IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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久しぶりに彼等の出番です。


陽炎 ~ 疲労 ~

Kanzashi View

 

ドイツでは、いろいろと見て回った後、例の駐屯地に戻ってきた。

ラウラ率いる黒兎隊からの一夏への『お兄様』の呼称は止まることを知らず、とうとう一夏本人は匙を投げてしまっていた。

満更でもない、というわけでもなく、頭を抱えてしまっているだけだった。

そしてウェディングドレスを着ての撮影に関してはわたしとしてはいい思い出に残っている。

一夏本人は苦笑していたけど。

 

「なんか、その…悪いな、5年待ってくれ、なんて言っといてアレだけど」

 

そう言っていた。

 

で、その本人は、今は荒熊隊の人と剣の稽古をしている。

一夏の剣術の技量は、私から見ても物凄いレベル。

現役の軍人で、なおかつ一夏よりも大柄な人相手にも同等に渡り合っている。

一夏の剣は兎に角速い。

時には早すぎて抜刀した瞬間が見えない事もしばしば。

私も薙刀で一夏と試合をしたことはあるけれど、未だに一度も勝てた覚えがなかった。

 

「兄上は凄いな…まるで向上心の塊だ」

 

「その表現も凄いと思う…」

 

黒兎隊のルーキー達はすっかり一夏に夢中になっており、今ではファンクラブのようになってしまっている。

私が一夏の婚約者と知ったら、私のところにも詰め寄られてしまったけど。

 

「あ、また一夏が勝った」

 

途端に黒兎隊のみんなが騒ぎ出す。

荒熊隊の人たちも大騒ぎだった。

これで荒熊隊の人に連戦戦勝だ。

後は…

 

「向こうの隊長であるヴィラルドだけだな」

 

それを一夏も確認したのか、構えが変わった。

左手に握り続けていた鞘を腰に戻し、腰に差していたナイフを逆手に握り、絶影流本来の構えに。

 

「一夏…本気になった…」

 

「それだけ強い相手だからな」

 

試合開始の合図が出され、火花が散るような勢いで一夏が走り出す。

それから幾度もぶつかる軍刀と刀とナイフ。

今度こそ本当に火花が散る。

凄まじい剣戟だった。

それこそ目でも負えない程

一夏が吹き飛ばされる、初めて見る光景だった。

けれど、一夏は地面に刀を突き立て、姿勢を制御。

もう映画の中の光景をそのまま見ているかのようにも思えた。

 

銃器恐怖症の事をこの駐屯地の人はよく知っているらしく、決してそれを出そうとはしない。

一夏と同じように白兵戦闘訓練を積み重ねている。

辛い訓練の筈なのに、一夏はその中でも楽しそうにしているようにも見受けられた。

よほどこの場所が心地良いらしい。

 

「決まった!」

 

「兄上の勝ちだ!」

 

「兄さん、凄い!」

 

一国の軍隊、そのエリート集団らしい部隊の隊長にまで勝利した。そんな一夏がどこか私としても誇らしかった。

きっと、もっともっと強くなろうとするんだろう。

一夏が目指す道のりは遠くて、険しいものだということは私も理解している。

最終的な目標は、世界最強を超える事。

『世界最強』の称号には興味は無いらしい。

そして、人を守れる自分でありたい、と。

 

「ふぅ…本当に強かったな、ヴィラルド中佐…じゃなかった、大佐は…」

 

「お疲れ様、一夏」

 

汗でビッショリになっている彼にタオルとスポーツドリンクを渡す。

早速タオルで顔を拭き、ドリンクを少しずつ飲んでいく。

疲れているはずなのに、その横顔はなんだかとても楽しそうに見えた。

 

「次からは簪もどうだ?」

 

「うん、じゃあ私も」

 

この後にはISでの訓練が控えている。

荒熊隊の後には黒兎隊の皆と。

早速私も機体を展開させる。

私は『天羅』を、一夏は『輝夜』を。

その独特のフォルムに周囲の皆が驚愕の声を上げた。

今までのカタログには掲載されていない最新型だからだろう。

 

