鎮守府の片隅で   作:ariel

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今回は軽巡夕張が主役になります。料理の方はちょっと悩んだのですが、ダイエットにも良い豆腐ハンバーグにしました。たしか夕張は、装備の重さについての台詞がありましたので、ダイエットに関心がある…という設定にしています。実際の夕張は、軽巡としてはかなり軽いので(かなり無理しているくらい軽い訳で…)、これまではダイエットに成功して体重を保っていたけど…な感じですw。


第ニ四話 夕張と豆腐ハンバーグ

私のお店はお酒も飲める小料理屋ですから、飲むためにやってくる艦娘もいれば、食事のために来店する艦娘もいます。そのため、お腹が膨れる料理も数多くメニューにあり、その中でもハンバーグは、多くの艦娘の人気メニューです。ところが一部に、ハンバーグは食べたいけれども、あまりカロリーの高い物は…と言う艦娘も居まして…その結果メニューに増えたのが豆腐ハンバーグ。そしてこのメニューは、少し体重が重くなりすぎてウェイトを絞らなくてはならない艦娘や(そういえば、一時期軽空母の千代田や千歳も好んで注文していましたね。)、体重の維持に大きな関心を持っている艦娘達が好んで注文しています。…あら…今日はあの艦娘が来店していますね。という事は、豆腐ハンバーグを注文する可能性が高いですから、今のうちに材料の準備をしておいた方が良さそうですね。

 

 

「鳳翔さん、豆腐ハンバーグお願いね!」

 

私の予想どおり、軽巡洋艦の夕張さんは今回も豆腐ハンバーグを注文しました。以前夕張さんから聞いた話では、足を速くするために少しでも自分の体重を落としたいようです。もっとも私から見れば、夕張さんは別に太っているとは思えません…いえ、どちらかというと、軽巡洋艦としてはかなり軽い部類なのですが…。とはいえ、特に無理な食事制限によるダイエットをしている訳でもなさそうなので、本人も出来る範囲で…と考えているようですから、私からとやかく言うつもりはありません。

 

「分かりました、夕張さん。豆腐ハンバーグですが、いくつ注文しますか?」

 

「そうね…今日は試作兵器の試験でちょっとお腹空いているから、四つかな…。」

 

…こんな調子ですから、本当にダイエットをしようとしているのか、疑問が残るところです。夕張さんは、この鎮守府の試作兵器運用試験を一手に任されている艦娘です。ですから仕事的には、普段からかなり頭を使う部署に居る訳でして…。頭を使うとカロリーを大量に消費する…というのは、昔から言われていますので、お腹が空いているというのは本当なのでしょうね。

 

「ねぇ、夕張さん。四つも豆腐ハンバーグを食べるなら、普通のハンバーグ二つの方が良くない!?あっ、それと瑞鶴の艦載機もそろそろ新しいの開発してよ~。新鋭機さえ手に入れば、あの意地悪な先輩だって…。」

 

「瑞鶴さん…今日は本当にお腹空いているから、二つじゃ足りないのよね。だから少しでも一つ辺りのカロリーを減らして、その分たくさん食べたいの。それと、艦載機の開発は私では無理だから、加賀さんに頼んでよね。たしか艦載機関係の開発は加賀さんの仕事でしょ?」

 

「…瑞鶴さん、おしゃべりはその辺にして、ちゃんと料理をしなさい。まだ言われた仕事終わってないでしょ!」

 

「は~い…鳳翔さん。あ~ぁ、この調子じゃ瑞鶴の艦載機が新しくなるのは、何時になることやら…トホホ。」

 

瑞鶴さんは今日も私の料理屋で修業中。それなりに料理の腕も上がってきているとは思いますが、すぐにカウンターのお客さんとおしゃべりを始めるので、その辺りが玉に瑕ですね…。こんな事なら、加賀さん辺りにカウンターに座ってもらい、あまりおしゃべりが出来ない状況にした方が良いのでしょうか…。

 

さて、そんな事より急いで注文された料理を作らなくてはいけませんね。四つ分の豆腐ハンバーグですから…木綿豆腐は一丁程使いましょうか。豆腐ハンバーグは、豆腐の量を多くすると、ふんわりとした柔らかいハンバーグになりますが、あまり入れすぎてしまうと崩れやすくなってしまいます。ですから今回はボリューム感を出させるために少しだけ豆腐を少なめにして固めに…これくらいの量が一番良さそうですね。これでも十分ふんわり感は出るでしょうから。それに夕張さんはお腹が空いているみたいですから、少し肉の割合が多い方が良い気がします。さて、最初はまず豆腐の水切りからですね。豆腐を使ってハンバーグを作る場合、豆腐から出来るだけ水分を取除かなければいけませんので、この豆腐をタオルで包んでしばらくそのままにしておきます。

