鎮守府の片隅で   作:ariel

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一応、初霜の野望編の第一章はこれで完結です。本当は鳳翔さんのお店で料理の記述もする予定だったのですが、これをやると長くなりすぎ前編・中編・後編になってしまいそうだったので、泣く泣くカット。やっぱりお気に入りの艦を出すと駄目ですね…。


外伝6 初霜の野望1 (後編)

小料理屋 鳳翔

 

 

利根さんがくれた虎屋の羊羹と、金剛さんが授けてくれた知恵を頭に入れて、初霜再出撃です。最終目的は大和さんの持っている高級ケーキとの交換だけど、いきなり大和さんのところに行っても交換はしてもらえないから、間にワンクッション挟まなければいけないのね。やっぱり、金剛さんの悪知恵には勝てないわ。という事で、大和さんに気持ちよくケーキを渡してもらうためにも、鳳翔さんのお店に行かないと…。

 

「鳳翔さん、こんにちは。初霜です。今、少しだけいいですか?」

 

「あら、初霜ちゃん。こんな時間にどうしたのですか?」

 

金剛さんから授けてもらった作戦成功の鍵は、この鳳翔さんとの交渉次第だから頑張らないと。空母のお姉さん達の話では、鳳翔さんは怒らせなければ凄く優しい人だという話だし、ありがたい事に初霜の事を良い子と見てくれている人だから、作戦成功の確率は高いと思うわ。まずは、虎屋の羊羹を出して…。

 

「あの…今日利根さんから羊羹を頂いたのですが、鳳翔さんにはいつも美味しい御飯を食べさせて貰っているので、鳳翔さんに食べてもらおうと思って持ってきました。良かったら、食べてください。」

 

そう…ここは、虎屋の羊羹について知らない振りをして、普通に渡すところがポイントね。たぶん鳳翔さんの性格なら、『こんな高級羊羹は受け取れないから、お友達と食べなさい』と言ってくる筈。そうしたら、わざと驚いた振りをして…。

 

「これは…虎屋の羊羹ではないですか!初霜ちゃん?これは凄く高級で美味しい羊羹ですよ。流石にこのような高価な物を初霜ちゃんからいただくのは…。お友達と一緒に食べた方がいいですよ?」

 

予想が当たったわ。でも初霜は、もうこれと同じ羊羹を重巡洋艦のお友達と一緒に食べているから、この一本を全部鳳翔さんに渡しても問題ないのよ。さぁ、まずは驚いた振りをして…。

 

「えっ!この羊羹、そんなに高い羊羹なのですか?利根さんから頂いた羊羹なのですが、鳳翔さんは羊羹が好きだと聞いていたので、いつものお礼に持ってきたのですが…どうしましょう。利根さんに悪い事をしてしまったわ。」

 

「あの利根さんがわざわざこのような高価な物を渡すなんて珍しい事もありますね、初霜ちゃんは、利根さんに余程気に入られているのだと思いますよ。」

 

「えっ…私のようなしがない駆逐艦を気に入ってもらえるなんて、とっても嬉しいわ。あっ、そうだわ。鳳翔さん、やっぱりこの羊羹は受け取ってもらえませんか?流石にこれ程高価な羊羹を食べるのは、初霜にはもったいないですから…。その…その代わり、一つだけ初霜のお願いを聞いてもらえませんか?」

 

「初霜ちゃんのお願いですか?なんですか?」

 

やったわ。まずは作戦の第一段階は成功ね。私が高級羊羹だという事を認識した上で、鳳翔さんにその羊羹を献上して、その代わりにお願いを叶えてもらう。しかもそのお願いが、良い子の初霜らしい可愛いお願いなら…鳳翔さんは絶対にNoとは言えない筈。

 

「あの…初霜はいつも大和さんに、鳳翔さんのお店で夕御飯を食べさせて貰っています。ですから、一度…一度でいいですから、大和さんに初霜がご馳走したいと思って…。その…初霜のお小遣いではとてもそんな事は出来ないですから、この羊羹と引き換えに、何か料理を一品、大和さんに食べさせられないですか?」

