鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回はクリスマスなので、以前どこかのあとがきで書いたように、クリスマス版にしました。外伝という訳ではありませんが、通常とは少し違う形式で物語が進んでいます。また、主役は特に決めておらず空母全体という形にしていますが、敢えて言うならば、加賀&瑞鶴が主役でしょうかね…。通常版の形式に則れば、腹ペコ空母が主役なのかもしれませんが^^;。


第三九話 空母のクリスマス・パーティー

空母寮 某所 加賀

 

 

やはりクリスマスにこの料理は必要不可欠ね。中に入れる香草や野菜の準備も完了。後はこれを内蔵部分の代わりに中に詰め込んでオーブンに入れるだけ…。その他の準備も出来ているし、この料理用のクランベリーソースの準備も完了しているわ。材料を手に入れるために余計な手間や出費をしてしまったけど…これまで色々と私に手間をかけさせ…ではなくて、私が面倒を見てきたあの子も喜んでくれるでしょう。まさか先輩の私がこれ程『心を込めて』作った料理を食べないなんて事は…ありえないわ。口を抉じ開けてでも食べさせないと…。

 

「あの…加賀さん?本当にその料理を持っていくのですか?その…もうちょっと違う料理の方が…。チキンの丸焼きの方がお手軽ですよ?」

 

「赤城さん?何を言っているの。これがなければクリスマスは始まらないでしょう?それに…あなたが作っているローストビーフの材料費は誰が出していたかしら。」

 

「そ…そうですね。やっぱり加賀さんが言うとおり、この料理がないとクリスマスパーティーは始まらないですよね!あ…赤城は勿論加賀さんの言葉に賛成です。はい。」

 

そうよ赤城さん。この料理がなければクリスマスパーティーは始まらないわ。それに…あの子も必ず私がこの料理を作って持ってくると考えて、適当な理屈を捏ねくりだして私の嫌いなあの料理を持ってくるでしょう。…先輩として、あの子の期待に応えてあげなくては、あの子も寂しがるはずです。え~、きっとそうでしょう。ならば期待に応えて、完璧に作ったこの料理を持っていかなければ…この七面鳥の丸焼きを。

 

 

 

空母寮 某所 瑞鶴

 

 

「瑞鶴…本当にいいの?お姉ちゃん、どうなっても知らないわよ。」

 

「いいって、翔鶴姉~。やっぱりクリスマスには鳥の料理。皆洋風の料理じゃつまらないから、瑞鶴が持ち込む料理はこれでいいって。」

 

今日、お母さんのお店で開かれる空母娘のクリスマスパーティー。お母さんの提案で各空母が一品ずつ料理を持ち寄る事が決まった瞬間、あの意地悪な先輩の顔に浮かんだニヤッとした笑顔…あいつが持ってくる料理は間違いなく瑞鶴が嫌いなあの料理。大方『クリスマスパーティーなのにこの料理がないのはありえません』とかもっともらしい言い訳をつけるだろうけど、間違いなく瑞鶴が苦手な七面鳥の丸焼きを持ってくるに違いないわ。瑞鶴はチキンのローストは好きだけれど、七面鳥は少しパサパサしていて嫌いだし、おそらく一緒に出てくる酸味と甘味のあるクランベリーソースも好きではないんだよね。

 

だとしたら…瑞鶴だって…あの先輩がもっとも苦手なこの料理を持っていってやるんだから。一応保険もかけてあるし、今回ばかりはあの戦いのように一方的にやられる訳には行かないわ。翔鶴姉は無難にスズキのパイ包みを作っているようだけど…瑞鶴は引くわけにはいかないのよ。後輩の私が『心を込めて』作った料理なんだから、あの先輩には必ず食べてもらわないと…口を抉じ開けてでも食べさせてやるんだから!

