IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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久々に彼女たちの出番です。


陽炎 ~ 荒野 ~

Kanzashi View

 

オーストラリアの旅は短かったけれど、なかなかに楽しめた。

なんだかお姉ちゃんが可哀想だったけれど、これでイタズラに関しての罪状は帳消し…かな…?

 

「それにしても…あっという間だったな」

 

「だよね、でも楽しかった」

 

虚さんや本音の為にもお土産は購入した。

きっと喜んでくれると思う。

それに…マドカと一緒に選んだあるものも一夏に渡そうと思っていた。

けれどそれは、ドイツにわたってからにしようと思う。

きっと一夏も受け取ってくれると思うから。

 

「えっと…到着ロビ-は、と」

 

「あそこみたいだな」

 

一夏が指差す場所には、確かに『到着ロビー』の文字が見えた。

手をつないで一緒にゲートをくぐる。

そしてそこには見慣れた姿が

 

「おかえりなさいませ、簪お嬢様、一夏さん、マドカさん」

 

虚さんだった。

でも何故だろうか、雰囲気がいつもと違う。

その証拠に額には青筋が十文字どころか大文字に浮かんでいた。

 

「楯無お嬢様…!」

 

「あ、あははは…ただいま、虚ちゃん…」

 

うん、原因はお姉ちゃんみたいだった。

漫画とかではこういう状態ではにこやかに出迎えてくれる…筈なんだけど…今の虚さんは、そんな生易しい状態なんかじゃなかった。

こめかみに更にもう一つ青筋が十文字に…どころか大文字に浮かびあがった。

 

「さあお嬢様!お屋敷に戻りますよ!

目を通していない書類が386枚!学園からの書類が229枚!

さらには緊急の書類が385枚!

合計1000枚の書類にお目通しをお願いします!」

 

「そんなに有ったかしら!?

夏休みに入った頃には100枚程度でそれを済ませておいたのに…」

 

「お目通しをお願いします…!

それが今日の最低ノルマで」

 

今日の最低ノルマ(・・・・・・・・)で1000枚!!??…助けて、簪ちゃ~ん…」

 

そのままお姉ちゃんは虚さんに引きずられていった。

 

「本音、これオーストラリアのお土産」

 

「わ~い!」

 

 

虚さんに同行してきていたらしい本音にお土産を渡した。

ただし、中身はお菓子じゃないけど。

 

そして今度は別の便に乗り、ドイツに直行に乗る。

なんだかあわただしい旅だった。

けど、一夏が一緒なら私は何処にだって行ける気がしていた。

あの大きな背中を支え続けるのは私の特権だから。

 

「さっそくだけど、行ってくるね、本音」

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

ラウラから貰ったチケットを使い、また私たちは飛行機に乗り込む。

…またファーストクラスで一夏は落ち着かなかったみたいだけど。

 

「兄さん、ファーストクラスにそろそろ慣れたら?」

 

「それは判ってるんだけどな…」

 

先日の便で学習したらしく、シートに座り、そそくさとベルトを締めていた。

私はその隣に、マドカは向かい合う形でシートに座った。

そうしている間に飛行機は離陸し、青い空に飛び立つ

 

「ねえ一夏、ドイツってどんな所なの?」

 

「俺もあちこちをうろうろした訳じゃなかったからな…。

シュヴァルツェア・ハーゼの駐屯地が結構な辺地だったからな…、

よった場所といえば空港のあったバイエルンくらいしか知らないよ」

苦笑とともにそんな答えが返ってきた。

なら、今度は一緒に思い出を作ってみよう。

ラウラも一緒に来てしまうかもしれないけど。

 

「ビールが有名な国だけど未成年の私たちには関係無いだろうしなぁ」

 

千冬さんなら喜んで飲んでそうな光景が脳裏に浮かんだ。

 

「時差は日本の標準時間からマイナス八時間だ。

改めて設定しなおしとけよ」

 

「「は~い♪」」

 

