IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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鈴ちゃんブラコン確定ですね…


陽炎 ~ 心友 ~

Lingyin View

 

「ったく、アンタも無茶するわよねぇ」

 

「今更ですよ、それに私なんてお兄さんに比べてしまえば、まだまだですから」

 

確かにメルクの言う通りだった。

兄貴にくらべれば、アタシ達の剣術の腕前なんてまだまだだった。

兄貴の本気は、臨海学校を終えたその後まで隠されていた。

あの後から一夏は今まで以上に千冬さんに挑むようになったのは周知の事実。

その現場をアタシ達も毎回見に行くようになった。

まあ、兄貴が千冬さんに勝てた試しはまだ一度も無いけど。

それでも、やっぱり悔しい。

兄貴が千冬さんに勝利できなかったのも含めてだけど、アタシ達相手に、絶影(たちかげ)流の奥の手を今まで見せてくれていなかったことを。アタシ達相手じゃ、話にならなかったのかもしれないなぁ。

 

そしてメルクはそれを見様見真似であそこまで技術を挙げてきている。

そのせいでアタシの相棒(甲龍)は満身創痍になっている。

衝撃砲は切り刻まれて大破、装甲もあちこちボロボロになっている。

仕方ないので、整備課に修理を丸投げしておいた。

次に出番があるのは、夏休みが終わる少し前になるらしい。

それに比べてメルクのテンペスタ・ミーティオは装甲があちこち凹んでいるくらいだった。

 

「ったく、水臭いわね…」

 

兄貴が日本に戻ってきたら本格的に弟子入りしてしまおうと決める。

それに関してはメルクも同じだろう。

 

そんな風に考えてふと頭によぎる。

…アタシ、本格的にブラコンに伝染したうえに感染したんだな、と。

それすら今更過ぎるけれど。

 

ドカン!!

 

遠くのほうで何かが聞こえた。

兄貴が外国に旅立った後でもう聞きなれてしまった音だった。

あの方向には調理実習室がある。

そこであの料理オンチ(・・・・・・・)である千冬さんとセシリアが何かに挑戦しているらしい。

 

「今日も派手にやってるわね…」

「料理している間に爆発だなんて、それこそコミックとかの世界での話だけだと思うんですけど」

 

「甘いわよメルク。

とくに千冬さんなんて、素で砂糖と塩を間違える人らしいんだから」

 

「もう漫画の世界ですよね…」

 

そんな人が居るんだ、兄貴が料理に目覚めてもおかしくはないだろう。

そしてその料理は今や簪やマドカにも受け継がれている。

『織斑家秘伝料理レポート』なんて物まで部屋に置いてあるほどだし、今でも料理に熱中しているかもしれない。

それこそ、旅立った先でも。

まあ、向こうにはラウラも居るほどだから、子供だましな料理とかは作ったりはしないだろう。

アタシもメルクも兄貴の手料理を食べさせてもらった経験があるから、すっかり舌が肥えていたりする。

 

「ちょっと様子を見に行ってみます?」

 

「そうしようかしら」

 

さ~て、今回は何を作ろうとして何をやらかしたのやら。

興味半分で見物に行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

調理実習室には、料理研究会の見慣れたメンバーと…彼女たちの足元にてブッ倒れているセシリアが居た。

部屋の中は…見事なまでにアチコチがコゲに覆われていた。

…何をすればこんな事になるんだろうか…。

 

「ねえ、何があったの?」

 

「オルコットさん、カレーを作ってみようと思っていたらしいんだけど」

 

「お鍋の中のお湯がなかなか沸かないからって」

 

「お鍋にレーザーを…」

 

具材を用意するよりも前からソレか…!

セシリア、アタシはアンタを赦せない…。

料理を舐めてるんじゃないのかと思えるあんたのその行動が許せない。

 

「この暑いなかでカレーですか…」

 

「暑い時に熱い料理を食べて暑さを紛らわすってのは日本の一部の風習らしいけど…この床に転がっているケチャップとタバスコは何なの…?」

 

「カレー写真が載っているページを開いて、『色を出すため』とか…」

 

もういい、聞きたくない。

ちなみに、兄貴の場合は、隠し味にカレーに味噌を入れるらしい。

ただ、どんな味噌なのか、どれくらいの量なのかは教えてもらってなかったと思い出す。

それでも…この現場を見たら兄貴も頭を抱えるだろうなぁ…。

って、なんでアタシってば兄貴のことばかりに思考が直結してるんだろう…?

 

「カレーにそんなものを放り込むバカは初めて見たわよ…」

 

こんな考えだったら、シチューを作る際には塩だとかマヨネーズを大量に放り込んでしまいそうな気がしてならない。

 

「代わりに作ってあげますか?

