IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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第1期の最後にようやく漕ぎ着けた、かな…?


陽炎 ~ 集合 ~

Ichika View

 

特訓をしながらも夏休みを過ごす。

初日と二日目は更織家に厄介になり、それ以降はオーストラリアに行ったり、ドイツに行ったりと実家にて過ごす日々がまるで遠い過去のようだった。

なので、夏休み後半は実家で過ごすことにした。

簪もお泊りの用意をまで持ち出しているが…まあ、それはそれでいい。

なお、ISの調整の為に倉持技研に持って行ったら、全ての研究員が創世世代の機体の誕生に大喜びだった。

そのテンションの高さに俺も簪もドン引きだったが。

だが、データ収集で行き詰った。

輝夜がデータの提供を頑なに拒み続けていたからだ。

引き出せるのは、必要最低限度の情報のみ。

創世世代として必要な情報は一切提供はしてくれなかった。

流石に開発元の許容量を超えていたから、匙を投げてしまったが。

 

話を戻そう。

 

「色々と買っちゃったね」

 

「だな」

 

お昼には笊蕎麦を作ろうと思い、その材料を買ってきた。

家での大掃除を買って出たマドカの為にも、美味い蕎麦を作るとしよう。

 

「ねえ、一夏」

 

「ん?」

 

「ほら、家の前」

 

簪が指差す先には、俺の実家、そしてその前に居るのは…

 

「シャルロットか?」

 

様子を見れば、指先はインターホンと胸の前とを行ったり来たりの繰り返し。

…何をしたいのか、何の用で来たのか。

そうやって見ている間にも、彼女の指先はインターホンと胸元を行ったり来たりの繰り返し。

面倒だ、どうするか。

 

「そこで何をやっているんだ、シャルロット」

 

「ひゃわぁっ!?」

 

なんつー声をあげているんだ、こいつは…。

きっと簪も訝しげな視線を向けている事だろう。

 

「ほ、本日はお日がらも良く」

 

「…何を言ってるの?」

 

「あ、IS学園のシャルロット・アイリスです!お、織斑君は居ますか!?」

 

「…目の前に居るだろ。さっきから何を言っているんだ?それと、何の用だ?」

 

「え、えと、あの、その…」

 

何やら急にわたわたと一人慌てだす。

表情がコロコロと変わり、その果てに

 

「そ、その…来ちゃった」

 

デジャ・ヴュを感じた。そうだ、簪がそんな感じの事を言っていたな、懐かしい。

 

「…まあいいか、あがっていけよ」

 

「え!?い、いいの!?」

 

「もしかして、何か他の用事が有ったとか?」

 

簪が笑って問う、だが目が笑っていない。更には殺気すら感じる。

 

「な、何も無いよ…アハ、アハハハハ……」

 

その殺気に怯えたのか、シャルロットは一歩どころか、二歩引いていた。

俺からすればこの程度の殺気は微風同然だ。

 

ドアノブを握り、ドアを開く。

そこには見慣れた物が浮遊し、天井の掃除をしている。

 

「マドカ…考えたな…」

 

それはサイレント・ゼフィルスのビットだった。

よくよく見れば、玄関付近だけでなく、結構な数が使われている。

 

「マドカ、凄い…」

 

拡張領域に入れているであろうビットを片っ端から使って家全体の掃除をしているんだろう。

身長を考えれば無理も無いが、技術の無駄使いではあるまいか。

束さんが見れば大笑い、千冬姉が知れば鉄拳制裁になるだろう。

俺の場合は呆れ、簪は感嘆、シャルロットはドン引きだ。

なお、どの反応が正しいのかは分からない。

 

「兄さん!簪!お帰り!」

 

「ああ、ただいま」

 

「お掃除ご苦労様。

じゃあ昼食の用意を始めるね。一人分多くなるけど」

 

「一人分多く?」

 

「ああ、お客さんだ」

 

俺は視線を後ろに向ける。

そこに居るのはシャルロットが居る。

それを確認したんだろう、マドカの視線が鋭くなった。

 

 

 

 

Chalrotte View

 

一夏の家に来てみたは良いけど…まさか先客がいるなんて思わなかった。

マドカは一夏の妹さんだから仕方ない、せめて出掛けてる事に賭けたけど、賭けには負けた。

それどころか、他にも来訪者が居た。…更識さんが居たなんて…。

いや、婚約者だっていうのは知ってるけど…。

 

「シャルロット?

織斑家に何の用?」

 

しかもマドカが物凄い視線を突き刺してきてる!?

簪もだったけどマドカまで!?

僕が何をしたって言うのさ!?