今度は皆がそろって何も知らない場所。

どんな思い出ができることだろう。

とは言っても、駐屯地からはあまり出ることはなさそうだけど。

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

簪がのほほんさんに渡したのは、一冊の本だったな…。

一時期、オーストラリアで流行ったらしいドラマで、例の孤児院に来訪していたらしい教師がハマっていたとか。

子供達に妙な言葉を吹き込んでしまったようだが、そのドラマの原作となった小説らしい。

タイトルは…『狂おしき愛の叫び』だったかな。

ドロドロの愛憎劇を思い浮かべてしまうのはタイトルのせいであって、俺が悪いわけではないだろう。

なお、後に原作者であるイルヴェルト氏は、この作品の執筆を『若気の至りだった』と恥じているらしい。

そんな作品がオーストラリア全土で放送され、大人気になったのだから世の中は理解が出来ない。のほほんさんに悪影響が出ない事を祈りたい。

あの本は枕にでも使ってほしい。

購入した張本人である簪も、所持を迷ったのだろうけど。

 

 

 

そんな話はさておき

 

ドイツに向かうのはこれで二度目になる。

今回の目的はあくまでも武者修行だ。

ドイツにて結成されているシュヴァルツェア・ハーゼを相手に自分の実力が通用するのかも知っておきたい。

世界最強の軍である彼女等に、どれだけ立ち回れるだろうか。

とはいえ、アラスカ条約で触れてしまわない程度でしかない。

昨今目立つのは災害救助に駆り出されるパターンだ。

 

あくまで力を振るうことはしない。

力を見せるだけだ。

人間ではできないような作業とて、パワードスーツであるISであれば容易にこなせるのだろう。

しかし…気になる点もある。

ハルフォーフ副隊長からの言伝だ。

『見せたいもの』って何だ…?

本当に嫌な予感がしてならない。

 

「ラウラの部下のシュヴァルツェア・ハーゼってどんな人達なの?」

 

「IS学園の生徒と何ら変わりはないさ。

『女尊男卑』だなんて風潮に踊らされないだけマシだけどな」

 

あいつらはあんなくだらない風潮に踊らされることは決して無かった。

だから、二年前も、俺とてなんなく馴染めたんだ。

あそこは…一時だけではあるが、俺の居場所でもあったのだろう。

そうだ、ヴィラルドさんは元気にしているだろうか…。

荒熊隊の皆とも手合わせをしてみたいな…。

 

「兄さん!この飛行機にもダーツがあるから勝負しよう!」

 

「俺に勝ち目があるわけねぇだろう…」

 

自分の荷物は自分で持ちなさい。

さてと、この飛行機は信じられないことにもドイツまでノンストップだ。

ドイツの最先端科学技術は素晴らしいものだ。

じゃあ俺は…心置きなく昼寝三昧としますか。

 

 

 

Kanzashi View

 

一夏はまた飛行機の中で眠ってしまっていた。

先の飛行機の中では、あまり眠れていなかったわけでもないのに…次の目的地がよく見知った場所だから安心できているのかもしれない。

ドイツではあんまり駐屯地から出た試しが無かったらしいけれど、友人関係になれた人が多かったのかもしれない。

外国に友人が多くいるだなんて、私からすればなんだか羨ましい。

IS学園でもそうだったけれど、一夏はそこそこ友人が多い。

学園に入学してからは、国外の人ともわだかまりが無い…とまでは言えないけれど、会話ができている人が多い。

…何故かはわからないけれど、ラウラやメルクのように一夏を『兄』として慕う人も居る…。

上級生にはさすがに交流が無いみたいだけど。お姉ちゃんを除けばの話。

これから向かうドイツ軍駐屯地には、同世代はもちろん、年上の人も居るらしい。

そういった人とはどんな交流をしてきたのだろう。文通をしているだけでは知りえない何かがあるかもしれない、それも含めて楽しみだった。

「楽しみ、だなぁ…」

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

丸一日でドイツに到着し、ベルリン空港に着陸。

今回ばかりは刀もナイフも包丁のセットも金属探知機でひっかかり時間を取られることもなかった。

事前に話が通されていたのか、完全にスルーされた。

まあ、前回みたいなことにならなかっただけマシというものだろう。

 

「一夏?どうしたの?」

 

「いや、二年前は苦労したな、と思ってさ」

 

「何があったの?」

 

「…あんまり知られたくない話だからノーコメントだ」

 

さすがに行きも帰りも金属探知機に引っかかって時間取られたとか言いたくない。

っつーか知られたくもない。

…で、この空港には迎えは来ているのだろうか…?

