王子様にはなれなかった人の話   作:ノブナガ

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※下品。





4 女性は偉大である

 女性は偉大である、とよく言われる。

 

 理由は多々あるが、一番大きい理由は女性だけが母親になることができるからだろうと俺は考えている。

 母親は偉大である。彼女たちがいなければ、人間は生まれない。

 それを言えば父親も同様のことが言えるはずなのだが、哀れ、彼らは根本的に母親に勝ることはない。

 具体的な例を挙げれば、死を前にした人物が最後に呟く言葉に『お母さん』『お袋』という単語が含まれる頻度の高さからも分かるだろう。

 俺も以前は死の間際、そのような呟きを残して同僚が死んでいく姿を何度か目にしたことがある。そのことを思い出すと自分の無力さに未だに複雑な気分になるのだが、ひとまずそのことは置いておく。

 

 特出すべきは、彼らの誰ひとりとして『父さん』と呟いて亡くなったものがいなかったということだ。

 

 子どもを育てるという点においては、父親も母親も相違なく親としての愛情を注いでいたはずなのにも関わらず、父親を死の間際に呼ぶものの少ないこと、少ないこと。

 世の父親はまことに不憫であるとしか言いようがない。そして、どう頑張っても父親にしかなれない世の男性もまた哀れである。最初から女性には勝てないように生まれてきてしまったようなものだからだ。

 

 しかし、まぁ、女性が出産の際に被るリスクは男とは比べようもないものがあるので、仕方がないのかもしれない。人間は本能で、腹を痛めて自分を産んでくれた母親に絶大な信頼をおくようにできていたとしてもおかしくはないだろう。

 かつて男だった身としては、腹を痛めて子を産み落とすという苦労は想像の範囲を超えることはないので、説得力など皆無だが。

 

 今世では一応女ではあるものの、そんな機会は果たしてあるのかさえもわからない我が身である。ゆえに、結局は母親の苦労など本当の意味では今もわからない。聞いた話では壮絶極まりないらしいという、以前と変わらぬ何とも曖昧な知識しか俺にはないのだ。

 

 しかし、出産とまでいかなくとも、女に生まれた以上俺が望む望まいと関わらず、女性の苦労の一端を知る機会は必ずあるものなのだ。

 

 

 

 

 その日のアカデミーの授業は、三人一組による演習だった。

 

 ランダムに決められた男女混合の三人組で、あらかじめ罠が各所に仕掛けられた森を抜けるというものだ。各班のスタート地点からゴール地点までの時間を競うという説明を受けた。

 演習は成績に与える影響が大きいことが多いから、今日の演習の結果が成績にも直結すると考えてもいいだろう。だとしたら、少しばかり面倒だなと思う。

 俺はそれほどアカデミーの成績には固執していない。サボったり、不真面目な態度を取ったりまではしないけれど、まぁ、そこそこの成績でいいと思っている。

 だから実技の試験では、おそらく俺の今の身体能力では届かないだろう距離から的を狙って手裏剣を投げることもあったし、体術の授業では力比べでは勝てないだろう相手に真正面から挑むこともあった。忍術の授業ではチャクラの限界を明確に把握するために、現状では出来やしないだろう高位の術を使おうとしてみて失敗してことだってある。

 そのため、俺の実技の成績ははっきり言ってあんまり良くない。勿論、無茶な挑戦が偶然上手くいくこともあるのだが、それよりも失敗する確率の方が圧倒的に多い。結果として、成績は平均より下回ることになる。

 いのからは、そんな俺の態度を呆れられることがあった。

 

 曰く、もう少し身の丈にあったことをすれば実技の成績も上がるだろうに、とのこと。

 

 けれど、俺は成績なんてもんにあまり興味はないし、実際問題として現状の自分の実力をきちんと把握しておくことの方が重要だと思う。今の俺は自分でも何が出来て何が出来ないのか、はっきり分かってない部分が多いのだから。

