魔神相剋者の夢   作:名無しのごんべい

3 / 9
第1話 「機動六課始動!……のちょっと前」

『ヴィータちゃん、ザフィーラ。

ガジェット三体追い込んだわ』

 

 頭に響くシャマルの念話を聴きながら走る。

 あっちはうまくやっているようだ。

 

(なら…僕も!)

 

 目の前の二対のガジェットのうちの片方を、擦れ違いざまに斬り捨てる。

 一瞬の抵抗の後ガジェットは『冬櫻』によって真っ二つに切り裂かれた。

 

 もう一体のガジェットから熱光線が発射される。

 ディフェンサーで防御しつつ後退。

 牽制で魔力弾を数発撃つが、すべてAMFによって無効化される。

 後ろから増援のつもりかさらに三体のガジェットが近づいてくるのを感知。

 

『智春君! 新しいガジェットが三体そっちに行ったわ!』

 

「こっちでも確認してる! 問題ない!」

 

 『冬櫻』を右手で持ち、左手の親指を噛み千切る。

 一体一体は弱いとはいえ、数で囲まれたら厄介だ。

 親指から滴る血が次第に形を成す。

 それと同時に今、僕の両目は緑色に発光しているだろう。

 血はやがて鳥の形になり、僕の周りに三羽の漆黒の鳥が舞う。

 

「いけ!」

 

 僕が魔精霊(サノバ・ジン)と呼んでいるこの鳥たちは、僕の命令に従って増援に来たガジェットの方へと飛んでいく。

 そのままガジェットと正面から激突。

 激突した瞬間、鳥たちはガジェットを包み込むように羽を大きく広げ、あとには何も残らなかった。

 

「これで、ラスト!!」

 

 『冬櫻』のカートリッジをロード。

 圧縮された魔力が解放され、刀身を一気に包み込む。

 

「『紫電一閃』!!」

 

 シグナム直伝の剣技。

 シグナムとレヴァンティンのような変換資質はないため、ただ魔力の塊を刃に載せて斬るだけだがそれだけでもかなりの威力がある。

 直撃したガジェットは文字通り粉々になった。

 

「シャマル。こっちは終わったよ」

 

『ヴィータちゃんたちも今終わったところよ。お疲れ様』

 

『早く帰ろうぜ~。疲れちまったよ』

 

『同感だな』

 

 『冬櫻』を待機状態に戻しながら念話で会話する。

 

 僕がはやてたちに遺跡から救出されてからもう十年もたつ。

 その間にいろいろあった。

 学校に通い始めたり、僕も魔法に触れたり、なのはが大怪我したり、はやてが自分の部隊を持ちたいって言って来たり。

 そして、今はやての夢があと一歩で叶うところまで来ている。

 と言っても、あとはメンバーを集めるだけらしいし、僕たちに手伝えることはないだろう。

 僕たちにできるのは、こうして湧いて出てくるガジェットを迅速に破壊することくらいだな。

 

 深く噛み過ぎて血が止まらない親指をなめる。

 

「いてて…」

 

 この力を使うときはいつものことだけど、痛いものは痛い。

 今回も増援なんか来なければ使わずに済ませていたのに……。

 

 そんなことを考えているとみんなと合流する。

 

「智春君……またやったの?」

 

「あ…ごめんシャマル。またやっちゃった」

 

「相変わらずそれ痛そうだよな~」

 

「難儀な力の使い方だな」

 

 みんなから呆れとも同情とも取れる視線を送られる。

 その間にもシャマルの治療は終わる。

 

「にしてもあいつら、動きがだんだん賢くなってきてるな」

 

「ああ。この程度ならまだ我らで十分に対処できるが……」

 

「いつか、私たちの予想もできない動きをするかもしれない。用心してね?みんな」

 

 シャマルの一言で締めくくる。

 そのまま機動六課の寮にみんなで帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のことを振り返る。

 なのはとはやてが目を付けた二人組はおそらく入ることになるらしい。

 実力はまだまだだが、スバルという少女は格闘戦では光るものがあるらしい。

 僕は昇進試験の映像はまだ見てないが、なのはいわく「鍛えがいがある」らしい。

 ティアナという少女は射撃型。

 二人の会話を聞く限り本番に強いタイプとのこと。

 幻術魔法も使え、こちらもなのはいわく「鍛えがいがある」らしい。

 二人にはご愁傷様と言っておきたい。

 後はフェイトが保護した二人の子供も加えるらしい。

 名前は確か「エリオ・モンデュアル」と「キャロ・ル・ルシエ」。

 十歳の子供。

 確かなのはたちと僕が出会ったのもそのころだ。

 あのころは僕はいっつもはやてにべったりだったなぁ……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「えー…というわけで、今日から家族が一人増えます!」

 

 シーンと静まり返る室内。

 リビングには八神家全員がそろっており、みんな困惑の表情をしている。

 唯一事情を知っているシャマルだけが苦笑している。

 

 そして紹介された本人である智春は、ボーっとあたりを見回していた。

 

「……主? その少年は確かあの遺跡で保護した少年ですよね?」

 

「そうやで?」

 

「何でうちで預かることになったんだ?」

 

「それは……」

 

 はやてはそこで一度言葉を切ると、リビングから台所まで車いすを漕いで移動する。

 すると智春はその後ろをついていった。

 

「な?」

 

「いや、「な?」と言われても……」

 

「実は、この子……智春君って言うんだけどね? この子はやてちゃんから離れようとしないのよ」

 

「主から?」

 

「ええ。それで仕方ないからうちで面倒を見ることになってね」

 

「わたしらの立場でか? そんなことしていいのかよ」

 

「そこはリンディ提督がうまく誤魔化してくれるらしいわ」

 

 もう一度智春を見る。

 話題の中心にいる少年はただそこにボーっと突っ立っているだけだった。

 

「ま、まぁそのリンディ提督にも頼まれたことやし! みんな仲ようしたってな!」

 

 その一言で、八神家の家族会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 あのことは自覚がなかったけど、我ながらなんて愛想のない子供だったんだろう。

 あのころはいつもはやての後ろについて行って、はやてとしかしゃべらなかったと思う。

 

「やばい……今更昔の僕が恥ずかしくなってきた……」

 

 思わず顔を両手で覆う。

 さっさと忘れて寝てしまおう。

 

 明日はなのはとフェイト、そして新人たちが配属される。

 忙しい一日になるだろうし、なのはのことだから明日から早速訓練だろう。

 シグナムも合流するからまた模擬戦を頼まれるかな?

