待っててくれた方お待たせしました!
全てはあの時からだと思う。
リンディ提督や他のみんなの好意ではやてたちと同じ小学校に通えるようになってからだったはず。
はやてたちが校舎の案内をしてくれて、最後に案内されたあの場所。
いるだけで足がすくんで、全く動けなかった。
体中から嫌な汗がにじんできて、動悸が激しくなって。
気付いたら、その場から逃げ出していた。
それからも、それは一向に直る兆しを見せなかった。
なのはなんかは一緒に飛びたいってよく言ってたけど、僕はどうしてもそんな気にはなれなかった。
人間、地に足つけて生きるのが一番だと思うんだ。
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「あかんて」
「いまさら何言ってるの? ほら、行くよ!」
「無理だって。不可能だって。あんな鉄の塊が飛ぶわけないって」
僕の腕を引っ張るなのはに対して必死に抵抗する。
屋上の扉をしっかりとつかみ、絶対に離さないようにする。
「緊急事態なの! 我慢して乗って!」
「無理無理無理無理無理」
「あちゃー……やっぱりこうなりますよね~」
「ヴァイス君!」
ヘリパイロットのヴァイスさんだ。
はやて繋がりで八神家全員が顔見知りであり、機動六課にもシグナムの推薦で入っている。
「安心してくれよ智春! 俺の操縦するヘリは絶対に落ちないからよ! っと、ここでは敬語で話した方がいいですかね? 八神准尉殿?」
「……あなたに敬語を使われると違和感があるから普段通りにお願いします。後、人は飛ばない」
「私全否定された!?」
どんなに頑張っても人は飛ばないんだ。
飛行機? ヘリ? 魔法? 何それ美味しいの?
「いい加減にしないと……怒るよ?」
「…………」
高いところかなのはのバスターか――。
どっちがいいだろうか?
どっちも死活問題だろう。
正直、みんな空をなめている。
あれは鳥とかの領域であって人間がいていい場所じゃないと思うんだ。
だから僕もみんなも飛ばない方がいいんだよ。
やっぱり地上が一番。
うん。地球に帰りたい。
「……智春君? ちょっとお話しようか?」
レイジングハートさん今日も綺麗ですね。
なのはに大切にされてるのがよくわかるよ。
そんななのはは大切なデバイスをなぜ振りかぶっているんだろう?
「あ、ごめんちょっとま」
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「なんというか……アンバランスだな、君は」
休日、八神家に集まったなのは、フェイト、ユーノ、クロノの四人は、全員の視線を集めながらもボーっと虚空を見つめている智春に溜息を吐く。
智春の検査も終わり、普通の人間と変わらず肉体年齢もなのはたちと同年代と言うことで小学校に通わせようと言うことになったが、そこである問題が浮かび上がった。
学力である。
自分の名前以外何も覚えていない智春は、果たしてなのはたちと同じ小学四年生程度の学力があるのか。
不安になった彼女たちは、非番のユーノとクロノを捕まえて学力テストを行った。
「国語94点、算数100点、理科85点、社会40点。主となる4教科でだいぶ偏ってるね」
「一般常識に著しい不安が残るがな」
「クロノ君。それは言わないで上げた方がいいと思うの」
「社会の問題……特に歴史があかんね」
「地理の方はちょっと勉強すれば大丈夫……かな?」
五人に順番に評価を下された当の本人は、いつの間にか鉛筆をくるくると回していた。
「「「「「遊ぶな!」」」」」
はやてや守護騎士と過ごすうちに、少しずつだが智春も行動が増えてきた。
最初はただボーっとするだけだったが、今ではリアクションも増えた。
一緒に住んでいるのが八神家のメンバーだからか若干ネタ方向の行動が増えてきているが。
「まぁ、これなら学校も問題ないだろう。君たちの友達に説明するかどうかは任せるとして、転入ははやてと同じ時期でいいか」
「おおきにな」
「君も、早く足を治せよ?」
「了解や」
「それじゃあ、みんなであそぼっか!」
「アリサとすずかも呼ぼうよ。トモハルを紹介したいし」
「…………それだと僕はフェレットにならないといけないんじゃ……」
「あ……」
「よろしくユーノ君!」
「君にとっては元に戻るだけだろう?」
「ぶっ飛ばすよクロノ」
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「ハッ!?」
目を覚まして最初に見たのは、鉄の天井。
五月蠅いくらい耳を打つ音で、ここがどこなのか理解する。
「帰っていいですか?」
だから、目覚めてからイの一番に目の前でみんなの指揮を取っていたなのはに向けて言った。
「ちょっと黙ってて」
「はい」
対応が冷たかった。
黙って話を聞いていると、空を飛ぶタイプのガジェットはなのはとフェイトが迎撃。