でもその前に…」

 

「そうね、まずは掃除から始めないとね」

 

そこからアタシとメルクも協力して調理実習室の大掃除を始めた。

壁面のコゲはしかたないとしても、床に散らばった食材は、使えるものはきれいに洗って再利用、肉は廃棄するしかない。

終わった頃にはすっかり夕方だった。

その頃にはセシリアも意識を取り戻した。

そこからアタシが派手に説教し、カレーを作ってみせる。

セシリアには、その手伝いをさせてみたものの

 

「痛っ!」

 

指を切ったらしい。

 

「もっと赤くしませんと…」

 

ケチャップもバスコもまとめて没収!

 

「温めるのならわたくしにお任せを!」

 

ビットでレーザーを射出しようとした時点で張り倒して、床に正座させた。

その代わりにメルクを助手に

 

「牛肉切り終わりました!」

 

「野菜も出来たわよ!」

 

「添え合わせのサラダもスープも出来ました!」

 

「じゃあ次!

カレーに入れる野菜を用意!」

 

こんな感じで手際が早く、想像以上に仕事が進む。

そうだ、あれを試してみよう。

 

 

 

Melk View

 

後は煮込むだけ、そのタイミングで鈴さんが鍋から離れていくようなので、気になって後を追ってみた。

鈴さんが向かった先にあるのは冷蔵庫。

扉を開いて中身を確認して取り出したのは…これは?

 

「鈴さん、それは?」

 

「『味噌』よ、日本では料理に使うものとしては珍しくもないのよ。

学食にも定食で『味噌汁』とかあるでしょ?

それに使われているのよ」

 

「こんな白いものだったのですか」

 

「種類はいろいろあるのよ、この白味噌のように、白っぽかったり、黒とか、茶色っぽいのもね。

今回は思うところがあってこの白味噌を使ってみようと思うのよ」

 

「カレーに味噌ってよく使うんでしょうか?」

 

「人によるわね、熟練者レベルなるまでは使おうとも思わないらしいけど」

 

お兄さん程に、ですか…。

 

それから鍋の前に戻り、味噌を少しだけ入れて溶かす。

どんな味わいになるのかは私としては想像ができないですね。

 

「料理研究会の皆さんも驚いてるみたいですね」

 

「な~んかすごい優越感だわ♪」

 

鈴さんがどこか大人げない…。

 

 

 

 

 

それからまた少し煮込む事でカレーが完成しました。

添え合わせには私が作ったサラダとヴィシソワーズも一緒です。

 

「美味しい!」

 

「負けた…悔しい…!」

 

「凰さん!ハースさん!ぜひとも研究会に所属を!」

 

「レシピを教えて!」

 

どうやら大絶賛大人気の様子です。

ですが、私には修行とかがあるのでお断りさせていただきました。

 

「それにしても鈴さんは料理上手ですね」

 

「日本に住んでいたころには家が中華料理屋だったのよ。

兄貴もよく食べに来ていたわ、簪やマドカも一緒になってね」

 

「そうだったんですか…あ、あれ?

中華料理屋で…カレー?」

 

「カレーは一般家庭料理よ、アタシはそっちも得意だったのよ。

今回つくったカレーに味噌を入れたのは兄貴のマネよ。

でも…やっぱりどこか味が違っていたわね…もう少し研究してみようかしら」

 

「お兄さんは本当に料理上手ですね…。

料理上手の鈴さんよりもさらに上手のようで…」

 

料理なら私も得意だったんですけど、こちらも一歩先どころか十歩先を歩まれている様子。

 

そんな風に考えていると、調理実習室の扉が開かれてはいってくる。

気になったので視線を向けてみると…織斑先生?

 

「まあ、それに比べて千冬さんなんて料理の腕前なんて酷いものらしいわよ!

アタシも遊びに行ったときに見た経験があるんだけど、素で砂糖と塩を間違えるくらいなんだもの!」

 

「鈴さん、鈴さん、せめてそこでストップしておいたほうが…」

 

セシリアさんも真っ青になってます。

研究会の皆さんなんて、我先にと実習室から逃げ出してますよ…。

 

っていうか、私もそうそうに逃げ出すべきですよね…!?

 

「ほかにもいろいろと知ってるわよ!

この際だから教えてあげるわよ!」

 

「ほほう、何を教えるつもりだ」

 

「それは勿論、千冬さ、ん…の…」

 

この瞬間に私はセシリアさん共々全力疾走を始めました。

廊下に飛び出し、階段を全力で駆け下ります。

 

「いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!!」

 

鈴さんの凄まじい悲鳴を耳にしながら心の内で敬礼。

 

「鈴さん、せめて安らかに…」

 

「お兄さん、鈴さんを守ってあげてくださいね…」

 

鈴さん、私はあなたの雄姿を忘れません、そして今日の対戦も、料理も…。

そしてそんな織斑先生と一緒に暮らしてきたお兄さんや、マドカちゃんにも尊敬します。

いえ、本当に。

 

 

 

 

 

翌日

 

「ひ、酷い目に遭った」

 

「お疲れ様です鈴さん」

 

「ああいう場合、助けてくれてもよかったんじゃないの…」

 

「織斑先生に堂々と立ち向かえる人ってお兄さん以外に居ると思いますか?」

 