 

「瑞鶴…お姉ちゃん、どうなっても知らないわよ…本当に困った子なんだから…。」

 

 

 

小料理屋「鳳翔」 鳳翔

 

 

今日はクリスマスイブ。お店の方は臨時休業にして、私がこれまで面倒を見てきた空母娘を集めてクリスマスパーティーをする事にしました。そして折角の機会ですから、各自が一品ずつ料理を持ち寄って、持ち寄りパーティーを開催する事を先日、各空母娘に伝えました。今日は皆さんどのような料理を持ってくるのか、私もとても楽しみです。

 

今回私も一品だけ料理を作ろうと思うのですが、おそらく各空母達が腕によりをかけて料理を持ち込むはずです。ですから私は、クリスマスにはつきもののクリスマスケーキを作る事にします。クリスマスケーキと言いますと、定番の苺の乗ったデコレーションケーキや、ブッシュドノエルがありますが、今回は、古代ギリシャの頃から作られていたズッシリした濃厚さに定評があるチーズケーキを作ろうと思います。

 

まずは、バターを湯煎して溶かしたら、これをクラッカーと共にミキサーに入れて、少し粗めの粒に粉砕します。これを、予め溶かしバターを塗っておいた型に万遍なく敷き詰めて、チーズケーキの枠の部分を作ってしまいます。チーズケーキの滑らかさとこのクラッカーで作った枠の硬さが、一緒に食べた時にちょうど良い食感を生み出しますので、この部分は実は大切な作業なのです。

 

それではいよいよチーズケーキ本体の準備ですね。まずはクリームチーズを少し湯煎して柔らかくしたら、ここに砂糖を加えて泡立て器を使ってしっかり混ぜていきます。そこに更にサワークリーム、バニラエッセンス、卵、コンスターチを混ぜて、泡立て器でしっかりかき混ぜます。ここも十分に混ぜておかなくては美味しいチーズケーキになりませんので、手が抜けません。

 

後は生クリームを何度かに分けて、チーズケーキ本体の素に投入したらさらに混ぜて…このくらいで大丈夫でしょうか。それではダマになってしまっている部分を入れるわけには行きませんから、これを一度濾してから、クラッカーで作った枠の中に丁寧に流し込みます。これで大丈夫ですね。後はこれをオーブンで焼けば完成です。またこのケーキは一度冷やしてから食べますので、今のうちに焼き上げなくてはいけません。

 

180℃程度に設定したオーブンに、出来上がったケーキを入れて40分程焼く事で表面部分に焼き目をつけます。後は少し温度を下げてケーキ全体に万篇なく熱を入れるために更に30分程焼きます。

 

しばらく待っているだけですから、今のうちにこのチーズケーキ用のソースも作ってしまいましょうか。勿論、このチーズケーキだけでも程よい酸味と甘味がありますので、ソース無しでも十分に美味しいのですが、ここにダークチェリーのソースを入れる事でその美味しさを更に引き出すことが出来ます。一般的にはベリー系のソースが多いと思うのですが、今回は折角のクリスマスです。少し奮発してダークチェリーのソースを準備しましょう。

 

まずはダークチェリーの缶詰を汁毎鍋に入れて砂糖も一緒に混ぜておきます。そしてこのまましばらく灰汁を取り除きながら、弱火で熱をかけます。後は数分煮詰めてトロ味が出るまで待てば完成です。少しだけコーンスターチを入れて、トロ味を調整しておきましょうか。

 

今回は元々少し酸味のあるチーズケーキ用のソースですから、純粋に甘味さえ出れば良いですから、ダークチェリーと砂糖だけで作った甘めのソースにしましたが、レモンなどを入れて酸味を増やせば他のケーキのソースにも使えるので、このケーキソースは非常に便利なのです。…問題は、ダークチェリーが高いため、なかなか作る事が出来ないところですが、今日は特別です。

 