「で、最初は誰が相手になってくれるんだ?」

 

誰かが名乗り出るわけでもなく…全員が一歩後ろに下がった。

まあ、これは…無理もないかな…この駐屯地に来た初日がアレだったし…。

余談ではあるけれど、副隊長であるハルフォーフさんは自室でガタガタと震え上がっているとかなんとか…。

その歯止めになるべきだった小隊長3人も同じような状態だとか。

それでこの黒兎隊が瓦解しないのは、ラウラが居るからだろう。

そして誰もが抱いている一夏への恐怖心。

ファンクラブはその人を慕っていてこそのもの、怒らせるのは論外だ。

それを弁えているからこそ、戦うのはお断りなのだろう。

落雷に直撃するのは誰だって嫌だろうに。

 

「どうするの兄さん?」

 

「ここから誰か一人だけを選ぶのも面倒だな…。

よし、それじゃあ、これも訓練の一環だ」

 

そこからは、私も目と耳を疑った。

一度に全員を相手にすると言い始めたからだった。

 

 

 

Ichika View

 

『ほう、ずいぶんとやる気だな』

 

『本気なの、一夏?』

 

脳裏から黒翼天と輝夜の声が聞こえる。

俺はそれに頷いた。

 

本気だ、これくらいできなくては、俺はあの高みを追い越すどころか追いつくこともできないだろう。

だから頼む、力を貸してくれ。

YES、と二つの返事が聞こえた気がした。

 

「試合開始!」

 

ラウラの合図と共に途端に全員がブレードを抜刀した。

俺は俺に対し、上空へと逃げた。

密集している機体に龍咬を向け、スプレッドパルサーを放つ。

密集していたせいで回避が遅れ、あちこちで機体同士で衝突を起こす。

両手に刀を握り、一気に突っ込む。

再び一斉攻撃をしてくるが、宵闇色の龍『ウォロー』がエネルギーフィールドを発生させ、そのことごとくを弾き飛ばす。

赤銅色の龍『ペイシオ』が攪乱し、散らばろうとする機体を再び密集させ、更に金色の龍『レイシオ』が射撃攻撃と情け容赦が無い。

俺はその真っ只中に突っ込み、両手の刀を振るう。

2、3、4機と機能を停止させる。

 

「これ以上はさせんぞ兄上!」

 

「お、やるかラウラ?」

 

「隊長おおおおぉぉっっ!!!!」

 

やはりルーキーでは相手にならない。

エキスパートと訓練を積み重ねてみるか。

 

 

 

Laura View

 

ルーキーは兄上の兵装を見ただけで竦んでしまっていた。

いい訓練になると思っていたが、話にもなりそうになかったので、私が飛び出すことになった。

両腕にプラズマブレードを展開し、兄上の両手の刀と切り結ぶ。

兄上はそれだけでなく蹴り技も編みこんでくる。

やはり強い。

 

「ラウラとの1対1(サシ)での勝負はタッグマッチトーナメント以来だったな」

 

「あのときには私はプラズマブレードだけで相手をさせてもらった。

だが、今回はあの時とは違うぞ!」

 

視線を向ける(AIC発動)

それだけで兄上の動きが完全に静止した。

 

「今度こそ、私が…」

 

「俺は一人で戦っているわけじゃないぜ」

 

ドガガガガガガガガ!!!!

 

「グッ!?」

 

背後からの射撃!?

振り向くとそこには金色の龍が。

だがその瞬間には龍は消えた。

兄上自身だけでなく、この龍達も凄まじいスピードを持っている。

もしもISでレースをしようものならば、後世で誰もが追い越せないような記録を刻み込むほどだろう。

それほどのスピードだ。

 

「懐ががら空きだ!」

 

ドガンッ!!