 

それでは今の内に付け合せやソース、そしてハンバーグに混ぜる野菜を切っておきましょうか。今回は秋らしく、和風のキノコソースを使う予定ですから、しめじと舞茸、そしてエノキを準備しています。それぞれのキノコを適当な大きさにバラしたり、切ったりして、いつでも使えるようにしておきましょう。また、今回は付け合せにブロッコリーの塩茹でを一緒に出す予定なので、ブロッコリーを茹でるために小さく切り分けておきます。後は、ハンバーグに入れるための玉ねぎを微塵切りにして…。これはお手伝いの瑞鶴さんに任せましょうか。

 

「瑞鶴さん、この玉ねぎを微塵切りにしてください。切り方が雑になりますとハンバーグの食感が悪くなってしまいますから、きちんと微塵切りにするのですよ。教えた通りにやりなさい。」

 

「は~い、鳳翔さん…玉ねぎは目が痛くなるから、瑞鶴本当はやりたくないんだけどね~。」

 

「いいから、早くやりなさい!」

 

「ヒッ…は…はい!すぐにやります!」

 

最近、瑞鶴さんの包丁の使い方は少し上手になってきましたから、これくらいなら任せても大丈夫でしょう。それに、玉ねぎを切る時は素早く切らなければ目がどんどん痛くなります。ですから、涙が出ないようにするためには、自ずと素早く切れるようにならざるを得ません。瑞鶴さんを鍛えるためには、心を鬼にして少し厳しい方が良いという事を、私はここ数日でよく理解しました。

 

 

瑞鶴さんの目には少し涙が貯まっていますが、なんとか玉ねぎを切り終わったようですね。これくらいの大きさの微塵切りでしたら問題なさそうです。それでは豆腐の水切りも終わったようですから、早速ハンバーグのタネを作りましょうか。まずは、瑞鶴さんに微塵切りしてもらった玉ねぎに軽く火を通すために炒めます。…玉ねぎに火が入り、少し透明になってきましたので、これで大丈夫ですね。それではボールに準備した豚の挽肉、そして炒めた玉ねぎの微塵切り、それに水切りした豆腐を入れます。豆腐ハンバーグの場合、あっさりした味になる鶏の挽肉を使う事も多いのですが、今回は空腹の夕張さんに満足感を与えるためにも、少し濃厚な旨味が出せる豚挽き肉を使います。

 

次に下味をつけるために塩と胡椒とナツメグを入れて、そしてつなぎのために少しだけ片栗粉を入れて…後は、しっかり豆腐を潰しながら混ぜます。大体大丈夫でしょうか…。普通のハンバーグよりは豆腐が入る分、少しだけタネが緩いですが、これくらいの豆腐の量でしたら全く問題ありません。夕張さんはハンバーグを四つ注文していますので、これを四等分して楕円形のハンバーグの形にしていきます。

 

それではハンバーグを焼く前にキノコソースと付け合せのブロッコリーの塩茹を準備しておきましょうか。まずは食べやすい大きさにした三種類のキノコを軽く炒めてしまいます。そしてここに水を入れて…ある程度煮たったら、ここに和風ソースの定番でもある、醤油、日本酒、そしてみりんを入れて味付けをします。…う~ん、これでも美味しいのですが、少し塩味が足りないですね…。豆腐ハンバーグは少しはっきりした味のソースの方が良いですから、少しだけ塩を入れて味を調整しておきましょう。最後にこれをもう一度煮立てて…ここに水溶き片栗粉を入れてとろみをつけたら、キノコソースは完成です。ブロッコリーの塩茹での方も、大丈夫そうですね。

 

ここまで準備出来たら、いよいよハンバーグを焼きましょうか。普通のハンバーグもそうですが、ハンバーグの上手な焼き方のポイントはいかに上手に蒸し焼きにするか…という事です。まずは、ハンバーグの表面に焼き色をつけるために、中火で一気に表面を焼き上げます。ジュー…いい音ですね…ハンバーグのタネから少し汁が出てきましたが、この状態で蓋をして…今度は弱火にして、しばらく蒸し焼きにする事でしっかり火を内部まで通します。これで、表面はきちんと焼き色がついていて、内部までしっかり火が通ったハンバーグが出来上がりです。

 

それでは、焼きあがったハンバーグを四つお皿に乗せて…そして塩茹でしたブロッコリーを配置して…最後に和風餡仕立てのキノコソースをかけて…おろし生姜を少し乗せたら、完成です。

