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そのいち しょうきんくび
天空闘技場から離れたとあるホテルの一室。
近くで新しくできた『お友達』からもらった血を飲みながら、私はそこでひとり今後の方針について頭を悩ませていた。
気晴らしにテレビをつけてみると―――。
「・・・のスラムが・・・謎の集団死事・・・警察は・・・性・・・ないとして・・・」
物騒なニュースですねぇ。事件性がないのがなんとも不気味です。
まぁ、そんなことより今後の方針についてです。
割とリスクが低く、手っ取り早くお金を稼ぐにはどうすればいいか。
アマチュアハンターとして活動するとして、第一に、思いつくのは契約ハンター。次に、思いつくのはブラックリストハンターですか。
契約ハンターの良いところは雇用されることで、ある意味後ろ盾を得られるところですね。でも、雇用主によるところが大きなマイナスです。
そして、ブラックリストハンターはあくまでも対人に限られるというのが大きいです。
原作を知る身としては、モンスター系のハンターは怖くってやってられませんからね。
やはり、結論はブラックリストハンターですね。
よし!そうと決まれば賞金首の情報を集めましょう!
とある森の中。
非合法な賞金首ならデットオアアライブだったりもしますが、公的な賞金首は基本的に生け捕りにしなければ意味がありません。
殺しても原則、免責になりますが、賞金は発生しないことになっているのです。
つまり、私は腐食の月光という必殺の切り札を、使うにしても直接触れて使用する限定的な使い方をした方がよく、それすなわち、相手は殺す気で来るのに自分は手を抜かなければならないという事なのですが・・・。
―――これで28人目です。
ブラックリストハンターとして働き始めてから、生け捕りに失敗したC級賞金首の人数です。洒落になりませんよ。これは。
アマチュアブラックリストハンターとして働き始めて、すでに1年以上経ったのにすべて失敗しているので、収入がゼロ。支出ばかりが増えて貯金が底をつきそうです。
「・・・た・・・たすけ」
「弱すぎるんですよねぇ・・・」
途方もない疲労感と怒りを感じ、その怒りを足元に転がっているもモノを踏みつぶすことで解消します。
「ぐぅぇ」
「やはり、B級A級をやるべきですか・・・」
対念能力者との戦いは不測の事態がつきものです。
私は自身の実力にそれなりの自信を持っていますが、念の戦いは単純に強い弱いではありませんからね。
しかし、今までリスクばかり気にして上手くいっていないのですから、少しはリスクを取って大物を狙うべきですね。
実は、近くの某国国境線付近にある難民キャンプにA級賞金首がいるという情報を聞いています。
聞く話によるとその賞金首は、30人規模の武装した念能力者による傭兵団で、各紛争地域で略奪、凌辱、虐殺を繰り返し、金のためなら何でもする悪辣非道な集団らしく、団長のルドラを生け捕りにするだけでも、2億ジェニーという高額な賞金が得られる程の方だと伺っています。
当然ながら相対するリスクは高いです。
しかしながら、目の前の2億を素通りすることなど私にはできない―――!
「決めました。私が全力になれる満月の夜に彼らの拠点を襲撃するとしましょう」
夜空に浮かぶ三日月を眺めながら、そう決定を下すのでした。
―――ルドラ傭兵団。
世間からそう呼ばれ、悪辣非道の金の亡者とされている面々は今日も、難民キャンプで忙しい日々を送っていた。
「ルドラ団長・・・食料が、いえ、食料だけではなく全体的にすべての物資が不足気味です・・・」
「報告ご苦労。だが仕方がない・・・。次の支援物資が来るまでどうにか耐えてくれ」
「・・・了解しました」
粗末な天幕の中で、少しやつれた様子の初老の男。団長ルドラは、報告を聞き、そう淡々と命令を下した。命令を下されたまだ若い団員は憔悴しきった様子で天幕の外に出て行った。
水、食料、医療品、生活物資、活動資金。未だに支援を陰ながら続けてくれている支援者はいるが、すべてが不足している。
「なぜこうなった・・・」
悔しさとやるせなさを感じさせる声を漏らし、眉間にしわを寄せたルドラは顔を両手で覆いながらこうなった原因を想起する。
いまでこそ世間では、重犯罪人扱いされているが、その実ルドラ傭兵団は難民保護と支援を目的として活動してきた慈善団体である。
―――難民たちを救いたい。
その思いを胸に、僅かな資金と同じ思いを持った仲間たちとともにアマチュア医療ハンタールドラは、活動を始めた。その活動は、始めた当初はとても上手くいっていたと言っていい。支援者も得ることもでき、資金面でも余裕が出始めこれからといったころに問題が発生した。
それは紛争地域それも立ち入りが禁止されていたエリアでの活動だった。
―――見捨てることなどできない。
すぐそばで、こと切れる老人を、餓死する子どもを、泣き叫ぶ親を。
目の前で倒れていく難民たちを見て見ぬふりなどできなかった。
だから、禁止されているとわかっていながら支援活動を行った。
しかし、それがV5の怒りを買う事に繋がる。
その結果、ありもしないプロパガンダを流された挙句、賞金を懸けられ、ルドラ難民支援団は傭兵団と呼ばれるようになった。
武装した30人の念能力者による悪辣非道な犯罪者?
「ははは・・・」
その悪評の一つを思い出したルドラは、思わず乾いた笑いを漏らす。
団員は皆、最低限の護身のため確かに小銃で武装しているが、それだけだ。念能力者に至っては、自分一人しかいない。
賞金首になったことで支援者が減り続け、厳しい状況が続くようになった。それでも、ルドラを含めた団員は活動をやめることしなかった。その胸に宿る気高き理想と助けを求めてくる難民のために。
だがしかし、それも限界が近づいている。物資の不足これも大きな問題だったが、最近になり賞金首ハンターの襲撃を受けるようになったためだ。
対処は念能力者でもある自分が行っているが、撃退すればするほど悪評が高まっていく完全な悪循環に陥っている。しかし、逃げ出そうにも拠点を移す資金は、もうない。賞金首であることも覆す事が出来ない。もはや手詰まり。
団員たちの中にも諦めの雰囲気さえ漂っている。
「いかんな・・・」
悪いことばかり考えている。
そう思い気分転換のために散歩でもしようとルドラは天幕の外に出た。
次回もよろしくお願いします。