日向に友人を増やして、雪ヶ丘VS北川を再構築しました。
暇つぶし程度に読んでいただけるとありがたいです。
落ちてきたボールを拾う。一つ、また一つ。その度に観客から歓声は上がり、同時に喜びや、悲しみ、苦しみの感情がこの場を渦巻いている。
腕が痺れ、感覚もなくなってきてる。息が苦しくなって、心臓が痛くなって。それでも俺の足は動くんだ。
周囲の目にさらされながら、ただボールを拾う。俺にはそれしかできないから。ずっと一緒に練習してきたけど、人が足りなくて、時間がたりなくて、教えてくれる人がいない中、独学でがむしゃらに頑張って身につけたたった一つのこと。だからこそ、妥協しない。全力で、全開で、一生懸命。本気のその先にだって手を伸ばすし、明日の、明後日の、明々後日の分の体力だって使ってやる。負けたくない、まだまだコートに立っていたい。だから―――――
「もう、一本だ……日向」
だから、俺はボールを託すんだ。ここにいる小さな、小さなヒーローに
中学一年の春。雪ヶ丘中学には例年通り新入生が入り、部活の新人勧誘戦争が勃発しているときだった。彼、山浦 海斗は小学校から付き合いのあった日向 翔陽に声をかけられた。
「山浦! 一緒にバレー部に入らない?」
「バレー?」
ほかの部活の先輩が我先にと部員を集めている最中、日向は部員が一人もいない男子バレー部にと誘いをかけてきた。
最初は断ろうかとも思ったが、なんだかんだの腐れ縁。彼が小学校の時から何やらバレーに憧れているのは知っていたので一緒に入部した。
日向は憧れの小さな巨人になると言ってスパイクを打つためにとトスを山浦に要求していた。小さな巨人のことはわからなかったが、山浦もルール自体は知っていたので、日向がボールを相手のコートに打つというのなら、自分はこっちのコートに来たボールを日向に集めようと決めた。
「また上がった!」
「これで何回目だ?」
「このラリー長すぎる、もう5分はたってるぞ!?」
(くそ、ボールが相手コートに落ちない)
彼、影山 飛雄は北川第一中学バレーボール部に所属するセッター。その自他ともに認める才能と自己中心的な性格からコート上の王様と呼ばれていた。彼本人としては大変気に食わないものだったが、いつの間にか広まっていた呼び名は変わらなかった。
そんな彼の悪態は目の前いにる対戦相手、雪ヶ丘中学に向けられたものだった。
バレーボールの試合は全て25点の2セットゲーム。25点取ると1セット、先に2セットとった方の勝利で決まる室内球技だ。この試合、北川第一は問題なく素人集団である雪ヶ丘から1セット目を先取した。そのまま苦戦することな2セット目も取れると思った矢先に彼は現れた。
「悪い翔陽! 遅れた!」
そう言って現れたのは背番号3番の男。バレーをするには少々物足りない身長170程度。目の前にいる背は低いが、ずば抜けたジャンプ力でネットを超えてスパイクを打つ1番の男と同じスパイカーだと、最初は思った。
背の低い雪ヶ丘の中では1番の身長を持っていし、目の前にいる例外を除けばスパイカーとしてはよくいる部類だと。しかし違った。彼は確かに身長の低い雪ヶ丘では目立つ存在だ。当然誰もがスパイカーだと思う。
彼の動きはとてもしなやかだった。飛ぶことで有名なバレーボールの中で地面を這うように移動し、ボールの落下地点に現れたと思ったら拙いフォームでキレイにネット前にボールを返した。
バレー選手からみればまだま粗のある選手だ。動き出しは遅く、歪でどこかずれたアンダーのフォーム。しかし彼はボールの落下地点に現れ、拾い、そして丁寧にネット前に運ぶ。
チームをみれば明らかだが雪ヶ丘にはコーチが、指導者がいない。そんな中1番や3番のような特出した選手に北川は、影山は苦戦していた。
「日向、部員はどうするんだ?」
「今年は無理だったから来年また集める」