 

あら?鳳翔さんが口を開けて驚いているわ。この虎屋の栗蒸し羊羹と引換なら、鳳翔さんの料理屋でも一品くらいなら問題ないと思うのだけれど…やっぱり駄目かしら。エッ…鳳翔さんに急に抱きしめられたわ。何が起こっているのかしら。たぶん、怒られるという事はないと思うのだけれど…。

 

「初霜ちゃんは、本当に良い子ね。あの大和さんにご馳走するなんて、普通はありえない事だから、初霜ちゃんからご馳走されたら、大和さんも大喜びすると思いますよ。それに…折角利根さんから貰った高級羊羹を使って、そんな可愛らしいお願いをするなんて…。美味しい物があれば、直ぐに独り占めする事しか考えない娘達ばかりの私からすると、本当に心が洗われる思いです。わかりました、それでは今日大和さんが来たら、初霜ちゃんからのご馳走という事で、何か美味しい料理を出しますね。後は私に任せてください。」

 

作戦成功よ!金剛さんの話では、連合艦隊の旗艦まで勤めた大金持ちの大和さんは、人にご馳走することはあっても、奢ってもらった事はないみたいだから、ご馳走される事には慣れていないわ。まして、初霜のような可愛い駆逐艦にご馳走されるなんて考えてもいないだろうから、その衝撃はとても大きい筈。たぶんこの事に感激して、大切な高級ケーキをお礼にくれるだろう…との事だけど、ここまでは金剛さんの計算通りね。鳳翔さんの全面的な協力も得られるというのは、計算違いだけど…これは、初霜の日頃の行いのおかげだと思うわ。さぁ、『海老で鯛を釣る作戦』開始よ。

 

 

 

 

鳳翔

 

 

「こんばんは、鳳翔さん。今日も夕食を二人分お願いね。初霜、あなたも一緒にどうぞ。」

 

「大和さん、いつもありがとうございます。今日もごちそうさまです。」

 

大和さんが来店しましたね。そして今日も、初霜ちゃんを連れてきています。それにしてもこの二人、本当に仲が良さそうです。また、おそらく今日のサプライズで、大和さんはますます初霜ちゃんを可愛がる事になると思います。それに…私もあの大和さんが驚く姿を見てみたいですし、とても楽しみです。それでは、まずはいつもどおりに料理をお出しして…。

 

 

「あら?鳳翔さん。この料理は頼んでいないと思いますけど…間違っていませんか?」

 

「いいえ大和さん、間違っていませんよ。それは…初霜ちゃんが、大和さんにご馳走するために注文した料理です。」

 

「あ~、そうですか。初霜が私にごちそ…えっ?」

 

…今日は、本当に珍しい物が見られました。大和さんが、箸を持ったまま、まるで時間が停止したように固まっています。こんな大和さんが見られただけでも、初霜ちゃんには感謝ですね。私がお出しした料理、それほど高価な食材を使っているわけではありませんが、見た目が綺麗な冬の料理を出してみました。大和さんも、まさか自分がこんな綺麗な料理を奢ってもらう…なんて考えてもいなかったでしょうね。大和さんの隣の初霜ちゃんは、とても嬉しそうに微笑んでいます。そして…今回の事件に対する周りの他の艦娘達の衝撃も大きかったようですね。周りがざわめいています。

 

「あらあら大和、固まっているようだけど大丈夫?あなた、これまで奢ってもらった事なんてなかったんじゃない?私や長門もそうだけど…奢ってもらうなんて考えた事もないから、驚いたみたいね。それにしても、羨ましいわ。」

 

「大和!駆逐艦に奢ってもらうなんて、ずるいぞ。その席を私と代われ!私だって、同じ連合艦隊の旗艦だったのに…なんで大和だけ…ブツブツ」

 

約一名、第一戦隊の戦艦娘が僻んでいますが、概ね大和さんに対して羨ましい…というのが周りの艦娘達の感想のようです。衝撃から復帰した大和さんも、凄く嬉しそうに出された料理を食べていますし、初霜ちゃんの頭を撫でていますね。