…不純な動機で来たつもりは無いんだけど…。

好きだった人の事は色々と知っておきたいのは…仕方ない話だよね…。

それに、一夏がどんな暮らしをしてるのかも気になるんだから。

でも、それを言ったら追い出されるのが関の山。

此処は何か良い言い訳を…駄目だ、思い付かない。

咄嗟に口から出たのは…

 

「ち、近くを通り掛かったから…」

 

「…ふ~ん…」

 

…疑われてる…うん、やっぱりそうだよね…。

 

「落ち着けマドカ、目で脅すのは辞めろ。

それと、食事の支度をするからビットを片付けろ」

 

「は~い」

 

一夏のおかげで何とか助かった。

 

何処からか取り出したのか、マドカがホイッスルを吹く。

すると家のあちこちから居間へとビットが次々に飛んでくる。

数は…64基。

これだけの数のビットを一度に自由自在に操れるだなんて凄い…。

 

「シャルロット、お茶どうぞ」

 

「ありがとう、簪」

 

わざわざ簪がお茶まで用意してくれた。

日本特有の緑茶らしい、とても美味しい。

それに和む。

…あれ?このお茶、簪が用意してくれたみたいだけど…随分慣れてたような…。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、何でもない」

 

何だろう、一夏と簪、婚約者っていう関係だからかな…?

 

 

 

Madoka View

 

兄さんと簪が蕎麦の準備を始め、私はテーブルを拭き、戸棚からお箸とお皿も用意して…それから

 

そんな折りに呼び鈴が鳴る。またお客さんだろうか。

 

「マドカ、頼んでいいか?」

 

「分かった」

 

此処は自由にに動ける私が玄関に移動するべきだ。

一旦作業を中断してから玄関に足を運ぶ事にした。

それから玄関のドアを開く、そこには

 

「誰かと思えば」

 

「出会い頭に何ですの」

 

セシリアだった。

手には土産のつもりか、小箱が携えられている。

何を持ってきたんだ、こいつ。

 

「一夏さんはご在宅ですかしら?」

 

「…兄さんなら居る」

 

仕方ない、家にあがらせてやるか。

こいつに対してはそこまでの敵意は無いし、兄さんも許可するだろう。

 

「あがっていけ」

 

「お邪魔しますわね♪」

 

 

 

Chalrotte View

 

マドカが玄関から戻ってきたけれど、何故か頭を抱えている。その後ろには

 

「セシリア!?」

 

「シャルロットさん!?」

 

なんでセシリアが此処に居るの!?

まさか…僕と同じ目的だったんじゃ…。

目で言葉を交わす限りでは、その通りだったらしい。なんだかなぁ…

 

 

 

Ichika View

 

どうやら今度の来訪者はセシリアだったらしい。

作っている昼食は蕎麦だから、茹でる量を少し増やせば良さそうだ。

 

「残る調理は俺がやろう、簪は休んでいてくれ」

 

「最後まで付き合うから、折角一緒に作っているんだもん」

 

「そうか、なら最後まで頼むよ」

 

こうやって台所に並んで立つのも悪くない。

むしろ楽しいと思える。

料理をしている時の簪も楽しそうに微笑む。

それを視界に入れながら俺も存分に腕をふるう。

蕎麦だなんて手抜きの料理にはなるが、盛り付けには多少なりに力を入れてみよう。

 

「~♪」

 

簪が鼻歌を歌いながら葱を切っている。

何の歌だろうかと思って記憶を掘り返す。

そうだ、ずいぶん前に流行した特撮番組だったかな。

この歌が流れてくるということは、本当に楽しんでいるんだ。

簪の笑顔にどうしても目を奪われる。

あの笑顔が好きだから。あの笑顔が、俺の心にどこまでも染み渡る。

 

「…?どうしたの一夏?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

小首を傾げる簪。

それにすら俺は心奪われる。

小動物を思わせるような仕草にすら感じる。

笑って見せると簪は少し不思議そうにしながらもまた笑顔になる。

その連鎖がきっと今後も続いていくことだろう。

 

~~♪~~♪

 

玄関の呼び鈴がまた鳴る。

やれやれ、今日は千客万来なのだろうか。

 

「マドカ、また頼む」

 

「はぁい♪」

 

客人は増えるばかり。

もう少し蕎麦を多く茹でてしまおう。

 

 

Madoka View

 

この家に来る人はお世辞にも少ないとは言えない。

姉さんが第1回モンド・グロッソで優勝し『世界最強(ブリュンヒルデ)』の称号を得てからはこの家は何の承諾も無いのに観光地の一つに入れられてしまった。

その勝手な行動をした企業は姉さんの手によって倒産させられた。

けど、今度は兄さんがISを動かし、さらに拍車をかけてしまった。

兄さんからすれば不可抗力もいいところ。

再びこの家が有名になってしまった。

…もしかしたらIS学園の生徒は全員この家の場所を知っているのかもしれない。

 

もしもそうなら兄さんに余計な負担を与えてしまいかねない。

 

「今度は誰だ?」

 

玄関のドアを開けばそこには鈴とラウラとメルクが居た。

私と同じように兄さんが妹扱いしているであろう三人だ。

この三人は何の用だろうか?

 

「遊びに来たわよ♪」

 

「兄上を驚かせに来てみた」

 

「二人に誘われて来ちゃいました♪」

 

鈴とメルクはともかく、ラウラはどうした?

