IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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最近一夏君の出番が無いですが、武者修行をしているのです

あ、ストックが切れました。
これから不定期更新に入ります。


陽炎 ~ 流星 ~

Melk View

 

夏もどんどん過ぎていきます。

噂に聞いていた以上に日本の夏は暑いです。

蒸し暑いです。

日本で数年間過ごしたという鈴さんとて、この暑さではダウンしている様子。

かくいう私もダウンしています。

この暑さはうんざりです。

ドイツに居るかもしれないお兄さんはどうしていることやら。

 

「お二人ともすみません、少量とは言っても手伝ってもらって」

 

「いえいえ、この部屋は涼しいですから、とても休まるんですよ…」

 

この生徒会室は冷房が完備されていてとても極楽です…。

とは言っても…目の前には紙の束。

これ全部が生徒会長さんの仕事らしいですが、この部屋で涼ませてもらえるのなら安い話です。

書類仕事といっても、私や鈴さんにあてがわれている書類は、生徒会長さんに比べれば至極少ないです。

当の生徒会長さん本人はゲッソリとしながら書類を片付けていますが…。

目の下のクマが酷いことになっているのは、多分私の気のせいなのでしょう。

 

「にしても…よくまあ、こんな量を溜め込んでるわよね…」

 

「ですよね…まるで一学期だけでなく、昨年の書類も片付け忘れていたかのようにも思えますよ」

 

「実は~、その通りなんだよね~」

 

鈴さんも本音さんもぼヤきながら仕事を片付けています。正直驚き半分あきれ半分ですけど。

とはいえ、美味しいお茶と、美味しいお茶菓子と、程よい冷房の三つがついてきていますから、文句はそんなに言えないんですけどね。

 

「ん~…終わりました~…」

 

「こっちも、よし、終わり!」

 

私と鈴さんは同時に書類仕事が終わり、軽く伸びをする。

私も鈴さんもどちらかというとスレンダーなので、特に目を引くことはありませんけど。

 

「メルク、アンタ失礼な事を考えなかった?」

 

「何の事ですか?」

 

鈴さんて時折凄まじく勘が鋭いですよね…。

 

「お疲れ様です、お二人とも。

お疲れでしょうから、もうしばらく生徒会室で涼んでいってください」

 

「「是非とも!」」

 

文句なんてありません!

この生徒会室で涼ませてもらいます!

内心ガッツポーズをしながら鞄の中から持ってきた雑誌を広げてみる。

そこに書かれているのは、日本の各地に伝統として受け継がれているらしい料理やお菓子の類。

 

ドンッッ!!!!

 

夏休みに入って恒例の調理実習室の爆発音をスルーする。

 

先日はセシリアさんでしたから、今日は織斑先生の番でしょう。

この音に慣れてしまった私も、世の中の非常識な出来事には鈍くなってきてるかもしれませんね。

 

「はい、もしもし、虚です!」

 

虚さんは突然鳴り出した携帯電話をワンコールで応答。

相手はどんな人なのかは知りませんが、鈴さんの話では男性とのこと。

鈴さんが更に言うには両想いらしいですけれど 、会う暇が無くて文通や、今の様に電話での会話が大半らしい。

虚さんの横顔はツヤツヤと輝いて見えた。

あれは簪さんと同じような風にも見受けられます。

 

「はい、それでは、またの機会、夏祭りにてお会いしましょう♪

楽しみにしています♪」

 

そして通話を終えてから

 

「さてとお嬢様」

 

先ほどまでの雰囲気が一気に消失し、今度はまるで吹雪のような雰囲気を漂わせ…

 

「残りの書類――――枚、処理を急いでください」

 

枚数に関しては聞き間違いだと思いますので聞かなかったことにしました。

隣で鈴さんが顔をギョッとさせているのも、本音さんが苦笑しているのもスルーします。

 

「虚ちゃん、もう許して…もう、手が動かない…」

 

「緊急の書類、最優先して回していますがまだ本日のノルマの3割も届いてませんよ。

さあ、今日の仕事はまだ終わっていないのですから処理を急ぎますよ」

 

そういう虚先輩は、今日のノルマをもう消化していますから、楯無先輩にズバズバと意見を申し立てています。

あれ?どっちが生徒会長でしたっけ?

楯無先輩、でしたよね…?

