IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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愛用していた腕時計がご臨終になられました…orz
使用歴、13年…さすがに寿命か…
ちなみにカシオのG-SHOCK


陽炎 ~ 迅刃 ~

Lingyin View

 

メルクも結構無茶していると思う。

こんな中庭にて西洋刀を抜刀したかと思えば、いきなり篠ノ之に喧嘩を売るとか。

アタシとてあの女に思うところはある。

でも、兄貴が片っ端から水に流しているようなので、下手に手出しが出来ない。

それはアタシもそうだし、メルクも同じ。

簪、ラウラ、セシリア、シャルロットもアタシ達と同様に。

何を思っての事なのかは理解は未だに及ばない。

でも、兄貴には何か思うことがあっての赦しなのかもしれない。

なら、口をはさむべきじゃない。

 

ところ変わって剣道場。

メルクと篠ノ之の試合はこの場にて行われることになった。

互いの手に握られているのは、冗談抜きの真剣だ。

篠ノ之は日本刀を、メルクは両手に大小の十字剣を。

おたがいにとって最も得意な武器だ。

 

「で、審判役はアタシなのね…」

 

「鈴さん以外に居ませんでしたから」

 

「はいはい、やったげるわよ。

その代わり、夕飯はメルクの奢りだからね」

 

「いえいえ、そこは、この試合の敗者が二人分を奢るということで」

 

「私まで賭けに巻き込むな!」

 

まあ、こうなったのが運の尽き、諦めなさいな。

 

「ったく、じゃあ基本ルールとして、お互いに型は自由、どちらかが戦闘不能となるか、降参宣言(リザイン)したら、その時点で終了。

更に敗者は勝者と審判のアタシに夕飯、それも特上洋膳セットと特上デザートを奢る事、以上でいいわね」

 

「よりにもよって一番高いメニューを選びましたか。

まあ、いいですけど」

 

「…承知した…」

 

この勝負がどうなろうと、アタシだけは損はしない。

まあこれだけならいい話だけど、損をしないだけでなく、得をさせてもらおう。

 

「じゃあ…」

 

メルクが左手の剣を逆手に握り、肩の高さに掲げ、右手に握っている十字剣を体で隠す。

そして軽い跳躍を始める。

 

「試合…」

 

篠ノ之は刀一振りを両手で握る。

兄貴と同じように防具を着けていない。それがどこか気に入らなかった。

 

「開始!」

 

 

 

 

Melk View

 

私はこの人が嫌いだった。

初対面の時点で嫌いになった。

アレはクラス対抗戦の時だった。

所属不明の機体が侵入してきた事で、全ての生徒が避難するように指示が下った。

事もあろうにこの人は、そんな中に放送室を占拠、お兄さんに喝を入れようとした。

それが呼び水となり、お兄さんが発作を起こし、病状が悪化、感情を失った。

私は彼女の避難を促そうとしたのに、それを一蹴され、軽傷とはいえ負傷した。

 

続けて学年別タッグマッチトーナメントでの、タッグパートナーを探していた時だった。

私がお兄さんとタッグを組んだのを食堂にてカミングアウトした際、この人は私を指さしてまで『間違い』だと言い捨てた。

その時点で嫌いになった。

お兄さんは顔色一つ変える事無くやり過ごしていましたけど。

…感情を失っていたのは、この際気にしないでおくべきですが。

タッグマッチトーナメントでも、お兄さんとの何らかの約定を交わしていたようですが、アッサリと破断、自分の我儘を押し通そうとした。それも含めて嫌い。

 

そして臨海学校。

お兄さんと交わした約定を反故にして求めた『専用機』を与えられずに激怒、そしてお兄さんと親密な関係にしていた簪さんを斬り殺そうとした。

それはみなさんの助力もあって一蹴しましたが、その後にお兄さんを殺害するにまで至った。

その時点で『嫌い』から『大嫌い』へと変わった。

それでも、お兄さんが彼女を許そうとした。

その理由は私には理解出来なかった。

何故許したのか。

何を以てして赦したのか。

それを知りたい。

だから私は彼女に剣での勝負を持ちかけた。

正直、負けてあげるつもりはない。

かと言って、圧勝するのは容易いけれど、それだけでも意味がない。

 