さて、そうこうしている間にケーキが焼きあがったようです。焼き色などから見れば丁度良い感じで火が入ったようですね。それでは、このまま少し放置して粗熱を取り除いたら、冷蔵庫に入れて十分に冷やします。後はクリスマスパーティーが始まる頃に取り出せば大丈夫ですね。今回は少し手間もかけましたから、空母娘達に喜んでもらえると良いのですが…。

 

 

「メリー・クリスマス!」

 

夕方頃、空母娘達が私のお店に自慢の手料理を持って集まってきました。軽空母達は、見た目が可愛い小料理やお菓子などが多いですね。特に瑞鳳さんが持ってきたプリンは、見た目も凄く可愛いです。それに、あの隼鷹が持ってきたリンゴのコンポート。おそらくラム酒がしっかり利いていると思いますが、とても良い香りが私のところまで漂ってきます。友人の龍驤が持ってきたのは…肉まんですか?

 

そして正規空母娘達が持ち込んだ料理、こちらは大物が多そうです。赤城さんのローストビーフを始めとして、飛龍さんの様々なテリーヌ、蒼龍さんのビーフシチュー、翔鶴さんの魚のパイ包に、雲龍さんの料理は洋風の野菜炒めですね。どれもとても美味しそうです。正規空母娘達が机の上に自分の料理を並べる度に、軽空母達からは『オ~ッ!』という歓声も上がっていますし、今日のクリスマスパーティーは楽しくなりそうですね。

 

「遅くなりました。赤城さん申し訳ないけど、机の中心部分を空けてくれるかしら。私の料理を置きたいので。」

 

これは大きな包ですね…。少し遅れて入ってきた加賀さんが、とても大きな丸皿が入っていると思われる風呂敷包を持ってきました。一体何を持ってきたのでしょうか。…まぁ、これは七面鳥の丸焼きですね。この大きさの七面鳥をよく手に入れたものです。クリスマスには定番の料理ですから、わざわざ見つけて料理したのでしょうね。表面に光沢があり、少し焦げ茶色になった綺麗な焼き色。とても美味しそうです。それに…あれはクランベリーソースですね。

 

どうしても肉質がパサッとした感じのある七面鳥は、油を上手に使ったり中の野菜を使って旨みを上手に出すわけですが、それプラス、クランベリーソースのような甘すっぱいソースを使う事で美味しく食べる事が出来ます。加賀さん頑張りましたね。とはいえ、五航戦の瑞鶴さんは、七面鳥の丸焼きはあまり好きではないようですから、この見事な料理を食べる事が出来ないのは、少し可哀想な気もします。あら?もう一つ少し小さめの包を加賀さんは持ってきていますが、あれは並べないのでしょうか?中には丸皿が入っているようですが…まさか…今日の残り物を持ち帰るためのお皿でしょうか?…困った娘です。

 

「お待たせ~翔鶴姉。瑞鶴も料理持ってきたから、置くの手伝って。あっ、そこの真ん中にある大皿どけてくれる?そこに置くから。その我が物顔で机を占領している鳥の丸焼きは、どこか端の方にどけてくれればいいよ!」

 

「五航戦…一番最後に登場とは、偉くなったものね。あなたの料理が最後なのだから、あなたの料理を端に置きなさい。無駄に大きなお皿を持ってきて…まったく困ったものね。」」

 

「イーだ!」

 

瑞鶴さんで最後ですね。瑞鶴さんは少し長めのお皿が入った風呂敷包を持参したようですね。最近、瑞鶴さんの料理の腕も上がっていますし、得意な料理をたくさん作って持ってきたようですね。入ってきて早々に、加賀さんとぶつかっているようですが、折角のクリスマスパーティーですから…。加賀さんのお皿を少しだけずらせば、瑞鶴さんのお皿も置けそうなので、少し配置を移動させましょう。

 

「瑞鶴さん、スペース開けたので、ここに置いてください。翔鶴さん、瑞鶴さんを手伝ってあげてください。それにしても…瑞鶴さん、大きな包ですね。一体何の料理を持ってきたのですか?」