 

「一夏く~ん…簪ちゃ~ん…早く帰ってきて書類仕事を手伝って~…」

 

…え~っと…。

こういう場合はどうすればいいんでしょうか。

 

「鈴さん…」

 

「ま、まあ…その…取り敢えずは見て見ぬ振りでもしときましょ」

 

「で、ですね…」

 

仕事をサボっていたらしいですから、そのツケでしょうね。

 

「じゃ~お菓子でも食べてよっか~」

 

「本音はダメよ」

 

「うぇ~ん…」

 

本音さんは、なんだかとんでもない悪戯をやらかしたらしく、お菓子やオヤツは半年抜きにされているらしいです。

いったい何をやらかしたのやら…。

教えてもらおうとしても、逃げ出されているので、聞ける機会が無いです。

 

ドンッ!!!!

 

やれやれ、またですか。

料理研究会の人にも本音さんにも、生徒会長さんにも同情しますよ。

 

「ねえメルク、この料理に今度挑戦してみましょ」

 

「肉じゃがですか、なかなか美味しそうですね♪

あ、でも私は鈴さんの作る中華料理にも興味があります!」

 

「アタシに料理勝負でも挑もうっての?

返り討ちにしちゃうわよ?」

 

「なら私は日本料理で挑みます!

裁定は…お兄さんと簪さん、それとマドカちゃんに頼んでみましょうか」

 

お兄さん、お願いしますね♪

 

 

 

Lingyin View

 

この生徒会室は至極涼しい。

日本の暑さが苦手の私でも、この部屋なら極楽だと言える。

そして生徒会室備えの冷蔵庫から持ち出したのは新しいアイスクリーム。

これまた程好くキンキンに冷えていていい感じ…。

 

「はぁ…おいしいです…」

 

「ホントよねぇ…」

 

でも食べ過ぎると…

 

「頭が痛いです…」

 

そう、アイスクリーム頭痛なるものが襲ってくる。

 

「勢いよく食べるからよ…なんかラウラを思い出すわね…」

 

あいつは転入初日に一夏に誘われてお昼を同席していたけど、いきなり喉に詰まらせていた。

やってることが子供だわ。

アタシ達がこうやってアイスを頬張っている間、本音は正座して我慢の一時を過ごしている。

涎を垂らしているけれど、分けることもできない。

現に虚さんがものすごい視線を向け、それに気づいた本音は涙目だ。

どんな悪戯をしたらこんな仕打ちを受けるのやら。

そして虚さんは有言実行、キッチリ半年オヤツ抜きにさせるつもりなのはアタシだって理解出来る。

 

「リンリン~…」

 

「いや、無理だっての…」

 

隣ではメルクがアイスを満喫し終えていたらしく、カバンの中から一冊の本を取り出す。

どうやら料理の本らしい。

イタリア料理かと思いきや、その中身は和風料理ばかり。

メルクも一夏の料理を味わったことがあるから、それを境に虜になっているとか。

それに関しては何も言うつもりは無かった。

織斑家の台所はアタシも何度か出入りしていたし。

 

「こ、これで、やっと4割…」

 

完全にやつれている楯無さんには同情しておこう。

 

「はい、次の書類です」

 

その隣でパフェを食べながら書類の束を渡している虚さんが少しだけ怖かった。

 

 

 

 

 

その日の夕方頃、書類仕事を終えてヘロヘロになった楯無さんを見送り、生徒会室で時間を過ごしていた。虚さんは、書架から一冊の本を取り出してペラペラとページをめくっていた。

隣から見せてもらうと、掲載されているのは、浴衣のカタログだった。

 

「どうしたんですか?このカタログ?」

 

「今度の夏祭りには是非とも浴衣を着ていこうと思いまして…。

ふっふふふ…」

 

虚さん、トリップしないでください。

弾はそこまで気の利いた事を言える男じゃないんですから。

「似合ってますよ」なんて堂々と言ってくれませんよ。

しばらく前の兄貴よりはマシですけどね。

はぁ…リア充め…。

 

「お兄さんはいつ日本に戻ってくるんでしょうね…?」

 

「さぁねぇ…本格的な武者修行と、簪と一緒にオーストラリア、ドイツを見て回っているとは思うけれど…」

 

今頃は何をしてるのやら。

 

 

 

寮の門限時間も近づき、アタシもメルクも生徒会室を後にした。

 

「日が沈みかけているから、少しは涼しいわね…」

 

「そうですね…」

 

この時間帯になるとお昼よりはマシだと思うのは現金かもしれない。

でも、熱いのは苦手なんだから仕方ない話。

春や秋のほうがまだいい。

それに嫌な思い出もある。

兄貴のマネをして弾が重ね着をして学校に来て、半日も耐えられずに脱衣を始めた。

しかも教室のど真ん中で。

あんまりにも目にも精神にも悪い光景だったから蹴り飛ばした記憶がいまだに鮮明に残っている。

その瞬間には兄貴も苦笑いしていたな。

 

 

ドンッ!!!!!!

