(……朝か)
目を開け、カーテンの隙間から入ってくる光を見ると、どうやら朝になったようだ。
腕を体の上に伸ばして、んーっとする。
時計を見ると、6時。
今の季節は、まだ春に入ったばかり。
少しばかり、肌寒い。
体が少し震えながらも、カーテンを開けた。
視界に入ってくる光の眩しさに少し目を閉じる。
「……いい天気だ」
空は晴天だった。
さて、ここで事情説明。
あの時、おそらく車に轢かれたであろう俺は、衝撃を受けて意識を失った。
そして、次に目を覚ますと、どこかの某名探偵よりも体が縮み、赤ん坊になっていた。
最初は、何が起こっているのか理解不能状態だった。
知らない場所に知らない親、さらに体は縮んでいる状態。
あまりのパニックに、年甲斐もなく大泣きしてしまった(まぁ、見た目的には普通だったのだろうが)。
で、辿り着いた考えが、輪廻転生(りんねてんせい)。
まぁ、転生輪廻(てんしょうりんね)とも言うらしいが、死んだ魂が、何度も生まれ変わるというもの。
自分も漫画とかゲーム程度の知識しかないが、取り敢えず自分が生まれ変わったのではないか、という結論に落ち着いた。
もしかしたら、ほかの何かしらの作用が働き、このような状態になったのかもしれないが、考えてもこれ以上答えは出ないから、仕方がない。
新しく生まれ変わった世界だが、分かったことは、
① 科学技術は前よりも低い(しかし、電気は通っているし、水道なども普通にある。テレビやパソコンとかがないくらいのもの)
② 科学技術の代わりに、魔法の技術が発達している。
③ 魔族という種族が存在(魔族と人間は争っていた)。
④ 一夫多妻、一妻多夫の制度が採用。
大体こんなところである。
他にも前の世界と違うところはあるだろうが、生活していればわかるだろう。
自分の今の年齢は13歳。
母は俺を生んだ5年後に病気で死に、父はその3年後、魔族との戦いの時に死んでしまった。
周りの親戚が、俺を引き取ろうと言ってくれた。
新しく生まれた俺の家には、別にすごい財産があったわけでも、価値のある剣とか絵画があったわけでもなかったから、別に下心があったわけでもなかっただろう。
しかし、俺はそれらを全て断り、一人で生活することを選択した。
親戚に引き取られるとすると、遠くの地方に移り住むことになるし、八年住んだこの家を、売るというのも嫌だった。
それから5年。俺はバイトをしながらも、それなりに自分的に充実した生活を過ごしている。
「おう、マコト!おはよう!」
「おはようございます」
俺は走りながら、窓から顔を出して俺に挨拶をする男に、返事を返す。
生まれ変わってから、俺は毎朝トレーニングを始めた。
父親は剣士であったし、母親も魔法をそれなりに使えたので、二人から習い始めたのがきっかけだった。
もちろん剣を握ったことも、魔法を使ったこともなかったから、最初は大変だった。
特に、魔法とか呪文を唱えて何も出なかったときは、すごく恥ずかしかったものだ。
「マコト君、おはよう」
「おはようございます」
剣と魔法を習い始めたのが4歳からだったから、魔法に関して母親から教えてもらったのは、一年のみだった。
剣に関しては基本は全て教えてもらえたが、さすがに一年で魔法の基本をすべて教えてもらうのは無理だった(4歳であるからゆっくり教えてもらってたのも、原因の一つだ)。
「マコト!今日は買ってくか!?」
「帰りによるんでその時に」
「あいよ!」
それからというものの、俺は独学で、なんとか頑張っていたのだが、やはりそれだと限界があるわけで。
そこで俺が考えた結論は……。
「おはようございます、先生」
「おはよう、マコト。それでは、始めようか」
プロに教えてもらうことだ。
カァン!