 

「グッ!?」

 

腹部に凄まじい衝撃、兄上お得意の高速の刺突。

更に続けて同じ個所に衝撃。

これが兄上本来の高速剣術だ。

これは…タッグマッチトーナメント決勝戦での開始直後と同じような状態だ。

今の兄上は決して一人で戦うことが無い。

背中を預けるに足る龍が三体もいる。

三位一体(トリニティユニオン)ではなく、四位一体(クワトロユニオン)だ。

金色、赤銅、宵闇、それぞれ独自の能力を固有しているユニットが常に兄上と連携を組むため、始末に負えない。

 

「くっ!」

 

リボルバー・カノンを構え、兄上に砲撃。

その直後、私は目を疑った。

 

ドガガァン!

 

「な…!?」

 

私が放った砲撃は一度のみ。

だが、着弾点は兄上の少し斜め後方の地面だった。

 

「簡単な話だ、砲弾を斬った」

 

「はぁっ!?」

 

情けない声を出してしまった。

いや、さすがに誰だって驚くだろう。

超高速で飛来する砲弾をたたき斬るなど、だれが予測するだろうか。

シャルロットが使うアサルトライフルの銃弾を斬って捨てる技術でも驚いたが、これほどとは…。

 

「そんなに驚くほどじゃないだろう?

第一回モンド・グロッソでの千冬姉の映像を見なかったのか?

刀でも届かない相手すら斬っていただろう?」

 

「あ、ああ、まるで斬撃を飛ばしているかのような…」

 

 

 

Ichika View

 

俺には、まだそこまで飛躍した技術を持ち合わせていない。

千冬姉の飛ぶ斬撃の射程距離は聞いた話では30m程。

俺でもまだできない技量の違いだ。

練習は続けたが、まだまだ追いつけていないようだ。

だからこそ、俺は0距離での戦闘に更に力を込めた。

その中で出来るようになったのが弾丸を斬る技術だ。

千冬姉が決してやらなかった技術だ。

剣速ならば俺は自信がある。

だから、二刀流でそれができるように鍛え上げた、その結果がこれだ。

飛来する砲弾をたたき斬り、直撃を避けるものだった。

 

「よもや兄上がここまで出来るようになるとは…」

 

「これでも苦労してるんだよ。

シャルロットに見せたあの技術だって確実にできるようになるまでマドカに手伝ってもらっていたからな」

 

「そうだったのか…」

 

「ところで、忘れていないか?

まだ試合途中だってな!」

 

瞬時加速!

両手に刀を構えて一騎に接近した。

ラウラはワイヤーブレードを展開させ、俺の接近を拒もうとする。

だが、そんなものは通じない。

 

「あの時とは違う、そう言っただろう」

 

瞬時加速の勢いを持たせたまま、俺は側面方向へと進行方向を変更させた。

一学期からずっと訓練を重ねてきた加速中の急速反転。

名付けて『瞬時反転加速(リターン・イグニッショイン)』。

そして、それを連続で行いジグザグに走る『連装反転加速(ライジング・イグニッション)』。通常なら、そして並の機体なら搭乗者自身の肉体がこの加速には耐えられないだろう。

だが、輝夜であれば話は別格だ。

搭乗者への負担がまったく感じられない。

むろん、精神への負担はあるが、その程度だ。

加速や完全停止を繰り返しても負担が一切感じられない。

これに関しては輝夜に感謝だ。

 

「くっ!速過ぎる!」

 

ワイヤーブレードも使えない、リボルバー・カノンもこれで封じた。

更に超加速を繰り返す事でAICの使用も完全に封じられる。

超絶的な加速は無敵のシールドとは言われた覚えがある、輝夜はさの無敵の楯に、すべてを貫く刃も仕込まれているというわけだ。

 

「絶影流…『幻月』!」

 

横なぎの一閃がシュヴァルツェア・レーゲンを薙ぎ払った。

この最後の一閃もまた、タッグマッチトーナメントの最後の瞬間と同じだったな。

だが、この一閃だけでは今回の対戦は終わらない。

ラウラがやられたと察してルーキー達が再び騒ぎ出す。

幾つものシュヴァルツがブレードを展開してくるが、俺の剣に追いついてこれるだろうか?