列車に群がるガジェットは四人組で対処。
スターズ隊とライトニング隊でペアを組み、先に重要貨物室に着いた方がレリックを確保。
リィンも新人と一緒に現場に下りて管制を担当。
新人のフォローはリィンに任せて問題ないだろう。
「僕は?」
「ここで待機する?」
「僕に死ねと言うのか?」
この対応でまだ若干なのはが怒っていることを確認する。
まぁ部下の前であんな醜態をさらしたんだ。怒りたくなるのもわかる。
「……そんなにダメなんですか?」
ティアナが聞いてくる。
口調は敬語だけどその目は冷ややかで、僕が完全に信用されていないと言うことがわかる。
「正直今こうしているのもいっぱいいっぱいなんだよ。と言うわけなんで早く降ろしてくださいお願いします」
「ま、これ以上八神准尉をヘリに載せてるとこのヘリが墜落しちゃうかもしれないからね~」
「落ちませんよ! 俺の腕信用してくださいよ!」
「じゃ、みんな! 初めての実戦だけど、訓練の内容をよく思い出して! フォワード隊、出動!」
そう言って、叫ぶヴァイスさんをスルーしてなのはは飛んでガジェットの迎撃に入っていく。
新人四人も続こうとしていたが、着地地点にガジェットが湧いてきて下りられないでいる。
(……いつまでもこうしているわけにはいかないか)
備え付けてあるベンチから立ち上がり、軽く体をほぐす。
首から架かっている待機状態の冬櫻と秋楓を確認し、ヴァイスさんに一言告げる。
「じゃあ僕も行きます」
「大丈夫か~?」
「正直さっさと気絶したいですけどそうも言ってられないんで。ペルセフォネを置いていきますから何かあったら頼ってください」
右手に冬櫻、左手に秋楓を持ち、バリアジャケットを展開。
一歩踏み出そうとしていたスバルの肩に手を置き、前に出る。
「侵入経路は僕が確保するから、みんなは僕の後に続いてくれ。あ~……ま、先達としてかっこいいところみせないとな」
そのままヘリのふちに足をかける。
一瞬の浮遊感。
そして体が重力に引かれて落ちていく。
(――ティアナ目線――)
「侵入経路は僕が確保するから、みんなは僕の後に続いてくれ。あ~……ま、先達としてかっこいいところみせないとな」
さっきまで怯えていた人とは同一人物とは思えないほどに、堂々とした足取りで彼は一歩を踏み出した。
両手に持ったデバイスをだらりと下げ、そして今までの高所恐怖症だなんて嘘だったんじゃないかってくらいあっさりとその一歩を踏み出す。
彼はそのまま重力に引かれて落ちていき、私たちが着地するはずの列車の屋上にあっさりと到達。
着地点に群がっていたガジェットをデバイスで切り払う。
数秒後にはそこにはガジェットの残骸しかなく、彼はこちらに向けて手を振っていた。
「……すごい」
「私たちも行くわよ!」
「「はい!」」
(――ティアナ目線終了――)
(…………後で絶対になのはに文句を言ってやる)
ヘリのふちに足をかけた瞬間から目をきつく閉じ、間違っても開いて下を見てしまわないようにした。
下を見れば絶対に躊躇するから。
だから落下中もずっと目を閉じていた。
いつも、恐怖を感じた時に妙に背中が寂しくなる。
そこに誰かがいて、励ましてくれていたような気がする。
着地した瞬間に眼を開き、落下時にたまった恐怖とかその他もろもろを込めてガジェットを斬り伏せる。
いつの間にか止めていた息を思いっきり吐き出し、ヘリの上でこっちを見ている新人四人組に向けて手を振る。
四人は空中でバリアジャケットを展開しながら下りてきた。
正直、なんでそんな簡単に飛び降りることができるのかわからない。
多分機動六課にいるうちは僕のこの気持ちを理解してくれる人は現れないだろう。
(…………今は関係ないか)
唯一僕のこの気持ちを理解してくれた元親友兼パートナーのことを思い出しそうになるが、頭を振って思考から追い出す。
後ろを見ればいつの間にか全員が下りてきており、自分たちのバリアジャケットが各隊の隊長と似た形になっているのに感激の声を漏らす。
「じゃあ予定道理みんなはリィンの指示に従って行動してくれ。隊長陣が撃ち漏らしたガジェットは僕が処理するから気にしなくていい。行動開始!」
「「「「はい!」」」」
元気のいい返事を聞きながら後ろに下がる。
ハッキリ言って、今回の僕の役目は万が一に備えた保険だ。
なのは一人ならともかく、フェイトも援軍として到着する予定なので撃ち漏らすなんてことはまず無いだろう。
僕の役目は遊撃。
この程度でなのはやフェイトが遅れを取ることはないし、レリック回収に僕が出しゃばっても新人四人が経験を積めなくなるので却下。
(つまりやる事がないんだよね~)
右手の冬櫻をくるくると回しながらどうするか考える。
このまま突っ立っているだけと言うのはどうも落ち着かないし、リィンがいるので新人の援護も必要ない。