「まずは、先の非礼をお詫びします」

 

「…?」

 

「貴女を恨んでいないのは本当です。

恨み辛みを吐いたとしても、それに終わりはありませんから、有るのは、虚しさだけ。

だから、私は貴女を恨むのをやめました。

そして、私がおこなった安い挑発、それをお詫びしたい」

 

「…気にしていない、それをするだけの資格は、私には無い」

 

「そう、ですか。

では、改めて…貴女の剣、計らせてもらいます」

 

左手の剣を逆手に握り、肩の高さに掲げる。

右手の剣は体で隠す。

そして軽い跳躍を繰り返す。

お兄さん直々に絶影(たちかげ)流を仕込まれた際に教えてもらった基本的な構え。

お兄さんほどではありませんが、私はこの剣に誇りを持っている。

私の近接戦闘の甘さを見抜いてからも、お兄さんは一生懸命に教えてくれたから。

だから、この剣術は私の一部になっている。

この剣への愚弄は、誰にも許さない。

 

「織斑一夏の一番弟子!

絶影(たちかげ)流二代目、メルク・ハース、最速で…参ります!」

 

 

 

 

Houki View

 

判らなかった。

一夏の心がどこにあるのか。

どこを向いているのかが。

何故私を見てくれないのか。

何故私以外の何かを見ているのか。

私では隣に居られないのかが。

何処で間違ったのか。

いや、そもそも私は間違いを犯したのかも判らなかった。

 

クラス対抗戦の時以降、私に向けられる視線が冷たくなった。

まるで氷のようにさえ思えた。

そして私以外の誰かの元へと視線を向ける。

ただただそれが悔しかった。

一夏の為に、あの頃のように戻りたい、そう思って行動をしたのに、それが受け入れられることもなかった。

まるで、なにかの要因で、そのすべてが悉く裏目に出てしまう。

タッグマッチトーナメント前のあの宣言も、一夏との賭けに転じた。

勝利さえ出来れば、そう思っていたがこれ以上にないほどまでの惨敗を喫した。

一夏との剣術勝負なら勝てる自信もあった。

なのに、本気すら出していない状態の一夏に惨敗し、一夏を慕う者にまで惨敗した。

ただ、あの頃の二人に戻りたかっただけだったのに…。

 

そして臨海学校。

我慢できなかった。

認められなかった。

一夏の隣、その居場所を碌に知りもしない誰かに奪われてしまっていたのを…。

激昂し、真剣で斬りかかった。

それすら裏目に出た。

一夏を慕う者に返り討ちにされ、一夏に刀を突きつけられた。

あいつの瞳に恐怖した。

怒りでも憎悪でも無い。

そこに…『無』を感じ取った。

まるで…私を人として見ていないのではないのかと疑いたくなるほどに…。

 

その後に、作戦が開始され、私も無断で発進した。

一夏の役に立てれたら…私が一夏の隣に居られる、そう思って。

それすらできないのが嫌で…私は意識を失う寸前に打鉄の刀を全力で投げた。

一夏が受け取ってくれたのならそれでいい、これで敵を貫けたのなら、それでもいい。

なのに…それすら裏目に出た。

私は…この手で一夏を殺してしまった。

それを知って絶望した。

もう、一夏の隣に居られないのだと…求めた居場所を自ら壊してしまったのだと…。

 

そう思っていたのに、一夏は帰ってきた。

そして告げられた、一夏の隣には、私は立てないのだと。

そして一夏は私を裁かなかった。

『自由の罪』として。

残酷な告げだった。

もう、私が求めた居場所に私は居られないのに…私を赦した上で何もしない、と…。

 

何故そんな事かできる…?

自分を殺した人間すら許せる強さはいったいどこから来ているのだろう…?