たった2人きりの部員、場所は体育館の隅っこ。それがスタート地点だった。山浦が日向に誘われはいったバレー部はまさかの部員数ゼロ。最初に部員がいないといったのは一年生でという意味だと思っていたが、まさか部活メンバーがゼロというのは驚いた。
体育館の隅っこで女子バレー部が体育館の半分を使っているのを見ながら二人でスパイクとレシーブの練習。日向が打って、山浦が受ける。流石に隅っこは狭かったので中庭に移動したり、広いところで練習した。
一様ほかの一年生にも声はかけていた。小学校から付き合いのあるやつや、中学で仲良くなって部活に入ってない人。でも誰も部活に入るという人はいなかった。
朝早く女子バレー部が来る前に体育館で練習して、移動。昼休みも練習。そんな霞んで見える、しかし自分たちには濃密な部活動をしていた。
「もっと高く飛ばないとネットを越えられないぞ」
「え、ネットってそんなに高かったっけ?」
二人で体育の教科書を開いてバレーボールのルールやコートの大きさを覚えたり、ポジションやフォームの確認をした。日向の憧れるスパイカーにも、ボールを拾うレシーブにも、きちんとしたフォームがある。教科書を見ながら指導者もいない中、女子バレー部の練習を恥ずかしいからとのぞき見していたのは先生に怒られた。今度はきちんとフォームを観察ていたら、練習にならないと女子の主将に怒られてしまった。あのときなぜ怒られたのか、考えても二人に答えは導き出せなかった。
「日向、随分上手くなったんじゃないか? わからないけど」
「そうかな? ていうかレシーブしてないでトス上げてよ山浦」
最初山浦がトスをあげた後は日向が打って山浦が受けるが決まったパターンになっていた。最初のトスを日向が飛び上がり打ち下ろしたスパイクを山浦がふわっと拾い上げる。
ある程度コントロールができるようになってきたが、初めのうちは思ったところにボールが飛ばず、あさっての方向にスパイクを打ってはあさっての方向にボールを返す無駄に体力だけを消費するラリーをしていた。おかげで移動しながらのスパイクとレシーブの感覚を練習できたのだが、二人は気づいていない。
「もう一本!」
掛け声とともに日向は飛ぶ。この中学最初で最後の大会の初戦、まだまだコートに立っていたい、まだ負けたくない。そんな思いを胸に日向は腕を振り下ろす。手のひらに触れたボールと、スパイクの痛みが伝わる。何度も何度も練習した感覚。ネットを超えたその先に、見えるものがあると信じて。
「ブロック!」
「また止められた!」
「だったらもう一度だ!」
シャットアウト。その言葉がふさわしいように日向のスパイクは相手選手のブロックに止められてしまう。しかし、その弾かれたボールをすかさず山浦が拾う。地面に吸い込まれていくような、水泳選手の飛び込みのような滑らかなフォームで手のひらをボールとコートの間に差し込む。
地面につかなかったボールは再び浮き上がりセッターの手を経由してもう一度ネットの上を飛ぶ。そして飛んだボールは同じく跳んだ選手が叩き込む。
再び雪ヶ丘の攻撃。2セット目の始まりからずっとこのパターンが続いていた。日向が打ったボールがブロックに止められるとまるで未来が見えているかのように山浦が落下地点に現れボールを拾っていた。
当然こんなラリーは続かない。ではどこで切れるのか? 日向がスパイクをミスしたとき? 山浦が拾いそこねたとき? 北川のブロックを抜いたとき? 全て否定する。
日向がスパイクをミスすることはない。3年間それしか練習していない上に、やっているのは上がったボールを叩くだけ。一般人ならまだしもバレー選手がからぶるボールは飛んでいない。
山浦がボールを落とす可能性は否定できない。しかし今、目には見えない『流れ』のようなものが間違いなく山浦を包んでいる。こういう時のスポーツ選手は滅多なことではミスをしない。
