IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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盆休みを満喫中です、できたら連日投稿したいです…保証はできませんが。


少しだけ縮んだ距離

少ない荷物を広げ、判りやすい場所に置いていく。

着替えとかは、クローゼットに入れておけばいいだろう。

教材とかは…本棚に。

そうやって荷物を広げるにも時間はそんなに掛からなかった。

後は…

 

「久しぶりに、連絡を入れようか」

 

自宅でも確認したが、携帯電話の着信履歴は中学の悪友達の名前だけで染まっている。

その中から、俺が選んだ名前は『鈴』だった。

 

あいつ、元気にしてるだろうか?

名前を選び、発信する。

一ヶ月振りに仕事を与えられた携帯電話は、何一つ変わる事無いく、電波を発信してくれる。

コール音が3回。

ようやく相手が応答したようだ、あいつ元気にして――

 

『馬ぁ鹿あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!』

 

ぎぃああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!?????

こ、鼓膜があぁぁぁぁぁっ!!!!????

 

『アンタ今まで何処をのらりくらりとしてたのよぉっ!!

なんで一ヶ月も連絡の一つも入れずにいたのよ!?

それよりも何処に居るのよ!?』

 

「電話口でいきなり怒鳴るなよ。

鼓膜が破れたらどうするつもりだ?」

 

『原因はアンタ!』

 

なんで俺が悪者なんだよ…。

まるで自覚が無いんだが?

 

 

「まあ、鈴が相変わらず元気そうなのはよく判ったよ。

そうそう、あれから都合が有ってな、一ヶ月程外国に居たんだ。

で、今日になって帰国した」

 

『戻ってくるなら、事前に連絡くらい入れなさい!!』

 

だから怒鳴るなよ。

耳が痛いから。

 

「弾や数馬とかは元気にしてるか?」

 

『あの馬鹿二人なら以前と変わらないわよ』

 

そうか、なら何よりだ。

…あいつら、変わってないんだな…。

それだけでも何故か嬉しくかる。

 

『で、一夏はいつから学校に来るの?』

 

「来週の月曜日からだな」

 

『ふ~ん、でもアンタは学校の授業内容に追いつけるの?』

 

…一ヶ月の遅延のハンデは大きすぎるだろうな。

予想はしていたが…今になって現実を実感した。

 

「鈴、頼みがある」

 

『どうしようかしらね~?

駅前の喫茶店、そこのイチゴスペシャルパフェね』

 

ぐあ…!

いきなり財布の中から1500円が吹き飛ぶハメに…。

 

「…考えとくよ…」

 

それを最後に、俺は通話を終わらせた。

よし、次は弾だな。

 

「よう弾、久しぶり」

 

『一夏…?お前、一夏か!?』

 

「他の誰の声に聞こえるんだよ?」

 

『一ヶ月も何処に居たんだよ!?』

 

やっぱりその反応するよな。

これに関しては鈴と同じだな。

一ヶ月も空けていたから無理も無いか。

 

「都合があって外国に滞在していたんだよ。

学校には無断だったかもしれないけどな」

 

『学校の女子も心配してたぞ』

 

なんで女子生徒限定?

今度学校に行ったらどうなるんだ、俺?

 

「弾、お前に頼みが…あ、やっぱりいいわ、辞めとく」

 

『うおぉい!?

なんだその中途半端な物言いは!?』

 

いや、だってお前成績悪かったしさ…。

鈴や数馬と比べても赤点ばっかりだし…。

鈴に頼んであるから、別にいいだろう。

 

「じゃあ、今度の月曜日に学校で会おうぜ」

 

『ああ、また明後日にな』

 

更にこの後、悪友の数馬にも連絡を入れた。

勉強に関しては、一ヶ月の遅れを取り戻す為にも必死になってでも頑張ろう。

それに…今までは成績が並よりも上の順位を死守していたが、これを境に成績不振にでもなったりしたら…更には千冬姉にバレたりしたら…その先は考えたくない。

よし、勉強を頑張ろう、まずは数学からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勉強を続けてからしばらく経った。

窓から差し込むのは夕日のオレンジ色。

もうそんな時間になっていたらしい。

首を傾けるとゴキゴキと不健康な音。

肩が凝ってるみたいだ。

気分転換ついでに外に出てみようか。

 

玄関まで向かうと

 

「あれ?更識さん、どうしたんだ?」

 

「あ、織斑君…」

 

空港で出迎えてくれた更識 簪さんがそこに居た。

ローファー靴に履きかえ、今からどこかに出掛けるのか?