兄さんを驚かせに、だと?

危害を加えるようなら、いくらラウラでも追い返すべきだろうか。

だがラウラは私の親友でもある、そんな人を追い返すわけには…。

 

 

「冗談だ、兄上と教官の実家に興味があったのでな、さっそく訪れてみたんだ。それに渡しておきたいものがあったからな」

 

「そうか、なら上がって行ってくれ、兄さんが昼食を作ってくれている」

 

「兄上の手料理…」

 

どうしたというのか、急にラウラがトリップしているが…?

 

「あ、気にしないであげて、ドイツに居た頃から一夏の料理に胃袋を掴まれてるだけだから」

 

「…それは知ってる」

 

…そういう事か。

今から思い出してみれば、学園に転入してきたその日に兄さんの料理に夢中になって喉に詰まらせていな。

今作っている料理が蕎麦だと知ったらどうなることか。

それでも夢中になるかもしれない。

おかわりを繰り返し要求してくるかもしれないな。

この前、ドイツでも似たようなことがあったのを目撃したばかりだから殊更に。

なのに縦にも横にも成長しないらしい、そして胸も。

 

「…鈴、メルク、ラウラを運ぶのを手伝ってくれ」

 

「…了解よ」

 

「じゃあ、始めましょう」

 

いつまでもトリップをしているラウラを放置しておくのは悪い気がしたので、いったん中に運搬しておくことにした。

兄さんはこうやって相手の胃袋を鷲掴みにしてしまうんだろうなぁ。

悪いことだとは思わないけど。

私も姉さんも、胃袋を鷲掴みにされているから今更人のことを言えない。

 

「今度は鈴にメルクとラウラだったのか。

…で、ラウラはどうしてるんだ?」

 

居間に戻ってくると、兄さんがてんこ盛りにしたお蕎麦をテーブルの上に持ってきていたところだった。

まあ、この人数であれば仕方のない話だろう。

えっと…兄さんに簪と私、シャルロットにセシリア、鈴にラウラにメルク。

今年の一年生の専用機所有者が勢揃いだ。

一国や二国くらいなら容易に壊滅できる戦力が集まっていた。

 

 

 

Kanzashi View

 

「よし、これで仕上げも出来た」

 

お蕎麦が山のように盛り付けられたお皿を一夏は軽々と片手で運ぶ。

それに驚きながらも私は人数分の食器を運ぶことにした。あれだけお蕎麦を茹でておいたら人数分には事欠かないのかもしれない。

これ以上に人数が増えたりはしないと思う。

お姉ちゃんは今頃は学園の生徒会室にて書類処理の真っただ中。

虚さんは、本音と一緒に今頃は浴衣を選ぶのに大忙し。

千冬さんも今は職員室に居るだろうし。

 

「簪…見ないと思ったら…」

 

「な、なんでキッチンから出てきてますの!?」

 

「え?一夏の料理のお手伝いをしてたからだけど?」

 

セシリアに対して私は何の悪びれもせずに答えた。

今更気づくなんて遅いと思う。

まあ、気づかれない場所で調理をしていたから当然かもしれないけど。

でも、この反応はさすがに無いと思うなぁ。

 

「そういう事だ、昼食の準備をするのに俺から簪に頼んでいたんだ」

 

「じゃ、じゃあ後片付けは僕が手伝うよ!」

 

「い、いえ!わたくしが!」

 

「私がやるから間に合ってる」

 

そう、後片付けにはマドカが先んじて名乗り上げてくれていた。

なのでシャルロットもセシリアも出番は無かった。

こういうところでは私とマドカのコンビネーションが活かされている。

鈴も「ナイスコンビネーション!」とか言ってくれそう。

ラウラは…片づけとかできるのかはわからないし。

 

「後のことを話すよりも、先にお蕎麦を食べようよ。

そうでないと、一夏が作ってくれたお蕎麦がのびるから」

 

その一言で苦情を封殺しておいた。

それからは各自蕎麦をすするズルズルという無常な響きが居間に響き続けていた。

お蕎麦は…うん、美味しい♪

それにこうやって一緒に誰かと料理をするのも楽しいし、自分で作った料理を誰かに食べもらえるのもなかなかに嬉しい。

一夏も静かに微笑んでいる、それが見られただけでも私としては本当にうれしかった。

 

「一夏は山葵を使うんだったよね?」

 

「ああ、まあな。

マドカは山葵を使わないけど」

 

「だって~…あのツーンとくる感覚が嫌だから…」

 

なので、今回のお蕎麦に山葵を使うのは一夏と私とラウラだけだった。

シャルロットは何があったのかは知らないけれど、臨海学校を境に山葵が嫌いになったらしい。

鈴、セシリア、メルクも山葵を使うのを避けていた。

ちょっと勿体無いなぁ…。




集う仲間たち

彼女たちのお蔭で今の居場所がある

もう一度見渡してみよう

その心の奥にあった何かを

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 夏風 ~』

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