魔神相剋者の夢   作:名無しのごんべい

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 今回ははやて視点。

 ホテル・アグスタの詳しい話は次回にでも。


第5話 「ホテル・アグスタ……やね」

 

 あれは、機動六課設立の半年くらい前やったかな。

 智春の雰囲気が変わって、ピリピリしたものになったんや。

 二本あったデバイスも片方真っ二つに折れとった。

 それを見てみんな心配して、私やシグナムたちが聞いてみてもなんも言わんかった。

 

 いつまでも元に戻らん智春を見て、リィンが泣きだして。

 それを見てやっと智春は元に戻った。

 

 それでも、智春はなんも言ってくれんかった。

 

 それが、家族として悔しかった。

 

 

 

 

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 機動六課会議室。

 そこで、隊長陣に改めて今回の事件の首謀者と思われる人物について私たちは話し合っていた。

 

 ジェイル・スカリエッティ。

 

 生命操作や生体改造、精密機械に通じた謎の多い科学者で、ロストロギア関連以外にも数多くの事件で広域指名手配されている次元犯罪者。

 何年も前からフェイトちゃんが追っているにもかかわらず、一向に手がかりがつかめなかった敵。

 今回新しく現れたガジェットにも、彼の名前と、昔なのはちゃんとフェイトちゃんが集めたロストロギア『ジュエルシード』が使われていた。

 

 なんでレリックを集めとるんかわからんし、私たちではレリックがどういうものかもわからん。

 だけど、スカリエッティが集めてるってことはおそらく彼の研究に必要なんやろう。

 

 そして、その研究は十中八九犯罪に使われる。

 

 なんで今になって自分から手がかりを残すような真似をしたんかわからへんけど、絶対に逃がさへん。

 出るとこに出てもらってちゃんと罰を受けてもらう。

 

 ただ、スカリエッティの話をしてる時智春はずっと様子がおかしかった。

 表情はずっと無表情やったけど、毎日のように一緒にいた私たちにはわかる。

 

 智春は、怒ってる。

 

 それも今まで私たちが見たことないくらい。

 いや、私とシグナムたちは一度見たことがある。

 機動六課設立の半年くらい前。

 約半年の長期任務から久しぶりに帰ってきた智春が、あんな感じやった。

 帰って来てから一か月はめったにせえへん魔法の練習やシグナムとの模擬戦も自分から頼んどった。

 あんまりにも鬼気迫るものがあったから、それを見たリィンが怖がって泣きだして。

 それでやっと智春も今までの自分の態度を思い返して、いつもの智春に戻ってくれた。

 

 今の智春からは、その時と同じ感じがする。

 

 だけど、私が知る限りでは智春とスカリエッティは面識がないはず。

 やっぱり、あの時の長期任務でなんかあったんやろか?

 

「智春君……様子がおかしかったね」

 

「うん……スカリエッティの名前を出した時からだよね。はやては、何か知ってる?」

 

「ごめん、私もしらへんのよ……。家族やのに、情けないわ」

 

「はやてが落ち込むことじゃねーよ。何も言わねーあいつが悪いんだから…」

 

「トモハル……また怖くなってるです……。リィンはどうしたら……」

 

「心配するな。流石にあいつも、ずっとこのまま過ごしはしないさ」

 

 私たちが心配するのをよそに、智春は廊下をずんずんと進んでいく。

 その背中は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテル・アグスタ。

 今回、ここがガジェットに襲撃された。

 隊員たちにもけがはないし、アグスタにも被害は出てない。盗難されたのは密輸品だけで宿泊客への被害も無し。

 

「ま、上々やね」

 

「はやて。そう言うのは僕の頭を見てから言おうか?」

 

 その声につられて目の前に座る智春を見る。

 頭には包帯を巻いていて、私の方をジト目で見つめている。

 

「……ゼ○ダの伝説のギブドみたいやね」

 

「時のオ○リナの話は誰もしてないから」

 

「じゃぁマ○ー?」

 

「ド○クエの話もしてない」

 

「冗談やって! 分かっとるからそんな呆れた目で見んとって!」

 