 何か逃げるためのうまい言い訳を考えておかないと。

 

 明日から、本格的に六課が稼働する。

 

 そんなことを考えながら、僕は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーにはおよそ四十名の人たちが並んでいる。

 はやてが壇上に立って自己紹介をすると、一斉に拍手が起こる。

 そのままはやての演説が始まる。

 

(平和と法の守護者、時空管理局…………か)

 

 そうはやては言っているが、僕はあまり管理局に対していいイメージを持っているわけではない。

 圧倒的な実力主義。

 実力や素質があるならたとえ十歳に満たない子供でも使う黒い一面。

 前線でその儚い命を散らしていく若い魔導士と権力争いにまみれた汚い大人たち。

 はやてたちがいなければ僕は絶対に管理局に入らなかっただろう。

 

「ま、長い話は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長および部隊長、八神はやてでした!」

 

 はやての短い演説が終わる。

 後はみんなちりじりになって自己紹介とか顔合わせを済ませるだろう。

 

「それで、これから各自で自己紹介をやってもらう…………前に」

 

 途端、今まで優しげな微笑みを浮かべていたはやての顔が一瞬で怒りの形相に変わる。

 

「そこの柱の陰で隠れてる遅刻者!! ちょ~っとこっちに来なさい?」

 

(!! 見つかった~!!)

 

 そう、今僕はロビーにある大きな柱の陰で身を隠していた。

 理由は簡単、いつも目覚まし代わりにしていた端末の充電が切れており、アラームが鳴らなかったのだ。

 よく見ると充電器が壊れており、寝ている間まったく充電できていなかったから起きる前に電池が切れてアラームが動作しなかったみたいだ。

 それでも何とかぎりぎり間に合う時間帯に起きれたので、横で一緒に寝ていた使い魔のペルセフォネを叩き起こし着替えて寮を出る。

 まだ間に合うと思った瞬間持っていたカバンの底に穴が開いており、そこから荷物がどんどん零れて行っているのが発覚。

 急いできた道を引き返し、零れた荷物を回収。

 隊舎に着くころには挨拶が始まっている時間だったため、裏口からそ~っと入ると案の定はやての挨拶になっていた。

 仕方ないので物陰に隠れて全員が持ち場に着くときの混雑を利用してまぎれようと思ったらこうである。

 

「ん~? もしかして侵入者か~? もしそうなら高町一等空尉に一発きついのを頼まなあかんなぁ~」

 

「分かった! 分かったからレイジングハートを無言で構えるのをやめてくれ!!」

 

 おとなしく物陰から出てはやてのもとに行く。

 全ての視線が僕に突き刺さっているのがわかる。

 針の筵というのはこういうことか。

 

「で? 何か弁明はありますか? 八神智春准尉?」

 

 はやての絶対零度よりも冷たい視線が僕を貫く。

 

「…………充電器が壊れていて……端末の電池が空っぽで……」

 

「で?」

 

「鞄も穴が開いていて……中身が道にぶちまけられていたので……来た道を引き返して拾ってました」

 

「ふ~ん……で?」

 

「…………遅刻して申し訳ありませんでした! 八神部隊長!」

 

 膝をつき、額を床にこすりつけるくらい下げて両手をその前に持ってくる。

 

 いわゆる「土下座」である。

 

「……ハァ……分かった、もうええから顔を上げ。

あんたはシグナム二等空尉にみっちり鍛えてもらうから」

 

「ちょっ!! それは勘弁して…………いえ、何でもありません」

 

 咄嗟にいつもの調子でお願いしようとして、はやてに睨まれたのでやめる。

 横でシグナムがすっごくいい顔でこっちを見ているのはきっと気のせいだろう。そうに違いない。

 

「みんなごめんな~。この遅刻者には私の方からちゃんと叱っておくから。じゃぁ解散や。各自自己紹介を済ませて持ち場についてな~」

 

「では行こうか、智春」

 

「……はい」

 

 シグナムにずるずると引きずられる。

 途中でシグナムがフェイトと話をしていたみたいだけど、全く耳に入ってこなかった。

 

 バトルジャンキー(シグナム)相手に僕は生き残れるのだろうか?

 




ドウモ、名無しのごんべいです!

今回の話は原作二話Bパートから三話Aパートになります。
智春君が使った紫電一閃。
子供時代にシグナムさんに無理やり教えられたものだったりします。
身体強化しか魔法を使ってなかったので教えました。

そしてこれからの物語の構成ですが、基本誰かの一人称視点+A,sまでの登場人物だった場合は過去の回想シーンを挟む。という形で行きたいと思います。
回想シーンは三人称視点です。

にしても生身の戦闘描写というのは案外難しい。
魔法の描写もしなきゃいけないんですよねぇ~。
今まで機械での戦闘描写しかしてこなかった作者にはなかなかハードです。

生身智春君が強すぎるって?まぁその辺は今後の複線って言うことで。


後管理局のところって「アンチ・ヘイト」に入りますかね?
もしそうならタグ追加しときます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。