どんどんキャラが増えていく…。
「…………」
「いいぞ、そのまま集中」
朝の六時、俺がいつも修行をする場所にて、俺と師匠、リーゼとルリがいた。
師匠とリーゼは興味があるということで、見学に来たというのが強いのだが。
俺とルリが向かい合うように立っていて、少し離れたところに師匠とリーゼがいる。
「自分のイメージを強く意識して、魔力を固めるんだ」
ルリの中にある魔力が練り上げられていくのがわかる。
手に握られた杖の先端にも、赤い球体状になった魔力が、少しずつ大きくなっていく。
初歩的な魔法と言われる一つの、炎の下級魔法である。
魔術の教科書と言われる本には、【ファイヤーボール】という名前で載っていたりもする。
「【出てこい、火の玉!】」
自分のイメージを強くするための詠唱を、ルリが唱える。
……この詠唱が、他の同年代の子と比べて。普通なのかどうかわからんが。
「【フレイムボール!】」
途端、ルリが持つ杖からバレーボール程の大きさの火球が放たれる。
向かう先は当然、正面に立つ俺。
このまま立っていたら、燃えてしまうだろう。
「【水よ、主を守る盾となれ!ウォーターシールド!】」
目の前に、水の壁が出来上がり、ジュッ、っと炎が消える音が聞こえたので、魔力供給を止めた。
水は重力に従い、地面に落ち、染み込んでいった。
「……うん、良くなってきたな」
「えへへ、ありがとう、パパ」
照れながらも、嬉しそうにルリは笑う。
今の魔法もうまく段階を踏んで発動できていたし、精度もそこそこ。
あとは、処理速度と実戦、といったところか。
「すごいね、ルリ!一ヶ月半でこれなら、武闘大会でも十分いけるよ!」
「ありがとう、リーゼちゃん」
リーゼが拍手をしながら、ルリに近づいた。
リーゼには、先天的な魔力保有量が少ないから、魔法を使うのに向いていない。
だから、リーゼは剣一本を鍛えている。
一応魔力量が少なくても使える、リーゼにはちょうどいい魔法もあるけど……。
それは、リーゼがもっと剣を使えるようになってからだな。
「やはり、いつ見ても魔法というものはすごいな。こんな小さな子でも使えるとは……」
「魔力があって、やり方を知れば出来ますからね。下手したら赤ちゃんでも使えるくらいですから」
近づいてきた師匠と一緒に、ルリとリーゼを見ながら話す。
「……それで、実際、ルリちゃんはどうなんだ」
……師匠がちゃんづけすると、違和感を感じるな。
「まぁ、そこそこ、って感じですね。他の子がどのくらいかにも依りますが……まぁ、いいとこベスト4くらいだと思いますよ」
「でも、三ヶ月でそれくらいなら、十分だろう」
「まぁ、まだ問題もあるんですけど……」
「……敵に接近された時か」
俺のような、剣も魔法も使うのならいいのだが、攻め手が魔法だけであるルリは、リーゼのような戦士タイプに近づかれると、きついところがある。
近づけさせなければいいかもしれないが、ルリにはそこまで魔法を連発する技術はない。
剣とかを教えるにしても、一ヶ月くらいの付け焼刃では、相手が魔法使いならいいかもしれないが、剣士だとまともに対応できないだろう。
「……まぁ、なんとか考えますよ」
「そうだな……それで、どうする?試合するか?」
「お願いします」
近くの木に立て掛けておいた木刀を手にした。
「あついねぇ、パパ……」
修行が終わったあとの帰り道、手でパタパタと扇ぎながらルリが言う。
「まぁ、そろそろ夏になるし、その服じゃ暑いな」
今は、六月の下旬。
もう夏に入る前である。
「帰ったら夏服出してよ、パパ」
熱中症とかになっても困るし、早いうちに着といたほうがいいかもしれない。
「でも、小さくなってるんじゃないか?」
「そういえば、この服も今年になって買い換えたんだったね」
春になって服を出したとき、服が着れなくなっていた。
別に太ったわけではなく、単に成長によるものである。
春服と夏服は同じくらいの大きさのもので買ってあったから、多分着れないだろう。
「となると……」
午後に服屋に行く必要が出てきたな……。
「いらっしゃいませ……あら?」
「どうも、テレサさん」
「こんにちは!」
午後になり、洋品店へと出向いた俺とルリ。
迎えてくれたのは、オーナーのテレサさんだ。
「いらっしゃい、マコト君、ルリちゃん。それで、今日はどのようなものを?」
「ルリの夏服を、と思いまして」
「わかったわ、ちょっと待ってて」
テレサさんはそういうと、子供服が並んでいる辺りへと向かっていく。
「それにしてもマコト君、最近来てくれなかったから寂しかったわよ?」
「うちは、服をどんどん買える程裕福じゃないですって」
「あら、別に服を必ずしも服を買う必要はないでしょ?普通に世間話に来てくれても、私は大歓迎よ。もちろん、ルリちゃんもね」
テレサさんは話し相手に飢えているのだろうか……?