 

 

 

初霜

 

 

ウフフフ、大和さんが凄く嬉しそうに、初霜が注文した料理を食べているわ。それにしても…鳳翔さんの協力があったから、こんなに綺麗な料理を出してもらえて、初霜も嬉しいわ。大和さんは聞こえていないのかもしれないけど、周りの戦艦や空母のお姉さん達は『伊勢、私達も駆逐艦の世話をしてみるか。』とか『とりあえず、私と面識がある潮の面倒でも見てみましょうか。こういう事が私にも起これば、気分が高揚しそうです。』なんて声も聞こえてくるし、思ったよりも効果があったようだわ。

 

「初霜、大和に奢るとはなかなか剛毅じゃな。あの秘書艦の金剛のような者なら、違う意味でやりそうじゃが、初霜のような心優しい駆逐艦がこういう事をするとは、吾輩感動したぞ。」

 

ギクッ!利根さん…鋭いわ。もし、これが金剛さんからの入れ知恵だという事がバレたら、今鳳翔さんのお店に漂っている感動は、全てぶち壊しになりそうね…。同じ事をしていても、やる人によって評価が変わる…やっぱり、初霜は良い子のイメージを大切にしないといけないわ。間違っても、金剛さんのような評価になってしまったら…初霜の商売は全て台無しよ。…そうだわ!折角利根さんが金剛さんの名前を出したから、この機会に金剛さんについて、戦艦のお姉さん達や、鳳翔さんに聞いてみようかしら。ひょっとしたら、今の関係を打破するための情報が手に入るかも…。

 

「あの…鳳翔さん?金剛さんは、そんなに酷い人なのですか?初霜達のような駆逐艦は、あまりよく分からないのですが…。」

 

まずは、あまり金剛さんの事を知らない振りをして、純粋に興味本位で聞いているように、軽く聞かないと駄目ね。なるべくさり気なく、金剛さんの情報を集めないと。

 

「金剛さんですか…。まぁ、色々言う人はいますし、私もあの人を巡ってライバル関係だった過去がありますが、とても優秀な人ですよ。実際に現在この鎮守府が、大作戦に参加しても困らないだけの資源を溜め込めたのは、全て金剛さんの力ですから。悔しいですけど、私が秘書艦をしていた時に比べて、この鎮守府は豊かになりましたしね。」

 

「そういえば、そうだったな。鳳翔さんが秘書艦をしていた時は、鎮守府全体が和気あいあいとしていて、鳳翔さんが乏しい資源を色々とやりくりしていた感じだったが…。あの金剛が秘書艦になってからは、我々戦艦部隊もあまり資源を気にせずに出撃が出来るようになったからな…。あっ、別に鳳翔さんが駄目だったと言っている訳ではないんだ。雰囲気は、あの頃のノンビリしていた感じが、私は好きだったからな。」

 

「そうね、長門。雰囲気は昔の方が良かったわね。まぁ資源については、金剛は手を変え品を変え、大本営からかなり強引に調達しているようだし、潜水艦達はかなり酷使されているみたいだから、潜水艦達からの評価は低いようだけど。それでも、これだけの資源を鎮守府に引っ張ってきた功績は無視出来ないわね。」

 

初霜は鳳翔さんが秘書艦をしていた時代を知らないから、比較は出来ないけど…やっぱり、誰に聞いても金剛さんは優秀という評価なのね。鳳翔さんだけでなく、長門さんや陸奥さん達も同じ評価をしているという事は、性格はどうであれ能力については信頼されているという事だわ。これは今の関係を逆転するのは難しそうね。でも…何処かで聞いたのだけど、鎮守府の資源を私的に流用しているという話もあったわ。これについてはどうなのかしら。

 

「あの…初霜達駆逐艦の間では、金剛さんは鎮守府の資源を勝手に自分用に使っているという話もあったのですけど…これも本当なのですか?」

 

