ある父親の子育て日記   作:エリス

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Chapter.1 New life begins
一日の始まり


外から聞こえる、人が起き始める音。

窓から入ってくる朝の光を感じて、俺は目を覚ました。

 

「…………」

 

目を擦りながら時計を見ると、朝の五時半である。

いつもより少し早いけど、二度寝する時間もない。

起きて、朝の日課に行くことにしよう。

 

「……ん」

 

隣を見ると、布団に潜り込んでいたルリの姿があった。

最初の方こそ、一緒に寝るようにしていたが、そろそろ一人で寝させようと、ルリの部屋にベッドも置いたのだけど……。

それが朝まで使われたのは、まだ二桁にも満たない気がする。

ルリの頭を撫でてから、起こさないように布団を出ようとするが。

 

ギュ……

 

ルリの手が、俺のパジャマをしっかり掴んでいて、出ることができなかった。

俺は苦戦しながらも、その場でパジャマを脱ぎ、布団を抜け出す。

そして、普段着に着替え、刀を持ち、自室から出た。

 

「旦那様、おはようございます」

 

横からかけられた声に、俺は向きながら挨拶を返した。

 

「おはよう、キューブ。朝飯頼むな」

「はい、かしこまりました」

 

様になった礼をする我が家の執事、キューブにそう言うと、顔を洗ってから玄関を通り、自宅を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

カァン!

 

「くぅっ!」

 

俺は目の前の少女の持つ木刀を狙い、何度も自分の木刀を打ち付ける。

少女もなんとか必死に耐えているが、焦っている様子。

試しに一度、攻撃を止めてみると。

 

「やあっ!」

 

予想通りというか、なんというか。

俺に攻撃を仕掛けてくる少女。

しかし、その攻撃は大振りすぎた。

 

カキィン!

 

「あれっ!?」

 

軽くいなすと、こけてしまった。

その首に俺は木刀を近付けると、見ていた師匠が声を上げた。

 

「勝負あり!」

「うぅ……負けた」

 

倒れていた少女、リーゼは顔を起こして悔しそうな顔をした。

 

「まぁ、経験の差もあるわけだし、しょうがないって」

 

勝者の俺が声をかけるのもどうかと思うが、リーゼの体を起こしながらそう言う。

リーゼはまだ剣を初めて二年くらいだけど、俺は既に十年以上過ぎている。

これで負けたら、自信を無くすどころの話ではない。

 

「マコトもずいぶん強くなったもんだ」

「……師匠、なんか年寄り臭いです」

「早く、兄さんを守れるようになりたいのになぁ……」

 

リーゼの服に着いた草をはらいながら師匠にツッコむ。

そういえばだが、リーゼが10歳になってから、俺への呼び名を兄さん、師匠への呼び名を父さんに変えた。

精神が成長してきた印だろうか。

 

「まぁ、精進しろ、ってことだな……師匠、そろそろ帰りますね」

 

時間を見ると、もうそろそろルリが起きる時間だ。

早くしないと、朝ご飯が遅れることになる。

 

「えー!?もう行っちゃうの!?」

 

リーゼが不満げに言うが、こればっかりはどうしようもない。

 

「キューブたちを待たせるわけにもいかないからな」

 

宥めるようと、リーゼの頭を撫でながら言うが、表情は変わらない。

 

「マコト、よかったら、リーゼをそちらで食べさせてやってくれないか?」

 

師匠がそう提案を出す。

うーむ……。

キューブが準備してくれている量で足りるかどうか。

……まぁ、足りなかったら俺が作ればいいか。

 

「……じゃあ、リーゼ。朝飯は俺の家で食うか?」

「うん!」

 

リーゼは嬉しそうに俺に抱きつく。

手を繋いで、師匠に声をかける。

 

「それじゃ、師匠。行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

街に帰ってきてから、一年半が過ぎた。

ルリとキューブもこの街に慣れ、前までの生活に戻りつつあった。

ルリも結構、友達ができているようだし、のびのびと育ってくれている。

……まぁ、もう少し親離れはして欲しい気もするけど。

 

「ただいま」

「お邪魔しまーす」

 

俺とリーゼがそれぞれ言って、家に入る。

キューブは料理中だと思うので、出迎えには来れないが、気にせずに入る。

リビングの方に入ると、キューブはテーブルに料理を並べている途中だった。

どうやら朝食は、パンとハムエッグ、それとサラダのようだ。

 

「あ、おかえりなさいませ、旦那様。いらっしゃいませ、リーゼ様」

 

こちらに気付き、一度作業を止めて言うキューブ。

……パンとサラダはともかく、ハムエッグは作らないと足りないな。

 

「キューブ、俺はリーゼの朝食作るから、並べ終わったら、ルリを起こしてきてくれないか?」

「かしこまりました」

 

俺はキッチンに入り、卵を取り出しながら、リーゼに声をかけた。

 

「リーゼ、ハムエッグとスクランブルエッグ、どっちがいい?」

「うーん……スクランブルエッグで」

「了解っと」

 

卵を割り、砂糖を少し混ぜて、かき混ぜる。

焼くだけだし、時間もかからないから助かるな。

リーゼは椅子に座りながら、俺が料理する様子を見ている。

 

「旦那様、それではお嬢様を起こしてきます」

「あぁ、頼むわ」

 

キューブがリビングから出ていく。

スクランブルエッグが出来上がり、それを皿に乗せ、リーゼの前に置く。

 

「お待ちどうさま。それじゃ、ルリを……」

 

待っているか、と言おうとすると、ドタバタとした足音。

そして、部屋に入ってきたルリは、俺に抱きつく。

そして、顔を上げ、笑いながら俺に挨拶をした。

 

「おはよう、パパ!」

「おはよう、ルリ。顔は洗ったのか?」

「うん!」

 

ギューっと俺に抱きついていると、キューブもリビングに戻ってきた。

俺たちの様子を見て苦笑している。

しかし、リーゼは違ったようで、

 

「ルリ、いいかげん兄さんから離れなよ!」

「いーやー!」

 

リーゼがルリを引きはがしにかかるが、ルリは離されまいと、抱きつく力を強める。

 

「ルリは兄さんと毎日寝てるんだから、いいだろ!?」

「一昨日は寝てないもん!」

「私なんか、二ヶ月くらい寝てないよ!」

 

なぜか違う方向に話が逸れていく。

二人の言い合いが続く中、俺は聞こえてないと思いながらも、俺は言葉を漏らした。

 

「いいから、朝食食べないか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、朝食が食べられるのは、五分後のことであった。

 

今日もまた、一日が始まる。

 


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