 俺はいつでも自分にできるギリギリの境界線を、まだかまだかと探している。そして、出来るならば、その境界線を少しずつ広げていきたいと思っている。

 今度こそ、俺は守る力になる。そう決めたのだから。

 俺にとっては、そちらの方がアカデミーの授業より重要だったのだ。

 

 とはいえ、俺は空気の読める男である。いや、今は女なんだけど、それはまぁ、どうでもいい。

 

 三人一組ということは、俺のポカが他の二人にも影響を与えるということだ。

 自分一人の成績が下がる分には自分のことなので割とどうでもいいが、他人の足を引っ張るとなると話は変わる。

 その日、俺と同班になったのはサスケとシカマルだった。

 シカマルはまぁいいだろう。あれもアカデミーの成績などどうでもいいタイプだ。俺が何かミスをしたとしても、めんどくせぇと思いはしてもあまり気にもしないのだろう。

 彼は何だかんだで協調性がない訳ではないので、こちらとしても一緒に行動するのは苦にならない。

 もし、シカマルと二人一組だったらすごく楽だろうなと思った。主に精神的な意味で。

 

 問題はサスケである。

 

 彼は俺から見ても分かりやすく優等生であり、かつ、お前は常に火を燻らせている爆弾かと言いたくなるほど短気である。足でも引っ張ろうものなら、後が非常に面倒くさい。

 

 特に、近年の彼は鬼気迫るものがある。

 入学当初よりサスケは優秀な子どもだったが、うちは一族の事件が起こって以降、彼の態度は真摯を超えて、何かに追い込まれているようでもある。いや、むしろ何かを追いかけているのか? その辺りのことはサスケとあんまり仲がいい訳でもないので、俺は知らない。

 

 だらだらと話してきたが、要するに、今回の演習はある程度、真面目に取り組まざるを得ないということである。

 今日は何となく身体がだるくて、調子があんまり良くないというのに。単純に、ついてないなと思った。

 俺と同じくサスケと組まされることになったシカマルも、俺と同じような思考に至ったらしく「めんどくせぇ」といつもの口癖をぼやいている。

 俺はシカマルの横で彼の言葉に頷いた。全くもって同意である。

 

 

 

 演習が開始するとすぐに、俺たちはスタート地点に近い位置で足を止め、おもむろに先ほど教師から各班に一つずつ渡された地図を広げた。

 俺たちが一度足を止めたのは、どういうルートで進むのかを話し合うためだ。適当に進んでもゴールするだけならさほど問題はないだろう。けれど、できるだけ早くという条件が付けば話は変わる。出来るだけ罠を避けながら進んだほうが効率はいいに決まっているのだ。ルートは思案して進んだほうがいい。

 言いだしたのはサスケで、彼の言うことは至極真っ当なので、その言葉に俺たちも従う。

 二人の顔をちらりと見てから、さて、俺はどうしようかなと思う。

 俺が何もしなくても、このメンツなら誰よりも早くゴールは出来るだろうなと思う。

 サスケは普通に優秀だし、俺は直接知らないが、いの曰くシカマルも実はすごく頼りになるらしい。いつもやる気がないのが珠にキズらしいが。

 俺は傍観でもして、適当に二人に付いていこうかなと、あんまり他人に言えないようなことを思っていたら、シカマルと目が合った。

 

「サクラ、お前だったらどう進む?」

 

 正直、シカマルの言葉に『何故俺に振った』と俺は思った。

 そして、次の瞬間には、もしかしたら、いのが余計なことを言ったのではないかとすかさず邪推した。

 有り得る。俺は自分の考えに内心肯定を示す。

 なにせ、こちらもシカマルはやれば出来る男だといのにそれとなく聞かされているくらいなのだから。

 

 サスケだけは、何故シカマルが俺に話を振るのかと言わんばかりの表情をしている。

 まぁ、ペーパーテストはそこそこ出来るだけの女に、主導権をいきなり投げたら誰だって不満に思うだろう。

 