 そう。今回もみんなが無傷だったと言うわけではない。

 

 最初は順調やった。

 現れたガジェットをシグナム、ヴィータ、ザフィーラで迎撃。新人組の出番もなく今回は過剰とも言える戦力でガジェットを殲滅できるはずやった。

 途中でいきなりガジェットの動きがよくなって多数の召喚魔法の反応が出るまでは。

 召喚魔法を使って現れたガジェットがホテルを強襲。

 新人四人組と智春とリィンで迎撃。

 他に比べて戦力が少ないように見えて、こっちには智春の使い魔のペルセフォネがおった。

 

 ペルペルも戦力としては過剰な部類や。

 サラマンダーゆえの種族としての人間を超える圧倒的な強さ。炎のブレスによる広範囲を焼き払う圧倒的な力。自らが炎になることによってあらゆる物理攻撃を素通りする防御能力。そして本局でも測定不能というバカみたいな魔力量を持つ智春からの尽きることのない魔力供給。

 ペルペル一匹だけでリミッター無しのなのはちゃんと互角……いや、それ以上かもしれんね。

 まぁ主がヘッポコやし元々あんまり戦いは好かん性格みたいやからそこまで危険はないんやけどね。

 

 そして戦闘中、ティアナが放ったクロスファイヤーシュートの内一発が吸い込まれるように智春の方へ。範囲攻撃を持ってない智春のためにユニゾンして戦力の底上げをしとったリィンがとっさに気付いてシールドを張ってくれたけど間に合わずシールドを貫通して頭に着弾。

 結果ミイラ男の出来上がりや。

 

「わりぃな智春。シグナムに言われたときあたしがそっちに戻っとけば……」

 

「信頼してくれてたんだろ? だったら謝られるようなことじゃないって。リィンもギリギリで防御してくれてありがとう」

 

「……でも……」

 

「リィンが防御してくれなかったらもっと大きなケガになってたんだ。たんこぶだけで済んだのはリィンのおかげなんだから、お礼くらい素直に受け取ってほしいな」

 

「……ハイです!」

 

「それにしても、お前が戦場に出るだけで味方の誤射率が当たるんだから不思議だな。本来ならもっと怒るべきなのだが、お前だといつものことで流してしまいそうになる」

 

「実際、智春君ってなんで味方の弾がそんなに当たるのか謎よね。大した怪我になってないからこんな風に流してるけど……」

 

「我らからすれば智春の不幸はいつものことだが、他から見れば問題だからな」

 

「これをいつものことで流すみんなが一番問題だと思うよ……まぁ僕もだけどさ」

 

 今更やけど智春にはユニゾンの適性がある。

 ユニゾンデバイス自体希少やからリィン以外はわからんけど、それでもリィン相手では問題なくユニゾンできてる。

 日頃の不幸と高所恐怖症さえなければもっと上を狙えるけど、智春自身には出世欲というものがあまりない。

 今の階級にいるのも「末っ子のリィンより下にいるのはさすがに傷つく」ということやって言っとった。

 

「そのティアナは?」

 

「自室で三日間の謹慎中や。終わったらなのはちゃんがみっちり鍛えなおすって言うとった」

 

「……ご愁傷様だな……それ」

 

「……高町の「みっちり」は教導隊の生徒にとって「地獄」と同義だったらしいな……」

 

「ティアナちゃん……生きて帰ってこれるかな?」

 

「……我からは何も言えぬ」

 

 こう聞いとるだけでもみんながなのはちゃんのことをどう思っとるんかようわかるわ。

 

「今みんなが言うたことなのはちゃんに言うたらどうなるんやろうな?」

 

「「「「!?」」」」

 

「……僕とリィンは何も言ってない」

 

「ハイです」

 

 必死に私に訴えかける守護騎士のみんなを尻目に、智春はリィンを連れて避難した。

 

 今日は久しぶりにみんなを弄れて満足や。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず無茶しよる。

 それが智春からの報告を聞いた私の感想やった。

 