「あら?初霜達の方まで、そんな話が流れていたのね。もうちょっと自重しろと伝えたほうが良さそうね。初霜が相手だから言いますけど、私的流用は本当です。ただ…それは金剛が自分で大本営から調達してきた資源から一部分を流用しているので、鎮守府には本来無い筈の資源からの流用…。ですから、提督もあの程度の流用は黙認しているようね。」

 

「まぁ、加賀さんも時々ボーキサイトを金剛さんから貰っているから、あまり非難出来ないですよね。それに赤城も時々貰っていますし…。」

 

「あまり褒められる事ではないのですが、実際にそれ以上にこの鎮守府に資源を入れている訳ですから…あの人も、見て見ない振りをしているようですね。初霜ちゃん、だからこの事については、あまり駆逐艦寮で大きな噂にならないように気をつけてもらえるとありがたいのです。」

 

…鳳翔さんも含めて、空母のお姉さん達も皆知っていたのね。たしかに、流用分以上に鎮守府に資源を入れている以上、金剛さんにそれを止めさせるよりは、今までと同じように大本営から資源調達してもらった方が、鎮守府全体としての利益になるという事ね。初霜が提督の立場でも、間違いなくそうするわ。となると…この事で金剛さんとの関係を見直させる事も無理。やっぱり、金剛さんを相手にするのは、初霜には難しいわ。まぁ、この事はおいおい考えるとして…とりあえず当面の目的を果たさないと。

 

「あの…大和さん、美味しかったですか?私では、この一品をご馳走するのが精一杯なので、喜んでもらえたら嬉しいです。それと、いつも初霜にご馳走してくれて、本当にありがとうございます。」

 

そう。感謝の言葉は、どれだけ出しても只。こうやって、感謝している事を絶えずアピールする事も大切なの。食べ終わった大和さんは、ニコニコして初霜の頭を撫でてくれているし、後は大和さんからお返しにアレを貰えれば…。

 

「初霜、本当に今日はありがとう。私も今日は本当に驚いたけど…凄く嬉しかったわ。あっ、そうだわ。ちょっとお礼がしたいから、帰りに私のお部屋に寄って頂戴。」

 

ヨシッ!来たわ。わざわざお部屋に寄っていけ、という事は、お部屋に置いてあるケーキをくれる可能性が凄く高いわ。もう一頑張りよ!

 

 

 

戦艦寮 大和の部屋

 

 

いつ来ても、凄いお部屋だわ。駆逐艦寮の私の部屋とは比べ物にならない程、豪華でまさにお金持ちのお部屋!って感じね。あんな天蓋付きのベッドで、初霜も寝てみたいな。大和さんは、部屋に入ると冷蔵庫から箱を一つ取り出したわ。悔しいけど、ここも金剛さんの予想通りの展開になりそう。やっぱり、大和さんは私のような駆逐艦に奢ってもらった事が凄くうれしくて、本来なら初霜では絶対に手が届かないような高級ケーキをお礼にくれるんだわ。でも、ここからの対応は慎重にしないと…私は無欲で優しい初霜…そう、私は無欲で優しい初霜よ…自分で自分に言い聞かせておかないと、ここでボロが出てしまったら元も子もないわ。

 

「初霜、今日は本当にありがとう。久しぶりに私も本当に嬉しかったわ。そのお礼という訳ではないけど…良かったらこのケーキ持って行きなさい。」

 

ウフフフ…フフフフ…ア~ッハハハハ…ギュッ…拙いわ。笑いが…笑いが込み上げてくるわ…膝を抓って…私は無欲な初霜…私は無欲な初霜…私は…。

 

「初霜?大丈夫?たぶん、驚いているようだけど、本当に気にしなくてもいいのよ?このケーキ…とっても美味しいから、駆逐艦寮で友達と一緒に食べてください。」

 

「はっ、はい!大和さん。本当にありがとうございます。初霜、このケーキ大切に皆で食べます。」

 

半分は金剛さんに取り上げられるとしても…あと半分残るから…。同部屋の初春ちゃんに少し分けたら…残りは全部…ウフフフ。ついに初霜の時代が来たんだわ。後はこれを駆逐艦寮に持って帰るだけ…途中で金剛さんに会わなければ万々歳だけど、流石にそこまでの幸運は初霜の運では期待出来ないから…半分は覚悟するしかないわね。

