IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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ドイツ編は少し短いのです。


陽炎 ~ 赫地 ~

Ichika View

 

荒野の一角に派手な雷が落ちた翌日以降から、俺達の修業は始まった。

いや、雷が後世に語り継がれることになるとは思ってもみなかったのだが、今はそれこそどうでもいい。

黒兎隊の隊員が「お兄様」呼ばわりしてくるのだが…辞めろと言っても聞いてくれなかったのはなかなかに辛い。

学園でも実妹でもないラウラやメルクから、はては最近は鈴までもが俺を「兄」の如く認識している。

いったいどこで何を選んだらこんな事になるのやら。

まあ、嫌われるよりはマシかもしれないが。

しかも俺も半日で慣れ始めてているのには驚愕だ、他人事のように言うのも問題かもしれないが…。

ハルフォーフ副隊長、退役届をしたためる覚悟をしておいたほうが身のためかもしれないぞ。

 

「それにしても、今朝のあれには驚かされたよね」

 

「まったくだ、小隊長3人が歯止めになるべき事態なのに、あいつらと来たら…」

 

ハルフォーフ副隊長ともども雷を落としておいて正解だったと思う。

これにて少しは懲りてくれることだろう。

ルーキー達は「お兄様」呼ばわりを決してて辞めようともしないが、もう放置しておく。

どこか畏怖しているメンバーも居る、俺に敬意を払うメンバーも居る、それでもこの際いいだろう。

荒熊隊は今朝の騒動を知ると想像通りに大爆笑していた。

今後、全力で相手をさせてもらうとしよう。

そして可能ならば叩きのめす。

 

そんなことを考えながらトランク中に入れておいた衣服をあてがわれた部屋のクローゼットに収納しておく。

はたはた疑問なのだが、俺に宛がわれた部屋が、黒兎隊に用意されている隊舎なのはこれ如何に。

男なのだから荒熊隊の隊舎だと思ったんだがなぁ…。

 

簪とマドカは相部屋で、俺の部屋の隣なのだが…それを無視してこちらの部屋に上り込んでいる、別に構わないが。

 

「ふむ…兄上には聊か迷惑がかかってしまったか…」

 

「流石に私もドン退きさせられたからな…」

 

そして今はラウラもこの部屋に来ている。

かつて『ドイツの冷氷』などと謳われた人物とはかけらも思えない。

今では無垢な少女といった雰囲気だ。

その隙に付け込まれてハルフォーフ副隊長に洗脳されてしまっていたわけだが。

 

「今日は兄上の来訪ということで二部隊での歓迎会だったからな、訓練は後日からにしよう。

私のシュヴァルツェア・レーゲンもメンテナンスが終わり、いつでも暴れられる」

 

「そうか、タッグマッチトーナメントでは実感できなかったラウラとレーゲンの本気、見せてもらおう」

 

「とはいえ、ドイツの各所の案内もするつもりだ、楽しみにしていてくれ」

 

「楽しみにしてるね、ラウラ」

 

 

 

それから一週間は、黒兎隊とバスでドイツのあちこちを巡ることになった。

なお、雷を落とされた副隊長と小隊長は留守番を言い渡されていた。

 

よもやオーストラリアに続けて今度はドイツのお偉方と会う機会も訪れるとは思ってもみなかったが。

この国のお偉方は世の中に流れている風潮である『女尊男卑』を笑い飛ばしていたが。

 

そして一週間かけて再び駐屯地に戻り、修業を始めることになった。

 

「来い、輝夜!」

 

慣れたコールで機体が展開されていく。

右半身は黒、左半身には白、そして俺の胴体は純白の白い龍の装甲に覆われる。

そして背中には4対8翼の雷の翼が広がる。

 

 

「相変わらず見事な姿だな、兄上のIS、輝夜は」

 

「そうか」

 

そう言われるのも俺としては悪くはない。

そうこう言う間に俺の両隣にて簪が『天羅』を、マドカが『サイレント・ゼフィルス』を展開する。

そして真正面にてラウラもシュヴァルツェア・レーゲンを展開させる。

福音との戦いでボロボロになった黒い装甲も、まるで一新されたかのようにも思う。

 