それを知りたい。

だから私は再び刀を手に握った。

あいつと同じ強さになれば、一夏の思いが理解出来ると信じて…。

そして今…その刃を計る者が私の目の前に現れている。

メルク・ハース。

タッグマッチトーナメントでは一夏と真っ先にタッグを組んだ女。

あの頃の私のままなら、問答無用で斬りかかっていただろう。

たとえ初対面であろうとなかろうと、憎しみに染まって刃を首に向けていた。

なのに…今の私には、そんな憎しみも湧き上がってこない。

今の私なら…一夏の高みにたどりつける、そう信じて刃を振るってみよう。

 

「篠ノ之流門下生、篠ノ之 箒、…参る…!」

 

あの居場所に、私が届くその日を信じ、咎を受け入れよう。

お前を殺した私に、お前は自分自身の手で罰を与えなかったその理由、いつの日か教えてくれ…!

 

 

 

 

Limgyin View

 

二人の試合が始まった。

試合の運びはほぼ同等。

いや、メルクが手加減して戦っている。

絶影流のステップを崩すことは無いけれど、篠ノ之の刀を余裕を以て捌いているだけ。

そして蹴り技を一切繰り出さない。

明らかなまでの手加減だ。

一方の篠ノ之もそれには気づいている筈なのに、決定的な一打が繰り出せない。

どれだけ速く刀を振るっても、メルクはそれを捌き、いなし、躱し、受け流す。

『計る』とはよく言ったものだと思う。

それだけじゃない、あの戦い方なら、先に息が続くなるのは篠ノ之だ。

 

「はああぁぁぁぁっっ!!!!」

 

「よっ!はぁっ!」

 

まだまだ続く。

メルクが本気なら2秒と続かないのに…。

まだ続く。

 

「篠ノ之流…」

 

篠ノ之が構えた。

あの技は知っている。

『一閃二断』と呼ばれる高速の剣技。

 

「一閃二断!」

 

でも、考えが甘い。

その程度の速さ(・・・・・・・)では、兄貴にも、ましてやメルクにも届かない。

その証拠に

 

ギギィンッ!

 

右手のと左手の剣で受け流された。

あの程度の速さ(・・・・・・・)なら、対処はメルクにとっても容易い。

そもそも、メルクに剣を教えた兄貴の太刀筋は、あの数倍の速さを誇る。

今の篠ノ之程度のスピードは、メルクにとっては余裕をもって捌ききれる。

千冬さん程の速さに届いていれば、話は別だったのかもしれないけれど。

それでも、兄貴はあの千冬さんを相手に修行していたのだから、きっと千冬さんの太刀筋にも対処ができるかもしれない。

アタシから見れば、兄貴と千冬さんは、かろうじて互角に立っている。

かなりの贔屓を含めた視線かもしれないけれど。

 

そこにたどり着いていないのなら、篠ノ之に勝ち目など有る筈もない。

手加減してくれている状態の兄貴にも勝てないのだから、それすら話にならないけれど。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

とうとう篠ノ之が膝を着いた。

 

目は…諦めに満ちている。

 

 

 

 

Melk View

 

「どうしました?

もう終わりですか?」

 

「くっ…!」

 

篠ノ之さんがとうとう膝を着いた。

目は明らかに諦めている。

なのに…この猛々しい気配は未だに止まらない。

何を思っているのか…まだ見えない。

 

「もう一度訊きます、もう終わりですか?」

 

「まだ、だ…!」

 

刀を杖の代わりにして篠ノ之さんが立ち上がる。

けれどすでに失神寸前。

足は震え、手も覚束ない。

刀を持ち上げるには至らない、なのに、なんでこんな目が出来る…?

この人の本質は…そうか…執念…。

 

「諦めたくないんだ…あの居場所を…」

 

「彼の隣には簪さんが居ます。

お互いが離れるのは、お二人とも望んでいませんよ。

すでに未来を誓い合った身、もう離れることはありません」

 

「私は…あの頃に戻りたかっただけなんだ…!