サクッ
「……参りました」
木刀を弾かれ、首元に突きつけられた木刀を見て、俺は降参の意を示した。
師匠、クロイツ・トルバーズは、それを聞き木刀を自分の足元に指した。
「マコトも、だんだん剣捌きが上手くなってきたな。今なら、戦場に出ても、そう簡単には死なないだろう」
「俺は別に、戦場に出たくて鍛えているわけではないですよ」
俺は飛ばされた自分の木刀を拾いに行きながら答える。
「ハッハッハ!知っているさ。最初にそれは聞いたものな」
俺が師匠に剣を習い始めたのは、一年前のこと。
師匠は俺の父親の知り合いであり、前から面識はあった。
父親が死んで、一人で練習していたのだが、そこを見つけられたのがさらに一か月前。
そして、師匠の方から、俺に剣を教えてくれるという話をされたのだ。
習い始めるときに、ある会話をした。
「マコトは、なんの為に剣を振る?」
「……自分の身を守るため、それと……」
「それと、なんだい?」
「……誰も、悲しまない結果にするためです」
前の世界での最後、結果的に目の前の子を救えたが、自分は助からなかった。
そのことで、親を悲しませてしまっただろう。
結局、自分が助からなかったら意味がない。
そうするために、俺は頑張っている。
……自分の恥ずかしい話は置いておこう。
師匠とすることは、ただ一つ。
ひたすら模擬戦である。
ある程度の基本は身についていたし、そこに下手に師匠の型を教えてもらうのも、今までのが崩れてしまう可能性があった。
ただでさえ、剣技を習うのはこの世界に来てから初めてのことだ。
多くを習っても、中途半端で終わってしまうかもしれない。
従って、模擬戦を繰り返し、悪いところを師匠に指摘してもらい、俺が試行錯誤する、という形になった。
「どうする?まだ時間はあるが……」
「そうですね……」
さてどうするか、と考え始めたそのとき。
「お父さ―ん!お兄ちゃーん!」
「……やめときます」
「うむ、それがいいだろう」
街の入口から(自分たちがいるのは、町から出て少し歩いたところの方)走ってくる、一人の少女を見て、今日の訓練を終わりにするのだった。
「お父さん!なんで起こしてくれなかったの!?」
「ハッハッハ!すまんな、リーゼよ。ずいぶんといい夢を見ていたようだったからな。起こすのは可哀想だと思ってな」
「もう!お兄ちゃんも何か言ってあげてよ!」
「俺はそれよりも、リーゼがどんな夢を見ていたのかが気になるけどな」
「えぇ!?それは、その……」
俺と手を繋ぎながら歩く女の子、リーゼ・トルバーズに聞くと、彼女は顔を赤くして、ゴニョゴニョとし出した。
「……お兄ちゃんと結婚する夢」
は?と俺が聞き返してしまうのもしょうがないだろう。
「ハッハッハ!それはいい!リーゼ、今の内から捕まえておきなさい」
「師匠、5歳の娘にそんなことを勧めないでください」
豪快に笑う師匠に、俺はため息を吐く。
俺とリーゼが出会ったのは一年前、すなわち師匠に剣を習い始めてからだ。
師匠の家にご飯をよばれに行くこともあり、そのときに出会った。
その時から、一緒に遊んであげたり、面倒を見ていたからか、懐かれて、兄のように慕ってくれている。
最近、将来の夢を聞いたとき、
「お兄ちゃんのお嫁さん!」
と元気よく言われたときには、正直困った。
その時に、師匠がorzの体制を取っていたのは吹いたけど。
「お兄ちゃん!今日は家でご飯食べてく?」
「うーん、そうだなぁ……」
昨日朝食をよばれたばかりだしなぁ……。
「今日はやめておくよ」
「えぇー……」
リーゼがすごくがっかりした声を出す。
「マコト。別に、遠慮はしなくてもいいんだぞ?うちはいつでも大歓迎だしな。マコトが来たら、クラリスも喜ぶしな」
クラリスというのは、師匠の奥さんの名前だ。
確かに、俺が行くと、クラリスさんも俺を歓迎して、美味しい料理を作ってくれるのだが、あまり行き過ぎるのも、なんだか悪い。
「いえ、昨日行ったばかりですし、やっぱりやめておきます」
「そうか、わかった」
「うぅー……」
師匠は了解の意を示すのだが、リーゼは納得していないのか、捨てられた子犬のような目で俺の方を見る。
……その目はやめてくれ。
「じゃあ、リーゼ。昼に家に来なよ。昼ご飯ごちそうしてあげるから」
そうリーゼに提案すると、パッと花が開いたように笑顔を咲かせた。
「いいの!?」
「うん……っと、師匠、大丈夫ですか?」
一応、大丈夫だと思うが、師匠に確認を取る。
「あぁ、大丈夫だ。というより、頼みたいこともあるしな」
「……?なんですか?」
「あぁ、実は俺とクラリスが、昼から夜まで用事があってな。その間、リーゼを頼みたいんだ」
「成る程……まぁ、今日の午後はバイトも入れてないですし、大丈夫ですよ。リーゼのことは任せてください」
「頼む。夜になったら、俺が迎えに行く。」
「わかりました」
「今日はお兄ちゃんとずっと一緒!?」
リーゼがすごくキラキラした目をしながら、聞いてくる。
「そうだ。リーゼ、マコトにあまり迷惑をかけないようにな」
「うん!」
師匠はリーゼの頭を豪快に撫でる。
リーゼはそれに嬉しそうに笑い、俺は親子の絵に微笑ましく笑った。