 

「夕張さん、お待たせしました。どうぞ召し上がれ。」

 

 

 

軽巡洋艦 夕張

 

 

うん。美味しそうなハンバーグが四つ、目の前に並んだね。最近、色々な新兵器の実証試験でかなり頭使っているから、お腹空くのよね。一応ダイエットはしているけど、食べられる時に食べておかないと。でも私の装備ちょっと重いから…これ以上体重増やす訳にはいかないし…流石に普通のハンバーグを四つは食べられないのよね。だからカロリーが抑えられた豆腐が入ったハンバーグを出してくれる鳳翔さんのお店は、私にとってまさに天国。さぁ、早速食べてみようかな。今日はキノコのソース…もう秋なのね。

 

まずはハンバーグね。う~ん、美味しい!豆腐が入ると柔らかくなりすぎて、折角のハンバーグが崩れやすくなると言うけど、丁度良い固さでズシッとした重さが感じられるわね。これなら私も大満足ね。それに少し噛むだけで、口の中に広がるお肉の旨味…豆腐が入っていてヘルシーな筈なのに、こんなに旨味が出るなんて…本当に良いわね。普通のハンバーグよりはフワッとしているから、どんどん食べれちゃいそうね。

 

それにキノコのソースも最高!ちょっと上に生姜が乗っているから、これがピリッとしているのもいいのだけど、エノキとしめじに舞茸…三種類もキノコが入っているなんて本当に贅沢。舞茸とエノキの少しシャキシャキした食感、そしてしめじのプルッとした弾力性のある食感…それにきのこの香りって少しずつ違っているのよね。こんな美味しいキノコが、少しトロッとした和風餡に入っていて…これだけでも美味しいのに、これにハンバーグがあるんだから、どれだけでも食べられそう。…ううん、駄目駄目。夕張は一応ダイエット中なんだから、これ以上食べてしまったら、もっと足が遅くなっちゃう。

 

あ~ぁ、気付いたら後一つだけ。美味しい物を食べていると、食べた量を忘れちゃうというのは、本当のようね。最後の一個…しっかり味わって食べないと。まずはハンバーグの上にしっかりキノコソースを乗せて…それと生姜も少しだけ乗せて…。あら?さっきまで夢中で食べていたから気付かなかったけど、このハンバーグの中、かなり玉ねぎが入っているのね。…そっか、だからこんなにハンバーグその物に甘みがあって、お肉の癖も隠しているから旨味だけを感じる事が出来たのね。それに…キノコソースの中のキノコと一緒にハンバーグを食べると、フワッとしたハンバーグの食感が際立つわね…。こんなに食感がフワッとしているのに、ズッシリとしたボリューム感…、本当…反則的な料理よね。

 

あ~…もっと食べたい…。きょ…今日くらいダイエットをサボっても大丈夫よね…。うん、今日はあんなに頭使ってカロリーも消費しているから、もう少しだけ食べたって大丈夫よ…。それに豆腐ハンバーグなら、普通のハンバーグよりもカロリー少ないし…私の計算では、たぶん問題ないはず…。

 

「鳳翔さん、豆腐ハンバーグ、あと四つ追加ね。」

 

 

 

鳳翔

 

 

追加は良いのですが、ダイエットの方は大丈夫なのでしょうか。いくら豆腐ハンバーグとはいえ、それなりの量の肉を使っていますし、流石に追加分も合わせて、八個もハンバーグを食べたら、カロリー的にも大変な事になると思うのですが…。

 

「あの…夕張さん、流石に一日で八個もハンバーグを食べてしまっては…太りますよ?本当に追加するのですか?」

 

「だ…大丈夫よ。今日くらいたくさん食べても、問題ない筈…。それに、あのキノコソースの豆腐ハンバーグは本当に美味しかったから、あれだけじゃ物足りないのよ。だから今日は、あと四つだけお願いします!」

 

そこまで言うのでしたら出しますが…。本当に大丈夫なのでしょうか。夕張さんの言い訳は、ダイエットに失敗するパターンそのもののような気がするのですが…。とはいえ、本人が良いと言うのですから、一応四つ追加を作りましょうか。…そうですね…流石にまったく同じ物を出してしまっては、いくら美味しくても夕張さんも飽きてしまうと思いますから…少しだけソースを変えましょうか。…今度は二回目なので、少し食べやすいように酸味が入ったソースが良さそうですね。大根もありますし…おろしポン酢のソースにしましょう。

 

あら?カウンターに居る長門さんが、私がおろしポン酢のソースを作っている姿を見て、陸奥さんとヒソヒソ話していますね。何かあったのでしょうか。

 