北川もミスをしない。優勝候補と言われるだけのことはある練習量を積んでいるし、テクニックがなく教科書のようなトスとスパイクではこのブロックは抜けない。
ラリーが切れるのは北川のミス。
ブロックとスパイクが機械のように常に同じように行われればこのラリーに終わりは訪れない。しかし、プレイしているのは当然人間。ブロックの角度、スパイカーの位置、ボールの速度、そして疲労。あらゆる要素がこの状況に作用しラリーが終わり雪ヶ丘に点が入る。
「よっしゃー!!」
「これで10点目だ!」
「まだまだ行くぞ!」
「タイム!」
前半とは違う展開に雪ヶ丘の士気が上がり、逆に北川は暗い雰囲気に包まれる。
誰もが雪ヶ丘の逆転あるいは快進撃を想像する。何度も拾われるボールに何度も打ち込まれるスパイク。北川のブロックも何度も日向に付き合って跳んでいるうちに膝が震えている。だがそんな状況でも冷静に観察をしている者がいた。それは―――
「くっそ、何なんだあのリベロ。あんな奴がいるなんて聞いてないぞ」
「なんなのがいて無名なんてどういうことだ?」
「今年が初出場らしいぞ」
ざわつく北川ベンチ。無名校だった雪ヶ丘の1番と3番。無限に何度も跳ぶ日向と、何度でも拾いに行く山浦。この二人は完全に想定外の戦力だ。なぜこれほどの選手が無名校にいたのかが不思議でならない。
「落ち着け! あんなのがずっと続くわけないだろ!」
影山の言葉にチームメイトが顔をあげる。
そこには真剣にメンバーを見据える影山の顔があり、それを監督が見つめていた。
「確かにあのリベロはずげぇ。だけどあんなのがずっとできるはずがない。もう2セット目が始まって15分以上経ってる。その間やつは動きっぱなしで、こっちの動きを観察して体も脳も疲れてきてるはずだ。奴が動けなくなるのをまって反撃すれば勝てる」
そう言う影山の言葉を聞いて少しだがベンチの空気が和らいだ。しかし、いけ好かない影山に言われてもあまり嬉しそうではないが。
「お前たちが誰よりも練習してるのは私が知っている。大丈夫だいつもどおりやってこい」
「「「はい!」」」
コーチの言葉が煮え切らない選手の心を押した。全員が勝てると信じてコートに戻る。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「大丈夫ですか山浦先輩?」
荒い息使いで酸素を体に取り入れようと水も飲まない山浦に後輩が声を掛けるが返事はなく、ただ親指を立てるだけだった。
「日向先輩」
「わかってる。でも今はほかに取れる方法がないんだ」
雪ヶ丘メンバーが気づいている日向と山浦の負担。今年入った一年生を助っ人で呼んだ友達。どちらも素人。当然バレー部の二人に頼る形になってしまう。日向と山浦も初心者の一年と助っ人の友達にバレーの仕事を押し付けるわけにも行かずこの状況が出来上がっていた。
「山浦、一旦俺と変わるか?」
「コージー……」
助っ人に来てくれたサッカー部の友人が提案をしてくれるが、元々こちらが前半だけの条件付きで来てもらっている側なので何とも言えなかった。
「大丈夫だ、それにお前が入っても何もできないじゃんか?」
「おまえ、後でアイス奢れよ」
額に汗を流しながらにこやかに言い放つ山浦に仕方なく引き下がった。
最低限の水分だけ補充して山浦も立ち上がりコートに戻る。
「まだまだ点取るぞ!」
「きっちり決めろよ!」
「なるべくあのリベロのいないところに返せよ」
「ブロック2枚に減らすぞ、ローテして負担を減らす」
様々な声がコートを飛び交う中、山浦は深く、深く思考の海に沈んでいった。
元々運動神経は良かったがその中でも彼は反射神経とその集中力がずば抜けていた。視野を広く相手を観察し、対応する。この三年で身につけた急な変化やトリッキーな動きについていける身体能力。まだまだ荒削りだが間違いなくトップレベルのリベロとして花が咲こうとしている。しかし、それでもまだ中学三年生という体の限界は越えられない。