私は…私は…あいつの隣に居たかったんだ…!」

 

「人は過去には戻れません、ただただ未来を見て歩くしかできないんですよ」

 

左手の十字剣を逆手から順手に握りなおす。

この人は、過去の時代に心を取り残されたままなんだ。

お兄さんは、一学期終了直後に日本を離れたのは…きっと、この人の心が前に進む瞬間を得られることを祈っていての事…。

私がその切欠になったとは思いませんでしたが。

 

「はぁあああああああっっっ!!!!」

 

篠ノ之さんが再び立ち上がり、刀を構えて突っ込んでくる。

 

ガギィッ!!!!

 

その一刀を両手の剣で受け止めた。

今まで受けた攻撃の中では一番重い。

それでも…お兄さんの刃に比べればまだまだ軽い!

 

「…終わらせましょう…」

 

両手の剣で刀を捌く。

一瞬の反撃に対応出来なかったのか、彼女は二歩下がった。

それでも刀を手から離さない。

 

「…構えてください、構えてもいない人を斬りたくはありません」

 

過去の記憶は、もう思い出にしてください。

現在と過去に明確な境界線を引くべきです。

 

「思い出に浸り続けるのは…過去に縛られたままでいるのは、もう止めましょう」

 

思い描くのは、万物をも切り裂く鋭い刃…!

 

「私は…!」

 

「絶影流…中伝…!」

 

左手の剣を逆手から順手に持ち替える。

跳躍からのダッシュに切り替える。

 

左の剣で右下段からの逆袈裟斬りにて一閃、続けて右手の剣で左下段からの逆袈裟斬りにて一閃

刹那にてXを描く二断を叩き込んだ。

 

ギャギイィィンッッ!!!!

 

「…な…!?」

 

「…『鏡月(きょうげつ)』…」

 

ピシリ、と音が聞こえた。

それは、篠ノ之さんの手元から。

 

「…何故、私を斬らなかった…?」

 

篠ノ之さんが握る刀、そこが音源だった。

再びピシリと音を起てて、刃は根元から折れる。

折れた刃は床に落ち、ガチャンと大きな音を起てた。

 

「人殺しはゴメンですから。

それに、今回は貴女を計るのが目的でしたからね」

 

そう言いながら私は両手の剣を両腰の鞘に戻し、拡張領域に収納します。

そして、篠ノ之さんに背を向ける。

 

「それに、私の勝手な推測ですが、今のあなたは、まだまだ考えている途中みたいでしたから。

どのような形になったとしても私は肯定はしてあげませんよ?

あからさまな答えを最初から出すのは良くありませんからね」

 

「メルク、アンタもなかなかに鬼ね…」

 

「お兄さんの厳しい点が移ったのかもしれませんね。

良い事だとは思いますけど。

さあ、勝負はもう着きましたね。

今日の夕飯は、鈴さん共々奢ってもらいますね」

 

「む…わ、私はまだやれ…」

 

「そんなナリでですか?」

 

足が震えていますよ、ついでに言うと手もですが。

それに気付いたのか、とうとう篠ノ之さんが残された刀の柄から手を離し、両膝を床に着いた。

 

「こ、この…く…降参だ」

 

降参宣言(リザイン)確かに聞かせてもらいましたよ。

この勝負、私の勝ちです。

 

 

 

Lingyin View

 

メルクがなかなかに鬼に見えた。

兄貴がメルクに剣術を叩き込んだ際には、あれだけの厳しさが含まれていたのだろうか…?

そんな中、メルクは泣き言の一つも言わずに、兄貴も時に優しく、時に厳しく接していたのかもしれない。

なによ、『自分は人間じゃない』とか言ってたのに、そんな熱さが有ったんじゃないのよ。

 

「いやぁ…長引きましたねぇ…」

 

「アンタがその原因でしょうが、早々に決着をつけてしまえばよかったものを…。

 

「あ、お兄さんからメールです!」

 

「兄貴から!?なんて!?」

 

先程までの雰囲気などどこ吹く風、アタシはメルクの携帯電話の画面に注目していた。

そこには確かに兄貴からのメールが。

 

「明日には帰ってくるそうですよ!

時間は…こちらの時間でいうと、午前8時くらいになるそうです!