 

「あっ、鳳翔さん。サ~ンキュ!たぶん洋食が今日は多いと思ったから、瑞鶴は少し落ち着くような食べ慣れた料理持ってきたよ。これこれ!」

 

瑞鶴さんの持ってきた長皿には、所狭しと焼き鳥を始めとした串物が乗っています。それを見た軽空母や一名を除いた正規空母娘達から『オ~ッ』という声が出ましたが、これだけの串物が並ぶと壮観ですね。串物は空母娘達は好きですから、丁度良かったかもしれません。しかし…加賀さんは憮然とした表情ですね。あの娘は、鳥関係の串は嫌いですし、内臓系の焼き物も駄目だと知っていますから、この瑞鶴さんの料理はお預けのようですね。とても残念です。あら?瑞鶴さんも加賀さんと同じように小皿の入っていそうな包を、もう一つ持参していますが、こちらは出さないのでしょうか。こちらも残り物を持ち帰るための皿なのでしょうね…赤城さんだけではなく、本当に困った娘達です。

 

さぁ、それでは料理やお酒も並びましたから、そろそろパーティーを始めましょうか。これだけのご馳走が並んでいて食べられないのでは、そのうち暴動が起こってしまいそうですから、早めに始めてしまいましょう。

 

「赤城さん?それではそろそろ始めようと思いますから、最初の乾杯をお願いしますね。」

 

「えっ?赤城がやるんですか?出来れば、鳳翔さんにお願いしたいのですが…」

 

「やっぱり、乾杯は鳳翔さんにお願いするのが筋かと…。私も赤城さんも、その方がありがたいです。」

 

あらあら。本来であれば、現在空母寮をまとめている一航戦の赤城さんか加賀さんが乾杯を行うべきですが、赤城さんも加賀さんも私にやらせる気満々のようですね。致し方ありません。

 

「分かりました。それでは私が乾杯の音頭をとらさせてもらいます。皆さん、今年は夏の大作戦を始めとして、色々と大変だったと思いますが、全員が無事にこの場に揃って私も本当に嬉しいです。それに新しく加入した娘達も増えて、ますます賑やかになりました。空母はこの鎮守府の要ですから、来年もこの調子で頑張ってあの人を助けてやってください。しかし今日くらいは、しっかり楽しみましょう。それではいいですか?乾杯!メリー・クリスマス!」

 

「かんぱ~い」

 

 

「なぁなぁ、鳳翔さん。あれ大丈夫か?そろそろ止めた方がいいと思うんやけど…。本当は赤城に止めさせればいいんやろうけど、赤城も自分の分を食べるのに精一杯のようやし…鳳翔さんが何とかした方がいいんとちゃうか?」

 

「はぁ…。まさかこんな事になるとは思いませんでしたよ、龍驤。まぁ、お互いに本当に喧嘩をしている訳ではありませんから、放っておきましょう。それより、今の内に私が作ったケーキを出しますから、あの二人を除いて皆で食べてしまいましょう。それで丁度良いお仕置きになるかと…。」

 

「せやな。ほな、それでいこか。それに、あの二人がケーキを食べんとなると、ウチ等の分け前も増えるしな。」

 

まったく…。パーティーが始まってしばらくは平穏だったのですが、やはりと言いますか、加賀さんと瑞鶴さんがぶつかったようです。しかもお互いに、自分が作ってきた料理を盛ったお皿を片手に牽制しあっているようですね。

 

「五航戦…この私が心を込めて作った料理、勿論食べるわよね?今回は貴方のためにわざわざ七面鳥まで手に入れたてあげたのです。食べないという選択肢はありえないわ。」

 

「あ~、加賀先輩、とっても残念です。瑞鶴も加賀先輩が作ってくれた料理本当に食べたいんだけど、そのクランベリーソースだけは苦手なんだよね~っ…それが無ければ喜んで食べるんだけど、本当~っに残念!」