「はぁはぁはぁ」
15対20
それが現実だった。いくら拾い続けてもこっちも素人集団。当然北川よりもミスも多くなる。そして唯一の守備力の山浦の体力の限界、流石にベンチと交代させる。そこから一気に点差を詰められ逆転。あと少しで負けてしまう。それでも―――
「まだ、負けてない」
日向の瞳はくもらない。
まだボールがコートに落ちてないから追いかける。トスが上がるから飛び上がる。それが常識、それが当たり前にできる精神力それが日向に活力を与えてそれがそのまま雪ヶ丘の活気になる。それでも、チームとしての地力が違いすぎる。
「交代だ」
17対24
北川のセットポイント。ベンチで休んでいた山浦が帰ってきた。
まだまだ全開とは言えないがそれでもチームのピンチに正規メンバーの自分が立たないわけには行かなかった。
「ありがと、おかげで回復できた」
「無茶すんなよ」
再びコートに山浦が舞い戻ったことで北川に動揺が走り、雪ヶ丘に、日向に力が湧いてくる。二人がハイタッチを交わして再び試合が始まる。
「ここであいつが出てくるのか」
「大丈夫、いくら休んだって言ってもほんの少しだけすぐに動けなくなるさ」
一瞬動揺したもののすぐに冷静を取り戻しプレイに集中する。このままいけば間違いなく北川の勝利だ。既に体力の尽きた相手を警戒することもない。しかし、ひとり影山は違った。
(3番が戻ってきた。今度こそやつから点を取る)
警戒するどころか山浦が普段通りの動きをすると信じて、彼から点を取ろうというのだ。
「サーブ」
北川のサーブを打ったボールがネットを超えてコートの後ろ、一年生のところに落ちていく。まだ試合なれもしていない上、素人の一年。山浦のところに落なかったことに北川の選手が安堵し、試合の終了を確信したところで、言葉が発せられた。
「三歩さがれ! 腰を落として待ち構えろ!」
山浦が言う通りの動いた一年生がレシーブでボールをネット前に返した。すかさずセッターがボールを日向に送る。
「翔ちゃん!」
セッターがトスを上げるとボールの軌道上に日向が飛び出した。その強靭なバネで足りない身長差を潰す跳躍。一瞬でネットの向こう側が見える高さに達しボールを相手コートに叩き込む。しかし、日向に相手コートは見えなかった。2枚のブロックが日向の視界を多い、スパイクを叩き落とした。もう何度目になるかわからないブロックに日向の表情が曇りかけた瞬間、ボールは空を舞った。
「まだだ! 日向もう一本!」
ブロックされ、地面に叩き落とされたボールをこのコート場で唯一追いつける山浦がボールとコートの接触を拒否して再びボールを打ち上げる。
その光景に全員が驚愕し、同時に確信した。彼は山浦はボールを拾えると。そして一人、顔がにやけている選手がいた。彼は山浦を信じて飛んでいたことを思い出した。ほんのさっきまでそれが当たり前だったのに、ちょっと山浦がいなくなった時にこの感覚を忘れていた。スパイクがブロックされてもまだ打てる快感
すかさずセッターが今度は逆の方向にトスをあげて一瞬のうちに移動した日向がボールを再び相手コートに打ち込む。しかし一枚のブロックがそれを阻んだ。影山だ。
2枚のブロックが反対側に取り残されている間に余裕のあった影山が日向のブロックに跳んだ。その上、ボールをネットぎりぎりに落とすいやらしい手で。
これがもし力のあるスパイカーならブロックは吹き飛ばされていた。テクニックタイプならブロックを躱していた。しかし日向は力もなくテクニックもない。ただボールを叩くだけ。故に、絶妙なソフトタッチでボールを日向とネットの間に落とした。
(これを拾うのは無理だ。万が一拾っても1番と接触して次は続かない)
影山がボールがコートに落ちる瞬間を見つめていたとき一本の腕が死角から伸びてきた。その腕はボールを掻っ攫い、コートに落ちる前に再びボールに羽をつけた。
(なんだと!?)