 

 

 

駆逐艦寮 入り口

 

 

あら?同部屋の初春ちゃんが、駆逐艦寮の前に居るわ?どうしたのかしら。周りをキョロキョロ見回しているけど…何かあったのかしら。

 

「初春ちゃん、どうし…」

 

「初霜、何かあったのかや?あの秘書艦の金剛さんが急にわらわ達の部屋に押しかけてきて、居座って居るのじゃ。理由を聞いても『初霜を待っているネ』と言うだけで…わらわは心配なのじゃ。初霜?なんぞやらかしたのかや?なんなら、わらわがこれからひとっ走りして、提督か鳳翔さんを呼んでくるが。」

 

…流石は金剛さん。確実に初霜からケーキを取り上げられるように、わざわざ初霜の部屋で待っていたのね。やっぱり抜け目がないわ。でもここで初春ちゃんに騒がせて、提督や鳳翔さんに知らせるのは逆効果だわ。開き直った金剛さんが何をするか分からないし…ここは、大人しく半分渡した方が良さそうね。

 

「初春ちゃん、大丈夫よ。ちょっと金剛さんに相談していた事があったから、それでわざわざ私の所に来てくれただけだと思うわ。だから、全然問題ないの。ただ…ちょっと相談内容は秘密にしておきたいから、少しの間だけ席を外してもらえないかしら…。よかったら、初雪ちゃんの看病をしていてもらえると、うれしいわ。」

 

「そ…そうなのかや?なんじゃ、わらわの勘違いであったか。まぁ、こんなやさしい初霜が、何かをするなどありえない事じゃな。秘密は気にはなるが、とりあえず分かったのじゃ。わらわは、初雪の看病でもしてくる。」

 

良かったわ。とりあえず初春ちゃんは納得してくれたみたい。さぁ、いよいよ初霜の最後の戦いよ。見てなさい。

 

 

 

初霜と初春の部屋

 

 

「初霜、待っていたネ。なかなか帰ってこないから、心配したデ~ス。ん?Oh…美味しそうな匂いがする箱を持って帰ってきたネ。早く、見せるデ~ス。」

 

「…金剛さん、あれだけ私の部屋に押しかけるのは、止めて欲しいと言ったじゃないですか。同部屋の初春ちゃんが、おびえていたわ。大人しく半分渡すから、早く帰ってちょうだい。」

 

そう…まずは、少しでも優位な立場に立つためにも、初春ちゃんをだしに使って、強気に出ないと。それに、あの金剛さんがやってきた事は、直に駆逐艦寮中に話が広がってしまうわ。金剛さんがわざわざ初霜に会うために部屋まで来たなんていう噂が広がったら、間違いなく私のイメージダウンだから、早く帰ってもらって、なんとか被害を最小限に食い止めないと。

 

「半分?初霜、何言っているネ。今回はそれにコンサルタント料が入るから、七剛三霜デ~ス。実際に私の助言がなければ、初霜はこのケーキが手に入らなかったネ。コンサルタント料を徴収しても、バチは当たらないネ。」

 

ひ…酷いわ。半分では飽き足らず、七割も持っていくなんて、信じられないわ。でも…こんな不条理な要求は絶対に呑めないわ。ここは…初霜の必殺嘘泣きで、少しでも同情をひかないと…。

 

「グ…ウグッ…ひっ…酷いわ、金剛さん。折角初霜が頑張って大和さんからケーキを手に入れてきたのに…七割も持っていくなんて、あんまりだわ。」

 

さぁ、いくら金剛さんでも、初霜のような可愛い駆逐艦を泣かせたら、良心の呵責が…あれっ?何、ニヤニヤ笑っているの。そこは、少し申し訳なさそうな顔をするところでしょう!?