 

「…今日はやけにしつこいわね」

 

「これで何回目でしたっけ?

それも今日だけで…もう面倒になったから数えるのは辞めてますけど」

 

ってーか、ほんとに調理実習で何をやらかそうとしたら爆発なんて起きるんだろうか?

聞いた話だと千冬さんには兄貴から言い渡されているらしいけれど…。

千冬さんの料理の技術、ちょっとナメ過ぎてたんじゃないの?

 

ドォンッッ!!!!

 

今日何度目になるのか忘れてしまったその爆発が、今日最後の爆発音だった。

ホントに何をやってるのよ…。

 

 

 

「成程、そんなことが有ったんですねぇ…」

 

その日の夜、メルクがアタシの部屋に乗り込んできていた。

やっぱりアタシと兄貴の思い出話が気になったらしい。

 

「そういう事よ、それが簪との出会いだったらしいわ。

んで、数か月後にレゾナンスでデートしてるのを偶然アタシ達が見つけて尋問したってこと。

その辺は割愛するけどね。

で、簪の家にも何度かお邪魔したわ、道場に通っていたらしいから、それを見学させてもらっていたのよ。

最初は驚いたけどね」

 

道場の壁が吹っ飛んで、そこから兄貴が吹っ飛んで庭の池に落下したんだから。その時にはアタシも巻き添えくらって濡鼠になったけど。

そう言えば、あの頃のあいつに少しばかり見惚れてたっけ。

手にマメができても、それがつぶれて血が流れてもあいつは決して刃を手から離さなかった。

なのに、笑っている姿を見て…誰かを…皆を守ろうとする兄貴の背中を追い続け、でも離れざるをえなくなって、それでも再会できた時には嬉しかったな…。

一年間も離れても、アタシを『親友』だと言ってくれたのには嬉しくて泣きそうになったのは秘密だけど。

それに、あの二人の幸せそうな笑顔を見て、まだこの関係は続いているんだなとも思った。

そんな二人の笑顔を見て、アタシも笑いあった。

この二人のいる場所が、自分の居場所とも思えた。だから、学園卒業後なんて、まだ考えたくなかった。

これから先のことが、まだ怖い。

 

「でも、どうしようもない、か」

 

きっと卒業後も、アタシの事を親友だと言ってくれるだろう。

それに、二度と会えないわけでもないのだから。

なら、その未来でも一緒に笑い合っていられると信じていよう。

 

「メルクは学園を卒業したらどうするつもりなの?」

 

「まだ考えていませんね…。

できることなら、国家代表候補生から国家代表生とか、国家代表選手くらいにはなりたいですねぇ…。

鈴さんはどうされるんですか?」

 

「アタシも似たようなものかな…。

国家代表はIS学園の生徒全員が目指しているだろうけどね」

 

たぶん、簪も兄貴も。

その為にも日々の特訓は欠かしていないんだけど…今は甲龍はメンテナンス中。

しばらく休んでもらうしかなさそうだったから、剣術をメルクに、それも絶影(たちかげ)流でも教えてもらおうかしら?

 

「まあ、今日はもう寝ましょうか。

明日も暑いだろうけど、課題とかも終わらせないとね…」

 

「私はもう終わらせましたよ?

夏休みはもう半分終わっているんですから、早めに終わらせないと間に合いませんよ?」

 

は、早いわね…。

さすがはテンペスタ…。

アタシはようやく折り返し地点だってのに…。

まあ、メルクのいう通りよね、とっとと終わらせておかないと…。

 

「お兄さん達は課題をどれだけ終わらせているんでしょうねぇ?」

 

「あの三人なら夏休みに入るよりも前に終わらせていそうだわ。

兄貴はISの事に関しては詳しい人間が二人もサポートががいるだろうから問題ないわよ」

 

実際に学園の課題テストでも簪とマドカがサポートしていたから、順位は上から数えたほうが早かったからな…。

操縦技術に関しては、千冬さんの辛口審査で、やや順位が劣っていたけど。

 

「夏休みが終わる前にはもどってくるだろうし 

その時には遊びに行ってみましょうか」

 

「賛成です!」

 

そんな風に話がまとまったところでメルクも退室し、アタシは消灯した。

 

ベッドに飛び込み、目を閉じる。

明日も暑いだろうし、また生徒会室に入り浸ってみようかしら?




灼熱の日々は続く

そんな風に過ごす中、二人は彼女と出会う

そこに憎悪も憤怒も無い

ゼロからのスタート

その一歩目

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 歩始 ~』

あいつの足元にも及ばないわね

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