影山が見たのはコートのこっち側とそっち側ギリギリに体をねじ込み尚且つ日向と接触しないようにボールを拾う山浦の姿。そんな山浦の姿に目を奪われている間に相手側のチャンスボール。
「翔ちゃん!」
「跳べ! 何度でも俺が拾ってやる!」
セッターの上げたトスを打つ。三度目の攻防。
そのボールは北川のコートに、何の障害もなく落下した。
誰もが目で追ってしまったのだ。山浦の動きを。なんとしてもコートにボールを遅さないぞ。と、体で表すその執念に目が奪われてしまった。その一瞬の間に日向がボールを決めた。
「さあ、サーブだ。相手コートに落ちればいいから」
山浦からボールを受け取った一年が緊張から泣きそうな顔をしながら山浦を見つめる。彼は怖いのだ。先輩が必死なてつないでいる試合を自分のミスで終わりにしてしまうのではいなと。
「大丈夫だ、自信をもて。お前が一番サーブが相手コートに落ちてるんだから」
雪ヶ丘の絶望的なサーブの中で彼は唯一安定して相手コートにボールが入っている。だから自信を持てとポンポンと頭を叩いて自分のポジションに戻った。
ガチガチの一年生から放たれたボールはネットに触れたが相手コートになんとか落ちた。これをネットインというがそれは後回し。
北川の攻撃。影山は一人思案していた。いったい誰にトスを上げるのか。いつもの試合内ならライトのミドルブロッカーに上げていた。反対に山浦がいることもそうだが、それならほかの高校のリベロと同じように反対に上げただろう。しかし相手は3番山浦。さっきのプレイもそうだが彼には並々ならぬ執念がある。簡単に点が入るとは思えない。
ならば一体どうするか、相手も仲間も度肝を抜くような奇策。それをしなければ彼から点は取れない。
(どうする? サインは既に使える状況じゃない。あいつに普通の速攻は通じない。かと言って早くボールをやってもこいつらじゃ取れない。ほかの攻撃は……)
閃いたのは一瞬だった。そのあとは考えるよりも体が勝手に動いて、ボールを相手コートに落とした。
ツーアタック。本来三回で相手コートに返すゆえについた攻撃名。トスをすると見せかけてセッターがボールをヒョイと相手コートに落としたり、二回目でスパイクを打つことだが、今回は前者。セッターの影山が相手の、山浦の意表を突くための皮肉の策。絶対に取れない。ブロックはスパイカーを見ていて反応できていない。コートの後ろからでは追いつけない。予想していなかった攻撃に誰もが頭が真っ白になり、体が硬直したほんの一瞬。その一瞬を停止ぜずに動く一人の男。
「どうして、どうしてお前がそこにいる!?」
「直感。お前いやらしいことする顔してたぜ?」
雪ヶ丘の攻撃。ボールをセッターに返し日向は既に走り込んできている。すぐにブロック三枚で日向のマークにつく。しかし、日向が目の前から消えた。
最初はセッターのトス、正面の日向にトスをするつもりが謝って後ろに放ってしまった。誰もいない。ボールを拾ったばかりで山浦も動けない。そこには誰もいないはずだった。正面の日向が消えるまでは。忽然と消えた日向は逆方向に挙げられたトスを全力で追いかけ、跳んだ。誰ひとりついていけていない。ただひとりだけの頂きに。
「ピーーー」
試合終了。
18対25
北川の2セット獲得で雪ヶ丘の敗北が決まった。
(負けた。中学最初で最後の試合)
(取りきれなかった、途中ベンチに退場って何やってんだ)
「(天性のバネと運動神経を持つ1番と、コート全体をカバーできる防御力と技術を持った3番。これだけの力がありながら)お前ら、3年間何やってたんだ!?」
心を蝕まれる影山の言葉。日向も山浦も、指導者がいない中で精一杯やってきた。3年間努力してきた。だから日向は飛べるようになった。山浦はボールを拾う身のこなしを手に入れた。そんな3年間を、影山は否定した。
「お前! こいつらの3年間を侮辱すんのか?!」
「やめときななって!」
総合プレイ時間59分、獲得セット数0、中学最初で最後の大会だった。
「お前を倒して、俺が一番長くコートに立ってやりる」
「コートに立っていられるのは一番強い奴だけだ」
宣戦布告。高校では負けない。絶対に勝つ。そんな早すぎる告白だった。
時は流れて一年後。4月高校の入学式
烏野高校
体育館
そこで、再び出会うのは倒すと決めた相手。
「どうしてお前がここにいる?!」
「北川の影山……」
「お前ら、春戦った1番と3番」
「そうか、お前ら烏野に来たのか」
「コート上の王様」
「ツッキーはもうすぐ190だ」
「俺がいればお前は最強だ!」
「好きなだけ跳べ翔陽。俺が何度だって拾ってやるか」
烏野高校バレーボール部に新たな雛鳥が生まれる。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
ただ衝動的に書いた作品なので続きを書くつもりはありません。
最後のところが投げやりになっているため、感想しだいではこの話を削除することもあります。