 

「初霜、嘘泣きのプロの私に、そんな猿芝居が通じると思うなんて十年早いネ。どうせ嘘泣きするなら、涙の一つでも流してみせるデ~ス。まだまだ甘いネ。次は、どんな猿芝居を見せてくれるネ?」

 

チッ…金剛さんの方が一枚上手だわ。考えてみれば、提督の傍にいつも控えている金剛さんが、嘘泣きの一つも出来ないとは考えられないわ。…でも待って、初霜の嘘泣きは金剛さんには通用しなくても、提督や鳳翔さんになら…。初霜が大泣きする真似をしてみせれば、金剛さんと初霜のどちらを信用してくれるか…自明の理だわ。これよ!

 

「やっぱり、金剛さんには通じないですか。ですが、提督や鳳翔さんなら、どうでしょうか?提督や鳳翔さんの前で『秘書艦の金剛さんにおやつを取り上げられたわ!』と大泣きしてみせたら…金剛さんだって、困るのではないかしら。五剛五霜は譲れないわ。」

 

…金剛さんが舌打ちして、眉間に皺を寄せて考え始めたわ。そう…鳳翔さんの話では、金剛さんは少なくとも提督には良い顔をしていたい筈だから、提督からのポイントが確実に下がる事は避ける筈。とりあえず、金剛さんにボールは投げ返せたみたいだから、少し様子を見てみないと…ウフフフ。第二水雷戦隊最後の旗艦を勤めた初霜を甘くみないで欲しいわ。

 

「…初霜…いい顔をしているネ。やっぱり私達は似た者同士、ベストフレンドネ。今回は私の完敗ネ。仕方ないから、初霜の弟子入りを認めてあげるデ~ス。これからは、私の元に報告に来た艦娘全員に、『初霜は私の弟子だから、苛めたら駄目ネ。初霜にはやさしくするデ~ス』と言ってあげるネ。初霜、良かったネ。」

 

じょ…冗談じゃないわ。金剛さんに弟子入りしたなんて言いふらされたら、私の商売あがったりよ。折角作り上げた大和さんとの関係も悪化してしまうし、鳳翔さんからの目も厳しくなるわ。自分の悪名まで利用してくるなんて…どこまで悪辣なの?やっぱり七割取られるのかしら…くやしいわ。こうなったら、ケーキを水平に7:3の高さで切り分けて、上のデコレーションの部分だけでも独り占めしようかしら。金剛さんはどの部分を七割とまでは指定していないから、この切り方でも…。

 

…ちょっと待って。今回私、傍目からは何も悪い事をしていない筈だわ。全員、同意した上で交換しているし、最後の大和さんも向こうからケーキをくれた訳だから…。という事は、私今回は金剛さんに一割も渡す必要がない筈だわ。

 

「金剛さん、考えてみたら、今回初霜は何も悪い事をしていないわ。だから、金剛さんに何を言われても平気な筈よ。今日はこのまま帰ってもらえないかしら。」

 

やったわ!完全勝利よ。金剛さんに今回の事で何か言われても、少なくとも今回の件については、初霜に非は全くないわ。え?金剛さん何ニヤニヤしているの?そこは焦るところでしょ?

 

「初霜、本当にいい顔しているネ。ますます気に入ったネ。どうやら初霜は私との関係が良くなる事のメリットを理解していないデ~ス。もう少し考えてみるネ。とりあえず今日は初霜の抵抗に免じて、六剛四霜で手を打つネ。」

 

金剛さんとの関係が良くなる事でのメリット?そんな物があるとは思えないけど…。でも、性格はともかく誰もが有能と認める金剛さんが、この後に及んでも六剛四霜を主張しているという事は、何かあるはずだわ。でも一体何が…。

 

「初霜。初霜は月に何枚、間宮さんの所のおやつ券が支給されているネ?」

 

「えっ?間宮さんのおやつ券は…一月に15枚支給されているわ。でもそれが金剛さんとの友好に何か関係があるのかしら?」

 

「初霜?その15枚はどうやって決まっているネ?」

 

「それは提督との約束よ。私が鎮守府に赴任してきた時に、提督が初霜のような駆逐艦の子達に『毎月、間宮さんの所のおやつ券を15枚支給する』と約束して、契約まで結んでくれたわ。」

 

あれ?ちょっと待って。その提督とのお約束は、一体誰が作ったのかしら。考えてみれば、巡洋艦のお姉さん達は、一月に20枚支給されているし、戦艦のお姉さん達に居たっては…まさか!

