ある父親の子育て日記   作:エリス

16 / 20
七月のお話です。
どんどんキャラが増えていく…。


夏の始まる前

「…………」

「いいぞ、そのまま集中」

 

朝の六時、俺がいつも修行をする場所にて、俺と師匠、リーゼとルリがいた。

師匠とリーゼは興味があるということで、見学に来たというのが強いのだが。

俺とルリが向かい合うように立っていて、少し離れたところに師匠とリーゼがいる。

 

「自分のイメージを強く意識して、魔力を固めるんだ」

 

ルリの中にある魔力が練り上げられていくのがわかる。

手に握られた杖の先端にも、赤い球体状になった魔力が、少しずつ大きくなっていく。

初歩的な魔法と言われる一つの、炎の下級魔法である。

魔術の教科書と言われる本には、【ファイヤーボール】という名前で載っていたりもする。

 

「【出てこい、火の玉!】」

 

自分のイメージを強くするための詠唱を、ルリが唱える。

……この詠唱が、他の同年代の子と比べて。普通なのかどうかわからんが。

 

「【フレイムボール!】」

 

途端、ルリが持つ杖からバレーボール程の大きさの火球が放たれる。

向かう先は当然、正面に立つ俺。

このまま立っていたら、燃えてしまうだろう。

 

「【水よ、主を守る盾となれ!ウォーターシールド!】」

 

目の前に、水の壁が出来上がり、ジュッ、っと炎が消える音が聞こえたので、魔力供給を止めた。

水は重力に従い、地面に落ち、染み込んでいった。

 

「……うん、良くなってきたな」

「えへへ、ありがとう、パパ」

 

照れながらも、嬉しそうにルリは笑う。

今の魔法もうまく段階を踏んで発動できていたし、精度もそこそこ。

あとは、処理速度と実戦、といったところか。

 

「すごいね、ルリ!一ヶ月半でこれなら、武闘大会でも十分いけるよ!」

「ありがとう、リーゼちゃん」

 

リーゼが拍手をしながら、ルリに近づいた。

リーゼには、先天的な魔力保有量が少ないから、魔法を使うのに向いていない。

だから、リーゼは剣一本を鍛えている。

一応魔力量が少なくても使える、リーゼにはちょうどいい魔法もあるけど……。

それは、リーゼがもっと剣を使えるようになってからだな。

 

「やはり、いつ見ても魔法というものはすごいな。こんな小さな子でも使えるとは……」

「魔力があって、やり方を知れば出来ますからね。下手したら赤ちゃんでも使えるくらいですから」

 

近づいてきた師匠と一緒に、ルリとリーゼを見ながら話す。

 

「……それで、実際、ルリちゃんはどうなんだ」

 

……師匠がちゃんづけすると、違和感を感じるな。

 

「まぁ、そこそこ、って感じですね。他の子がどのくらいかにも依りますが……まぁ、いいとこベスト4くらいだと思いますよ」

「でも、三ヶ月でそれくらいなら、十分だろう」

「まぁ、まだ問題もあるんですけど……」

「……敵に接近された時か」

 

俺のような、剣も魔法も使うのならいいのだが、攻め手が魔法だけであるルリは、リーゼのような戦士タイプに近づかれると、きついところがある。

近づけさせなければいいかもしれないが、ルリにはそこまで魔法を連発する技術はない。

剣とかを教えるにしても、一ヶ月くらいの付け焼刃では、相手が魔法使いならいいかもしれないが、剣士だとまともに対応できないだろう。

 

「……まぁ、なんとか考えますよ」

「そうだな……それで、どうする?試合するか?」

「お願いします」

 

近くの木に立て掛けておいた木刀を手にした。

 

 

 

 

「あついねぇ、パパ……」

 

修行が終わったあとの帰り道、手でパタパタと扇ぎながらルリが言う。

 

「まぁ、そろそろ夏になるし、その服じゃ暑いな」

 

今は、六月の下旬。

もう夏に入る前である。

 

「帰ったら夏服出してよ、パパ」

 

熱中症とかになっても困るし、早いうちに着といたほうがいいかもしれない。

 

「でも、小さくなってるんじゃないか?」

「そういえば、この服も今年になって買い換えたんだったね」

 

春になって服を出したとき、服が着れなくなっていた。

別に太ったわけではなく、単に成長によるものである。

春服と夏服は同じくらいの大きさのもので買ってあったから、多分着れないだろう。

 

「となると……」

 

午後に服屋に行く必要が出てきたな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ……あら?」

「どうも、テレサさん」

「こんにちは!」

 