「では兄上、よろしく頼む」

 

「了解だ、隊長。

ところで…」

 

俺たち二人の対戦だとわかった途端に湧くわ湧くわ…。

 

指定されたフィールドの周囲には黒兎隊のみなさんが集まってきていた。

そして荒熊隊の野郎共も…。

酷い既視感(デジャ・ヴュ)に襲われたのは俺のせいではない、断じて。

 

断じて

 

重要なことなので心の中で二回も叫んでいる男がそこに居た。

ってーか、それは俺だった。

 

「それにしても、いきなりラウラと対戦か」

 

ガギィッ!

 

ぼやきながらもお互いの刃が激しく衝突していた。

 

「仕方あるまい、兄上の兵装では、第二世代機のシュヴァルツでは話にならないからな。

機動力も兵力も揃ってな」

 

それは確かな話だ。

輝夜は超高機動性を持ちながらも全距離対応が可能な機体だ。

さらには近接格闘、中距離、遠距離からの射撃や砲撃も可能と来ている。

そして今は引っ込んでいるが、自律ユニットによる連携も図れるという非の打ち所のない万能機体だ。

まあ、俺は近接格闘が一番肌に合っているわけだが。

射撃、砲撃はまだ苦手だ。

弓であれば幾分かは得意な方なってきているんだがな。

 

そうこう言っている間に俺とラウラの刃は幾度もぶつかっている。

その数は100回を超えただろう。

これでもまだ序の口だ。

 

全方位から刃が襲ってくる。これはワイヤーブレードだ。

その数は6本、俺は新たにブレードを展開させ、すべて弾く。

先端のブレード部分を薄刃刀で串刺しに、動きを封じてしまう。

これでワイヤーブレードを完全に動かせなくなったと同時に、ワイヤーによって繋がれているレーゲンも動けなくなった。

 

「撃て―――!」

 

やはり諦めないか。

リボルバー・カノンの方向を向け砲撃を仕掛けてきた。

 

油断した。

右足装甲を砲弾が掠めた。

シールドエネルギーがこれだけで5%削られる。

相変わらず見事な威力だ。

だが、リボルバー・カノンは右肩に装備された兵装だ。

ならば、左側面からの攻撃には

 

「撃て―――!」

 

二度目の声。

左肩に新たな兵装が展開される。

あれは…!

 

「ちぃっ!」

 

瞬時加速の途中ではあったが、無理矢理に進行方向を上に向ける。

僅かに弧を描きながら上空に逃げおおせた。

 

「パンツァー・カノニーア…か…」

 

「うむ、左側にも搭載できるように改良を加えてみた。

リボルバー・カノンと合わせれば燃費はひどくなる一方ではあるのだが」

 

「で、どうする?

ワイヤーブレードは使えない、しかも地面に縫い付けたから、方向転換もできない。

左右への砲撃が出来ても、その二門の砲撃兵装は真上や真後ろに向けられないのはあらかじめリサーチ済みだぞ?

このままじゃあ一方的に俺が切り刻むだけで終わってしまうぞ?」

 

「むう…そこまで調べていたか…降参だ…。

よもや私の兵装の欠点そこまで見抜くとはな…」

 

欠点の無い兵装、兵器なんてこの世に存在しないだろう。

それに、情報取集は世の常だ。

だから、ラウラと対戦する際、そして今度こそラウラが本気を出してきた場合に備えて情報を集めておいた。

だが、輝夜に関してはほかの生徒からしても、国家代表候補生からしても未知数な機体だ。

集められる情報にも限りが出てくる。

だが、それに関しては俺も同じだった。

 

「まだ、出来ない…か…」

 

福音との戦いの最中にて二度感じたあの違和感…。

一瞬、景色が二重に見えたアレは何だったのだろうか…?

あの感覚をもう一度…そう思って学園でも幾度となく加速訓練をしてきたが、あれ以来一度も出来ていない。

黒翼天に尋ねても、ウンともスンとも言わない。

…アレは何だったのだろうか…?