 

到着ロビーをざっと見まわしてみる。

…居た。

見覚えのある銀髪、それに黒い眼帯。

ラウラだ。

 

「兄上ぇっ!こっちだぁっ!」

 

ラウラが元気に耳を…じゃなくて手を振っている。

それも両手を。…子供かよ。

いや、精神年齢は子供なんだよな、あいつは。だからハルフォーフ副隊長の洗脳をたやすく受けてしまう。

もう今更なのであきらめていたりするのだが。

 

「…やれやれ」

 

「ラウラらしいね」

 

「っていうか…悪目立ちしすぎだと思う」

 

まあ、それも今更なのだが。

 

国際空港はやはり人ごみがひどい。

それを掻き分けながらロビーを歩き、ラウラの居る場所に到着する。

 

「ドイツへようこそ、兄上、姉上、マドカ」

 

「しばらく世話になる」

 

「よろしくね、ラウラ」

 

「よろしく~」

 

チャラいぞマドカ。

まあ、いいけどさ。

 

それから俺たちは空港前に待機されていたジープに乗り込み、俺が一か月間もの時間を過ごした駐屯地へ向かうことになった。

とはいえ、時差の影響で簪とマドカは熟睡してしまっているが。

 

「ドイツは久しぶりだな。

まあ、俺はともかくとしてこっちの二人は初めてだからな、あちこち連れて行っておきたいと思う」

 

「承知した。

シュヴァルツェア・ハーゼの誰かに依頼しよう」

 

「そうそう、思い出したんだが…ハルフォーフ副隊長が言うところの『見せたいもの』ってのは何だ?」

 

「それはついてからのお楽しみだ」

 

本当に嫌な予感しかしないのは何故だろうか。

場合によっては雷を落とす準備をしておこう。

 

 

 

まあ、結局はその日は、駐屯地に向かうよりも前に眠ってしまった二人のために、市街のホテルに泊まることになったが。

 

 

Kanzashi View

 

ホテルに一泊してからその翌日、私たちは再度ジープに乗り込んでから駐屯地に向かうことになった。

私たちのせいで出発が遅れてしまうことになったけれど、一夏はまるで気にも留めていなったのでほっとした。

今は私も一緒になって話に花を咲かせていた。

ドイツの文化とかにもラウラはくわしかったりするので、そのあたりの話をいろいろと教えてもらっていた。

ほかにも、駐屯地で一夏がどんな風に過ごしていたか、とかの話も教えてもらった。

専ら剣術の訓練に費やしていたのと、厨房での食事の用意が大半だったとの事。

そして…一夏が生身でISを打倒した話なども教えてもらった。…最後の話に関しては、正直…信憑性もなかったけど。

「それが私と兄上の第二ラウンドといったところだったそうだ。

兄上は勇敢にもISのブレードを生身で振るい、勝利を収めたと聞いている」

 

「そ、そうなんだ…」

 

ラウラ本人の話の筈なのに、まるでほかの人から聞いたような話し方に違和感を感じながらも私は相槌をうっていた。

 

「ね、ねえ一夏、あの話は本当なの?」

 

「ん?ああ、おおむねラウラの話している通りだ」

 

ええ~…。

ISを超えるものはISしか存在しない。

そういわれているこの世の中、そのISを生身で圧倒しただなんて話は一度も聞いた試しが無い。

そんな人が居ようものならニュースになったりとかしそうなのに…。

「まあ、箝口令が敷かれたから仕方ないけどな」

 

「そ、そうなんだ…」

 

だったら知られるわけないか…。

 

「兄さん、凄い…」

 

「まあ、おかげさまであちこち打ち身擦り傷だらけだったけどな」

 

まるで何事もなかったかのように一夏は笑って見せるけど、私としては、そんなことにはならないでほしかった。

傷だらけになんてなってほしくない。

でも、そうさせないようにするのも、私の仕事なのかもしれない。

 

「さすがに、あんな状態のとは戦う気にはなれないよ」

 

「私もだ」

 