 ティアナの謹慎が解けて訓練を再開。せやけど問題はまだ残ったままで、今度は訓練中においたしたみたいや。

 ま、これはティアナもそうやけどなのはちゃんにも悪い部分がある。

 お互いが何考えとんのかなんて、言葉にせなわからへんのやからね。

 かつては私も守護騎士のみんなとちゃんと話してたら勝手な収集していろんな人にご迷惑をかける前に気付けたやろうしね。

 

「言葉にするって言えば、智春もそうやね」

 

「え? 何が?」

 

「ほら、あのアリサちゃんの時の」

 

「……あ~! あれはな~……」

 

 

 

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「この子が、この前から家の新しい家族になった智春や。よろしくしたってな」

 

「……」

 

 相変わらず虚空を見続ける智春をよそに紹介するはやて。

 彼女にとってそれはいつものことだ。

 

「智春君……わたしは月村 すずか。よろしくね?」

 

「アリサ・バニングスよ」

 

「……」

 

 その言葉に少しだけ二人の方を向く智春だが、視線はすぐに元の場所に戻る。

 

「ちょっと! いきなり無視はないんじゃないの!?」

 

「あ~……ごめんなアリサちゃん」

 

「はやてには言って無いわよ! 私はあんたに聞いてんの!」

 

 ビシィッ! っと人差し指を智春に突きつけるアリサ。

 

「ほら! 自分で自己紹介しなさい! あんたの名前は!?」

 

「ア、アリサちゃん。やめようよ……」

 

「すずかも黙ってなさい! ほら! それとも何? 自己紹介もできないの!? 喋れないわけじゃないんでしょう!?」

 

 なおも声を張り上げるアリサのことを流石に不快に思ったのか、智春はアリサの方に向き直る。

 

「……」

 

「何よその顔は……言いたいことがあったらはっきり言いなさい! 黙ってちゃ何もわからないのよ!

 いい? あんたが何を思ってはやて意外と喋らないのかは知らないけどね、その口は誰かと話すためにあるのよ! あんたが今思ってることも、話さなきゃ伝わらないのよ! わかった!?」

 

 はやてもすずかも、その時のアリサに圧倒されていた。確かにアリサは物怖じしない性格だが、ここまではっきりと初対面の智春に向かって言うとは思っていなかったのだ。

 

 そうして睨み合う智春とアリサ。

 

 やがて、折れたのは智春の方だった。

 

「……智春……よろしく……後君はうるさい」

 

「言ってくれるじゃない!!」

 

 

 

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「あの頃からやったよね。智春が私以外ともちゃんと話するようになったんわ」

 

「多分アリサがいなかったら今もはやて意外とは喋らなかったと思う。そう考えるとアリサには頭が上がらないな……」

 

「だけど下げる気もないやろ?」

 

「そりゃもちろん。アリサに頭下げるくらいならシグナムと模擬戦する方がマシだ」

 

「ホンマに仲ええなぁ。なぁ? シグナム?」

 

「はい。二人とも幼少のころから変わらずに何よりです」

 

 あ、智春がブリキ人形みたいにゆっくり後ろ振り返りよった。

 今更気づいても遅いのにな~。

 

「ではいくぞ智春。演習場の予約はできている」

 

「何時の間に!? まって! はやて助けて! ちょっとまあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 

「いってらっしゃ~い」

 

 さて、仕事しよか。

 

 

 

 この日の晩、ボロボロになった智春がシグナムに担がれて戻ってきた。

 

 

 

 






 というわけでいろいろとツッコミどころの多い今回。
 智春が誤射されるのもいつものこと……初めての誤射はなのはです。これから出るかどうや怪しい死に設定ですから今回引っ張ってきてみた。なんでこんな設定を付けたのか。

 智春君の子供時代、なにもはやてだけが育てたわけではありません。周りのいろんな人たちによって少しずつ刺激されて今の智春君がいます。記憶が戻った時にこの人格が残るかは不明。

 智春君とスカリエッティ、そして過去の「親友にしてパートナー」の話はそのうちします。

 ではまた次回。ホテル・アグスタ(智春視点)でお会いしましょう!
 
 さらば!!

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