「そりゃあ…居ないでしょうね」

ですよね。

白兵戦が得意な織斑先生に、わざわざ白兵戦を挑めるのはお兄さんしかいないでしょうからね。

お兄さんにも勝てない私では、織斑先生には勝てませんってば。

そもそも、世界大会で優勝するような人に私たち小娘程度では太刀打ちも出来ませんよ。

 

「兄貴はよくあんな人に鍛えてもらってるわね…」

 

「今頃は外国で武者修行をしているんですよね…戻ってくるのは、夏休みが終わる少し前だとか。

できれば空港に迎えに行きたいくらいですけど、正確な日時が判らないと無理ですよね…」

 

きっと簪さんもマドカちゃんも楽しく過ごしているでしょうね。

「夏の終わりには夏祭りがあったわね、誘ってみる?

それまでに戻ってきたら、だけど」

 

「はい!是非とも!

ラウラさんや、セシリアさんやシャルロットさんも誘ってみませんか?」

 

「まあ、いつものメンバーって事ね、それも面白そうじゃない」

 

決定、ですね♪

 

 

 

 

Lingyin View

 

シャルロットとセシリアへの誘いに関しては、アタシも別段に口を挟むようなことはしなかった。

あの二人が兄貴に対してどんな風に思っていたかはアタシも知っている。

臨海学校が終わってからは口止めも無くなったから、知っていることはいろいろと教えた。

さすがに婚約のことはその瞬間まで教えてもらっていなかったから、それに関しては直接本人の口から語ってもらった。

実際、本人達は早々と指輪まで購入していたらしい。

まさかとは思うけれど、外国に武者修行しに行ったついでに衣装だとか式場探しをしてたりしないだろうかとさえ心配にはなってくるけど。

 

「まあ、あの二人はもう折り合いがついているらしいし、いいかな」

 

散々喚き散らした末に納得していたみたいだし。

アタシと同じように失恋をしたんだ、あの二人も強く生きてくれるだろう。

その証拠に、兄貴が旅立つ前には友人として接していたんだから。

 

「そうだ、あの三人も誘ってみようかしら」

 

「誰ですか?」

 

「兄貴の知り合いよ、1組の生徒で『布仏 本音』って娘が居るでしょ?」

 

「お兄さんからは『のほほんさん』って呼ばれてるあの人ですか」

 

「そう、その娘と一緒にそのお姉さんである3年生の虚さんと、二年生の生徒会長もね」

 

しばらく前に楯無さんの姿を生徒会室前から見たけれど、何やらゲッソリとしていた。

その代わりとばかりに虚さんはツヤツヤとしていた。

…多分だけど、弾と何かあったんだろう。

ついこの前も電話をしてみた時には弾も喜色満面で気色悪かった。

別にシャレを言っているつもりは無い。

面白くもなんともないんだし。

 

そうだ、弾と蘭も誘ってみよう。

 

蘭はIS適正が高かったから、IS学園への進学をしようとしていた(・・)

そう、今では過去形の話。

篠ノ之博士の演説が全世界に流れ、蘭も勿論見ていたらしい。

その内容に、さすがの蘭も動揺したらしく、IS学園への進学を急遽取りやめた。

一夏が国際IS委員会の陰謀により殺害されそうになり、そして死の危険を感じ取ったらしい。

実際に、学園の中でも授業に追いつけない生徒のほかにも自主退学や、親御さんからの要望で学園を去った人も居る。

たとえ搭乗者でなくても、専門知識を持っているだけでテロリストから要殺害としてのターゲットにされたり、誘拐される危険性だってある。

搭乗者の身内だから、そんな理由でも十分同じことになりえる、それこそ兄貴の様に。学園に居るのは、そういった危険と向き合う覚悟のある人ばかりだったらいいんだけどね。

 

アタシの場合は、兄貴やみんなと同じ空間に居たかったから。

そんな不確かな理由だった。

だけど、今は違う。

 

臨海学校の時のような事はもう沢山。

アタシも強くなって、兄貴を守れるような強さを手に入れたかった。

 

「鈴さん?どうしました?

怖い顔になってますよ?」

 

「何でもないわ、夏の終わりには祭りにみんなで行きましょうか」

 

「はい♪」

 

でも、少しは気が休まる時を作ってみてもいいわよね、ねえ、兄貴?

 

気晴らしにテレビをつけてニュースを見てみる。

普段はニュースなんて碌に見ないけど。

とあるチャンネルのミステリー番組ではドイツでの事が報じられていた。

『青天の霹靂 辺地に落ちた二色の雷』、と。

 

「…兄貴の仕業ね」

 

「お兄さんの仕業ですね」

 

これは今から三週間前の出来事らしい。

まあ、その頃にはドイツに居るって事よね…?アンタはそこで何をやってんのよ…!?

 




夏はどんどん過ぎていく

だが、彼女たちの夏はいまだに終わらない

その暑さなど吹き飛ばすほどに

風は嵐となって唸る

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 流星 ~』

もう面倒になったから数えるのは辞めてますけど

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