それでも不測の事態に備えていつでも動けるようにしておかなきゃいけない。
そう思って動こうとした瞬間、列車が走っているすぐ横の崖の上から鋭い殺気を感じた。
高速で接近する魔力刃を秋楓で弾き飛ばす。
次弾を警戒して崖の上を睨み付けるが、僕に向けて殺気を放つだけで何もしてこない。
(……誘ってるんだろうなぁ)
「こちらブレード1。列車右の崖から攻撃を受けた。多分罠だと思うから引っかかりに行ってくる」
攻撃型遊撃隊のコールサイン――僕しかいないから僕専用のコールサイン――で念話をしつつ、魔法で身体強化を施して崖を登り、上にあった森に突っ込む。
わざわざ罠だとわかっているところに突っ込むのは自分でもどうかと思うけど、放っておいてもしフォワード隊に被害が出れば僕はきっと後悔する。
だから、わざと誘いに乗る。
『スターズ1了解……油断しないでね』
『ライトニング1了解……気を付けて』
「了ぉ解。リィン、新人は任せたよ」
『了解です!』
三人の念話を聞きつつ、殺気のする方へ駆ける。
そしてたどり着いた先にいたのは僕だった。
「……ああ、まぁ、うん。つまり、そういう事か」
僕に向かって振るわれる僕のデバイスとまったく同一のデバイス――右手の冬櫻を同じ冬櫻で防ぎながら、一人納得する。
振るわれる剣技は僕と同じだが、僕より稚拙だ。
戦術も以前僕が使っていた少し古いもの。
余りある魔力を使って飽和攻撃を仕掛けつつ、接近して斬ると言うもの。
デバイスに魔力を通し、向かってくる魔力弾をすべて斬りおとす。
目の前の存在が何かはわかっている。
一度似たようなのと戦ったことがある。
その時は、秋楓を叩き折られた。
魔力弾をすべて斬ると、相手は息切れをおこしていた。
僕のようにバカみたいに魔力があるわけではないらしい。
だから、その隙をついて接近。秋楓を振り上げる。
それに反応した敵が同じように秋楓を振り上げるが、僕は秋楓を振り下ろすのを止め、その脇腹に蹴りを繰り出す。
吹き飛ばされた敵の下には魔法陣。
次の瞬間にはその姿が消えていた。
「転移……逃げたか」
『状況終了……こちらスターズ1。ブレード1聞こえる?大丈夫?』
「こちらブレード1。敵と遭遇。戦闘したけど逃げられたよ。
『分かった。みんなお疲れ様! 特にフォワード組のみんなはよく頑張ったね! 反省会とかはいっぱいあるけど、今は喜ぼうか!』
状況終了。あとの事後処理はロングアーチのみんなに任せればいいだろう。
(……やっと見つけた)
今は、喜ぼう。
機動六課初の出動はみんな大した怪我もなく、大成功。
レリックも回収できたし、何より――あいつの手掛かりが向こうから転がり込んできた。
だから、今は祝杯を開けよう。
(待っていろよ、スカリエッティ)
あいつの分まで、僕が必ずあんたをぶん殴るから。
「首を洗って待っていろ」
僕そっくりの敵が転移して消えた場所に向かって、呟いた。
『レリック、回収されました。追撃しますか?』
どこかの場所。
ホロウィンドウに移る女が大画面のモニターを見つめる白衣の男に報告する。
「やめておこう。レリックは惜しいが、彼女たちのデータは十分取れた。そして……」
そう言って男が開いたのは二つのウィンドウ。
そこにはフェイトとエリオが映っていた。
男は二人を狂気に染まった笑顔で見つめる。
「生きて動いているプロジェクトFの残滓を手入れるチャンスなんだからね……。それにしても……」
そう言って男はウィンドウを消し、別のウィンドウを表示する。
そこに映っているのは、同じ顔をした二人の男が争う映像だった。
「こんなにも早く再会できるとは思わなかった……。大体三か月ぶりか。当時の彼のデータとプロジェクトFの残り滓から作り上げたクローン体では歯が立たないか……。相変わらず素晴らしいな」
そう言ってモニターを見る男の顔は、先ほどのように狂気に染まっておらず、むしろ優しげな雰囲気を漂わせていた。
「来るべき再会を……祝おうではないか、我が友よ」
男は嗤う。
とうに狂人の域に達したと思っていた自分にも、友情と呼べるものが残っていたことを。
男は、嗤い続けた。
と言うわけで第四話です。
皆さんは自分が一番嫌なことをやるかなのはさんのバスターを食らうか選べと言われたらどうしますか?
作者は嫌なことします。命は大事です。
自分で読み返して智春のキャラに違和感を感じる。
多分こんなに男らしくないと思うけどうちの智春は年齢不明ですが一応十九歳です。
原作より大人になってるので性格も若干変わってます。
そして空気になりつつあるペルセフォネ……活躍の機会は必ず作るからもうちょっと待って!
にしてもティアナ目線から見た智春と実際の智春の内心でギャップを作ろうとしたけどうまくいかなかった……難しいね。
ここまで原作通りの展開にしてきたけど今回からオリジナル要素増し増しで行きます!
智春とスカさんの因縁はまた後日!
それではまた次回!