ちなみに、テレサさんは独身である。
「……じゃあ、これからは店の前を通ったりしたら、顔を出すようにします」
「そうしてちょうだい……そうね、この辺かしら」
数着を持って、テレサさんは帰ってきた。
「試しに、着させてもらっても?」
「ええ、いいわよ。はい、ルリちゃん」
「ありがとうございます」
「じゃあルリ、試しに着てこい」
「うん!」
ルリは服を受け取って、試着室に入った。
まぁ、あの中に一、ニ着くらいは気に入るのがあるだろう。
「ついでに、マコト君自身の服も買っていったら?」
「俺の服は、別に足りてるんですけど」
「まぁまぁ、心機一転、服も新調するということで♪」
「……はぁ……一着だけですよ」
「まいどあり♪」
シャー
試着室のカーテンが開く音がしたので、そちらを見ると白いワンピースを着たルリが立っていた。
「おおー、似合ってるわよ、ルリちゃん!」
「本当?」
「えぇ、バッチリ♪」
「…………」
「あぁ、似合ってるぞ」
「えへへ~♪」
じっとこちらを見ていたから、俺が答えるとルリは嬉しそうに笑う。
見てる限り、気に入ったようだな。
「その服を買うか?」
「うん!」
「じゃあ、お兄ちゃんに買ってもらったんだ」
「うん!いいでしょ?」
「いいなぁ……」
あの後自分用の服、それとキューブのものも見繕って、二着を購入し、道具屋に寄った。
マリーがルリの服を見ながら、羨ましそうにしている。
「うちも、マリーに買ってやらなきゃな」
「そうしてあげてください」
商品の準備をしながら、アールさんは言う。
去年のが着れればそれでいいと俺は思うが、女の子は違うのだろう。
「もう夏になるが、マコトはどうするんだ?」
「……?どういうことですか?」
アールさんの意図することがわからず、俺は聞き返す。
何かあるのだろうか?
「海だよ、海。この街の多くが、この季節は行くからな」
「あぁ、そういえばそうでしたね」
確かに、この季節は海に行く住人が多い。
リーゼやマリー、クリスも、海に行ったときのことを話してくれる。
一緒に行こうと誘われるのだが、バイトも忙しかったし、断ってきた。
最後に行ったのは、両親が生きてたときだろう。
「アールさんたちも行くんですか?」
「あぁ、二日ほど休みをとってな。クロイツたちも行くらしいぞ」
「そうですか」
どうしたもんか……。
俺はどちらでもいいが、ルリがどうなのか。
「ルリー、海行きたいか?」
「行きたい!」
「というわけで、行くことになりそうです」
「……えらく簡単に決まったな」
「決めるのって、大体こんなもんじゃないですか?」
旅行とかは、結構思いつきがきっかけだし。
「お兄ちゃんたちも行くの?なら一緒に行こうよ」
今の話を聞き、マリーが嬉しそうに誘ってきた。
「あ、っと……大丈夫ですか?」
「うちは構わないぞ。マリーも喜ぶしな」
「それなら、ご一緒させてもらいます」
「どうせだから、クロイツたちも一緒に誘うか」
どうやら大人数での旅行になりそうだ。
クリスも後で誘っておくか。
……というか。
「そうなると、水着が必要だな」
俺のは小さいころに買ったものだし、ルリとキューブに至っては、持っていない。
そうなると……。
「また服屋か……」
俺はルリと一緒に、テレサさんのところにまた向かうことになったのだった。
夏は、すぐそこである。
次回は八月のお話です。