この1対大量の戦闘で、どこまで自分の腕が通じるのか、試してみよう。

それも全力で!

 

「織斑一夏、『輝夜』、推して参る!」

 

さあ、試合再開だ!

 

 

 

Madoka View

 

兄さんの戦闘は本当に凄かった。

世界大会で千冬姉さんでも使いきれなかったという技術を幾つも使いこなしていた。

それどころか、学園では搭乗者自身が危険にさらされるという技術ですら、この数分間だけで何十回も使い続けている。

 

「えっと…『瞬時加速(イグニッションブースト)

連装瞬時加速(リボルバー・イグニッションブースト)

後退加速(バックイグニッション)

二重瞬時加速(デュアルイグニッションブースト)』に付け加えて、

三重瞬時加速(トライイグニッションブースト)

四重瞬時加速(クワトロイグニッションブースト)

瞬時反転加速(リターンイグニッション)』、

最後に『連装反転加速(ライジングイグニッション)

どこまで兄さんは加速するんだろう…」

 

「もう世界大会でも、充分に通用する…というか、だれも追いつけないと思うんだけどな…」

 

兄さんは速さを追い求めているように見えた。

でも、すべてを追い抜いた先には何が見えるのだろう…?

それでも私は兄さんの大きな背中を追い続けるだろう。

簪の少し後ろから。

 

 

 

Kanzashi View

 

更に続くこと30分、とうとう戦闘が終わった。

結果は…やっぱり一夏の一人勝ちだった。

 

「もう無理だ、さすがに疲れた…」

 

「本当にご苦労さま…」

 

そして黒兎隊の面目が丸潰れ…。

ドイツ軍の上層部がこれを知ったらどうなるやら…。

部屋に戻ってからは一夏はしばらくの間は眠っていた。

やっぱりあんな激しい訓練を長時間続けていたら、こうなってしまうのだろう。

 

一夏が目覚めたのはその日の夜、夕食時だった。

 

「それにしても…この一か月は本当に有意義だったな、おかげで俺は新しい技術を身に着けたわけだし」

 

「私もまた薙刀の自信が着いたよ。

ISでの本気の戦闘はさすがに出来なかったけど」

 

天羅に搭乗して本気を出そうものならば、周囲の天候を大きく変動させてしまう。

それによる被害は計り知れない。

銀の福音と戦った時には、本土から大きく離れた海上だったからまだよかった。

内陸などでやろうものならどうなることか…。

だからドイツにわたってきての訓練は、シュヴァルツを相手にしての薙刀での訓練ばかりにしていた。

 

「マドカも訓練は多くできただろう?」

 

「うん、これで一切の隙がなくなった!

…兄さんにはまた負けたけど…」

 

「あ、あははは…」

 

「もうそろそろ日本に戻る頃合い、かな」

 

一夏のその言葉にいろいろと思い出す。

学園での生活や、家の事も。

 

 

 

Ichika View

 

のこり少しで夏休みも終わる頃合いだ。

なら、もうそろそろ戻るべきだろう。

学園にせよ実家にせよ、気がかりはある。

それに更識家、厳馬師範に会う筈が、すれ違いになったままだった。

そして学園。

千冬姉にも料理の練習をするように言ったがどうなっただろうか?

それに篠ノ之、あいつもだ。

考えがまとまったのならそれで良し、未だに考えがまとまっていないのならそれでも良し。

すべてはアイツ次第なのだから。

 

「荷物の準備に移ろう、飛行機で発つのは明日の夕方、日本には朝には到着するようになっている筈だ。

判ったな、ラウラ」

 

「了解!」

 

さて、久々に戻るとしますか。

 




長い時間を修業に費やし、彼は帰還する

だが、帰還した彼はどこか疲れているようだった

その背に負ったものとは…?

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 帰還 ~』

走れえええぇぇぇぇ!!!!

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