簪さんやマドカちゃん、ラウラさんも一緒だそうです!」

 

ようやく帰ってくるのね、あのバカ兄貴。

まったく、アンタが居ないだけでこの夏休みが長ったらしく感じたわよ!

まあ、今回は返ってくる旨を伝えてきたんだから迎えてあげなきゃね。

 

「って何よこの写真は!?」

 

「簪さん、綺麗ですね…。

はやくもゴールインですか…」

 

「早過ぎるでしょうが!

ウェディングドレスだなんて!

しかも隅にちゃっかり『試着してみました』とか書いてるし!」

 

新聞部にでもこの写真を売りつけてやろうかしら!?

 

 

 

Chifuyu View

 

あの二人の試合をこっそりと見ていたが、なかなかに面白い試合だった。

なによりも、『相手を計る』為に剣を振るう者は、そうそうに見たことが無かった。

見事な覚悟、見事な剣だった。

いや、それよりも、ハースは一つの課題を乗り越えたのかもしれない。

生きていれば、憎しみを抱えることは幾度でもあるだろう。

だが、それは次第に色褪せ、失われていくもの。

こんな短い時間でその憎しみを忘れ、捨てるのは難しかっただろう。

憎しみにとらわれるのは、過去に縛られるのと酷似している。

一夏はそう思って憎しみを捨てろと諭したのかもしれん。

そして、ハースはそれをやり遂げた。

それだけでなく、剣を通して心を見抜いていた。

 

試合会場に使われた剣道場に踏み入れてみる。

その真ん中で篠ノ之は未だに項垂れている。

 

「ハースとの試合はどうだった、篠ノ之?」

 

「…一太刀も届きませんでした…あの技すら…」

 

篠ノ之流居合『一閃二断』

一夏も私も会得している技だ。

尤も、一夏はそれを更に改良を重ね、二刀流、時には抜刀居合として絶影流の技に取り入れている。

ハースが先に見せた技がそれなのだろう。

絶影流の神髄はその速さにある。

先手を奪い続け、後手をも与えない。

そしてその速さと連撃によって相手に攻め手を与えず、自分の隙を無くしていく。

1対1の戦いならば、この学園で対処出来る者は数えるほどだろう。

その中の一人が私だが。

 

「私の剣は…一夏にも届かない…」

 

「そうだな、見据えているのものも、世界も違うかもしれない。

少なくとも…過ぎ去っていった過去を見たとしても、それに浸るのは辞めているのだろう」

 

そう、あいつは今も走り続けている。

感情を失っていた時には、その足の運びは遅くなってしまっていた。

だが、それでも立ち止まらなかった。

ひたすらに走り続けている。

 

「諦めるのか?」

 

「隣に立てないのだとしても…私は…。

すみません、まだ私には時間が必要になります…」

 

「考えろ、それをやめるのはまだ早すぎるからな」

 

「…はい…」

 

床に転がった刀を見てみる。

その刃は、一時は曇ってしまっていたようだが、今はその輝きを取り戻している。

皮肉なものだ、刃を圧し折られて初めて刃らしい輝きを取り戻せるとは…。

 

一度は鈍になった刀であろうとも、炉に入れ、鎚で鍛えなおせば、刃は取り戻せるのだろう。

ただ、それが遅いか早いかの違いが有ったとしても…。

 

「追いつけないのだとしても、(未来)へ歩き出すことをやめるな。

今日が…その最初の一歩目だ」

 

「…はい…」

 

そうだ、停滞は出来ない。

…私もな…。

 

告げるべきことは告げた。

なら、私が出しゃばるのは此処までだ。

 

そう思い、私は剣道場を後にした。

 

「織斑先生!や、やっと見つけましたよ!」

 

「何の用だ、山田先生?

教師たるもの廊下で騒ぐな、そして走るな!」

 

「そんな事を言っている場合ですか!

調理実習室はどうされるつもりなんですか!」

 

…折角記憶から消してしまおうと思っていたものを…!

 




荒野への落雷

それが彼の修行の始まりになった

両手に白と黒

そして背中に雷の翼を広げ、彼は空を駆け巡る

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 赫地 ~』

ようやく、追いついてこれた、かな…

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