「長門さん、何かありましたか?注文でしたら、先に伺っておきますが。」

 

「あ~、その…なんだ。私と陸奥も、今回は普通のハンバーグではなくて、夕張が注文した豆腐ハンバーグを食べてみようと思うのだが…鳳翔さんも意外と意地悪だな…と思ってね。」

 

えっ?私が意地悪ですか?先ほどの夕張さんとの会話は普通の会話だったと思いますし、何かあったのでしょうか…。

 

「あの…長門さん?どういう意味でしょうか?私としては、普通の会話を夕張さんとしただけだと思っているのですが…。」

 

「いや、半分冗談なのだが…鳳翔さん、今作っている豆腐ハンバーグのソース、今度は更に食欲が増すようにポン酢と大根卸しを入れているだろう?たぶん夕張のやつ、また追加注文する事になるのではないかな…と思ってな。鳳翔さんはダイエットの敵だな…と」

 

わ・・・私は、そんなつもりではないのですが…。ただ夕張さんに、もっと食事を楽しんでもらおうと思っただけでして…。長門さんの言葉に、夕張さんは『どうしよう…』という困惑した表情を浮かべていますし…。一応追加注文をキャンセルするか聞いておきましょうか。キャンセルしたとしても、長門さんと陸奥さんも注文するようですから、無駄にはならないと思いますし…。

 

「その…夕張さん。先程の注文、キャンセルしますか?」

 

「い…今更キャンセルなんて出来る訳ないでしょ!目の前でこんなに美味しそうな物が料理されていくのを見ているんだから。も…もう覚悟は決めているから、大丈夫よ!」

 

夕張さん、本当にごめんなさい。ですが、私も不味い料理は出せませんし、少しでも美味しく色々な料理を食べてもらいたいと思っていますので…。私と夕張さんの会話を、長門さんと陸奥さんは、ニヤニヤしながら見ていますし…今回は本当に困りました。

 

 

その日、結局夕張さんは、長門さんが予想したとおり、二回目の豆腐ハンバーグでも完全に満足する事が出来ず、二度目の追加注文をする事になり…ここしばらく頑張ってダイエットしていた分が、一日で戻ってしまったそうです。本当にすいませんでした…。

 




豆腐ハンバーグ美味しいですね。普通のハンバーグと比べて、豆腐が入っている分、食感がフワッとしているのが良い所です。ただあまり豆腐を入れすぎますと、今度は逆にハンバーグが崩れやすくなってしまうので、入れる量は上手に調整しなくてはいけないわけですが…。そして豆腐と挽肉の割合によっては、かなりズシッとした重さも残るわけで…実は結構食べ過ぎてしまう料理だったりします。

豆腐ハンバーグのレシピとしては、鶏の挽肉を使ってあっさり仕上げるタイプもあると思いますが、今回鳳翔さんが準備した豚挽き肉を使ったタイプは、肉の旨味がしっかり出るため、本物のハンバーグと同じように、食べると口の中に肉の旨味がしっかり広がります。そういう意味では、今回の鳳翔さん…無意識の内に夕張のダイエットを失敗させる気満々なんですよねw。

また今回は秋の定番キノコソースも登場させましたが、これも非常にハンバーグに合うソースです。小説では三種類のキノコを入れて、完全に夕張を撃沈していますが、一種類だけ使っても十分美味しいソースですから、是非お試しください。特に片栗粉を使って少しトロミのついたキノコソースは、ハンバーグによく絡むため絶品だと思っています。また、追加注文で作ったおろしポン酢ソース。これも定番中の定番ですが…食が進みますよねw。肉料理にこれを使ってしまっては…これもダイエットの天敵だと思います(単独で食べる分にはカロリー低いのですが…食欲が増進してしまっては…)w

今回も読んでいただきありがとうございました。
ここ二回、レア艦の主役が続きましたので、次回は出来るだけ普通に入手可能な艦で書きたいですね…。



豆腐ハンバーグ (大きめで四つ分)

木綿豆腐 一丁~一丁半
豚挽肉  250g~350g (豆腐との割合によって変化)
玉ねぎ  一個
塩    適量
胡椒   適量
ナツメグ 適量
片栗粉  小さじ1~2杯でたぶん大丈夫


キノコソース
舞茸    一袋
しめじ   一袋
えのき茸  一塊
(キノコがたくさん食べたい時は、量を変化させても問題なし)
日本酒   適量
醤油    適量
塩     適量
片栗粉 (とろみを出すために必要。水溶き片栗粉として使用)

おろし生姜があると更に美味しく…。

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