 

いつかはまた出来るようになるかもしれないし、二度と発動できないのかもしれない。

それは俺の努力次第だろう。

 

ふと視線を移す。

隣のフィールドでは、簪が黎明をその手に握り、シュヴァルツと対戦をしている。薙刀形態、長剣形態を入れ替えながら凄まじい勢いとパワーで打ち合っている。

さらに隣のフィールドでは、マドカが祈星の大型ブレードを振り回している。

二人とも機体は射撃特化といえるが、近接格闘訓練も疎かにはしていないようだ。

 

 

 

Kanzashi View

 

黎明の持ち手を変える。

それだけで刀剣形態から薙刀形態へと瞬時に姿を変える。

一夏を見習って刀の扱いにも少しはなれるように努力をしてきた。

けれど、結局のところは私には薙刀が肌に合う。

黎明を持ち替え、今度は願星を展開、分割し、薙刀による二刀流へと。

 

「やあああぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

シュヴァルツのブレードと幾度も切り結ぶ。

再び連結、ダブルセイバーにして切り結ぶ。

一瞬の隙を突き、両腰の万雷による砲撃を浴びせる。

でもミサイルはこの際使わない。

これは私の切り札だから。

それを使わない状況ででも勝利したい!

 

「まだだぁっ!」

 

やっぱり現役の軍人、例えルーキーでも第二世代機が相手でもかなり手ごわい。

IS学園の中に閉じこもっていても得られるものは限りがあるのだと今になって実感した。

世界に目を向けないと、一夏のように!

 

「強い…!」

 

「はああああぁぁっっ!!!!」

 

シュヴァルツのブレードを願星で受け止める。

かなりのパワーに手が痺れた。

まだ…まだやれる…!負けてなんかいられない!

 

両腰の万雷を再び起動!

立て続けに砲撃を直接たたきこむ。

そして大きな隙を作り、願星で薙ぎ払った。

これにてなんとか勝利。

残存シールドエネルギーは67パーセント。

やっぱり現役軍人との経験は段違いになるんだなぁ…。

 

 

 

Madoka View

 

私も二人を見習ってシュヴァルツとの対戦に挑んだ。

現役軍人だからだろうか、攻撃に何の迷いもない。

それが驚きだった。

 

「フルバースト!」

 

48基のビットとガン形態の祈星での一斉掃射。

だけど、それは物理シールドに阻まれる。

なら偏向射撃(フレキシブル)へと切り替える。

続けて分散射撃(スプリット・シュート)収束射撃(バースト・シュート)を使う。

シュヴァルツはほかの機体と比べて機動性は劣る。

楯を持ってスピードをさらにダウンさせていればただの的だ。

パワーや重量が自慢の機体だなんて、私からすれば好都合なことこの上ない。

 

「これで終わりだ!」

 

各ビットを高速機動させながらの全方位連続射撃。

名付けて万方射撃(インヴィジブル・シュート)にて撃ちまくる。

やりぃ、ハチの巣だ!

 

 

 

 

Laura View

 

全員の戦いを見てみたが…マドカの戦いが一番えげつなく感じた。

サイレント・ゼフィルスは高い機動性を誇る。

にも拘らず、はるかに機動力の劣るシュヴァルツに全方位射撃によるハチの巣とは…。

だが、兄上もまたえげつない。

レーゲンのワイヤーブレードの射程距離をきっちりと調べていたようだ。

私もまだまだ精進しなくてはいけないな…。

 

「ラウラ、頼みたい事が有るんだが…」

 

「兄上?

構わないが、何だろうか?」

 

「いや、結構無茶苦茶な話にはなるんだがな…」

 

そこから聞いた話は、本当に無茶苦茶な話だった。

誰もが耳を疑うかのような…そんな話だった。

だが、教官もおなじような事をしていたし、その前に兄上はそれを実行し、やり遂げている。

だが、今になってそれができるのかは分からない。

 

「待ってくれ、兄上、それは流石に」

 

「『危険』なのは重々承知だ、その上で頼みたい」

 

「…分かった…だが、少しでも危険だと思ったらその時点でその訓練は無理やりにでも中断させる。

すくなくとも兄上は重大なハンデを背負わされた状態でISに搭乗しているんだからな…」

 