 

「フッ、貴方の事だから、そう言うと思って、山葵醤油も準備してきてあげたわ。これで問題ないわね?さぁ、食べなさい。」

 

「ウッ…」

 

加賀さんも、わざわざ瑞鶴さんが嫌いな料理を直接勧めるのは、どうかと思います。それに瑞鶴さんも下手な嘘をついたために、結局は追い込まれていますね。それにしても、瑞鶴さんがそう言ってくる事を予想して先手を打っていた加賀さん、普段から瑞鶴さんの事をよく見ているからこそ出来る作戦ですね。まぁ、喧嘩をする程仲が良いとも言いますし、この二人は好きにさせて置いた方が…あらっ?瑞鶴さんも負けじと反撃していますね。

 

「加賀先輩?瑞鶴も、先輩のために心を込めて焼き鳥を焼いてきたから、是非食べてよね!こんな可愛い後輩が心を込めて作ったんだから、勿論先輩として食べてくれるよね!?」

 

「可愛い後輩?何を言っているの?…それに、私は鶏肉を串に刺して焼いた物は好きでないの。残念ね。」

 

「フッ…先輩がそう言うと思って、今回はホルモンや内臓系の串も用意したよ!これなら鶏肉の串ではないから、大丈夫だよね?さぁ、食べてね。」

 

「チッ…」

 

こちらも負けていませんね。瑞鶴さんも、加賀さんの言い訳を読み切って準備していたという事ですか。あらあら、お互いに相手の口に自分の料理を捩じ込もうとして奮戦していますね…本人達は喧嘩をしている気かもしれませんが、傍から見ればじゃれ合っているようにしか見えません。それではあの二人がじゃれ合っている間に、残りの空母娘だけでケーキを食べてしまいましょうか。

 

「皆さん、今日は私もケーキを作りましたから、良かったら食べてください。あ~、赤城さん?あの二人は放っておいていいですから、ここに居る人数分だけで切り分けていいですよ。」

 

「はいっ!鳳翔さん。ここに居る人数分だけでケーキ切りますね。二人分減りますから、一人辺りの大きさが少し大きくなりますねっ。それにしても…美味しそうなケーキです。」

 

 

 

赤城

 

 

加賀さんには申し訳ありませんが、赤城は少しでもたくさんお母さんのケーキが食べたいので、言われた通りに切り分けます。側面部分がクッキーの粉のような物で固められた美味しそうなチーズケーキ。それにお母さんがソースとして出してくれたダークチェリーの塊がゴロゴロ入っている美味しそうなソース。もう我慢出来ません。

 

以前、お母さんが空母寮に居た頃もクリスマスになるとこのケーキを焼いてもらった事を思い出しますが、このズシッとした重さのある濃厚なチーズケーキ。普通のお店で出るようなフワッとしたチーズケーキとは全く違います。最近このタイプのチーズケーキを食べていませんでしたが、本当に楽しみです。加賀さんが瑞鶴を構っている間に食べてしましましょう。

 

フォークでケーキを切り分けるだけでも、普通のチーズケーキと違って中身がズッシリ入っているので力が要ります。それでは一口分を切り分けて、まずはソースなしで食べてみないと。一航戦赤城、行きます!

 

表面の少し茶色になった部分からフォークを入れると、中は真っ白なチーズケーキ。そして後ろ側面と底面の堅いクラッカーの層。やはり一口でいかなければ!ハァ…。ネットリとした少し酸味のあるチーズたっぷりの生地、この酸味に隠れた濃厚な甘さがたまりません。そしてクラッカーの層の硬さが歯応えに変化をもたらします。このチーズの層の弱い酸味が赤城の食欲を刺激して、胃袋は更なるチーズケーキを要求していますが、ここはグッと我慢しなければ。やはりダークチェリーのソースをつけて完璧な味を味わわなければなりません。