 俺はそんな二人を見てから、ため息を一つ吐いた。

 それから、仕方なしに与えられた地図を手に取る。

 まぁ、適材適所という意味ではこれが一番手っ取り早いのかもしれない。

 俺は地図を眺めながら、脳内で地形を描く。

 今回の演習で使われている森は、以前別の演習でも使用したことがある。その記憶と地図とを照らし合わせた。

 その上で、最善のルートを検索する。

 今回の演習は、時間内にスタート地点からゴール地点へ移動するだけという単純なもの。

 ルート上に罠を仕掛けてあると言っても、罠というものは基本種類が限られている。

 落とし穴やネズミ捕りを思い浮かべて頂きたい。罠というものは、基本的に特定の場所に接触する、或いは特定の動作を行うことで稼働するものである。

 これらの罠は、前述した特定の場所、特定の動作といった条件を満たさなければ、そもそも意味を持たないものである。

 故に、通常ならばその罠に追い込むまでのプロセスが重要となるのだが、今回はアカデミーの演習の一環であり、かつ、生徒は複数の班に分かれて行動している。

 確実に罠にかかるように誘導するという手間をかけた手段を用いることは、授業を担当している教師のみでは人員的にまず不可能だ。

 もっと言えば、本来ならば対象の性格や能力に合わせた罠こそが有効であるが、そこまでの準備も授業の一環では労力的にまず無理というものだ。そもそも、アカデミーの授業内でそこまでするとも思えない。

 となれば、順当に不特定を対象に罠を仕掛けてあると考えるのが常識的だ。

 罠はどこにでも仕掛ければ良いというものではない。例えば、何もない広大な平原の真ん中に落とし穴があったとして誰が引っかかるというのか。罠には適した地形というものが存在するのである。

 俺は地図を眺めながら、罠が仕掛けられている可能性の高い箇所を一つ一つ潰していく。そうして、できるだけ罠を避けた最短ルートを検出する。

 図面を見れば、俺は頭の中で今見ているかのように景色や地形を描くことができた。

 これだけは前世の頃からの特技である。おかげで、以前の俺は偵察や調査という任務に回されることが多かった。

 かつて、俺が“俺”であった頃、同期の一人が俺のことを空間認識能力だけは優れていると称した。

 俺は地図を立体視することが得意であったし、一度見た景色でおかしな部分があれば即座に理解できる。これだけは他人より優れているという自負があった。

 以前の俺は、大した実力を持った忍ではなかったと我ながら思う。

 にも関わらず、時空間忍術を扱うことが可能だったのは、この才能のおかげであると言えるだろう。

 空間と空間を歪ませ、縮める。

 それらの行為を行うことができたのは、空間知覚に優れていたからに他ならない。

 一分ほど考えてから、俺は地図上に不自然に曲がりくねった直線を引いた。

 

「このルートが最善だと思う」

 

「なぜだ?」

 

「多分、これが一番面倒が少ない」

 

 当然の疑問に俺は即答した。でも、こんな答えじゃ納得なんて誰もするまい。さて、どうやって説明しようか。

 そんなことを思っていたら、シカマルが地図を指差しつつ、俺よりももう少し詳しく補足した。

 

「ここはこの辺りでは少し小高い位置にあるし、見通しがいい。地図はあるっていっても、周囲の状況確認のために立ち寄る人間もいるだろうと推測するのは簡単だ。罠が仕掛けられていてもおかしくない。ここは純粋に最短ルートを選んだとき通る場所の中で、罠を仕掛けるのに一番適している。ここは谷みてーな地形になっているから、基本一本道だ。罠を仕掛けやすい地形だろ?」

 

 避けている場所から適当に2、3箇所、何故そこを避けたかの理由を述べていく。

 補足は的確で、俺も少し驚いた。何の説明もしていないのに、彼には俺の思考がわかったらしい。

 なるほど、いのの言葉は正しそうだ。

 シカマルは見た目以上に頼りになる男で間違いない。

 

「他の箇所の説明も必要なら、全部言うが?」

 

 言ってから、時間を競っている以上早く出発した方がいいんじゃねーか、とシカマルがそう付け足す。

 サスケはすごく意外なものを見るような目をしていたけど、俺たちは気にしなかった。

 色々言いたいことがありそうではあるが、どうやら行程に関してはとりあえずは他に質問はないらしい。

 