そんな言葉で、その話は打ち切られた。

 

 

 

 

そしてさらに走ること数時間、広がる荒野の中に、その場所が見えてきていた。

 

「ラウラ、あそこなの?」

 

「ああ、ようやく到着だ。

兄上、姉上、マドカ、改めてわがシュヴァルツェア・ハーゼの本部にようこそ」

 

「全員出てきているみたいだな」

 

「あれ全員なの、兄さん?」

 

「ああ、ドイツ製第二世代機『シュヴァルツ』と、ハルフォーフ副隊長が搭乗する第三世代機『シュヴァルツェア・ツヴァイク』。

それらの搭乗者合計20人と、整備士30人。

あわせて50人がラウラが束ねる隊員だ」

 

「凄い光景…」

 

彼女たち全員が一夏と友人だというのを、今になって思い知る。

そしてそんな関係になっている一夏にビックリだったりする。

 

「それにしても大仰だな」

 

「我らからすれば兄上は大恩人、これでも足りないくらいだ」

 

「程々にしてね、ラウラ」

 

私のこの言葉がラウラの胸の内に届いてくれるのを祈っておこう、切実に。

これ以上大仰になったら、申し訳ない気持ちで一杯になりそうだった。

 

「一夏、あの人達は?」

 

「ん?ああ、あれか。

ドイツ軍の中でもエリート戦闘集団の『荒熊隊』だよ。

今はマラソンの途中みたいだな」

「あの人達が…」

 

荒野の真ん中を走っている男の人たちが、こちらに気づいて手を振ってくる。

あの人達も一夏とは友人。

想像以上に一夏は顔が広いのだと思い知った。

 

もしかしたら…学園内よりもこっちの方が交友関係は広いんじゃ…。

 

「ん?どうかしたか簪?」

 

「な、なんでもない…」

 

余計なことは言わないようにしておこう。

不要な言葉は傷つけるだけでしかない。

それに…一夏自身が気にしている可能性だってあるのだから。

 

 

 

 

そのまま走り続け、車は駐屯地の前でストップした。車から降りた私たちを出迎えてくれたのは、ラウラの部下である黒兎隊の人達だった。そして第一声が

 

「「「「ようこそ、お兄様!」」」」

 

だった

 

ドサリと隣で音が聞こえた。

 

…あ、一夏が頽れた。

 

 

 

Ichika View

 

あ、頭が痛い…!

これは間違いなくハルフォーフ副隊長による洗脳だな。

しかも見たことのない顔がいくつもあるが、それはルーキーだろう。

そんな連中まで洗脳を仕込んでいたのかあの人は…!

荒熊隊の皆が駐屯地から離れて走り込みをしていた理由が今になって理解できた。

これが原因か…!

 

「リズ!」

 

「ん?何だ?」

「マリー!」

 

「はいは~い!」

 

「イザベラ!」

 

「はい!」

 

「正直に答えろ、今回の出迎えは誰の指示のよるものだ?」

 

三人の視線が向かう先は…やはりハルフォーフ副隊長だった。

この人は…やはりいうべきことは言っておかないとな…!

 

「四人まとめてこっちへ来い!」

 

『見せたいもの』ってこういうことかよ!

 

 

 

 

 

Madoka View

 

ドン引きしそうな出迎えの後、兄さんが隊員を引き連れて駐屯地の外に出向いて行った。

それもISを起動させてまで。

 

「兄上はいったいどうしたんだ?」

「気にしなくていいよ、たぶんお説教するつもりだけだから」

 

「うん、言うべきことがあるとかいってたし…」

 

数分後

 

ドガッシャアアアァァァァァァァァンンンッッッッ!!!!!!!!!

 

 

荒野の一角に雷が落ちた。

それも二色の雷が。

それを視認した時には簪は苦笑いをしていた。

…あれは、間違いなく兄さんの仕業だった。

 

 

なお、これが後のドイツに伝わるミステリーの一つ、『青天の霹靂 辺地に落ちた二色の雷』の真相だったりする。

 




荒野に雷が落ち、苦難の日々は始まる

一方、そのころに彼女たちは思い思いの日々を初めている

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 甲竜 ~』

ふっざけんなぁぁっっ!!

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