虐待による疲労と空腹により、意識が希薄になりつつぼんやりと前世のことを考えながら、床に蹴られたまま横たわり怪我を治癒していると父が台所から戻ってきました。
その手には水の入ったコップ持っていません。
代わりに持っていたのは、包丁でした。
―――今、刺されるのはマズイ。
包丁で刺されたりするのは、初めてではないものの念を使って、どうにか生命を維持している現状、大きな傷を治す余裕はありません。
「・・・とうさん・・・やめ・・・て」
「俺を父親と呼ぶな!」
声を絞り出して懇願する私に父は耳を貸さずに近寄って、包丁を両手に持って
―――私の胸に突き刺しました。
「・・・が・・・ぁ・・・いたい」
痛みに苦悶の声を漏らす。
そんな私の声を聞いた父は―――
「まだ死なないのか化物!」
そう憎々しげに怒鳴りながら今度は腹部に包丁を突き刺す。
「ハッ!これでもう死ぬだろ」
フーと、息を吐き出しながらそう言うと憎悪と怒りに満ちた目の中に、わずかな恐怖を滲ませて血を流し続ける私を見ていた。
―――血がたくさん流れている。
―――いたい・・・いやだ・・・しにたくない。
「・・・お・・・なか・・・へった・・・のど・・・かわ・・・い・・・た・・・しに・・・た く・・・ない・・・たすけ」
「まだ死なないのか化物!おまえにやるものは何もねぇよ!化け物らしく自分の血でも
啜ってろ!」
涙を流し、助けを求める私の頭をそう怒鳴りつけて、サッカーボールのように蹴り飛ばした。
壁に叩きつけられ意識が朦朧とし始める。
いた い しに たくない こわい こわい おなか すいた こわい しにたくない おな かすいた しに た くない おな かすいた
のど
か わいた
ち
が
まっ
か
お
い
し
そ
ぉ
―――気が付つくと体の怪我が全てなくなった状態で、私は血まみれになって佇んでいました。
特に、口のまわりに血がべっとりと付着していまま―――
「お・・・とう・・・さん?」
あんなに、意識が朦朧としていたのが、嘘のようにはっきりとした意識の中で、足元にまるでミイラのように干からびた父の死体が転がっている事に、気づきました。
「わ・・・わたしが・・・?」
そうです。
あのとき、意識が朦朧としていたとき父に言われた通りに、自分の血をなめて、それがとても美味しくて、自分の血だけじゃもの足りなくて、もっと飲みたくて、父の首筋に力ずくで噛み付き、本当に美味しくて全部飲んでしまったのです。
―――殺して、しまった。
「・・・あぁぁ」
力が抜けてその場にへたり込んでしまいました。
だって、前世のころから欲しかった家族を、最も、欲しかった家族をこの手で・・・
何の感情も映していないであろう虚ろな目で父の死体を眺め―――
「・・・あ」
父の血が、わずかに残っているのを見つけた私は、『もったいない』そう思い残りの血を舐めとりました。
―――私は今、何をした?
父の死体を前にしてまるで、本物の化物のように血を舐めるだなんて・・・
―――でも、本当に悪いことなのだろうか?
―――だって、とても美味しかった。
「・・・そうだ!これは食事だ!牛や豚を食べるのと何も変わらない!」
そう何かを振り切るように何かを捨て去るように私は叫ぶ。
―――そうだ!父さんは私の血肉になって、これからも一緒に生きるんだ!
―――本当の『家族』に私たちはなれたんだ!
「ふふふ・・・あははははははは!」
こんなにに嬉しいことはありません。
あんなに欲しかったものが、こんなにも簡単に手に入ったのです。
こんなに清々しい気持ちは、初めてです。
これならすぐに、お母さんとお父さんと一緒に仲良し『家族』になれるはずです。
「本当に、楽しみ」
感想ありがとうございます。
たぶん、幸せな人生を本人的には歩んでいくと思うので安心してください。