 

白いチーズの層に、暗褐色に輝くダークチェリーソースの色合いが映えます。そして少しだけ崩れたダークチェリーの実を乗せて、一航戦赤城、再び行きます!ウンッ!最高です。何もつけないチーズケーキも良かったですが、やはりソースの甘さが入ると、このチーズケーキを更に完璧な味に近づけます。先程のチーズの甘さとは異なる、チェリーのスッキリした甘さと、ほんのりとした酸味。そしてダークチェリーの実をケーキと一緒に食べた時に広がる、ケーキの甘さや酸味とチェリーの少し異なる甘さや酸味が混じった複雑な美味しさ。これこそが、お母さんのチーズケーキです。。

 

他の空母達も、無言でケーキをかき込んでいますね。そんな様子を見てお母さんも嬉しそうに自分のケーキを食べています。加賀さんも食べられれば良かったのですけど…また一年間お預けね。

 

 

 

鳳翔

 

 

喧騒が支配していた私のお店に一瞬の静寂が戻りました。誰もがそうだと思いますが、本当に美味しい物を食べている時は静かになるものです。…いえ、完全な静寂ではないですね。加賀さんと瑞鶴さんの言い合いは続いているようですから。あの二人、周りの様子の変化にいつ気が付くのでしょうか。私も自分で作ったケーキを食べてみましたが、今年も上手に出来たようでホッとしています。

 

「なぁなぁ、鳳翔さん。ほんまにこのケーキは美味いわ。こんな事なら、クリスマスに限らずもっと作って欲しいもんやな」

 

龍驤の言い分は分かりますが、流石にこのケーキを普段から作るのは私も大変なので、クリスマスだけのお楽しみという事にしておいてください。さて、それではみんなケーキを食べ終わったみたいですから、とりあえずあの二人の頭にゲンコツを落として、あのじゃれ合いを止めましょうか。

 

「二人共、いい加減にしなさい!後輩や軽空母も居るのです、みっともないですよ!ゴチン!ゴチン!」

 

私のゲンコツで少し涙目になっていますが、ようやく周りの様子に気づいたようですね。特に二航戦を始めとして正規空母達が微笑ましそうに見ている様子に、流石に二人共恥ずかしいと感じたのか、顔を赤くしています。

 

「貴方達、あれだけ騒いだのですから、罰として今回はケーキ抜きです。もうケーキは全部食べて無くなりましたよ!」

 

「えっ、あのケーキがない?本当なの、赤城さん?(ハイッ、おかげで赤城たくさん食べられました!)。…そ…そんな。まだお腹空いているのに、料理の方もほとんど無くなっているわ。」

 

「翔鶴姉!ケーキないの?なんで教えてくれなかったのよ(だって、瑞鶴は加賀さんと楽しそうにしていたから…)。あ~っ、料理もほとんどないじゃん。瑞鶴、まだお腹空いているんだけど!」

 

そういえば、料理の方もほとんど無くなっていますね。あれだけあった料理があっという間に消えたわけですから、流石は空母娘達と言った所でしょうか。という事は、残っている料理は加賀さんと瑞鶴さんがお互いに持っている皿の上だけという事ですか。あの二人どうするのでしょうかね。まさか自分で作った料理を自分で食べるというのも、味気ないと思うのですが。あらっ?加賀さんが残していた小さな包を持ってきましたね。

 

「はぁ…本当はもう少し後で出す予定でしたが、仕方ありません。ほらっ、そこの生意気な五航戦。これを食べなさい。まったく、あなたのせいで私まで大変な目にあったわ。」

 

「え~、また私への嫌がらせの料理~?って、これチキンレッグじゃん。なんで加賀先輩、こんなの持っているのよ。」

 