 

「こんな夕方から外出か?」

 

「その…学校に忘れ物をしちゃって…。

週末の課題を教室に置きっぱなしに…それにさっき気付いて…」

 

…今日は俺の送迎とかあって時間も限られていたんだろうな。

なら、俺にも責任が有るだろうな…。

それに、世話になり続けるばかりも良くない。

なら…

 

「学校まで俺が送るよ」

 

「…え、でも…」

 

「今から行ったら、帰る頃には真っ暗になってるだろうし、自転車を使えば早いさ」

 

「…じゃあ、お願い」

 

よし、そうと決まれば善は急げだ。

車庫に入れさせてもらった自転車を取り出す。

更識さんの鞄を前籠に入れる。

サドルに跨がり、更識さんに荷台に座るように促した。

 

「ほら、座って」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

荷台に横向きに座ったのを確認したけど…落ちたりしないだろうか?

それを悟ったのか、俺の服を摘むのが感じられた。

こういう状況に慣れていないみたいだ。

 

「じゃあ、出発しよう」

 

「道、判るの?」

 

「…案内、お願いします」

 

「…いまいち頼りない」

 

すいませんでした、反省します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車を漕いでいる間、何故か沈黙状態が続いていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

…気まずい。

そう言えば、自転車の二人乗りなんて久しぶりにやったな。

千冬姉に、鈴くらいだけど。

あ、それと箒もだったか。

 

「なんで、私の用事に付き添ってくれたの?」

 

唐突な問いだった。

更識さんからの問いは。

 

何故、か…。

 

「世話になり続けるばっかりじゃ男として立つ瀬が無いからだよ。

それに…何と無くだったけど…更識さんが何かに困ってるように見えたからかな」

 

「ほっといても良かったのに」

 

「こういう性格なのかもしれないな、俺は」

 

困ってる人が居たら見逃せない。

それは俺の性だ。

 

「そこを左に」

 

「了解」

 

頼まれた方向にハンドルを切る。

服を掴む力が少しだけ強くなった気がする。

改めて見ると、更識さんの手は俺に比べて小さい。

そして、細く、華奢だ。

軍で…というか、ラウラと千冬姉に鍛えられた俺の手に比べれば、どれだけ弱々しいのかが見てとれた。

 

「織斑君は…」

 

「一夏、だ。

そう呼んでくれ。

千冬姉も居るし、紛らわしいだろうから」

 

「ふぇっ!?

なら…い、一夏…。

私も…その…簪、そう呼んで」

 

「判ったよ、簪。

それで何だっけ?」

 

「…優秀なお姉さんが居るって、どんな気分?」

 

…難しいな。

俺にとってはたった一人の家族だからな。

 

「優秀云々をおいとして…憧れてるかな。

簪はどう思ってるんだ?」

 

あの裸エプロンをして部屋で待ち構えていた女の子。

簪のお姉さんなのかもしれない。

確証は無いけど。

 

「私は…少し辛い。

姉さんは優秀だけど…私はそうじゃないから。

だから…何も出来ない私は…比べられて…辛い…」

 

あの人、そんなに優秀なのか?

部屋で見た様子からは判らないけど…。

 

「IS学園への入学も、もう決まってる。

適性も高かったみたい」

 

「そりゃホントに凄いな」

 

ISに関する学府は世界にただ一つ。

日本のIS学園の一カ所だけだ。

そこへの入学が6月の段階で決まってるとか…どれだけの才女なんだ。

 

「でも、さ。

人間なんだし、苦手な事だってあるだろうさ。

簪も何か得意な事があれば苦手分野もあるんじゃないのか?」

 

「お菓子を作るのは得意だけど…カップケーキとか。

よく食べる人が傍に居るから」

 

「なら、その得意分野を伸ばしてみたら」

 

「お姉ちゃんも料理は得意な方」

 

フォロー失敗した…

 

「姉さんは何でも得意で、何でもこなす。

そんな姉さんが居るのが私には…辛い…」

 

何て言えば良いんだろう。

俺に出来る事で慰めになるような事は…そうだ、これに賭けよう。

 

「明日、さ」

 

「一夏?」

 

「明日の朝に俺が朝食を用意してみるよ。

それで比べてみてもらえないかな?

料理の腕前だったら同年代の人には負けない自信があるから、さ」

 

台所は俺の独壇場。

簪の姉さんが料理上手だとしても、負けるつもりなんてなかった。

10年間の積み重ねなら…。

 

「最初は何かが劣っていても、努力をしていたらいつかは追い越せる。

俺だって剣術は千冬姉に教えてもらってばっかりだったんだよ」

 

「そうなんだ…」

 

「料理の腕前はともかく、剣術だっていつかは千冬姉を越えるさ。

努力は嘘をつかないと思うぜ」

 

「努力は…嘘をつかない…」

 

服を掴む力がまた強くなった。

それどころか、背中に凭れかかってきた。

 

「かっこいい…」

 

「…え?何か言った」

 

「な、何でもない!

そこを左に曲がって!

それからまっすぐだから!」

 

「…?

