ったということを認めた。

あとは、王様がいくつかのことをキューブに聞き、依頼は終了した。

俺の手には、行くときには持っていなかった、金が入った袋が握られている。

中身は5000G程。

本来はもっともらえるはずだったのだけど、いっぺんにもらうのもどうかと思い、一年ごとに一部をもらえるように頼んだ。

ありすぎると、無駄遣いしてしまいそうだし。

 

「それで、マコト。今日はこのあとどうする?せっかくだし、俺の家で食べてくか?」

 

師匠に言われ少し考えるが、すぐに答えを出す。

 

「やめておきます。家の様子も見なくてはいけませんし」

「それもそうか……わかった。修行はどうする?」

「明日は休みにしてもらっていいですか?」

「わかった。まぁ、帰ってきたばかりだしな」

 

さすがに、旅の疲れもたまって、少し疲れている。

今日と明日、ゆっくり休んで、万全の状態にしたいしな。

そんなこんなで、師匠の家に着く。

ちなみに、キューブは先に家に帰り、今まで持ち歩いた道具の整理などをしている。

 

「今帰ったぞ」

 

師匠が帰宅の声を上げ、中に入る。

俺も一緒に中に入った時だった。

 

「パパは私のパパだもん!」

「私のお兄ちゃんだよ!」

 

ルリと、懐かしい少女の声が響く。

一体何だ、とリビングの方に慌てて入ると、二人の少女が向かい合っていた。

一人は言うまでもなくルリ。

もう一人は……。

二人の少女は俺の足音に気づいたのか、俺の方に振り向いた。

 

「パパ!」

「お兄ちゃん!」

 

二人の少女は嬉々として、一目散に俺に近づき抱きついてくる。

そして、またもや二人で睨み合う。

あまり迫力はなく、微笑ましいものだが。

 

「あー……ルリ、リーゼ。ただいま」

 

自分の娘と、三年ぶりに再会した少女、リーゼに言う。

リーゼは三年前の面影は残っているものの、背と髪が伸び、顔つきは少し中性的な感じになっていた。

 

「おかえり、パパ!」

「おかえり、お兄ちゃん!」

 

俺に笑顔でハモって言うと、また睨み合い。

……気のせいか、火花が見えるんだけど。

 

「……クラリスさん、一体何が?」

 

椅子に座りながら、あらあらと笑うクラリスさんに、事情を聞くことにした。

 

 

 

 

俺たちが城に行っている間、クラリスさんはルリに話をしていたらしい。

話の内容は、この街にいた時の俺のこと。

ルリは笑顔でずっと聞いていたのだが、そこにリーゼが帰ってきた。

最初こそ、二人は互いに自己紹介をして、話していたらしい。

しかし、リーゼが昔の俺との話をすると、負けじと瑠璃も俺との旅の話をした。

それがだんだんヒートアップした結果……。

 

「こうなるってわけですか……」

「いいじゃないの、こんな美少女二人に好かれているんですもの」

「ハッハッハ!そうだぞ、マコト!」

「美少女といってもですね……」

 

俺の目の前で笑う夫婦にそう返しながら、俺は膝に座る二人の少女を見る。

片や義理とはいえ娘。

片や妹みたいな少女である。

 

「……なあ、それだと体勢悪くてきつくないか?」

 

片膝に一人ずつ座っている状態である。

 

「いいの、これで」

「そうそう、私は満足だから」

 

なぜこういう時は息が合うのだろうか。

まぁ、さっきのクラリスさんの話を聞く限り、仲が悪いというわけにはならないっぽいから、取り敢えずされるがままってことで。

むやみに子供の問題に、大人が口を出すのもどうかと思うし。

 

「それよりも、お兄ちゃん」

「ん?」

「どう?私、綺麗になった?」

 

上目遣いでリーゼが俺に聞く。

というか、8歳の子供が聞く言葉なのだろうか……。

 

「……可愛さは増したと思うよ」

 

子供は、綺麗とかいうよりは、可愛いの部類に入ると思う。

思ったことをそのまま言うと、リーゼは嬉しそうな顔をして、俺に抱きつく。

 

「む~……パパ、私は!?」

「可愛いと思うよ」

 

ルリが頬を膨らませ、俺に聞くと、さっきとほぼ同様に言う。

そうすると、同じように抱きついてきた。

 

「あらあら」

「……お前、将来刺されるんじゃないか」

 

一体何の話ですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、リーゼとは仲良く出来そうか」

「うん。でも、絶対に負けないよ!」

「……さっきから聞こうと思ってたけど、勝ち負けの判定は何?」

「…………なんだろう?」

 

大体感情でしゃべっていたのか……。

 

結局あれから三十分ほどの間みんなで話していたのだけど、もう夕方だし、そろそろ帰らないと不味いので、家に帰ることにした。

その時にリーゼが羨ましそうにルリを見て、明日リーゼが我が家の昼食にお邪魔することになったのは余談である。

 

「ねぇ、パパ。今日はパパが夕食作ってくれるんでしょ?」

「一応な」

「パパの料理、楽しみだなぁ……」

「あんまり期待するなよ?今日は簡単なもので済ませるつもりだし」

 

パスタとサラダ位で今日は我慢してもらおう。

 

「でも、リーゼちゃんは、すごく美味しい、って言ってたよ?」

「最近あまり料理してなかったからなぁ……」

 

リーゼがそう思ってくれているのは嬉しいけど。

既にキューブを一時間ほど待たせている。

これなら、一緒に師匠の家に行ったほうがよかったかもしれない。

 

「……っと、ルリ。あれがそうだ」

「あれが、パパの家?」

 

見えてきた建物に、俺は指差してルリに教えた。

三年ぶりの我が家である。

 

「そうだ。そして、今日からルリの家でもある」

「ルリのお家?」

「そう。俺たちの帰る場所だ」

 

家の前に着いて、家を見上げた。

何も変わっていないなぁ……。

 

「よし、ルリ。それじゃ、入るか。なんて言うかわかるな?」

「うん!」

 

俺たちは、ドアを開けて二人一緒に一つの言葉を発した。

 

「「ただいま!」」

 

奥から駆けてくる足音。

やがて現したキューブは俺たちに言った。

おかえりなさいませ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺の、王様からの依頼は終了した。

そして同時に、我が家に同居人、家族が二人増えた生活が始まったのである。

 




※2012 11/26 誤字脱字修正

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