「じゃ、行くか」

 

 シカマルはそれだけ言うと「めんどくせぇし、早く終わらせようぜ」と伸びをしながら立ち上がる。俺たちもそれに釣られるようにして立ち上がった。

 

 

 

 俺たちは、しばらく黙々とゴール地点を目指して移動をしていた。

 大方先の予想通り、特に問題もなく進めている。行程に問題はない。あるとすれば、別のところだ。

 

「誰かにつけられてるな」

 

 サスケの言葉に、小さく頷く。

 おそらくは他の班の誰かが俺たちをつけているのだろう。

 無視して進むという選択肢もある。タイムアタックなのだから、交戦する必要は一切ない。

 でも、偶然ルートが重なったというよりも明確に後を追われているらしい様子に、若干鬱陶しいと思ったのも本音だ。

 露骨にシカマルがため息を吐いている。きっと、まためんどくせぇとか思っているんだろうな。

 

「で、どうするんだ?」

 

「とりあえず鬱陶しいし、追い払うか」

 

 そんなやり取りをしてから、俺たちは足を止め追跡者を向き直る。

 と、同時に追跡者らもそんな俺らに気づいたらしく、即座に木の影に隠れた。――一人を除いて。

 その人物は急に振り返った俺たちに驚いたらしく、思わず足を踏み外してしまったらしい。ドスンという音と共に思いっきり尻餅をついていた。

 そんな彼に俺は思わず半眼を向けてしまう。

 

「……何やってんだ、ナルト」

 

 いてぇ、と呻くナルトを見下ろしながら、思わずそんな言葉が出てしまったのは仕方ないだろう。

 

 

 

 

 思いっきりすっ転んだらしいナルトはとりあえず派手な転び方をした割には大きな怪我はないようだった。

 それだけは確認してから、俺はシカマルに問いかける。

 

「ナルトと同じ組みになったのって、確か」

 

「いのとキバだな」

 

 俺の問いにシカマルが簡潔に答える。俺は思わず額に手をやった。何やってんだろうか、俺の友人は。

 

「……いのが俺たちの班を追いかけるって言い出して、キバに匂いで追ってもらったってところか?」

 

「え! サクラちゃん、何で知ってんの?!」

 

 俺の呟きに地べたに座り込んだままのナルトが、とても分かりやすい回答を返してくれた。

 うん、ナルト。素直なのはいいことだけど、分かりやすいのは忍者としては問題だと思うぞ。心の中でそんな忠告をしながら、二人が隠れたであろう木の影に目をやる。

 

「とりあえず話をしようか」

 

 出てこい、と言いながら俺は満面の笑みを浮かべる。

 何故かナルトが顔を引きつらせていたが、俺は見なかったことにした。

 後に彼はこう語ったという。

 

 ――その笑顔が超怖かったんだってばよ。

 

 とりあえず、現時点の俺はそんなナルトの思考などつゆ知らず。

 渋々と木の影から現れたいのとキバを、俺は腰に手を当てて仁王立ちしながら迎えたのだった。

 

 

 

 

「だってぇ~、サクラの班にはサスケくんやシカマルもいるし、ついて行ったほうが早いと思って」

 

 と、このようなことを悪びれもなくいのは述べた。

 それも作戦の内なのだろうと思えば、責める気にはなれない。

 そこにあるものは、例え敵であろうと利用することは決して悪い判断ではないし、俺がいのの立場であったら同じことを発案したかもしれない。

 問題はそこではない。

 

「尾行をするのに風上に立つな。相手にバレるだろうが!」

 

「そこかよ」

 

 すかさずキバがツッコミを入れてきた。

 他に何があるというのだ。今はアカデミーの演習だからいいけれど、実際に任務でやったら失敗は確実だぞ。

 というか、キバ。お前は忍犬使いなんだから、尚の事風向きの重要性は一番わかってるはずだろうが。

 文句の一つでも言ってやろうかと、俺が口を開きかけたとき。

 