ああ、判ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから簪の学校に到着し、校門前に来たが…。

 

「一夏は此処で待ってて」

 

「此処で?」

 

「…ここ、女子校」

 

…そりゃあ俺は入れないよな。

大人しく待っておこう、居心地は悪いけど、それも一時だけだ。

我慢だ、俺。

 

 

 

Kanzashi View

 

忘れ物を一人で取りに行くつもりだった。

なのに、彼はあんなにも簡単そうに私との同行を提案したんだろう。

今になって彼の言葉が私の頭の中に繰り返して響いていた。

 

「い、ち、か…」

 

名前を呟くだけで、胸がドキドキする。

屈託の無い微笑みに、顔全体が熱くなるのを感じた。

自転車に乗せてもらった時に、最初は服を摘むだけだったのに、いつの間にか、彼のシャツを掴んでしまっていた事を思い出す。

 

「どうしたんだろう、私…」

 

空港で出会ってから、彼の事ばかり考えてる。

 

「こんなの…初めて…」

 

男の子と触れ合う事すら全然無かったのに、どうして私はあの時に…?

 

判らない

 

誰に訊けば、このドキドキの答えが判るのだろう?

姉さんには訊きたくない。

本音や虚さんにでも訊いてみよう。

 

 

 

 

 

Ichika View

 

…やっぱり居心地が悪い。

この女子校の生徒から妙な視線を向けられてばかりだ。

だが、あからさまに声をかけてくる人は居ない。

物珍しさに視線が向かっているだけだ。

 

「別のところで待ち合わせをすれば良かったな…」

 

校門前は悪目立ちしているだけだ。

でも、此処で待つように言われているし、仕方ないか。

 

「お待たせ」

 

「お帰り、簪」

 

簪が学校の中から戻ってきたが、何やら顔が真っ赤になっている。

熱でもあるのか?

 

課題を自転車の前籠に入れ、荷台に座る。

そして俺の服を掴む。

 

「早く、出して!」

 

「りょ、了解だ」

 

簪の強張った声に、俺はペダルを踏み込む。

それに応えて自転車はスピードを速めていく。

後ろを向くと

 

「なんだアレ?」

 

女子数人が俺達を指差し、キャーキャーと騒いでいた。

自転車の二人乗りを咎めているのか?

もしそうなら、自転車は簪に預けて俺は走って帰るか?

 

「早くして!」

 

「お、おう!任せろ!」

 

そうも出来ないようだったので、俺はペダルを踏み込む力を増す。

それも全速力だ、簪には悪い気はしたが…『速くして』と言ったのは簪だ、恨まないでくれよ!

 

「おおおおりゃあああああああああ!!!!」

 

「ひぃやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

暑苦しい叫び声とどこか気の抜けた悲鳴が夜の闇に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

戻ってきたころには、外は薄暗くなっていた。

太陽の光なんて、それこそ西側に微かに見える位だ。

そんな空の下、自転車に二人乗りでさらには全速力で駆け抜けた。

こんな経験は滅多に無い為、俺も流石に疲れた。

目の前には更識家の屋敷が見えていた。

 

「簪、到着したぞ?」

 

「…………」

 

…気絶していた。

スピードを結構出していたのは否定しない。

なにせ全速力だったのだから。

気絶させた事に関しては俺が悪かったと思っている。

それにこのままにしておくのはことさらに悪い気がする。

屋敷まで運ぼうか、部屋はわからないから、俺に宛がわれた部屋にでも運んでおこう。

 

とはいえ…

 

簪の両腕が俺の胴にまわされ、そのまま固まっているわけで…

 

「仕方ないか…」

 

体の向きを何とか変え、そのまま簪の膝裏に手を回す。

そのまま彼女を背に負ぶさった。

靴は…部屋に戻ってから脱がせよう。

このまま脱がせるのはまた難しそうだし。

 

 

 

 

 

「おりむ~、やほ~」

 

「よう、ただいま」

 

「はりゃ?どっかに出かけてたの?」

 

「俺の用事じゃなかったんだけどな」

 

背に負ぶさった簪の姿を見せると…妙な視線を向けられた。

ニヤニヤと、それこそ「今からあなたをからかいます」といいたそうな目で。

 

「ほうほう、おりむ~と~、かんちゃんは~、お楽しみだったんだね~」

 

「一応言っとく、簪が忘れ物をしたから、俺が同行を申し出たんだ。

それだけだぞ」

 

「もう名前で呼んでるんだね~♪」

 

「仇名で呼んでるのも似た様なものじゃないか?」

 

「お~♪一本とられた~♪」

 

わかりきってて言ったんじゃないのだろうか…?

まあ、親しみやすいタイプではあるから構わないけど。

 

「一本とられたついでに簪の部屋まで案内を頼めないかな?」

 

「かんちゃんのお部屋~?おりむ~、もしかして~♪」

 

前言撤回、君は俺を何だと思っているんだ。




お盆休みですね、皆さんはどんな風に過ごしていますか?
レインスカイは不眠症と悪い付き合いをしながら過ごしています。

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