―――父を殺・・・いえ、『家族』になってから五日ほど経過しました。
この間、私はとりあえず家の中で絶をしつつ、早く母と『家族』になることを夢想しながら、母の帰りを待っていました。
最近、あまり帰ってこないといっても、週に一度は帰ってきます。
そろそろ帰ってきても、いいはずなのですが。
―――あっ!玄関から鍵を開ける音が!
―――ふふふっ!ようやく帰ってきてくれました。
「あなた・・・?」
玄関を開けた私は夕食時にも関わらず、明かり一つ点いていない家の中にを玄関を閉めながら、今では冷めた愛情しか感じない夫に声をかけながら家の中入っていった。
―――静かすぎる。
普段であるなら、怒鳴り声やあれを虐待している音が聞こえてくるはずなのに・・・
―――そもそもなぜ明かりをつけていない・・・?
そう不審に思った私は、普段から護身用に持っている9ミリ拳銃を両手に持ちセーフティを外した。月の光を頼りに歩を進めリビングに入るとそこには、ミイラのように干からびた夫の死体が倒れていた。
「・・・・ひっ」
引き攣った声を上げながら、驚きのあまり転倒する。
「 ど・・どういうこと!?」
わけがわからない。
なぜ夫がこのように死んでいるのか。
「そ・・・そうだ!あれはどこにいるの!?」
夫の死体とあれの死体が一緒だったら、ここまで取り乱しはしなかったはずだ。
だが、あるのは夫の死体だけそれの意味するところはつまり・・・。
思えば、不幸の始まりはあれが生まれた時からだった。
金髪碧眼という浮気相手の特徴を引き継いで生まれた事により、夫婦仲は一気に険悪になった。
それだけならまだいい。
だが、それだけではなかった。
気のせいかもしれないけれど、生まれて間もないというのに知性を感じさせる目が、ひたすら不気味だった。
極めつけは、虐待されているにもかかわらず泣くことは一切なく、体中にあった怪我が異常なほどの速さで治ることだった。
―――これは私の子供じゃない・・・
そう思うようになるのに時間はかからなかった。
そんなふうに化物のように思っているあれがいない、夫の死体はあるというのに。
―――逃げないと
そう思い立ちあがろうとした時
「おかえり。おかあさん」
背後から鈴の音を鳴らすようなきれいな声が聞こえた。
恐る恐る、振り返ってみるとそこには金髪碧眼のまさに、天使といっても過言ではない容姿の少女が、とても可愛らしい笑みを浮かべていた。
何の偏見も抱いてなければそして、蘭々と光る真っ赤な瞳に、体中に乾いた血がこべりついてなかったら、本当に天使だと錯覚していたかもしれない。
だがしかし、これに母と呼ばれた私は、これが天使ではなく化物だと十分に熟知している。
「おまえがやったの!?」
銃口をむけることで、どうにか精神を安定させて問いただす。
「はい」
可愛らしい笑みを崩さずに、問いに対する肯定の言葉を口にする。
「こうすることで、お父さんと本当の『家族』になれたのです。」
「・・・な・・・何を言っているの・・・?」
意味が分からなかった。
紛いなりとはいえ、実の父親を殺しておいていてただの子供のようにいっそ、誇らしげに語るその姿に途方もない狂気と恐怖を感じて―――
銃声。銃声。銃声。
リビングに乾いた音が3回連続で鳴り響いた。
気付いたら恐怖に駆られて、引き金を引いていた。
「・・・ぁ・・・え・・・?」
銃口は眼前の化物に確実に向いていたはずなのに、化物には傷一つついていない。
先ほどと同じようにただ笑って見ているだけ。
だというのにどうして・・・銃と銃を持っていた両手ごと腐って溶けているのだろうか?
「ひぃぃぃやぁああああああああああああああ!」
今度こそ私は、本当に恐怖しながら叫び声をあげた。
そうしている間にも、一歩また一歩と化物が近づいてくる。
「こ・・・こないで!」
「お母さん大丈夫です。ただ『家族』になるだけですから」
そう言いながら、私の正面から抱きついてきた。
「ぅ・・・ぐぁ・・・くる・・・し」
子供とは思えないまさに、化物といった力で、息ができなくなる程に締め付けられる。
「やめ・・・て・・・許して・・・アーデル・・・ハイト・・・」
「嬉しい・・・久しぶりに名前で呼んでくれましたね」
感極まった声を漏らしたと思ったら、ふっと抱きしめられる力が緩んだ。
「分かってくれたのね・・・アーデルハイト」
今が助かるチャンスだと思い、精一杯優しい声で語りかける。
「お母さん私の『家族』になってくれますか?」
「当然じゃない・・・私たちは家族よ。あ・・・愛してるわ。今まで本当にごめんなさい」
心にもない嘘をついて化物-アーデルハイト-の顔を見ると笑みを浮かべながら、真っ赤になった瞳から涙を流していた。
―――私は助かる。
今まで一度も見たことがない泣き顔に途方もない気持ち悪さを感じながら、そう確信した私はこれからのことを考える。
どうにか外に出て、警察に通報してこの化物を捕まえるなり、射殺するなりしてもらわないといけない。
その後に腐って、溶けてしまった両手をどうにかしないと・・・?
「では、いただきます。お母さん」
「・・・いたっ!・・・へ?」
両手のあったところから痛みとしみるような不快感を感じつつ、生き残るため次に、何をすべきか考えていたら、首筋をかまれた驚きと痛みから間抜けな声を漏らしまった。
・・・え? あれ?
なにして・・・?
血?
血を吸って・・・?
―――考えられたのはそこまでだった。
感想ありがとうございます。
少しずつですが、更新続けていければいいなと思っています。