午後になり、洋品店へと出向いた俺とルリ。

迎えてくれたのは、オーナーのテレサさんだ。

 

「いらっしゃい、マコト君、ルリちゃん。それで、今日はどのようなものを?」

「ルリの夏服を、と思いまして」

「わかったわ、ちょっと待ってて」

 

テレサさんはそういうと、子供服が並んでいる辺りへと向かっていく。

 

「それにしてもマコト君、最近来てくれなかったから寂しかったわよ?」

「うちは、服をどんどん買える程裕福じゃないですって」

「あら、別に服を必ずしも服を買う必要はないでしょ?普通に世間話に来てくれても、私は大歓迎よ。もちろん、ルリちゃんもね」

 

テレサさんは話し相手に飢えているのだろうか……?

ちなみに、テレサさんは独身である。

 

「……じゃあ、これからは店の前を通ったりしたら、顔を出すようにします」

「そうしてちょうだい……そうね、この辺かしら」

 

数着を持って、テレサさんは帰ってきた。

 

「試しに、着させてもらっても?」

「ええ、いいわよ。はい、ルリちゃん」

「ありがとうございます」

「じゃあルリ、試しに着てこい」

「うん!」

 

ルリは服を受け取って、試着室に入った。

まぁ、あの中に一、ニ着くらいは気に入るのがあるだろう。

 

「ついでに、マコト君自身の服も買っていったら?」

「俺の服は、別に足りてるんですけど」

「まぁまぁ、心機一転、服も新調するということで♪」

「……はぁ……一着だけですよ」

「まいどあり♪」

 

シャー

 

試着室のカーテンが開く音がしたので、そちらを見ると白いワンピースを着たルリが立っていた。

 

「おおー、似合ってるわよ、ルリちゃん!」

「本当?」

「えぇ、バッチリ♪」

「…………」

「あぁ、似合ってるぞ」

「えへへ~♪」

 

じっとこちらを見ていたから、俺が答えるとルリは嬉しそうに笑う。

見てる限り、気に入ったようだな。

 

「その服を買うか?」

「うん!」

 

 

 

 

「じゃあ、お兄ちゃんに買ってもらったんだ」

「うん!いいでしょ?」

「いいなぁ……」

 

あの後自分用の服、それとキューブのものも見繕って、二着を購入し、道具屋に寄った。

マリーがルリの服を見ながら、羨ましそうにしている。

 

「うちも、マリーに買ってやらなきゃな」

「そうしてあげてください」

 

商品の準備をしながら、アールさんは言う。

去年のが着れればそれでいいと俺は思うが、女の子は違うのだろう。

 

「もう夏になるが、マコトはどうするんだ?」

「……?どういうことですか?」

 

アールさんの意図することがわからず、俺は聞き返す。

何かあるのだろうか?

 

「海だよ、海。この街の多くが、この季節は行くからな」

「あぁ、そういえばそうでしたね」

 

確かに、この季節は海に行く住人が多い。

リーゼやマリー、クリスも、海に行ったときのことを話してくれる。

一緒に行こうと誘われるのだが、バイトも忙しかったし、断ってきた。

最後に行ったのは、両親が生きてたときだろう。

 

「アールさんたちも行くんですか?」

「あぁ、二日ほど休みをとってな。クロイツたちも行くらしいぞ」

「そうですか」

 

どうしたもんか……。

俺はどちらでもいいが、ルリがどうなのか。

 

「ルリー、海行きたいか?」

「行きたい!」

「というわけで、行くことになりそうです」

「……えらく簡単に決まったな」

「決めるのって、大体こんなもんじゃないですか?」

 

旅行とかは、結構思いつきがきっかけだし。

 

「お兄ちゃんたちも行くの?なら一緒に行こうよ」

 

今の話を聞き、マリーが嬉しそうに誘ってきた。

 

「あ、っと……大丈夫ですか?」

「うちは構わないぞ。マリーも喜ぶしな」

「それなら、ご一緒させてもらいます」

「どうせだから、クロイツたちも一緒に誘うか」

 

どうやら大人数での旅行になりそうだ。

クリスも後で誘っておくか。

……というか。

 

「そうなると、水着が必要だな」

 

俺のは小さいころに買ったものだし、ルリとキューブに至っては、持っていない。

そうなると……。

 

「また服屋か……」

 

 

 

 

 

俺はルリと一緒に、テレサさんのところにまた向かうことになったのだった。

夏は、すぐそこである。

 




次回は八月のお話です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告