 

「Oh…初霜も気付いたようネ。そう、そのお約束は秘書艦の私が決めたネ。という事は、私との友好関係によっては…契約が変わる可能性も出てくる訳デ~ス。あのおやつ券は、私の裁量の範囲で支給しているネ。初霜?例えば…私に信頼されて、私と一緒に秘書艦の手伝いをしたとして…急に一月に支給されるおやつ券が、30枚になったらどうするネ?」

 

ここは、金剛さんとの友好関係を大事にすべきね。秘書艦の手伝いをさせられるという事は、初霜をこき使う気満々のようだけど、それ以上に美味しい蜜が吸えそうだわ。大和さんとの友好関係は勿論維持しないといけないけど、金剛さんとも良好な関係を築くのは大事な事ね。そうと決まれば。

 

「分かりました、金剛さん。今回は六剛四霜を受け入れます。それと…秘書艦の手伝いの件ですが…。」

 

「分かっているネ、初霜。魚心あれば水心。万事私に任せておくデ~ス。それにしても初霜…あなたも悪ネ…フフフフ」

 

「何言っているですか、金剛さんにはとても適いません…ウフフフ」

 

折角の高級ケーキは六割取られちゃったけど、それ以上の物が手に入りそうだし…秘書艦を手伝ってみるのも面白そうだわ。後は、鳳翔さんや大和さん、それに訓練教官の矢矧さん達への言い訳を考えれば…。ようやく私にも運が向いてきたのね…ウフフフ。




水戸黄門でもそうですが、勧善懲悪物というのは、やはり序盤は悪が我が世の春を謳歌しなくてはいけないわけで…。それもあり、外伝の今シリーズ最初の今回は、お代官様と初霜屋が我が世の春を謳歌する形で終わっています。おそらく次回の外伝辺りで、初霜には頭の上からゲンコツが降ってくるでしょうし、金剛にはお尻に精神注入棒が炸裂しそうな…。一応、誰にやられるか…までは考えてありますので、その辺りは次回のお楽しみという事でお願いします。

さて、前にも書いたかもしれませんが、この『鎮守府の片隅で』の鎮守府は、私の鎮守府がモデルとなっています。したがって、鳳翔さんが完ストしてからは、大部分の時間で金剛が秘書艦をしているため、金剛の地位は非常に安泰だったりします。金剛を秘書艦にしていると面白いんですよね。という事でこの物語では、金剛は色々問題あるけど非常に優秀なため、提督としても外すに外せない艦娘という扱いにしています。まぁ、現実の会社などにもよくいますよね、こういう人。会社に大きな利益をもたらすため、多少の悪癖は見て見ぬふりをする…まぁ、そんな感じでニラニラ読んでもらえたらな…と思います。

さて、我らが初霜ちゃん。今回金剛とも良い関係を築くことに成功したようで、これからしばらく我が世の春を謳歌しそうですね。最後の台詞などは、時代劇の定番中の定番のあの台詞を艦これ版にしてみました。実は今回の外伝、一番最初に書いた部分が、今回の最後の部分になる初霜VS金剛の部分なのですが、こういう台詞+初霜の心情を書いていると、なんといいますか…悪を書いているとこちらも楽しくなってきますねw。

おそらく、金剛も言っていますが、この物語における金剛と初霜はかなり似た者同士で、お互いになんだかんだ言っていますが、親和性は非常に高いような。もっとも、初霜ちゃん自体は、考えている事は色々アウトなのですが、やっている事は色眼鏡無しで見れば良い事をしている筈なのですが…心情を書いていると、まさに典型的な悪い子になってしまう不思議。同じ事をしていても、人によって『悪』ととられてしまうのは、こういう事なのかな…と書いていて少し思ってしまいました。

次回からは、まともに料理の本編に戻りたいと思います。そろそろおでんや肉じゃが、すきやきなども出してみたいですね。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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