「ありがとな」

 

本音を言えば、そんな訓練をする事自体無茶苦茶だった。

だが、兄上の目標の高さ、そして一度決めたことを決して譲らないのは理解している。

なのに、私は…

 

 

 

 

Ichika View

 

駐屯地の地下施設、俺はそこに訪れていた。

倉庫とはまた別。

ここは災害用のシェルターにも使われているらしい。

 

『本気か、テメェ…!』

 

「ああ、本気だ。

あの時にはお前が力を貸してくれたから乗り越えられた。

今度は…自分の力で乗り越えてみたいんだ」

 

黒翼天の言いたいことは尤もだ。

この訓練は危険を通り越して命がけだ。

だが、それはあの時だって同じだった。

 

「こちらは準備はいつでもいい」

 

「ラウラが相手か」

 

搭乗しているのは見慣れたシュヴァルツェア・レーゲンではなく、二世代機のシュヴァルツだった。

 

「うむ、危険だと思ったらすぐさまこの訓練を中止にする。

例え兄上が待ったをかけたとしてもだ」

 

「…判った」

 

俺の体には特注のダイバースーツに、腰には普段のものとは違う刀が二振り。

足には鉄板入りのブーツを履いている。

両手にも鉄板入りのグローブを着け、これにて準備完了だ。

 

「では兄上…参る!」

 

「ああ、いくぞ!」

 

両腰の刀を抜き、両手に構える。

今は流派がどうのこうのと言っていられない。

ただ純粋な…戦闘だ。

相手はIS、そしてこちらは生身での戦い。

よくて一生ベッドの上、悪ければ挽肉にされることだろう。

それでも俺は退かない。

逃れられない闘いだって世界には存在するのだから。

だから…俺は戦う!

 

「はあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 

で、その日の夜

 

「流石に無茶があったか…」

 

生身状態でISに喧嘩を売るのはやはり無謀だった。

ラウラの操縦技術もあり、なかなかに難しい訓練だった。

おかげであちこち擦り傷切り傷打ち身に打撲。

これ、千冬姉に知られたら…俺、生きてられるかねぇ?

 

「シャワーがしみる…」

 

当たり前だった。

…極力バレないようにしておこう。

それにこの訓練は今後も続けるつもりなのだから。

 

「ようやく、おいついてこれた、かな…」

 

あの高みに…

 

 

それからも俺は訓練を続けた。

ISでの加速、近接格闘、射撃、砲撃、連携などの訓練。

荒熊隊との白兵戦、ラウラとの白兵戦、そして地下施設での特殊戦闘訓練。

そのいずれもがかなり過酷だった。

当然ではあるが、料理の方も忘れていない。

訓練をはじめてから10日間目、織斑家秘伝料理レポートに『バウムクーヘン』が書き込まれるのだった。

いや、どうでもいいか。

 

そして数日後の朝食の時

 

「ねぇ、一夏、日に日に傷が多くなってない?」

 

「そうか?

ISに乗っていても多少はするものだと思うが…」

 

「兄さんは多すぎるの、どんな訓練してたら擦り傷や切り傷が多くなるの?」

 

「…内密にしてくれよ…」

 

話した途端に呆れられた。

いや、過去に一回実戦でやらかしたのだから、今後もできるようになりたいと思ってのことだったからな。

「その向上心は別の方向に向けようよ」

 

「私も簪と同意見」

 

あ、やっぱそうなるか…。

今後は控えておく…のは止めておこう。

 

「一夏?」

 

「…すまん」

 

何故バレるのか…。

この日を境に生身でIS相手に喧嘩を売るのは辞めることになった。

さて、明日には黒兎隊の皆から一番案内したい場所とやらへの移動が予定されている。

まあ、少しだけ、休んでもいいよな…?




少年は故国へと進路を向ける

そして、そこには見慣れた少女たちの姿が見えていた

残り少ない夏休み

彼らの慌ただしい日々の中

だけど時々は休みたくて

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 疲労 ~』

さて、久々に戻るとしますか。

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