「あ」

 

 急にナルトが何かに気がついたように、声を上げた。

 思わず視線がそちらに向かう。俺と同じように、その場にいた全員がナルトに視線を向けた。

 そんな中、ナルトは俺を指差しながら慌てたように問いかけてくる。

 

「サクラちゃん、大丈夫だってば?!」

 

「?」

 

 言葉の意味が分からずに、思わず俺は首をひねる。

 

「血! サクラちゃん、足怪我してるってばよ!」

 

 怪我をするような真似をした記憶は俺にはない。が、ナルトに言われて俺は自分の足元を見下ろした。

 スカートからのぞく俺の足。その足を確かに赤いものが伝っている。血で間違いないだろう。

 出血の量は多くない。俺の内股を伝う血は細い線を作っていたに過ぎないからだ。怪我だとしても問題ない程度の出血量だろう。

 

 けれど、俺はそれを見た瞬間、頭が真っ白になった。

 

 その出処に気がついたからだ。

 その血の出処はふとももよりも少し上、もっと言えば足の付け根の辺りで――。

 

 それが意味することは、つまり。

 

 俺だってそういうことが起きてもおかしくない年齢であると自覚していた。半年位前から、ここにいるいのだって休み時間に小さな巾着を片手にトイレに向かうようになっていた。

 いつかは俺もそうなるのかなぁと思いはしたが、思っただけである。どんな出来事も我が身に起こらなければ、所詮は他人事なのだ。

 その場にいたナルト以外の全員が、おそらく俺と同じような結論に至り、そして同じように呆然としていた。

 気持ちは分かる。こんな時、どうすればいいかなんてアカデミーでも習ったりはしない。

 そんな中で一番最初に我に返ったのは、いのだった。

 

「あんたたち、じっと見てるんじゃないわよ!!」

 

 いのはそう大声で叫びながら、俺を庇うように他の面々の前に立ちふさがった。

 そんな彼女に隠れながら、俺はようやく思考を整理し始めた。

 

 ――つまり、この出血はあれで。これは、まぁ、俺があれになったってことだよな。

 

 あっち向けと男どもに向かって叫ぶいのの背中を眺めながら、俺は呆然としながら呟く。

 言われてみれば、今日何となく朝から調子が良くなかったのも予兆だったのかもしれない。

 

「……俺、女だったんだな」

 

 思わずそんな感想が漏れた。

 

「サクラ、あんたね……」

 

 俺の呟きを聞き止めたいのが呆れたような声を出した。

 いや、だって仕方ないじゃないか。

 男と女の違いだなんて、この年齢じゃついてるかついていないかくらいしかない。男としてつくべきものがついてない以上、自分は女なのだというのは分かっていた。が、実感など、まるでなかったのだ。

 こんな事態になって初めて、今更ながらに俺は自分が女だったのだと理解した。だから何だという話ではあるが。

 

 その後、男どもが向こうを向いている間に、いのは俺を草むらの向こうに引っ張っていった。そして、俺はいのに手際よく世話をされることとなる。

 こんな時、男は本当に無力だな。気まずそうに、こちらに背を向けている男たちの後ろ姿を見送りながら、そんなことを思った。対するいのの、随分と頼りになること。

 彼女はこの中の誰よりも冷静で、かつ的確な行動を成し得たと言ってもいいだろう。

 

 後に、よく考えたらあれを男に見られるとか最悪じゃないかと俺は悶絶することになるのだが、それは演習が終わった後の話である。この時はまだそこまで気が回っていなかった。

 どうやら俺も、俺が思っている以上にテンパっていたらしい。

 

 言い換えれば、冷静だったのはこの集団の中で俺も含めていのだけだったのである。

 年の功も女には負けるということを、思い知らされた気分だ。

 

 どれだけ優秀だろうが、頭が回ろうが、どうやら男は女には勝てないらしい。俺は改めて実感した。

 

 言うまでもなく、女性は偉大なのである。

 そんなことを思ったある日の出来事であった。


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