成程、大方瑞鶴さんに一通り意地悪した後に出す予定で、別口でチキンレッグも焼いて持ってきていたのですね。加賀さんはそっぽを向いて、瑞鶴さんにチキンレッグの乗った皿を渡していますが、瑞鶴さんは嬉しそうですね。それに…瑞鶴さんももう一つ皿を持ってきていたと思いますが、あぁ、やっぱりそうですね。

 

「ま…まぁ、瑞鶴だって一応これ用意してきているんだけど。牛肉なら加賀先輩も大丈夫だったよね?はぃ、これ…。」

 

「牛串ですか…。これなら私も食べられます。全く、貴方は素直でないわね。」

 

瑞鶴さんも、ちゃんと加賀さん用に違う料理の準備はしていたという事ですか。本当にお互いに素直でありませんね。周りで見ている他の空母娘達も、ニヤニヤしながらこの様子を見ていますが、私も自然に微笑んでしまうような光景です。今日のクリスマスパーティー、途中でトラブルもありましたが、結果的には空母同士の結束も強くなったようですし、開催して本当に良かったと思います。今日も鎮守府は平和です。




この年齢になると、あまりクリスマス関係ないのですが、一応家内がクリスマスらしい料理を作ってくれます。七面鳥の丸焼き、これはある意味クリスマスの定番なのですが、日本で食べようと思うと結構値段かかりますよね…。しかも、この作中の瑞鶴の言葉ではありませんが、個人的にはパサパサした食感の肉なので、中身の詰め物や油を上手に塗っていないと、あまり美味しい物ではないな…と思います。個人的には、普通のチキンレッグの方が美味しいのではないかとw。また、クランベリーソース。これも定番のソースですが、これよりは山葵醤油の方が美味いわ、と私は思いますが、皆さんはいかがでしょうか?

鳳翔さんが作った今回のチーズケーキ。巷ではニューヨークチーズケーキと呼ぶようですが、これは我が家のクリスマスの定番のケーキだったりします。通常のスフレタイプや、レアチーズケーキとはかなり異なり、重量感もありますしボリュームが凄くありますが、このチーズケーキは絶品。ダークチェリーのソースとの相性もバッチリですが、物凄く太るタイプのケーキのため、扱いには注意が必要ですw。またダークチェリーソースについて、今回はどちらかというと甘味を増強させるためのソースとしてこの作り方を紹介しましたが、酸味も増やしたい人は、レモン汁などを入れて作ると酸味も際立つソースになるかと思います。

加賀と瑞鶴、物凄く仲が良いと思うのですが、お互いに相手に対して素直になれないため、結果的に今回はケーキを食べ損なう事になりました。おそらくこのパーティーが終わった後で、お互いに『あなたのせいでケーキが食べられなかったわ。どう責任をとってくれるの?』『加賀先輩のせいで瑞鶴までケーキ食べられなかったじゃない!今度、この代わりに何処かで奢ってよね!』などと言い合いになると思いますがw、お互いの姉妹艦に『いい加減にしなさい』と怒られる所までが、様式美ですよねw。

さて、私が好き勝手書いている『鎮守府の片隅で』も、知らない間に読者の数が増えまして作者としては本当に感謝しております。おそらく今年中には、あと一話か二話しか投稿出来ないと思いますし、どこまで続けられるか分かりませんが、是非楽しんでいただけたらと思っております。

今回も読んでいただきありがとうございました。



ニューヨークチーズケーキ

底と側面の部分
クラッカー(少し甘い物) :ビスケットタイプで35枚程(底と側面を覆えるだけ)
バター          :60 g程度


ケーキ本体 (Φ20cmくらいの大きさになるかと)
クリームチーズ  : 350 g
砂糖       : 150 g
バニラエッセンス : 数滴
サワークリーム  : 300 mL
卵        : 4個
コーンスターチ  : 15 g
生クリーム    : 260 mL


ダークチェリーのソース
ダークチェリーの缶詰 :1つ (500 g程度?)
砂糖         :50 g

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